315話 高月マコトは、式典に参加する

「ほら! 行くわよ、マコト」

「高月くんー、ソフィーちゃん待ってるよ~!」

「ごめん、ごめん」

 俺はルーシーとさーさんに侘びながら、早歩きで馬車に乗り込んだ。



 

 ――大魔王及び魔王討伐の論功行賞・式典当日




 俺たちは時間ぎりぎりで会場に向かっている。

 その原因は……俺だった。


「まったく、マコトってば。普段着のまま行こうとするなんて」

 ルーシーが呆れた声を上げる。

 現在の俺は、ふじやんに手配してもらった貸衣装の礼服を着込んでいる。

 ……窮屈だ。

 ネクタイって本当に必要?


「服装の指定はなかったはずだけど?」

 少なくとも前回の魔王討伐の恩賞式では、いつもの恰好で参加した。


「駄目だよ、高月くんは紅蓮の牙わたしたちのリーダーなんだから。こーいう王族や貴族の居る場に相応しい服装があるんだからね」

「むぅ……」

 出来の悪い弟を諭すように言うさーさんは、ビジネスカジュアルなドレスを可愛く着こなしている。

 ルーシーは女性用の礼服で、こちらも非常に似合っている。

 水の国ローゼスを代表する冒険者となった二人は、公的な行事に慣れている様子だった。


「でも、わざわざ馬車で行く必要ある? ルーシーの空間転移テレポートなら一瞬だろ?」

 非常に無駄に感じる。


「あのね。今回の式典には大陸中の要人が参加してて、すっごく警備が厳重なのよ?」

「何重も結界が張られてるから、空間転移は難しいと思うよ、高月くん」

「そっかぁ」

 俺の提案はあっさりと却下された。

 が、ふと思い出す。


大賢者様モモ紅蓮の魔女ロザリーさんは、この手の行事でも遠慮なく空間転移使ってるらしいけど?」

 以前、モモに聞いた話だ。

 

「ママと一緒にしちゃ駄目だって……。普通は結界を無視して空間転移するなんて無理だから」

「そもそもマナー違反だよー、高月くん。私たちは真似しちゃ駄目」

 ルーシーとさーさんに呆れた目を向けられた。


 そうか。

 あの二人は非常識だったのか。

 そんな雑談をしている間にも、馬車は目的地の会場へゴトゴト音を立てながらゆっくりと進む。


「そういえば、マコトはこれからも冒険者続けるの? 正直、名誉もお金も有り余ってるでしょ?」

 ルーシーがそんなことを聞いてきた。

 愚問を。


「海底神殿に挑戦するに決まってるだろ。……と言っても、攻略の糸口も見えてないからなぁ。どうしよっかなぁ」

「古竜の王に勝った高月くんでも無理なら、誰も攻略できないんじゃ……」

 俺の言葉にさーさんがげんなりした顔になる。


「いや、精霊魔法が一切通じなくてさ……海底神殿の周りに神級の結界があって、手が出せないんだ。それさえ何とかすれば……」

「うーん、マコトが精霊魔法使えないのは厳しいわね……」

「私は魔法のことはよくわからないからなー」

 三人して難しい顔になる。


「何か攻略に繋がるきっかけでもあれば……反則チートな魔道具とか」

 俺の言葉に、ルーシーとさーさんが顔を見合わせる。


「何かあったっけ? るーちゃん」

「うーん、大魔王城にそこそこの武器とか魔道具は転がってたけど、伝説の武器とか魔道具はなかったわね……」

「だよねー、他に何か貴重なものなかったっけ? 考古学者の人たちが騒いでたよね」

「あー、の遺体が保管されてたんだっけ? 趣味悪いわよね」

「そうそう、沢山ミイラがあったよねー。気持ち悪かったねー」

「なにそれ?」

 ルーシーとさーさんの言葉に、ツッコミを入れる。

 二人は先日、冒険者ギルドの依頼で墜落した大魔王城を探索していたはずだ。

 特に危険は無かったと聞いたけど、魔王の遺体の話は初めて聞いた。


「えっとね、なんか千年前の魔王や、もっと昔の魔王の遺体が保管されてたのよ」

「でも、復活の心配とかないんだって学者の人たちが言ってたよ。それに神殿騎士の人たちが慎重に『封印』か『破棄』するって言ってたし」

「……ふぅん、そっか」

 てっきり不死の王のように復活を目論んでいるのかと思ったが、そうではないらしい。

 ってことは、ピラミッドのようなお墓として使っていたということだろうか。

 でも、一応大魔王の居城だったはずだけど……、などと考えている時。


 ――パン! パン!


 何かが遠くで銃声のような音が響いた。

 空に白い煙が流れている。


「あれは……花火?」

「今日はお祭りだから、その知らせね」

「論功行賞の式典がお祭り?」

 ピンとこなくて首を傾げた。 


「違うよ、高月くん。今日は式典だけじゃなくてノエル女王と光の勇者さくらいくんの『結婚式』だから、太陽の国を上げてお祝いしてるの」

「今日から三日間は、祭日でお祭りなんだって」

「へぇ~」

 なるほどね。

 大魔王の討伐を祝うと共に、大魔王を倒した英雄が太陽の国の女王と婚姻したことを諸外国へ知らしめるわけか。

 効率的だね。


 確かにハイランド城に近づくにつれ、大通りは大賑わいを見せている。

 よく見るお店の他にも、珍しい商品を扱った露店が沢山並んでいるようだ。

 そして、祭りの空気に当てられてか、子供たちが大はしゃぎしている。


「いいなぁ……」

 俺も露店巡りをしてみたい。

 10分だけ馬車を降りて、二三店舗見て回るくらいなら。


「マコト」

「高月くん」

 両腕をルーシーとさーさんに掴まれた。


「な、何かな?」

「あのね、式典の時間ぎりぎりなんだけど?」

「誰を祝う式典かわかってる?」

「桜井くんだろ?」

「マコトもよ! 魔王古竜の王アシュタロトを倒した英雄は誰だと思ってるのよ!」

「露店はあとでゆっくり見ようねー、高月くん」

「はい」

 俺の目論見はあっさりバレてしまった。

 大人しくハイランド城までの道中を、ぼんやりと馬車の窓から眺めた。




 ◇

 



水の国ローゼスの英雄、高月マコト様! 及び『紅蓮の牙』ルーシー・J・ウォーカー様! 佐々木アヤ様! ご到着!」

 ハイランド城に着くや、大声で名前を呼ばれた。


「どうぞこちらへ! です!」

「「…………」」

 案内役の人の声に、ルーシーとさーさんがこちらをちらっと見る。

 はい、遅くなったのは俺のせいですね。


 俺たちはハイランド城の中でなく、だだっぴろい太陽の騎士団の訓練場のほうへ案内される。

 普段はただの運動場であるが、現在は式典会場となっている。

 既に各国の要人たちが席についている。


 さらに式典の見学席もあるようで、階段状になった観客席からずらりと見下されている。

 のべ数千人、もしかしたら一万人以上はいるかもしれない。


 俺たちは水の国の王族、貴族が集まる席へ案内された。

 すでにソフィア王女やレオナード王子は着席している。


「マコトさん! お待ちしてました!」

「やっと来ましたか。勇者マコト」

 笑顔のレオナード王子と苦笑するソフィア王女。


「早いですね。式典は正午開始ですよね」

 と俺が言うと、二人だけでなく水の国の席の人たち全員が、「え?」という顔になった。

 あれ……変なことを言った?


「勇者マコト、この手の式典で正午開始で正午に来るのは太陽の国の重鎮くらいです。諸外国の者は一時間以上前には来ておかねばなりませんし、水の国のような弱小国は数時間前から待機しています」

「す、数時間!?」

 おいおい、ソフィア王女はそんな前から来ていたのか。

 ぱっとルーシーとさーさんのほうを見ると、二人は首をぶんぶん、横に振った。


「そんなルールは知らないわ!」

「そうだよ、30分前には来ておいて、くらいしか言われてないし!」

「仕方ありませんよ、ルーシーさんやアヤさんは大抵『主賓』側で参加してますから」

 レオナード王子が教えてくれた。

 どうやら『紅蓮の牙』の二人も、そこまで貴族の規則には詳しくなかったようだ。


 にしても水の国のお偉方と会うのは久しぶりだ。

 国王陛下や女王陛下も来ている。

 ……一番重役出勤をしてしまった。

 これは良くない。


「ソフィア、王様に挨拶しておいたほうがいいかな?」

 こそっとソフィア王女の耳元で尋ねた。


「あら? お父様に挨拶ですか? どちらでも良いと思いますが、では一緒に行きますか」

 ソフィア王女が俺の腕を取り、すたすたと国王陛下の所で連れていかれた。


「えっ! ちょっと、待って、心の準備が……」

「お父様、勇者マコトが挨拶をしたいそうです」

 すぐ隣のテーブルに王様は居たので、すぐに目の前に立つこととなった。

 やべぇ、全然挨拶の言葉とか考えてなかった。

 とりあえず、跪くことにした。


「……えっと、水の国の勇者をやらせてもらっている高月マコトと申しま……あれ? 元だっけ」

 しどろもどろの挨拶をしようとしていると。


「ど、どうか頭を上げてください! 英雄様! この度は古竜の王の討伐、誠に大義でございました!」

 俺以上にテンパった王様が目の前に居た。

 ……なにこれ?

 俺が助けを求めるようにソフィア王女を見上げる。


「本日の挨拶はこれくらいにしておきましょうか。では、席に戻りましょう、勇者マコト」

 再び腕をひっぱられ、引きずられるように俺は自分の席へ戻ってきた。

 

「ソフィアさん? あれは何?」

「仕方ありませんよ、勇者マコトは古竜の王を倒し、大賢者様と懇意で、光の勇者様と親しく、あまつさえ水の女神エイル様が神託で『勇者マコトの発言は、私の発言と同等に扱うように』という言葉を残されてますから……」

水の女神エイル様、何やってんの!?」

 そりゃ王様も慌てるわ!


(え? あんたそんなこと言ったの? エイル)

 ノア様の声が響いた。

 聞いていたらしい。


(あれー、おかしいなぁ。私は『マコくんの言葉は絶対! 死ねって言われたら死ぬこと☆』って神託したんだけど)

 現実の言葉はもっと過激だった。

 やめてください、エイル様。


(やったじゃない、マコト。水の国ならハーレム作りたい放題よ!)

(マコくんの子孫をいっぱい残そうー)

 変なこと言わないでもらえます!?

 とんでもない女神様たちだった。


「どうしたの、マコト? 変な顔して」

 ルーシーに顔を覗き込まれた。


「あぁ、女神様たちが……」

「高月くん、るーちゃん! 式典が始まるみたいだよ」

 さーさんの言葉通り、会場の前方に居た演奏団の中にいる管楽器の奏者からファンファーレが響く。

 続いて他の楽器との協奏となった。


「ノエル女王陛下! 入場いたします!」

 その言葉と共に、全員が起立する。

 ……月の国ラフィロイグの民を除いて。


「女王陛下より、ご挨拶!」

 全員の視線が、ノエル女王のもとへ向いた。



「無事に大魔王を討伐し、皆様と平和な日を迎えることができたことを嬉しく思います……」

 

 

 女王陛下からの挨拶は、そんな言葉から始まった。

 慈愛の笑みを浮かべ、皆へ優しく語りかける様はまさしく聖女そのものだった。


(アンナさんとは全然違うか……)

 顔は瓜二つでも、あちらは体質のせいか仕草や表情も少年っぽい所があった。

 気品溢れるノエル女王とは、かけ離れている。


 ノエル女王は太陽の国ハイランドの代表であり、続いては各国の代表からも祝辞の言葉があった。

 つまりは、退屈な時間だ。


 世界が救われた喜びを、様々な堅苦しい言い回しで祝う言葉を適当に聞き流しながら、俺は周りの席に知り合いが居ないかをこっそり探った。


 木の国スプリングローグの勇者、マキシミリアンさんの巨体はすぐにわかった。

 火の国グレイトキースの勇者、オルガさんはすでにうとうとしている。

 運命の巫女エステルさんは、綺麗な姿勢で話を聞いていたが、俺が視線を向けるとにっこり微笑みを返してきた。

 ひとまず手を振っておく。


「勇者マコト?」

「失礼」

 その様子を隣で見ていたソフィア王女につつかれる。


 気になったのは、前方にある大きな二つの豪華な席。

 誰か重要人物の者だと思うのだが、空席なのが目立っていた。


「ソフィア、あの席には誰が?」

 俺が尋ねると、すぐに返事が帰ってきた。


「大賢者様と紅蓮の魔女様です」

「あぁ……」

 納得した。

 そして、紅蓮の魔女さんの娘さんのほうに視線を向ける。


「結局、魔王との戦いには間に合わなかったし気まずいんじゃないかしら」

 ルーシーは肩をすくめている。 

 

 他にも知り合いがいないか、こっそり見回していると壇上では月の国の代表が祝辞を述べていた。

 が、話をしているのはフリアエさんではない。


「あれ? 姫は」

「どうしたんだろうね、ふーちゃんは出席しているみたいだけど」

「本当だ」

 もしかしたら欠席か? と思ったが月の国の関係者が集まるテーブルの中央にフリアエさんの後ろ姿が見えた。

 他の国は、皆国王が挨拶をしている。

 

 月の国だけが、国王以外の者だったことで少しざわついていた。

 太陽の国の関係者には、一部それを憤るような会話をしているのを『聞き耳』スキルが拾った。


 が、結局それは大した問題にはならず式典は進んでいく。




 ――壇上では『演劇』がはじまった。




 内容は『異世界からやってきた勇者たちが世界を救う』というものだ。


 当然、主人公は光の勇者さくらいくん。


 異世界に来て不安に思う桜井くんを、太陽の国ハイランドの女神教会が保護し勇者としての資質を見出す所から始まる。 

 そして太陽の国で、光の勇者は着実に力をつけていくわけだが。


「あれ? 桜井くんって最初は水の国ローゼスで保護されませんでしたっけ?」

「……まぁ、そう……ですね」

 俺が尋ねるとソフィア王女がモゴモゴと返事した。


「懐かしいですねー。水の神殿にソフィア王女がやってきて、水の女神様の加護をもらえないかお願いをして断られたり、そのあと守護騎士のおっちゃんに怒鳴られたり」

「あの……すいません、勇者マコト。その話は思い出させないでください……」

 ソフィア王女が真っ赤な顔で俯いた。


「マコトがソフィアをいじめてるわ」

「高月くん、モラハラだ―」

「違うって!」

 ルーシーとさーさんの言葉に慌てて反論する。


「ソフィア王女に断られたからこそ、水の神殿で修行を頑張ったし、その後ノア様に出会えたんだから! 全てはあの時のおかげだ。俺はソフィア王女に冷たくされたから強くなれた!」

「「「…………」」」

 ソフィア王女からは凄く嫌そうな、ルーシー&さーさんからは「違うだろ」という視線を向けられた。


 

(あんたってさぁ……、時々馬鹿よね?)

 運命の女神イラ様にまで突っ込まれた。

 どうやら俺は間違っているらしい。



 そんな雑談をしている間にも、演劇の場面は次々に進んでいく。


 舞台では、光の勇者くんが魔王『獣の王ザガン』に苦戦するところだった。


 あー、あったねー。

 そんなことも。


 そこへ白ロープの大賢者様と……長身でイケメンの魔法剣士の恰好をした演者さんが登場した。

 あれは誰だろう?

  



 ――そこへ颯爽と現れたのが、光の勇者様の親友『』様なのです!



 

 ナレーションの人の大きな声が響いた。

 式典の参加者の盛り上がる声が聞こえる。

 あのイケメンの魔法剣士はタカツキマコトという人らしい。


 …………俺!?


「……ぷぷっ!」

「……くっ!」

 ルーシーとさーさんの笑いを堪える声が聞こえた。

 おい、なにを笑っている?


「ソフィア……あれ、なに?」

「勇者マコトですよ。演じているのは王都で今人気の俳優です。私が了承しました」

 ふふん! とドヤ顔を見せるソフィア王女。

 いや、俺は知らなかったんですけど!?


「あの……、俺はあんな長剣は持てないですし、鎧も着たこと無いんですけど」

「短剣と旅人服では、絵として映えないでしょう? 見てください、この劇の様子は映像として残され、後世への伝承サーガとして受け継がれるのですから……。水の国の勇者マコトの活躍がこのように見聞されるのは、私はとても誇らしいです……」

 うっとりとした表情を見せるソフィアに、俺はそれ以上何かを言うのをやめた。


 こうやって歴史は歪曲されていくんだなぁ……。

 

 舞台では、光の勇者くんの身代わりに大怪我をした魔法剣士『高月マコト』くんが退場している。


 実際はこのあと太陽の勇者アレクサンドルと戦ったり、千年前に行ったりしているのだが、そこは当然のように伏せられている。


 再び、イケメン魔法剣士『高月マコト』が登場したのは『古竜の王』との戦いだった。


 舞台上では、『高月マコト』なる魔法剣士が『古竜の王』と派手な魔法の応酬を繰り広げている。


 そして、その場には前線基地に居た『連合軍』とそれを率いるジェラルド将軍が、古竜の軍団と戦っている描写があった。


(実際は、砦の防衛後、俺とルーシーとさーさんの三人で古竜の巣に侵入だったような……)


 防衛戦と突入劇は、まとめられていた。

 舞台では稲妻の勇者のサポートがあり魔法剣士『高月マコト』が『古竜の王』を討ち取った。

 大分、太陽の国の活躍が盛られているような演出だ。


 ちらっと、ジェラさんのほうを見るとイライラした様子で、地面を小さく叩いている姿があった。

 そして俺の視線に気づいたのか、いくつか表情を変え「すまん」と小さくつぶやくのが『聞き耳』スキルごしに届いた。

 どうやらこの演劇の内容に、ジェラさんは納得していないらしい。

 もう一人現場にいた勇者オルガさんは……ずっと寝ている。

 俺としては特に不満はないが……、ノア様の導きがあったことは少し盛り込みたいなぁ、なんて考えていた。



 そして、舞台は佳境に入る。



 後の無くなった大魔王が太陽の国ハイランドの王都を強襲する。

 それを迎え撃つのは、光の勇者を中心とする各国の勇者連合軍。


 強大な力を振るう大魔王。

 最初は押されているが、そこへ登場するのが『聖女』ノエルと『聖女』フリアエ。

 

 『聖女』ノエルは、魔族の力を弱める結界を張り。

 『聖女』フリアエは、皆を鼓舞する歌で味方の力を強めた。


 そのかいあって、最後に光の勇者によって大魔王は討伐されるというハッピーエンドだった。


 劇が終わると、割れんばかりの大きな拍手が鳴り響く。

 俺もそれにならって拍手をした。


 その後、対大魔王と魔王戦における貢献の順位が告げられた。

 第一位は勿論、光の勇者さくらいくん。

 そして、第二位は……水の国の勇者タカツキマコトだった。


 水の国の関係者が、歓声を上げる。

 大騒ぎしている者もいる。

 というか、王様が泣いている。


「あの……ソフィア?」

「水の国はいつも日陰の国でしたから。このように注目されるのは初めてなのです。皆があなたを誇りに思っていますので、どうか受け入れてください」

「……はい」

 少しむず痒い。

 まぁ、悪いことではない。


 その間にも、次々に名前が呼ばれていく。

 こうして、長い長い論功行賞が終わった。


 次のプログラムへと進む。


「それではこれより! 光の勇者桜井様より救国の聖女ノエル様へ、結婚指輪をはめていただきます!」

 その案内に皆がざわめく。

 内容自体は、式次第通りだ。


 皆が興奮しているのは、『救世主アベルの生まれ変わりが、聖女アンナの生まれ変わり』と結ばれる瞬間に立ち会えたということからだろう。


 壇上では桜井くんが、ノエル女王の指に指輪をゆっくりと指輪を入れている。


「ねぇ、マコト……」

「高月くん……素敵」

 ルーシーとさーさんがうっとりした声で、俺の服の袖を引っ張った。


(年貢の納め時ねー、マコト)

(マコくん、逃げちゃ駄目よ~☆)

 女神様たちのからかうような声が聞こえる。


 ……別に逃げてませんけど? 



「それでは、救国の聖女フリアエ様よりお二人への祝辞をいただきます!」



 さきほどの劇で、ナレーションしていた人の声が響く。

 どうやら今回は、フリアエさんからの挨拶が聞けるようだ。


 それまで席に腰掛けていたフリアエさんが、ゆっくりと壇上へ上がった。



 そして、両手を前で組んだフリアエさんがゆっくりと振り向く。 


 それは俺は出会ってから慈愛に満ちた表情だった。



 ……ほぅ



 というため息が、会場内から聞こえた。


 それほど笑顔のフリアエさんが魅力的だったのだろう。

 俺だってそれは異論がない。



 だけど……違和感があった。


 

 長い艷やかな黒髪に、深紫の瞳。 

 この世のものとは思えないほどの美貌

 そして、ニコニコとした屈託のない笑顔。


 いつも皮肉げに笑うフリアエさんとは違う、これではまるで……。


 俺が違和感の正体に気づきそうになった時、月の国の女王はゆっくりと口を開き、言葉を紡いだ。

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