313話 大魔王討伐、その後②
「こちらが光の勇者様の入院している部屋となります」
「ありがとうございます」
案内係の人から、桜井くんが入院しているという部屋まで連れてきてもらった。
俺とソフィア王女は、御礼を言って部屋へと入る。
入室許可は得ている。
俺たちが中に入るとそこには……
「高月くん! リョウスケのお見舞いに来てくれたのね!」
「ソフィアさん、マコト様。わざわざありがとうございます」
部屋に居たのは横山サキさんとノエル女王陛下だった。
桜井くんの嫁であり、軍における副官の横山さんはともかく。
女王であるノエル陛下まで居るとは、少し驚いた。
「ノエル様!? いらっしゃったのですね」
ソフィア王女も驚いている。
「えぇ、最大の脅威だった大魔王は滅びました。王都は被害に遭いましたが、結界によって住民の被害は最小限に抑えられました」
ニッコリと微笑むノエル女王からは、前回会った時より少しだけ余裕が感じられた。
王様になってから色々と大変そうなので、これからは多少楽になってほしいと思う。
「ねぇ、リョウスケ。起きて。高月くんが来てくれたわよ」
「あのー、横山さん。寝ているなら無理に起こさなくても……」
「駄目よ、高月くんが来たら絶対に起こしてって言われてるんだもの」
見舞いの目的だった桜井くんは、ベッドで寝息を立てていた。
「ん……、おはよう」
「桜井くん、おはよう」
「高月くん!? ……っ……痛っ」
眠たそうにゆっくりと振り向いた桜井くんは、俺の顔を見るとぱっと飛び起き、そして顔をしかめた。
「駄目でしょ、激しい動きはまだできないって言われてるでしょ」
横山さんに注意されている。
「大丈夫……? 桜井くん」
見た所大きな怪我はしてなさそうだが、顔色は良くなかった。
「あぁ……、大魔王の瘴気に当てられたみたいで……、国で一番の回復士や大僧侶様でも万全にはできなかったんだ。しばらくは安静にしてるよ」
「そっかぁ……」
「高月くんは元気そうで安心したよ。古竜の王と激闘だったって聞いたけど」
「大魔王ほどじゃないよ。千年前だって俺は手も足も出なかったからね」
「そうなんだ?」
桜井くんと雑談していると、誰かが俺たちの会話に加わった。
「マコト様。古竜の王の討伐、本当に大義でした。太陽の国を代表して御礼申し上げます」
ノエル女王だった。
「そんな大したことは……」
「いえ、かの魔王には太陽の騎士団の多くが命を散らしました。心より感謝します」
そういえば太陽の国って、一度古竜の王に負けたんだっけ。
でも、その時の相手は本当の古竜の王じゃなくてその息子さんだったらしいけど……。
(教えてあげれば?)
言いませんよ! ノア様。
俺は空気が読める男だ。
「ところで、高月くんはフリアエとはもう会った?」
話題を変えたのは桜井くんだった。
その点は、俺も気になっていたところだ。
「いや、まだこれからだね。何でも大魔王との戦いの場に居たって聞いたけど、危ないことするなぁ」
フリアエさんは月魔法や運命魔法の使い手だが、自身の戦闘能力は皆無だったはずだ。
「そうなんだ。なんでも
桜井くんがそう言った時。
「我は、奴を目にするのは二度目であったからな」
病室の窓のほうから声が聞こえてきた。
「「「「大賢者様!?」」」」
俺を除くその場にいた人間が驚きの声を上げる。
どうやら空間転移で、モモがやってきたらしい。
窓枠に腰をかけている。
「モモ、大活躍だったんだな」
「へへ~、千年前は全然でしたからね! 今回は挽回しましたよ! 褒めてください、マコト様!」
「よしよし」
猫のようにすり寄ってくる大賢者様の頭を撫でる。
「「「「…………」」」」
それを見てはいけないものを見たような目で見つめる、ノエル女王、ソフィア王女、桜井くん、横山さん。
「何だ……、文句あるのか?」
大賢者様が、皆をじろりと睨む。
「やめなさい……モモ、ところで大魔王の姿って千年前と同じだったか?」
「えっとですね。正直、千年前の時は恐ろしさのあまり気を失ったのとその後もはっきりとは直視できなかったのですが……、確かに同じような気持ちの悪い姿をしていました」
「ふぅん……、そっか」
てっきり厄災の魔女と同化した姿だと思ったのだけど、どうやら怪物バージョンのほうだったらしい。
「私が今回の大魔王相手に冷静を保てたのは、以前の経験のおかげですね。初見で『アレ』を見て平静でいられるやつは居ませんよ。……マコト様以外」
「高月くんは、大魔王を見て平気だったのか?」
俺とモモの会話に、桜井くんが驚きの声をあげた。
それを聞いた大賢者様が、にやりとして桜井くんに視線を向ける。
「平気どころじゃないぞ……、光の勇者くん。マコトさ……精霊使いくんは大魔王と
「大魔王と雑談!? 高月くん、何してるの!?」
横山さんが、心底呆れ返ったような大声をあげた。
どうやら彼女も、その場に居て大魔王を目にしたらしい。
「いや別に楽しそうってのは言い過ぎ……」
「うそは駄目ですよ、マコト様。『世界の半分をやろう』とか言われて、凄く楽しそうでしたよ。もしかして相手の申し出を受けるのかとハラハラしてたんですから」
「当たり前だろ。そんなこと言われたらテンション上がるに決まってるだろ?」
「全然当たり前じゃないですよ!」
そんなたわいない会話をしていると。
「あー! 大賢者様! 見つけましたよ! また病室を抜け出して! さぁ、戻って輸血パックを飲んでください!」
突然病室に看護師らしき女性が現れ、つかつかと大賢者の襟首を掴む
「ぶ、無礼だぞ! 離せ!」
「病室を抜け出す患者さんには、こうするしかないんです!」
「貴様! 我を誰だと思っている!」
「大陸一の魔法使い様と言えど、ここでは病人です! ほら、そんな青白い顔をして!」
「それは我が吸血鬼だからだ!」
モモと看護師さんが口論している。
「モモ、入院してたのか?」
「別に寝てれば元気になるのに、ノエルに無理やり入院させられてたんですよ!」
「大賢者様は、我が国の最高戦力ですから……、大魔王との戦いの後に、自室でお一人にするわけにはいきません」
俺の言葉に、ノエル女王が答えてくれた。
まぁ、確かにその通りだ。
「さぁ! 残りの輸血パックは2つです。それを飲んだら半日はベッドで寝ていただきますよ!」
「嫌だー! 冷凍輸血パックを解凍したやつは不味いー!」
「我がまま言うんじゃありません!」
「マコト様~」
ずるずると引っ張られていくモモに俺は両手を合わせて、首を振った。
俺としても、あのでかい屋敷に一人で引きこもっているより病院で世話してもらったほうが安心だ。
「それにしても」
これまで静かだったソフィア王女が、俺の背中をつついた。
「ソフィア?」
「あの大賢者様が、勇者マコトの前ではあんなに少女のように振る舞われるんですね……、聞いてはいましたが目の前で見ると……」
「えぇ、私たちにとっては偉大な先生でしたので……」
「私なんて、太陽の騎士団でめちゃくちゃしごかれたんだけど……」
ソフィア王女の言葉に、ノエル女王や横山さんも大きく頷いた。
その時。
「面会の皆様、光の勇者様はそろそろお休みになられます。本日はお引取りください」
大賢者様を連れて行ったのとは別の看護師さんが、俺とソフィア王女に向かって言った。
「それじゃあ、桜井くん。また今度」
「ありがとう、高月くん。もしフリアエに会うことがあったら御礼を伝えてもらっていいかな。大魔王に勝てたのは、彼女に呪い耐性の魔法をかけてもらえたからだから」
「わかった、伝えておくよ」
俺は約束した。
ノエル女王と横山さんは、引き続き桜井くんの側に居るようだ。
二人とも仕事は大丈夫かな? と思ったが、きっと恋人のほうが大切なんだろう。
野暮なことは言うまい。
俺はソフィア王女と一緒に病院から去った。
◇
「じゃあ、姫の所に行きますか」
「今からですか?」
俺の言葉にソフィア王女が少し驚いた顔になった。
「駄目ですか?」
「いいですけど……、本当に忙しないのですね。ルーシーさんやアヤさんが言った通り」
小さくため息を吐かれた。
「桜井くんみたいに、大魔王の瘴気を受けて寝込んでいないか心配だから……」
「ええ、そうですね。私たち他の巫女とは違い、フリアエだけは直接大魔王と対面していますから。様子を見に行きましょう」
俺の言葉にソフィア王女の表情が真剣なものになる。
俺たちは馬車に乗って、フリアエさんが居るはずの九区街の建物へ向かった。
◇
「どうぞ、こちらへ」
アポもなしで来てしまったが、フリアエさんのお付きのハヴェルにあっさりと案内をされた。
「突然の訪問だったのですが、フリアエ女王のご予定は大丈夫でしたか?」
「ソフィア様であれば最優先でお通しするように言われています。太陽の国の連中でしたら、二三日は待たせますが」
ソフィア王女の質問に、ハヴェルがあっさりと答えた。
国の再興の折、もっとも尽力してくれたのが水の国であり、その中心がソフィア王女だったから。
「姫は大丈夫ですか? 大魔王との戦闘の場に居合わせたと聞きましたけど」
「それはご自分の目でお確かめください」
俺の質問にはつれない返事だった。
が、嫌みな感じはしない。
恐らくそのままの意味だろう。
見ればわかると。
そこから、どうやらフリアエさんは元気そうだと予想した。
ほどなくして、大きな扉の前に辿り着いた。
フリアエさんの私室だろうか。
一瞬、あの大量の写真が貼ってある部屋を思い出したが、あそこには案内されまい。
きっと別の場所だ。
――コンコン
「フリアエ様、ハヴェルです」
ハヴェルがノックをすると「入っていいわよ」と中から声がした。
「失礼します」と言いながら、俺とソフィア王女も手招きされた。
部屋の中はシンプルながらも品のある造りをした、大きな部屋だった。
応接室という感じはしない。
沢山の本棚や、部屋の奥に巨大な執務机があることから仕事部屋のようなものだろうか。
軽く部屋を観察した後、俺は部屋の主に視線を向けた。
「フリアエ様にお客様です」
「ハヴェル……、来客は断ってって言ってるでしょ。大魔王の瘴気で身体がダルいんだから……」
高級そうな巨大なソファーにだらーっと、寝転がっているフリアエさんの姿があった。
――
「「…………」」
俺とソフィア王女は顔を見合わせる。
何でこっちの世界にジャージが? と思ったらちらっと『藤原商会』のロゴが見えた。
ふじやんの仕業か……。
どうやらアパレル産業にまで手を広げているらしい。
すっかり総合商社だな。
ちなみに、フリアエさんは、まだ俺たちに気づいていない。
「で、客って一体誰……」
ここでフリアエさんがこちらを振り向き、俺たちと目があった。
「「「…………」」」
気まずい空気が流れる。
「なっ、なっ、なっ……何でっ!?」
がばっと立ち上がったフリアエさん(ジャージ姿)が顔を真っ赤にしてハヴェルを見る。
「ソフィア王女は見慣れているでしょう。それに高月マコト殿は一緒に旅をされていたのですから、普段着のままお通しして問題ないと判断いたしました」
「問題あるわよ!」
すまし顔のハヴェルにフリアエさんが大声で怒鳴った。
ここですべきは。
「姫、その服も似合ってるよ」
「だまりなさい! 私の騎士!」
怒られた。
なぜだ?
「勇者マコト……」
(あんたさぁ……)
ソフィア王女の冷たい視線と、ノア様のため息混じりの声が聞こえる。
「でもよかったよ。桜井くんと違って元気そうで」
俺の言葉に、フリアエさんの表情が真顔に戻る。
「そう……リョウスケと会ってきたのね。どうだったの?」
「入院中で寝てたよ。少しだけ話したけど、長時間の面会は駄目だってさ。あ、姫に御礼を言っておいてって言われたよ。姫が居ないと大魔王は倒せなかったって」
「私は大魔王が放っていた『呪いの瘴気』の効果を和らげただけ。大したことはしてないわ……、でも回復しているならよかったわ」
そう言って微笑むフリアエさんはまさに聖女だった。
……ジャージ姿でさえなければ。
言葉が顔に出てしまったのかもしれない。
「私の騎士……、普段はもっときちんとした恰好してるんだから。この姿は忘れなさい。というか、忘却の魔法で記憶を消去してあげ……」
「忘れる! 忘れるから!」
恐ろしいことを言い出したフリアエさんから、さっと距離を取る。
「フリアエ様。あまり興奮されませんよう」
「あんたのせいでしょ! ハヴェル!」
「大魔王との戦いで、若干の呪いの影響は受けておられるでしょう。お着替えの手間を省いたまでです」
その言葉に、俺は眉をひそめた。
「姫も呪いの影響を受けてるのか?」
「大したことはないわ。ちょっと頭痛がする程度だし」
俺はぱっとハヴェルのほうを振り向いた。
「回復士と医者には診てもらっています。一応、呪い魔法についても専門家に見せましたが、フリアエ様以上の呪い魔法の使い手はいませんから、意味はなかったですね。全員、異常なしとのことなので安静にしておけばよいということでした」
「そうですか」
ハヴェルの言葉に安心した。
「何で私の言うことを信じないのよ。大したことないって言ったでしょ」
「姫は無理するからなぁ」
お付きのハヴェルが言うなら、本当だろう。
「これからどうしますか? 勇者マコト」
「帰ろうか」
ソフィア王女に聞かれ、俺は答えた。
フリアエさんの無事は確認できたし、どうやら本調子じゃないようなので早めに退散しよう。
「え……、もう帰るの? もっとゆっくりしていけば……」
フリアエさんの言葉に少し迷った。
が、別に会おうと思えばいつでも会える。
無理に今日でなくても大丈夫のはずだ。
「姫の顔が見られたから安心したよ。また会いにくるよ」
「うん……、わかった。また来て」
「ルーシーの空間転移なら、いつでも来れるし」
俺の言葉に、フリアエさんの表情が変わる。
「ちょっと待って! ルーシーさんのテレポートって私の着替え中や入浴中でも、遠慮なしで跳んでくるんだけど! それはやめて! 本当にやめて!」
必死で止められた。
ルーシーのやつ、魔法が大雑把なのは相変わらずか……。
俺たちは挨拶をして、フリアエさんの部屋から退出した。
その後は、特に用もなかったので宿屋に戻ったところ、墜落した大魔王城の探索を終えたルーシーとさーさんが戻ってきていた。
「あー、疲れたわ。おかえり、マコト。ゆっくり休めた?」
「おかえりなさいー、高月くんとソフィーちゃん。大魔王城の探索終わったよー」
二人は普段の冒険衣装でなく、ラフな家着になっている。
「お疲れ様、ルーシー、さーさん。おかげでゆっくりできたよ」
「嘘を
「全然休んで無いじゃない……」
「高月くんってば……。ソフィーちゃんもついてたのにー」
二人に呆れられた。
今日はのんびり過ごしてたと思うんだけどなぁ。
その後、なんやかんや、その夜も宴会となった。
もちろん、話のネタは大魔王討伐の話。
あとは俺の千年前の冒険の話も、詳しくすることになった。
宴会中、俺が「そろそろ水の街にでも戻るかー」と呟いた。
マリーさんや、ジャンたちとも会ってみたい。
しかし。
「駄目ですよ」
「駄目よ、マコト」
「駄目だってば、高月くん」
ソフィア王女、ルーシー、さーさんから止められた。
「これから七国連合軍での論功行賞を発表する場があります。古竜の王を退けた英雄が、どこかに消えてしまうとか本当に勘弁してください」
ソフィア王女に懇願された。
あぁ、またあの長い行事か。
あれ、疲れるんだよなー。
まぁ、でもそれは平和な悩みだ。
大魔王は倒されたのだから。
「ほら、マコト。飲んでー」
「高月くん、グラスが空いてるよー」
両脇からルーシーとさーさんに次々酒を注がれる。
そんなに飲ませてどうするつもり!? というアホなやりとりをしつつ、酒に弱い俺はすぐにうとうとしてきた。
ゆっくりと眠りに落ちながら、俺は思った。
どうやら……本当に大魔王は倒され、世界は平和になった……らしい。
◇
目を覚ますと、そこは宿屋の一室ではなかった。
女神様の空間だ。
誰か居ないのか、姿を探そうとする前に。
「高月マコト!」
何者かに飛びつかれた。
そのまま押し倒される。
長い髪に、幼い容姿。
そして神々しい光を放っている美しい少女。
満面の笑みを俺に向けるのは――運命の女神イラ様だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます