306話 紅蓮の牙と高月マコト

◇ルーシーの視点◇


「おい、高月マコト。こいつを持っていけ」

「これは?」

「通信用の魔道具だ。強固な結界もすり抜けて念話ができる。余裕があれば、情報を共有してくれ。必要なら援軍にも向かおう」

「ありがとうございます。連絡しますね」

「ああ、無理をするなよ。危なくなったら逃げろ」

「気をつけます」

 ジェラルド将軍とマコトが真剣な表情で会話している。


「わーい、ふかふかで暖かいー」

「ねぇ、アヤ。いくらなんでもそのダウンジャケットは動きづらくない?」

「大丈夫大丈夫。私って寒いほうが動きが悪くなるから」

「ああ……、あなたの体質のせいだったわね。とにかくその魔法のジャケットは防寒対策はばっちりだけど、防御性能は普通の服と変わらないから注意してね」

「了解ー、オルガちゃん」

「ゆるいわねー、これから古竜の王アシュタロトと戦うんでしょ?」

「高月くんが居るからねー。余裕余裕」

「油断は駄目よ。ほら、ここに持っていく魔道具をまとめておいたから」

 あっちではオルガがアヤに、装備やアイテムを渡していた。


「ルーシー様! 空間転移テレポート先の最終確認をお願いいたします!」

 私をぐるりと取り囲んでいるのは、ブラックバレル砦の参謀チームだ。

 運命の女神様に教えてもらった古竜の王の潜伏先。

 そこから魔王軍の布陣を予測し、なるべく敵の数が少ないところから侵入する予定だ。


 地図とにらめっこする。

 ここかぁ……。

 行ったことのない場所だ。


「それに私の空間転移は目的地から外れることが多いのよね……」

 私は小さくつぶやき、頬を掻く。

 紅蓮の魔女ママや大賢者先生なら、きっと正確に転移できると思うけど。

 ちょっと不安だ。


「大丈夫だよ、るーちゃん!」

「そうそう、いざとなったら逃げればいいし」

 アヤとマコトが、私のつぶやきを聞いていたらしい。

 気にするな、という顔で元気づけてくれた。


 いつも頼もしいアヤと。

 出会った時から変わらず冷静なマコト。


(そうね、この三人だったら)


「行きましょうか!」

 私はマコトとアヤの腕を掴んだ。


「行こう」

「うん!」

 マコトとアヤが私の腕を掴み返す。


「武運を祈る」

「無茶しちゃ駄目よー!」

「「「お気をつけて!」」」

 ジェラルド将軍や、オルガ、そして多くの砦の兵士たちに見送られ、私は魔大陸の古竜の王の住処へと空間転移した。




 ◇




「ここが……目的地?」

 マコトの声が聞こえる。

 キョロキョロとあたりを見回している。


「わー、やっぱり冷えるね……」

 寒がりのアヤが、嫌そうな顔をしている。


 辺りは険しい山々が連なる山脈で囲まれている。

 ゴツゴツとした岩肌がどこまでも広がる。

 兵士の人から聞いていた事前情報と、景色は一致している。

 おそらく目的地からそう離れた場所では無いはずだ。


「とりあえず身を隠せる場所を探しましょう」

 私は提案した。

 魔大陸は魔王領だ。

 ここは見晴らしが良すぎる。 

 すぐ敵に見つかってしまう。

 

 

 その時だった。



 ……ズズズズ、と大きな



 違う、あれは岩じゃない!


「魔物?」

「岩の古竜だよ、高月くん!」

「くっ! まずいわね、すでに見つかっているわ!」

 仲間を呼ばれる前に、黙らせないと!

 アヤも同じことを思ったようで、私より先にかけだそうとして――マコトに止められた。



「待った、ルーシー。さーさん。どうやらここは敵の結界内みたいだ」

「「え?」」

 マコトの声に、私とアヤの動きが止まる。




 ――ォォォォオオオオオオオオオオオオオオオ!




 大気が震えた。

 それは目の前の岩竜の雄叫びかと思ったが、そうではなかった。



 バサリという、風切り音に上を見上げると……



「うそ……」

 空を埋め尽くすほどの竜の群れだった。


「高月くん、るーちゃん、こいつら……全部、古竜エンシェントドラゴンだよ……」

 アヤの声が遠くから聞こえたような錯覚を覚えた。

 目眩がした。


「罠……かな。さっきの岩竜が見張りとして山脈全体に結界を張ってたみたいだ。で、侵入者が来れば待機していた竜たちが一斉に取り囲むと。なかなか組織的だね」

 マコトの冷静な声で、はっとなった。


「に、逃げなきゃ! こんな数の古竜を相手になんてできっこないわ!」

 なるべく敵の少ない場所から攻めるという作戦は失敗した。


「そーだよ、るーちゃん! テレポートはやく!」

 私は呪文を唱え、アヤが急かす。


(……あ、あれ?)


 集中できない。

 いつものように魔力が一点に集まっていく感覚が無い。


「るーちゃん! 何やってるの!?」

「待って! 焦らせないで!」

 アヤの悲鳴に、私は大声で言い返す。

 その時、ぽんと肩に手を置かれた。


「ルーシー。空を見ろ」

 マコトの声で、上を見上げる。

 

 そこには『灰色の』空が広がっていた。


「あれは……?」

「魔法封じの結界だな。魔力マナの制御を悪くして、繊細な魔法が使えなくなる結界みたいだ。俺も今は細かい魔法が扱えない」

 マコトの声に、私は視界が暗くなった。

 そ、そんな……。



 ――カッ!!!!



 と複数の竜が息吹ブレスで攻撃をしてくる。

 炎や雷撃、岩石や暴風の息吹が襲ってくる。

 ま、まずい!

 防ぐか逃げるかしないと……と思っていると。


水の大精霊ディーア、結界を」

「はい、我が王」

 マコトと水の大精霊の冷静な声が聞こえた。

 

 分厚い氷の結界が幾重にも現れる。

 古竜の強力な息吹が、マコトの結界に阻まれた。


 あぁ、でも!

 マコトの結界が次々に砕かれていく。

 私も加勢しなきゃ!

 なのに魔力マナが上手く練れない!


「なんで! 何で魔法が発動しないの!?」

 取り乱して叫ぶ!


 理由はわかっている。

 マコトが言った通り、魔法封じの結界のせいだ。

 いつものように魔法が扱えない。

 なおも無理やり魔法を発動させようとした時。



 ……トントン、と肩を叩かれた。



「るーちゃん、るーちゃん」

「アヤ! どうしよう、マコトがここままじゃ」

「るーちゃん……、ほら高月くんの顔をよく見て?」

「…………え?」 


 アヤに言われて気づいた。

 古竜に囲まれ、パニックになっていた私は気づかなかった。


 マコトの表情は……。 





 ◇アヤの視点◇





(高月くん、楽しそうだなぁー)


 中学の時からよく見ていた顔。

 ゲームをしている時の顔であり、何かイタズラを思いついた時の顔でもある。

 あの顔の高月くんは、何か企んでいるんだ。


「トカゲたちの攻撃が鬱陶しいですね」

 水の大精霊さんが言った。


「こっちも何かやり返そうか?」

 世間話をするように高月くんが、




 ――水と運命の魔法・微睡まどろみの暴風雪ブリザード




 そう言った瞬間、舞い上がった。

 同時に空に分厚い雲が広がる。


「……………………え?」

 るーちゃんのあっけにとられた声が聞こえる。

 

 一瞬だった。

 瞬きするほどの間に、殺風景だった山肌が真っ白に雪化粧された。

 

「さ、寒っ!」

 慌てて私はるーちゃんに抱きつく。

 高月くん、そういう魔法を使うなら一言声かけて!


「あ、ごめん。さーさん」

 私の声が聞こえたのか、こっちへ申し訳無さそうな顔をしてやってきた。


 

 ――水の大精霊、おいで



 高月くんの声に、ちっちゃな青い女の子が現れる。


「さーさんとルーシーが凍えないように、二人の護衛をお願いね」

「はい! 我が王サマ!」

「よろしく」

 と言って高月くんは、再び古竜たちに向き直る。


 もっともその間にも、古竜の群れは高月くんに攻撃をしかけようとやっきになっているのだが近づくことすらできていない。

 私たちの側には、ニコニコした小さな青い女の子が立っている。

 

「は、はじめまして。あなたは水の大精霊……なの?」

「いつもマコトの近くにいるディーアって女とは別よね?」

 私とるーちゃんが恐る恐る話しかける。


「いえいえ~、私はいつも皆さんの近くにおりますよ。私たちはすべての水の化身ですから」

「は、はぁ……」

 精霊魔法に馴染みのない私にはイマイチ、ピンとこない。


「で、でもあなたはマコトを助けなくて大丈夫なの……?」

 るーちゃんは、水の大精霊の一人が私たちの護衛になっていることを心配しているようだ。


「ええ、我が王サマにはお姉サマたちがついておりますから」

 私がぱっと高月くんの方を向くと、さっきまで居なかった青い肌の綺麗な女の人たちが、わらわらと集まっていた。


水の大精霊ウンディーネがいっぱい!?」

「……凄い」

 るーちゃんが驚くのは勿論。

 魔法に疎い私でもわかった。

 あれは……ヤバいやつだ。



「「「「………………」」」」

 気がつくと、あれほど激しかった古竜の攻撃が徐々に減ってきている。

 


 その間にも雪が積り続ける。

 私たちの周りだけ、水の大精霊の女の子の張った結界で寒くない。

 結界から外にでたら、私なんてあっと言う間に凍えてしまいそうだ。


 そして、古竜たちも動きが鈍い。

 でも……変だ。

 とてつもない身体能力と生命力を持っている古竜が、たかだか吹雪くらいでどうにかなるとは思えない。

 私の考えに気づいたのか、るーちゃんが口を開いた。


「マコトが降らせている雪から嫌な魔力を感じるわ……。何かしら……呪い……みたいな?」

「えっ!?」

 ぎょっとして、猛々しくも美しく見えた雪景色が気味の悪いものとして映る。

 呪いの雪?


「我が王サマが好んで使う魔法ですね。水魔法、運命魔法、月魔法の複合魔法です。単に雪に触れると眠くなるというだけの単純シンプルな魔法ですよ」

 水の大精霊の女の子が教えてくれた。

 簡単でしょ? と言いたげだが、そんな単純な話でないことはるーちゃんの表情から察した。


「……どうなってるの? 魔法封じの結界内よ? 私の視界に納まりきらないくらいの規模で三種の複合魔法って……、しかもどれだけの魔力が必要だと思ってるのよ……」

 るーちゃんがぶつぶつ言いながら頭を抱えている。

 私は高月くんの氷の結界を破ろうと頑張っている古竜さんたちに視線を向けた。

 確かによく見ると、攻撃を受けたというより眠そうにフラフラしている。

 

「何とかなりそうだねー」

「えぇ、我が王サマにとってこの程度のトカゲの群れは何てことありま…………おや?」

 ニコニコしていた水の大精霊の女の子の表情が変わった。




 ――グォォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!




 身震いするほど強烈な圧迫感を持った獣の雄叫びだった。

 雪がぴたりと止む。

 高月くんの魔法を中断させるほどの存在。


 空気がビリビリと揺れている。

 共鳴するように、地面が振動していた。


 周りの古竜より一回り大きい。

 全身は漆黒で、朱い瞳

 身体中から燃え上がるような闘気オーラが溢れている……。

 私は見るのが初めてだったけど、その特徴は散々聞かされている。

 出会ったら、必ず戦わずに逃げるようにと。


「るーちゃん! あの竜を見て!」

「……あれって、まさか……」

 私の喉が鳴る。




 ――古竜の王アシュタロト




 一対一なら、私やるーちゃんでも敵わない太陽の騎士の団長さんたちが手も足も出なかった怪物。

『光の勇者』って凄いスキルを持っている桜井くんですら、まともに戦うと危ないと言われている最強の魔王。


 肌がぞわっとした。

 あの竜はまずい。

『アクションゲームプレイヤー』スキルの無敵時間を使っても勝てるかどうか……。


 そこへ高月くんが、ひょこひょこと軽い足取りでやってきた。 


「マコト!」

「高月くん……」

 るーちゃんと私が心配して声をかけるが、高月くんは全く動じていなかった。


 ……どーいう神経してるの?


「なぁ、ルーシー。あれって古竜の王?」

「当たり前でしょ! 何を言ってるのよ! 見ればわかるでしょ!」

「さーさんもそう思う?」

「うん! だって他の古竜と全然違うよ! 間違いなく魔王だよ!」

「うーん……そっかぁ」

 高月くんは何かが、納得いかないのかしきりに首を捻っている。


「どうしたの? マコト」

「前に会った時と少しイメージが違うから……」

「でも、それって千年前なんでしょ?」

 高月くんの話では、救世主さんと一緒に古竜の王と戦ったらしい。

 その時は、決着つかずで終わったそうだ。

 よくあんなのと戦って、無事に済んだと思う。


「ま、いっか。本人に聞けばいいし」

 古竜の王に及び腰になる私やるーちゃんと違い、高月くんは平静そのものだ。


「ルーシー、拡声魔法って使える?」

 高月くんが変なことを聞いてきた。


「普段なら使えるんだけど……、今は魔法封じの結界のせいで難しいかも……」

「そっかぁ。うーん、困ったな」

 高月くんは、古竜の王に話しかけたいらしい。

 何で?


「ねぇねぇ、高月くん。大きな声を出したいなら、私が言おうか?」

「さーさんが?」

 高月くんが、きょとんとした顔になる。

 これでも私はラミア女王。


 心外ながらも災害指定の魔物だ。

 身体能力は、高月くんやるーちゃんより遥かに高い。

 遠くにいる古竜たちに聞こえるくらいの声なら出せるはず。


「じゃあ、こう言ってもらえるかな」

 高月くんから聞いた言葉は、少し変わった内容だった。

 それを聞き、私は大きく口を開いた。




「おーい!!!!!」




 腹の底から声を張り上げる。

 ちなみに、高月くんとるーちゃんには耳をふさいでもらっている。

 多分、鼓膜が破れちゃうと思うんだよね……。




「古竜の王!!! 高月マコトが千年前の約束を果たすためにやってきたぞー!!!!」




 と叫んだ。

 どうやら、高月くんは古竜の王と再戦の約束をしていたらしい。

 だからって、バカ正直に言う? 普通。

 私はちょっと呆れた。


 高月くんは、ワクワクした顔で返事を待っている。

 が、黒い古竜からの返事はなかった。

 周りの竜たちを含め、こちらを忌々しげに睨むのみだ。


「………………あ、あれ?」

「マコト、忘れられてるんじゃない?」

「千年前だし、仕方ないんじゃないかなー」

「そ、そんな……」

 私とるーちゃんが言うと、高月くんがショックを受けたように項垂れた。



「き、来たわよ!」

「マコト、どーするのよ!」

 古竜の王が、他の竜たちを率いこちらへ近づいてくる。

 私とるーちゃんが悲鳴を上げるが、高月くんの顔は少しだけ怒ったような声を出しただけだった。



「よーし、じゃあ思い出させてやるか。ディーア、あれをやるぞ」

「かしこまりました、我が王。千年前の屈辱を返して差し上げましょう」

 高月くんが右腕をまくった。



 その腕は青く、透き通った海のような色をしていた。



「…………っ!?」

「……ん」

 るーちゃんが、息ができなくなったかのように喉を押さえる。

 私も一瞬だけ、深海に放り込まれ溺れそうな錯覚を感じた。


魔力マナの海……?) 

 魔法使いでは無い私でも認識できるほど、濃密な魔力が空間に満ちていた。


 ……パァァァ、と高月くんの周りに数百の魔法陣が浮かぶ。


 そして、花火のように弾け、拡散していった。

 一体、どんな魔法を使う気……? 




「精霊の右腕――」  




「「……………………は?」」

 私とるーちゃんの声がハモる。

 彗星?

 それって、前に火の国グレイトキースの王都を滅ぼそうとした魔法じゃ……。


 急に景色が薄暗くなる。

 何気なく、私は空を見上げた。



 空が割れた。



 いや、



 吹雪を引き起こしていた雪雲。

 それを突き破り、とてつもない大きさの『何か』が空いっぱいに広がっている。



「ちょっ!!!! マコト! 何で!」

「た、た、た、た、た、高月くん! 私たちも巻き込まれちゃうよ!」

 るーちゃんと私が慌てふためく。


「あはは、可笑しい。お二人とも、大丈夫ですよ。私と一緒に居るのですから何の心配もございませんよ」

 水の大精霊の女の子が、ケラケラと笑っている。


「「…………」」

 私はるーちゃんと目を合わせる。


 そして、改めて空を見上げた。


「「…………」」

 視界いっぱいに広がる、巨大な彗星。

 それがぐんぐんと迫ってくる『この世の終わり』のような光景。


 えぇ……、これが心配ない?

 う、嘘でしょ。

 信じられない。


 そして、私たちよりも慌てる者たちが居た。

 古竜たちだ。

 

 そりゃそうだろう。

 このままだと自分たちの住処が全てふっ飛ばされてしまうのだ。

 

 そして、慌てる古竜の中には『古竜の王』さえ戸惑っているようだった。

 む、無茶苦茶してる……。



「ねぇ、マコト……、聞いてもいい?」

 るーちゃんが低い声で言った。


「なにを?」

 振り向く高月くんの顔は、憎たらしいほどいつも通り。

 

「マコトの今の水魔法の熟練度っていくつなの?」

 るーちゃんの質問は、私も気になったものだった。

 

 かつて火の国を襲った『彗星落とし』は、沢山の奴隷の生命力を生贄に発動させたものだった。

 それを高月くんは、『たった一人』で行ってみせた。


「ほい」

 高月くんは、何かの紙切れを私たちに見せてきた。


「高月くんの魂書ソウルブック……?」

 それは高月くんの身体能力ステータスやスキルについて書かれた紙。

 異世界の個人情報書類だ。


 ちなみに私――ラミア女王のステータスは高い。


 筋力や敏捷性が、ゆうに100を超えている。

 これは勇者であるオルガちゃんにも匹敵する。 


 私は魔法が使えないけど『アクションゲームプレイヤー』スキルの能力も相まって、オリハルコン級の冒険者として認められた。


 比較すると高月くんのステータスは、総じて低い。


 筋力や敏捷性なんて、3~4しかない。

 ついでにいうと魔法使いなのに、魔力がたったの4。

 代わりに水魔法の『熟練度』という項目だけが飛び抜けて高くて、それと精霊魔法によって勇者になったのが高月くん。

 

 最後に聞いた彼の『熟練度』は999。

 るーちゃん曰く、そんな魔法使いは大陸中探しても居ないらしい。

 しかし、千年前に行ってきっとさらに強化したんだろう。 

 一体、どれほどの水魔法の達人になったのか……。


 グシャ、と高月くんの魂書の端が握りつぶされた。


「…………………………………………………………」

 るーちゃんが、高月くんの魂書ソウルブックを見て絶句している。


 私も魂書を覗き込み――その数値が見えた。




 水魔法の『熟練度』:5096




(………………ナニコレ?)


 見間違いかと思って、三度見した。


 でも、見間違いじゃなかった。


 異世界の魔法に疎い私でもわかる。


 これは無い。


 五千オーバー?


 何をどうやったら、そんな馬鹿げた数値になるの?


 るーちゃんは、未だ固まったままだ。

 同じ魔法使いとして、ショックが大き過ぎたんだろう。


 この一年、少しでも高月くんに追いつくんだって頑張ってたし。

 実際、大陸有数の魔法使いになったはずなんだけど。



「あのー、高月くん?」


「どしたの、さーさん」

 のほほんとした顔を向ける、この愛しくも空気読めてない男に私は言い放った。




「高月くんのステータス、バグってるからー!!!」


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