294話 高月マコトは、再会を果たす
「よっし! じゃあ、今からフーリの部屋に乗り込んでやるわよ!」
「待て待て、ルーシー」
と息巻くルーシーを慌てて止めた。
九区街では、魔人族の子供たちにからまれたり、大使館前でのやりとりで時間を食った。
そろそろふじやんが手配してくれた帰還
祝ってもらう立場で遅刻はできない。
俺たちは、藤原商会へ戻った。
◇
――その夜。
藤原商会が貸し切った巨大なホールで、盛大な
目的は俺の帰還祝いだ。
というわけで、様々な人たちに無事な姿を見せたわけだが。
(お、思っていたより人が多い……)
てっきり知り合いの十数名。
多くても三十人くらいかなと思っていた。
が、実際はその
実に
どうやら
勿論、理由はある。
俺がソフィア王女にお願いをした『国家認定勇者』への復帰。
それのためには、高月マコトが健在であることをしっかり
俺が言い出したことなので、文句は言えない。
というか、今日の今日でよくこんなに人を集められたものだ。
身分の高そうな人々とグラスを交わし、『
うっかり千年前の話をしないように気をつけながら、俺は適当に話を盛って語ると喜んでもらえた。
そんなこんなでパーティーが始まって二時間以上経った。
今の所、知り合いとは全然話せていない。
(もう、そろそろ休んでいいかな……)
愛想笑いと社交辞令に疲れ果てた俺は、『隠密』スキルを用い、こっそりと会場の隅っこ、バルコニーへ逃げ出した。
ソフィア王女に紹介された有力者たちへの挨拶は概ね終えた。
自分の職務は果たした、はずだ。
腹減ったなぁ……。
会場の周りには、あまり手を付けられていない立食パーティーの豪華な料理が並んでいる。
余った料理は捨てられてしまうらしい。
なんと勿体ない。
千年前なら、大迷宮の街全員の食事を賄えそうな量だ。
千年前の教訓――食べ物は大事。
よし、俺は食べるぞ!
『隠密』スキルを使いながら、大皿に次々と料理を取り分けていると……。
「お疲れ様、マコト」
「大変だったねー、高月くん」
「ああ、疲れたよ」
ルーシーとさーさんには『隠密』スキルも無駄らしい。
ドレスアップした二人が、笑顔で近づいてきた。
ざっくりと大きく胸元を見せる、真っ赤なドレスのルーシー。
ひらひらと可愛らしくも、大胆にスリットした水色のドレスのさーさん。
パーティー会場には、美人な女性は大勢いるが二人の魅力はその中でも際立っていた。
それにしても。
(二人とも大人っぽくなったなぁ……)
ドレス姿を見て改めて思う。
ルーシーとさーさんは少し背が伸びスタイルも良くなっている。
何か学校を卒業して、久しぶりに同窓会で会った女の子がすごく美人になったみたいな。
「どうしたの? マコト。変な顔して」
「高月くん、体調悪い? どこかで休む?」
心配そうな顔で覗き込まれた。
「二人ともちょっと会わない間に、綺麗になったね」
俺は正直な気持ちを伝えた。
「は?」
「へ?」
ルーシーとさーさんはポカンと大きく口を開ける。
「ま、マコト! どうしちゃったの!?」
「高月くんが、女たらしに!」
「たらしじゃない」
外見は変わったけど、この反応は変わんないなー。
「でも、そう言ってもらえるのは嬉しいわね」
「ねー、ドレスはるーちゃんと一緒に買ったんだよね。でも、この胸元はハレンチだよねー」
「どこ触ってるのよ。アヤだってこんなに足を露出してるくせに」
「るーちゃん、めくらないでぇー! 下着が見えちゃうから!」
また二人でイチャイチャしてる。
美女二人の百合百合しい絡みは、癒やされる。
彼女たちの腕には、おそろいの腕輪が輝いている。
本当に仲が良いなぁ。
俺が微笑ましく見ていると、ルーシーが俺のほうへ振り向いた。
「ねぇ、そういえばマコトって千年前だとどれくらい冒険してたの?」
「見た目はあんまり変わってないから、半年くらいかな?」
「あぁ、それは」
確かに二人に比べると俺の外見は変わっていない。
その辺りの事情を説明していなかった。
「千年前に活動してたのは、
「はぁっ!?」
「ええええええっ!」
二人の大声がバルコニーに響く。
おい、隠密スキルが意味なくなる。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
「三年!? 高月くんって、私たちより三歳も年上になったの!?」
「正確には二年かな。現代では一年経ってたわけだし」
大魔王と戦ってからも長かった。
結局、五大陸すべてを回るのに二年の月日を要した。
「何で見た目が変わらないの……?」
「全然歳をとってないよ……?」
不気味、とまではいかないが不思議な生き物を見る目を向けられた。
さて、何と説明したらいいものか……。
「それは、運命の女神様の奇跡の
会話に割り込んできたのは、幼い少女。
しかし、口調はしっかりしておりよく通る美しい声だった。
「エステルさん?」
「はい、お話できて光栄です、高月マコト様」
優雅に挨拶をするのは、運命の女神の巫女エステルさんだった。
かつての冷たい目や口調は一切無く、可愛らしくニッコリと微笑む。
そして、小さな手で俺の両手を掴んだ。
「えっと?」
「あぁ、素敵。イラ様からは毎晩のようにマコト様のことを聞いておりましたの。千年前のあなた様の活躍がいかに素晴らしいか。ずっとお話したかった……。今晩のご予定はありますか? 私の屋敷で
「ちょっと待って! 今の話初めて聞いたんだけど!」
「エステルちゃん、後遺症って何!? 高月くんはずっと年取らないの? ずるい!」
ぐいぐいと迫るエステルさんを俺から引き剥がすルーシーとさーさん。
さーさんは気にしているポイントが少し違うようだが。
にしても、エステルさんってこんな感じだっけ?
でも、前に会った時はイラ様が降臨してたから素のエステルさんは初めて会うわけか。
「あら、駄目ですか? では本日はお二人にお譲りしますね。マコト様との夜はまた後日」
「後日も駄目だから!」
「そーだよ、いくらエステルちゃんでも駄目!」
「諦めませんよ?」
「……!」
「……」
女子たちの会話に入れず、どーしようかなと考えていると。
「よっ! 高月! おかえり!」
突然、肩を叩かれた。
「え?」
振り向くと、派手な金髪なのに日本人顔。
美人だが気の強そうな大きな瞳。
これは……ギャルだ!
な、何故異世界にギャルが?
いや、そんなことはどうでもいい。
陰キャの俺にとってギャルは天敵。
逃げなければ。
「……高月?」
俺が後ずさっていると、目の前の女の子は訝しげな目を向けた。
そしてよく見ると、俺は彼女に見覚えがあった。
「もしかして河北ケイコさん……?」
それは前の世界のクラスメイトだった。
さーさんの友人にして、
前に会った時は黒髪だったはずだけど、金髪に戻したようだ。
というか異世界でも染髪できるんだ。
知らなかった。
「……え? まさか私のこと忘れられてた……?」
がーん、とショックを受けた顔をされる河北さん。
しまったな。
なんて言えば良いのか。
「おお、タッキー殿。こちらにおられましたか」
「高月サマ。お疲れさまでした」
やってきたのはふじやんとニナさん夫婦の二人だった。
「ミチオー、高月が私のこと忘れてたのー! 酷くない!?」
河北さんがうそ泣きっぽい仕草をしながら、ふじやんに
(ええええええぇっ!!!!)
河北さん!?
いくらふじやんの友人とはいえ
が、当のニナさんは涼しい顔をしている。
「やっぱり髪の色でハ? 金髪だから気づかなかったんですヨ」
「違うのよ! 私が学校に通っている時はこの髪色だったの。だから気付いてくれると思ったんだけど」
「というか、ケイコは黒髪のほうが似合うと思いますけド」
「うーん、ニナがそう言うなら黒髪に戻そうかしら」
ニナさんと河北さんが朗らかに会話している。
しかし、河北さんはふじやんに抱きついたままだ。
な、何だこの状況……。
「タッキー殿が混乱しておられるので説明しますな……」
ふじやんが申し訳なさそうに言った。
「実は拙者、ケイ殿と
「けっこん!?」
ふじやんと河北さんが結婚?
たった一年でそんな急展開……いや、火の国で河北さんがふじやんを狙っている様子はあった。
にしても、結婚かぁ。
しかし、当初からふじやんのパートナーだったニナさんはそれでよいのだろうか?
そんな俺の視線に気づいたのかもしれない。
ニナさんが俺に近づいてきた。
「ご心配されなくても大丈夫ですヨ。今や旦那様は
「…………え?」
ニナさんの言葉に、頭がフリーズする。
世継ぎ? 子供?
えっ、ふじやん子供いるの?
(別にこっちの世界じゃ普通よ? むしろ藤原商会の規模で後継者が居ないほうが問題よ)
衝撃を受ける俺を
そ、そうか。
普通なのか。
(あんたもさっさと作ればいいでしょ?)
無茶言わんでください。
……ちょっと会わない間に、皆変わっちゃうんだなぁー。
「高月くん! ここに居たんだね、探したよ」
「遅れてゴメンね」
俺がまだぼーっとしていると、陽気な男女カップルに声をかけられた。
太陽の騎士団の紋章の入った衣装。
その爽やかな二人は、桜井くんと横山さんだった。
「……あぁ、来てくれたんだね」
俺はそんな言葉を絞り出す。
「元気がないね? 何かあった?」
「ふじやんに漢の差を見せつけられてね……」
「藤原くんに?」
「あぁ、俺のやってきたことなんてちっぽけだったんだ」
「タッキー殿は世界を救ってきたのですぞ!? 何を言ってるのですかな!」
俺と桜井くんとの会話に、ふじやんが割り込んできた。
そーいえば桜井くんもすでに子供がいるんだったか。
なのに、俺だけが童貞……。
(いや、あんたいつでも童貞捨てれるじゃない。何なら今日にでも脱・童貞できるように私が導いてあげましょうか? 初めての相手はソフィアちゃん? それともルーシーちゃんかアヤちゃんかしら)
イラ様がとんでもないことを言い出す。
『女神様に導かれて大人の階段を……』
『いいえ』だ!!
選択肢が出る前に拒否した。
それくらい一人でできる!
(本当かしら)
馬鹿にするな、イラ様。
俺だって男だ。
やるときはやる! はず。
馬鹿な会話をしていると。
「あ、サキちゃん、ケイコちゃんー!」
友人の姿を見つけてか、さーさんが混じり女子トークが花咲いている。
ルーシーはどうしたのかな? と思ったら運命の巫女さんのところにやってきた
そういえば木の巫女さんはルーシーの義姉さんだっけ?
ちらっと火の巫女の姿も見えたことから、巫女の皆さんもお揃いのようだ。
が、太陽の巫女の姿は見当たらない。
「桜井くん、そういえばノエル王女は来てないんだね」
俺が何気なく言った言葉に、桜井くんが目を丸くした。
何か変なことを言った?
俺の心を読んだふじやんがすかさずフォローしてくれた。
「タッキー殿にまだお伝えしておりませんでしたな。ノエル様は太陽の国の
「こ、国王!?」
「今はノエル女王なのです」
もう王位継承したのか。
以前会った時、前国王は元気そうだったけど。
「タッキー殿は不在にしておりましたが、先の
「いいよ、藤原くん。僕がもっと強ければ負けなかったかもしれない」
「いえ、あれは作戦ミスでしょう。『
「あいつか……」
イラ様に神気をお借りし、神級魔法を使ってなお余裕を残している規格外の魔王だった。
「桜井くんは怪我とかしなかったの?」
心配になり聞いたが、見た所問題なさそうだ。
それに太陽の国には優秀な回復士も多い。
「問題ありませんぞ、タッキー殿。桜井殿個人では魔王の一人『
「現役の魔王一人で倒したの!?」
うっそだろ。
俺が千年前の元気な『
やっぱアンナさんの『光の勇者』スキルより桜井くんのスキルのほうが、大分強いらしい。
「でも、
実際、千年前に俺は魔王フォルネウスとは出会っていない。
戦わぬままで平和になった。
「ああ、『
「それを聖女フリアエ殿――今はフリアエ女王でしたな。彼女が『未来視』で予言され、討伐することができたのです!」
「へぇ……」
なるほどねー。
そういう話は、是非本人から聞きたかった。
しかし、当然のようにフリアエさんはこのパーティーには参加していない。
「フリアエさんにいつ会えるかなー」
思わず呟いた。
「彼女は高月くんに会いたがっていたよ」
「ええ、拙者も月の国へ商品を売りに行く度にタッキー殿の帰りがまだか聞かれていましたぞ」
桜井くんやふじやんは、最近もフリアエさんと会う機会があったらしい。
変わった様子は無かったそうだ。
(フリアエさんが
なんせ魔王を倒す手助けまでしているのだ。
厄災の魔女なら、そんなことはしないだろう。
その後、三人で歓談していると。
「高月殿! お身体はもう大丈夫なのですね」
「またご一緒に戦えるとは光栄です」
太陽の騎士団の人たちから囲まれたり。
「お! 高月じゃねーか。怪我はもういいのか?」
「ねぇねぇ、アヤとは今どんな関係なの? こっそり教えてよ」
あまり親しくなかったクラスメイトに声をかけられたり。
「兄弟!! 会えなくて寂しかったよ!」
友人でマフィアのピーターに痛いくらい抱きつかれたりした。
つかマフィアまで呼んでいたのか、ふじやん。
しばらくは、ひっきりなしで知り合いから声をかけ続けられた。
それも無くなってきた頃。
「マコトー? ねぇ、このパーティー夜通し続くらしいわよ。帰らない?」
「高月くーん、ちょっと疲れちゃったし三人でどこか抜け出さない?」
気がつくとルーシーとさーさんに挟まれていた。
いや、主賓は帰っちゃ駄目だろう。
「大丈夫ですよ、勇者マコト。お疲れでしょうから、先に上がってください」
ソフィア王女から気遣ってもらった。
「いいんですか?」
「ええ、問題ありません」
残っている面々は、政治のコネづくりや商売の話がしたい人たちなんだそうだ。
じゃあ、俺は不要か。
お言葉に甘え、俺はふじやんが用意してくれた宿に向かった。
◇
(長い一日だった……)
千年前から戻ったばかりだと言うのに。
でも、みんな元気そうでよかった。
フリアエさんだけは直接会えなかったけど、みんなの話を聞く限りでは頑張ってるようだ。
桜井くんは相変わらずの
大魔王との戦いでも大いに活躍してくれそうだ。
それに、この時代は戦力が豊富だ。
ギルド所属の冒険者たち。
そういえばさーさんは、最高位のオリハルコン級だっけ?
ルーシーは聖級魔法使い。
なによりルーシーの母にして、
味方側、強い。
片や敵陣営。
大魔王を除くと、残る魔王は『古竜の王』のみ。
勝ったな。
今回は俺の出番はなさそうだ。
そんなことを考えながら、ベッドに倒れ込む。
いっぱい飲まされたせいか、すぐに睡魔に襲われた。
眠りに落ちてすぐ、俺は真っ白な広い空間に立っていることに気付いた。
夢であって夢ではない。
神秘の異界。
ここに来るのはいつぶりだろう。
懐かしい。
感傷に浸っていると
――マコト、よく帰ってきたわね。
声が聞こえた。
耳に届くその声は美しい楽器のようで。
無いはずの花のような香りを感じた。
初めてお会いした時に感じた神々しい気配。
それがさらに高まり目眩を覚える。
肌が粟立ち、言葉に詰まった。
『明鏡止水』スキルを用いてなお、鼓動の高鳴りが抑えられない。
「
気がつけば、その御姿を見るより前に跪いていた。
あぁ、俺は戻ってこれたんだ……。
そう、やっとノア様の前に。
歓喜で胸が熱くなっていると――「ジャラ」という奇妙な音がした。
頭を上げる。
そして、俺は
(ん?)
そこには――両手の指に派手な宝石の指輪をはめ、幾重にもネックレスをしたノア様が立っていた。
服にもいっぱい宝石がついている。
クリスマスツリーのイルミネーションみたいに見えた。
なんだろう、ノア様の美しさは以前よりもさらに磨きがかかっているのだが、全身を覆う品の無いアクセサリーのせいでかえって残念になってしまっているような……。
「……え? 信者の子たちが
ノア様がぽりぽりと頬を掻いた。
若干、気まずそうだ。
あー、信者が増えたから貢物がいっぱい貰えたってことかな。
「…………いえ」
全然似合ってねー! という言葉を飲み込む。
『明鏡止水』スキルで表情には出さず、心の中でため息を吐く。
……………………ノア様が成金女神みたいになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます