278話 教えて! 運命の女神様

◇高月マコトの視点◇



 ーー魔大陸上陸前。運命の女神イラ様の空間にて。



運命の女神イラ様。あの……大丈夫ですか?」

 人形たちがせわしなく働く、ファンシーな空間。

 俺は夢の中で、運命の女神イラ様の執務室に呼ばれた。


「あぁ……、高月マコト。悪いわね、急に呼び出して」

「呼び出しは構いませんが、顔色悪いですよ?」

 書類仕事をしている運命の女神イラ様の目の下には深いクマができており、机の上には大量の栄養ドリンクの空瓶が転がっている。

 働き過ぎでは?


「いいのよ、それは。ついに明日から魔大陸ね。幾つか話をしておくことがあるわ。適当にかけなさい」

「はい」

 俺は運命の女神イラ様の近くにあった椅子に座った。


「まず、最初の注意点。魔大陸には大魔王の結界が張ってある。私の念話が聞こえなくなる可能性があるわ」

「それは困りますね」

 なんてこった。

 ここまで様々な助言アドバイスをくださった運命の女神イラ様の声が聞こえないとは。


「あら? 随分と殊勝な態度ね、高月マコトらしくもない」

「そうですか? いつも頼りにしてますよ」

 と言うと、運命の女神イラ様が少し嬉しそうな顔をした。


「ふーん、あらそう。まぁ、そんなに心配しなくてもよいわ。一時的に念話が聞こえなくなるけど、結界の隙間をついて声を送るから。少し調整に時間がかかるかもしれないけど」

 おお!

 それはよかった。 

 俺がほっと息を吐くと、運命の女神イラ様はふふーんと薄い胸を反らした。

 可愛い。


「それでご用件は?」

 俺が尋ねると、女神様の顔が真剣なものに変わる。


「魔王ビフロンスのことは覚えているわね? 神級魔法で、昼夜を逆転させた」

「勿論覚えてますよ。あの時は、死を覚悟しましたから」

「あの魔法は地上の者だけの力では出来ない。いずれかの神族が力を貸しているはずって話は前にしたわね。それが誰なのか探していたの」

「誰が犯人かわかったんですか?」

 思わず身を乗り出した。

 が、運命の女神イラ様は首を横に振った。


「残念ながら、誰が裏で糸を引いているのかまでは不明ね。でもはっきりしているのは、あの魔法は、ということよ」

「……?」

 どういう意味だろう。

 

「いくら調べても、不死の王ビフロンスの魔法を誰が手助けしたのかわからなかった。もし、悪神族ならそれはありえない。奴らは運命魔法を得意としないし、運命の女神わたしに気づかせずに時を操るなんて不可能なの。今回の件、裏に居るのは悪神族ではなく、運命の女神わたしよりも時を操ることに長けた上位の神格ということになるわ」

「イラ様より上位……?」

 確かイラ様は、聖神族でも一番若い女神という話だった。


 つまり、結構たくさんいるのでは?


「う、うるさいわね。そうよ、どうせ私は下っ端よ!」

「失言でした。ご無礼を」

「まぁいいわ。私より上位の神格というとたくさん居るけど、怪しいやつというと限られてくるわ」

 ごくりと、喉が鳴る。

 ここからが本題だろう。




「最も怪しいのは……、ね」




「…………え?」

 運命の女神イラ様の言葉を理解できず、思考が停止ストップする。

 ノア様の仕業?


「別におかしな話じゃないでしょ? この時代において、ノアは敵よ」

「いや、でも!」

 条件反射で、否定してしまう。

 いくらなんでも、それはあんまりだ。

 誰のために、千年前に来たと思ってるんだ。


「落ち着きなさい。『できるか』『できないか』の話よ。ノアは私よりずっと格上である太陽の女神アルテナ姉様と同格の女神。ついでに言うと時魔法も大得意よ。腹立たしいことに……」

「…………」

 イラ様の言葉に、俺は火の国グレイトキースで時間を停止させた時のことや、太陽の国ハイランドで時間を巻き戻していたことを思い出した。

 確かにさらっととんでもないことをやっているとは思ったけど……。

 

「ノアが使役する『時の精霊』なら、聖神族の目を逃れて悪さをすることができるわ」

「……時の精霊って何なんですか?」

 ノア様が使っていたのを真似て、不死の王との戦いで呼びかけてみたが結局俺はその姿を視ることはできなかった。


 そもそも精霊は『火』『水』『土』『風』の四属性しか存在しない……はずだ。

 少なくとも俺は神殿でそう習ったし、どの魔法書にも書いてあった。

 しかし、おそらくは……。


「…………はぁ」

 俺の心の中の疑問が届いたのか、イラ様が大きくため息を吐いた。


「高月マコト」

「は、はい」

「わかってると思うけど、この会話は他言無用よ。あんたの想像通り精霊は四種類だけじゃないわ」

「……ですよね」

 変だと思ったのだ。

 

 聖神族の七属性と比べて数が少ないし『精霊は万物』に宿るという教えと矛盾している。

 俺の予想では『光』と『闇』の精霊あたりも居るような気が……


「ストップ」

 イラ様が俺の唇に指を押し当てた。


「むぐ」

「それ以上はやめなさい。強力な『精霊使い』は、ただでさえ聖神族の天使に目をつけられる。世界を救ったあとに、24時間監視なんてされたくないでしょ?」

 それはゾッとしない。

 

「話が脱線したわ。兎に角ノアなら昼夜を逆転させるなんて造作もないし、それを私から隠すことも容易だわ。だから容疑者候補ではあるんだけど……」

「それ勝てなくないですか?」

 カインだけじゃなくて、他の魔王にまでノア様が支援しているとか考えたくない。

 なによりもテンションが下がる。


「安心なさい、可能性は低いと考えてるから。だって、千年後の世界でノアは第八番目の女神となっているんだもの。あなたの婚約者であるソフィアちゃんが水の国ローゼスで信者を増やしてくれてるわよ」

「そうなんですか?」

 ずっとソロ信者だったので、ノア様の信者が他に居るのが想像がつかない。

 ソフィア王女、頑張ってくれてるのか。

 ありがたい。


「王都ホルンには、水の女神エイル姉様とノアの銅像が並んで立ってるし、木の国スプリングローグ火の国グレイトキースでも、少しずつノアの信者が増えてるとか。要するに大魔王側につく理由が無いのよね」

「な、なるほど……」

 よかったぁ。

 どうやら千年後の世界では、ノア様は女神として認知されつつあるらしい。

 しかし、懸念は残る。


千年前いまのノア様はそのことを知らないですよね?」

「ノアなら未来から過去の自分に、伝言を送るくらいならできるでしょ。魔王カインがあっさり高月マコトの味方についたことからも、おそらくノアは余計なことはしてこないと思うわ」

 そんな簡単に未来からの伝言を送れるなら、俺にも何か連絡して欲しいけど……。

 今の俺はノア様の信者じゃないので難しいのだろう。


「この世界において『聖神族』と敵対しているのは『悪神族』と『古いティターン神族』。悪神族の仕業ではなく、古いティターン神族唯一の生き残りのノアも候補から外れる。……となると考えられるのは……」

「身内からの裏切りですか……?」

 思いついたことを口にしてみた。

 

「その可能性も……、無くはないけど」

「無くはないんですか!?」

 勘弁して欲しい。


最高神おとう様を始め、親世代は神界規定を軽んじてる傾向があって……。でも、こんな馬鹿なことはしない。せいぜい地上で子供作っちゃうくらいしか」

「いや、十分迷惑なんですけど」

 今の所、異世界に来て一番ヤバかった相手が太陽の勇者アレク戦だ。

 魔王より遥かに強かった。

 おかしくないですかね?


「あれは本当に悪かったわ。ただ、今回のように明確に魔王に与するなんて身内がやるはずがない。となると最後に残るのが『中立派』の神族ね」

「中立派?」

 そんな神様いたっけ?


「いわなかったかしら? 月の女神ナイアは『外なる神族』。聖神族とは異なる神よ」

月の女神ナイア様……、フリアエさんの信仰する女神様ですか」

 フリアエさんからは、まったく声をかけてこない女神様だと聞いた。

 会話したのは一度だけだとか。


「そうね。『外なる神族』は私達とは異なる星々を支配していて、本来なら関わる必要はない。でも、お互いに不干渉過ぎるとふとしたきっかけで争いに発展する可能性がある。そのために、それぞれから一柱ずつ神族を使者として贈り合ってるの。人族に理解できる言い方をすれば『人質』ね」

「なんだか殺伐とした話ですね」

 月の女神ナイア様ってそういう扱いの女神様だったのか。


「別に不遇な扱いはしてないわよ? きちんと七女神の一柱の立場を与えているし、権限もある。巫女や勇者を使って世界の管理を行える力はあるのに……、今の所やる気を出す気配は無いわ」

月の女神ナイア様って強いんですか?」

「私はあまり話したことが無いから詳しくないけど……、太陽の女神アルテナ姉様の話だと相当力をもった神格らしいわ。少なくとも私よりは」

「ちなみに、魔王に手を貸す可能性は?」

「……無いわね。少なくとも全く理由が思いつかないわ」

 そうだよなぁ。

 今の話を聞く限りだと、ちょっかいを出すような女神様じゃなさそうだ。


「何でやる気がないんですかね?」

 できれば、フリアエさんに色々助言をして欲しい。

 千年後の世界では、月の国の復興で頑張っているだろうし。


「一度、水の女神エイル姉様が聞いたらしいんだけど『つまらないから』って言ってたって。何がつまらないよ! 仕事に面白さなんて求めるなっての! 私がどれだけ女神試験の勉強をして、女神になってからも昇格テストのために頑張っているのか……」

「イラ様、イラ様」

 死んだ目でぶつぶつ言い出した運命の女神イラ様へ声をかける。

 うーん、やっぱり働き過ぎではなかろうか。

 精神が不安定になってるような。


「これでわかったでしょ。魔王ビフロンスに手を貸したやつは不明なの」

「困りましたね」

「でも、安心なさい。今の高月マコトには私が与えた『神気』がある。神級魔法が打てるのは一回が限度でしょうけど、おつりが来るわ」

 イラ様が自信満々の表情で俺を見つめる。

 かくいう俺自身は、自信があるとは言えない。


「大丈夫ですかね?」

「何よ? 自信が無いの? あんたらしくないわね」

運命の女神イラ様と同調シンクロして、やっと昼夜逆転の魔法を打ち消せただけですし……、俺はすぐに気絶してしまいましたし……」


 魔王ビフロンスの時は、隣に降臨したイラ様が居たのにギリギリの戦いだった。

 今度の相手は大魔王だ。

 いくら光の勇者として成長したアンナさんが居るとはいえ、不安は拭えない。


 そんなことを考えていると、イラ様はきょとんとした顔をした。 


「そう言えばあんた、私と同調シンクロした時、何で運命魔法を使ったの?」

「え、だって夜を昼にしないと光の勇者スキルが使えないですよね」

 あの時は、それしか手がなかった。

 が、イラ様の言葉は予想を反するものだった。


 


「はぁ? 何言ってるのよ。あんたが水魔法で魔王をよかったじゃない」




「え? いやいや、何を言ってるんですか」

 水魔法で倒せるわけないだろう。

 最弱の属性だぞ。


「あんたこそ何言ってるのよ。余裕で倒せるに決まってるでしょ」

 俺の意見は、イラ様にばっさりと否定された。


「……どーいうことですか?」

「何でそんな勘違いをしてたのかしら。水の女神エイル姉様は……、戦いが嫌いだからあえていわなかったのかもしれないけど、ノアが教えてあげればいいのに……全く何をやってるんだか」

 顎に手を当ててぶつぶつ呟くイラ様を見て、自分の固定観念に疑問を抱いた。


「イラ様、水魔法って弱いんですよね?」

 俺が水の神殿で習った常識が、ガラガラと崩れていった。


「い、いや、でも火弾ファイアボール水弾ウォーターボールじゃ、威力が全然違いますよ?」

 水魔法が弱いとされる根拠の一つ。

 初級攻撃魔法の威力が、水魔法だけダントツで低い。

 角ウサギすら倒せないのが、水弾ウォーターボールだ。


 俺の言葉に、運命の女神様が同情するような視線を向けた。


 無言で、指をくいくい、と手前に動かす。

 近くに寄れ、ということだろうか。


 俺はゆっくりと小柄な運命の女神イラ様の近くまで歩いた。


「ほら、もっと」

 運命の女神イラ様の細い腕が、すっと伸びてきて俺の服の襟を掴むとぐいっと引っ張られた。

 幼くも美しい女神様のご尊顔がみるみる迫る。



 ーーコチン、と俺とイラ様の額がくっついた。



「い、イラ様? 何を」

「黙って目をつむりなさい」

「えぇ……」

「はやく!」

「は、はい」

 自分の顔に、イラ様の吐息がかかる


 お、落ち着け。

 明鏡止水99%!


 目を閉じると真っ暗な闇の中に、ぽわんと球体が浮かんだ。

 それは青い背景に緑と白の不規則な斑の模様があった。

 それはまるで……


(地球?)


 前の世界で見た地球っぽい惑星の映像だ。

 しかし、大陸の形は見たことの無いものだった。

 だからこれは地球ではない。


「これが、高月マコトが今居る世界よ」

「へぇ」

 今更ながらこの異世界も球体なのだと知った。

 地形こそ違うものの、地球とよく似ている。

 しかし、運命の女神イラ様はこれを俺に見せて何をしたいのか。


「さて」

 イラ様が額を離す。

 先程視えていた映像がかき消えた。

 目を開くと、絶世の美少女の少し疲れた顔があった。


「疲れたは、余計よ」

「少し休んだほうがいいですよ」

「話が終わったら仮眠をとるわ」

 ふぅ、と運命の女神イラ様が物憂げに息を吐く。

 俺は静かに、次の言葉を待った。


「高月マコト。あなたは水の精霊使いでしょ? 精霊の強さは何に比例するか言ってみなさい」

 イラ様の言葉の意図を図りかねつつ、俺は過去に学んだ精霊魔法の知識を掘り起こす。


「確か……精霊の数ですね。水の精霊なら水辺にいるほど精霊がたくさんいますから、その分強くなる」

「そうね。ちなみに神気を用いれば、世界中の精霊を使役できるわ」

「……それは」

 俺は運命の女神イラ様に見せてもらった先ほどの惑星の光景を思い出す。

 女神様の言わんとすることがわかってきた。


「ねぇ、高月マコト。世界は何色だった?」

 運命の女神イラ様が目を細めて問うてきた。




 ーー地球は青かった



 

 前の世界の有名な宇宙飛行士のセリフが思い浮かんだ。


「青色です」  

「そうね。それは何故?」

「それは……」

 地球の表面の70%は水で覆われている。

 さっき見たこの星の様子も似たようなものだった。

 

 水の精霊使いは、水の精霊の数が多いほど強くなる。

 水の精霊は、水が多い場所ほどたくさん居る。

 この星は、水で覆われている。

 つまり……。


「四つの精霊の中で、

 運命の女神イラ様が断言した。


「さ、さいきょう!?」

「当たり前でしょ、この星には海があって水で覆われてる。何でそんな簡単なことに気づかないのかしら」

 はぁ、やれやれと肩をすくめる運命の女神イラ様。


 いや、でも最強は言い過ぎでは。


「でも、風の精霊は……、それこそ大気が星を覆ってますし……」

「別に風はずっと吹いてるわけじゃないでしょ。それに視えないあんたはわからないと思うけど、風の精霊って数が多くないの。台風や竜巻が起きれば別だけど」

「そ、それなら星の成分を考えれば土の精霊のほうが……」

「地下ならそうかもね。地中深くに潜れば、土の精霊使いのほうが強いわ。でも、あんたが戦う場所はどこかしら?」

「……地上です」

「そうよ。星の表層。それを覆っているのは水。地上ならば水の精霊の数が一番多いの」

 そう、だったのか。

 

「もっとも、ただの人族に世界中の水の精霊を操るなんて無理よ? そんなことができるのは、ノアみたいな女神じゃないとできない。けど、今の高月マコトには私の『神気』がある」

 イラ様の言葉に、俺は言葉に詰まった。


 水の精霊使いは弱くなかった……?

 俺はぼんやりと自分の青い右手を眺めた。

 

 その時、運命の女神イラ様が俺の頬を指で突いた。


「ところで、水の神級魔法は何か知ってる?」

「魔法学で、地獄の世界コキュートスを習いました」

「ああ、エイル姉様が、神に反逆した古代人を魔法ね。いいんじゃないかしら」

「滅ぼした!?」


 さらりととんでもないことを言われた。

 え、水の女神エイル様そんなことしてたの?

 やっぱり怖い女神様だった。


 でも、運命の女神イラ様から話を聞けてよかった。

 今日教わったことは、きっと後々の役に立つはずだ。



「じゃあ、神級魔法を大魔王に使えばいいんですね」

 俺が最終確認のため質問すると、イラ様が少し考える仕草をした。


古竜の王アシュタロト、あいつが出てきた場合も神級魔法を使いなさい。今の光の勇者アンナちゃんだと苦戦する可能性が高いわ」

「そんなに強いんですか……?」

 九人の魔王において、最強格の魔王。

 光の勇者アンナでも勝てない……?


古竜の王アシュタロトは、竜神族の血が濃くて……、地上の生物としてはバランスブレイカーなのよね……」

「りゅ、竜神族?」

 また知らない単語が出てきた。


「遥か昔に聖神族わたしたちが滅ぼした辺境の神族のひとつよ。気にしなくていいわ。この時代に古竜の王を倒す必要はないんだから」

「千年後も健在な魔王ですよね」

 無理に倒す必要はない。

 余計な戦いは、避けよう。 


「そうそう、可能な限り魔王となんて戦わずに大魔王のもとに向かいなさい。あとはあんたが、神級魔法をくらわしてやればOKよ」

「わかりました、運命の女神イラ様」

 俺は跪き、お礼を言った。


「うまくやるのよ、高月マコト」

「はい、女神様」

 そう言って俺は、イラ様の部屋から退出した。



 ーーつい前日の夢の中の出来事である。





 ◇そして現在◇





 ーー神級水魔法・地獄の世界コキュートス

 


 世界がゆっくりと眠りにつくように、白く書き換わっていく。

 

 幻想的な光景だ。


 その美しい光景と反対に……



「馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿! 何で百万の魔王軍に正面から突っ込んで魔王五人に囲まれてるのよ! 水の精霊使いが最強とか、あんたに言うんじゃなかったわ!」

 運命の女神様が大声で騒いでいる。

 あれー?

 喜んでもらえると思ったのに(すっとぼけ)。


「ノアがあんたに水の精霊使いの強さを説明しない理由がよくわかったわ! あんたに自信をつけさせたらガンガン危険に突っ込んでいくじゃないのーー!!!!」

「いやぁ、仕方なかったんですよ。大迷宮の街のみんなを見捨てるわけにはいきませんし。それに百万の魔王軍と戦うのは歴史通りですよね?」


「歴史通りにやりたいなら西の大陸で戦いなさいよ! 魔大陸で戦うとか、頭湧いてんじゃないの!」

「まぁまぁ、済んだことですから。これからどうしましょうか?」

「あぁ……、歴史が……恐ろしい勢いで書き換わっていく……」

 もしかして、もしかしなくてもイラ様が睡眠不足なのは俺のせいだろうか。


「あ、あのー? マコトさん……? この御声の女性は、もしかして運命の女神イラ様、ですか?」

 聖剣バルムンクを両手に抱いて結界魔法を使い続けているアンナさんに質問された。


「女神様の声が聞こえるんですか?」

「は、はい……、急に聞こえるようになりました。何故でしょう……」

「それは神級魔法が発動中だからよ。一時的に高月マコトの周辺は、神界に近い状態になっているわ。だから女神わたしの声が届くの」


「へぇ、それは便利ですね」 

「今度こそ私の言うことを聞きなさいよ」

「わかりました」

「……本当にわかってるんでしょうね」

「ヤだなぁ、俺がいつ運命の女神イラ様の言うことに逆らいました?」

「言うことを聞くほうが少ないじゃないの!」

「ま、マコトさん! 前を!」

 見てください、とアンナさんが悲鳴を上げる。


 俺はこちらを見下ろす魔王たちへ視線を向けた。


 古竜の王を中心とする魔王たち。



「高月マコト、運命の女神わたし神気ちからを借りておいて負けたら承知しないわよ」

 イラ様の声が耳に届く。


「勿論ですよ、女神様」

 俺は端的に答えた。



 魔王に囲まれているというのに、不思議と恐怖は感じなかった。

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