273話 高月マコトは、魔大陸へ向かう
どこまでも続く暗い雲。
その中を
といっても、乗せてもらっているのは勿論
白い竜の姿だと目立ち過ぎるため、今回は『
メルさんは、色々できて本当に頼りになる。
「精霊使いくん、方向はこっちでいいのか? えらく遠回りだが」
「ええ、この先には魔王軍の手先が潜んでいます。迂回しましょう」
「師匠、よくわかりますね」
「エルフの千里眼でも視えぬが……」
「未来を視ました。便利ですよ」
「「「「……」」」」
俺の言葉に、全員が微妙な表情になる。
嘘は言ってないのだが。
何でそんな顔でこっちを見るん?
(高月マコトがどんどん人間離れしていく……、って皆思ってるのよ)
そんなことを言われても『未来視』は、勝手に発動するので俺の意思ではない。
俺はおかしくない。
(魔大陸にいる大魔王の居城までは、数日かかるわ。あんまり神気の無駄遣いするんじゃないわよ)
そうしたいのは山々ですが。
俺は未来視を
(と・に・か・く、あんたは力を温存するの! わかったわね)
へーい……。
ノア様、元気かなぁ……。
「マコトさん、何を考えているんです?」
アンナさんが、ひょいっと顔を覗き込んでくる。
「えっと、故郷の知り合いのことを」
「へぇ~、四人も居るって彼女さんのことですか? 一体どの女性のことを考えてたんです?」
唇を尖らせながら聞いてくるアンナ氏。
信じてないんじゃなかったっけ?
「残念ながらその四人とは別の人ですね」
「「五人目!?」」
「……マコトさんの妄想の彼女が増えちゃった」(小声)
「……今度はどんな設定なんでしょう? アンナさん聞いてください」(小声)
「……えぇ! 嫌だよ! モモちゃんが聞いてよ」(小声)
「……いたたまれない気持ちになるので嫌です」(小声)
「聞こえてるぞ、二人とも」
もうこの話はやめておこう。
それからは当たり障りのない話題で、旅を続けた。
◇
「今日はここで野営にしよう」
ジョニィさんが
簡易な寝床も作成している。
便利だなぁ、木魔法。
そして、ジョニィさんは器用だ。
俺も何か手伝えることは……、と仕事を探したが何も無かった。
仕方なく俺は
水魔法を使って様々な生き物の形を作る。
それを飛ばしたり、走らせたり、
にぎやかで楽しい。
「それはどうなっている……? なぜ魔法を喋らせる必要がある?」
「聖級魔法だと魔法は喋るんですよ」
俺はやや得意げに答えた。
かつて
あれは炎の天使の魔法だったか。
水魔法限定だが、俺もようやくその域に達せたようだ。
「自分の造った魔法と『対話』するのは、魔法の威力を強化するためだ。自由に喋らせる必要はない」
「私も聖級魔法は扱うが、マコト殿のような使い方はしないな」
あ、あれー?
(あんたの魔法の使い方、はっきり言ってかなり変わってるわよ?)
え? そんな!
ノア様には、褒められたのに!
(ノアのせいか……、あいつ何で自分の使徒に効率的な魔法の使い方を教えないのかしら)
魔法に決まった
そっかぁ。
俺の魔法って非効率なんだ。
確かにここ最近の成長が止まっているようにも感じていた。
その証拠に。
「なぁディーア。俺の水魔法の熟練度が『999』から全く上がらないんだけど、何でだと思う?」
「むぅ……、聖神族の魔道具ですか。私はそんな数字は気にしませんが、我が王は間違いなく強くなっておりますよ」
「そうなの?」
自分ではいまいち実感が無いが、
いつになったら上がるのやら……。
俺が
「マコトさん♡ そろそろ夕食の準備ができますよ」
「あ、ありがとう。アンナさん」
何故か俺の首に手を回し、よりかかってくる光の勇者さん。
最近は、いつにもまして距離が近い。
「今日も修行を頑張ってますね。夕食の後、僕の魔法を見てください」
そう言って手を引っ張られた。
旅立ち当初は緊張していたようだが、今は落ち着いている。
よかった。
(そりゃあ、好きな男と一緒にいられるなら女はいつだって幸せよ)
これから大魔王との一戦が待ってるんですが。
(アンナちゃんには優しくするのよ。『光の勇者』スキルの威力に大きく関わってくるわ)
はぁ……。
そういう打算的な行動は気が進まないなぁ。
しかし、大魔王に通じる攻撃手段は『光の勇者』スキルのみ。
『光の勇者』スキルは、使用者の
なので、アンナさんの機嫌を損ねるわけにはいかない。
もっとも夕食中、アンナさんはニコニコして俺に話しかけてきた。
夕食は森で取れた獣肉を炙ったものと、近くで採取した果実、あとは迷宮の街から持ってきたパンだった。
どれも美味しい。
夕食後、俺は
ずっと俺たちを運んでくれた
しばらくして、
俺は水魔法の修行を続けている。
最近は、いくら魔法を使ってもちっとも疲れなくなった。
修行になっているのだろうか?
少し不安になる。
俺は水魔法の使用は継続しつつ、何となく周りを見てジョニィさんが上を見上げているのに気がついた。
「ジョニィさん、何を見ているんですか?」
「あぁ……、この木は桜だな」
「さくら?」
そう言われて俺もそちらに視線を向ける。
花も葉も無いが、確かに木の幹や枝の様子から桜の木のように見えた。
だけど、ここは異世界なんだけど。
(昔、こっちの世界に転移してきたやつが桜を広めていったのよ。この世界だと桜の木は珍しくないわ)
イラ様が教えてくれた。
へぇ……、そうなのか。
前の世界じゃ、桜をゆっくり見るなんてやってなかったけど、今となっては懐かしい。
もっとも、葉も花も無い寂しい状態であるが。
「どれ、折角だ。花を咲かせようか」
「え?」
ジョニィさんが、何でも無いように呟き何かの詠唱を口にした。
みるみる桜に蕾ができ、薄ピンク色の花びらが開いてゆく。
「わぁ……」
「綺麗……」
アンナさんとモモの感嘆の声が響く。
「ほう、これは見事だな」
古竜族ですら感心する魔法のようだ。
数分後には、満開の桜の木が姿を現した。
かなり目立つが、
風が吹くと、薄ピンクの花びらが宙を舞った。
「美しいな」
「いいですね、桜吹雪が」
ジョニィさんの言葉にうなずく。
「花見だ。マコト殿も飲もう」
「いただきます」
修行中ではあったが、俺はありがたく杯を受け取った。
これで飲まないのは日本人じゃない。
「師匠はこの花がお好きなんですか?」
「ああ、故郷にも咲いている花なんだ」
さーさんにも見せてあげたい。
きっと喜ぶだろう。
「じゃあ、迷宮の街に戻ったらいっぱいこの花を植えましょう」
「いいね、モモちゃん。僕も手伝うよ」
花というか木だが……。
野暮なことは言うまい。
是非、この世界にもっと桜が広まって欲しい。
俺は久しぶりの桜の花を見ながら、穏やかな気持でその日を終えた。
◇
それから丸二日かけて、俺たちは西の大陸を横断し、黒々とした海にたどり着いた。
西の大陸と北の大陸を分かつ海だ。
その海の上を、メルさんの背に乗って移動する。
薄暗い海の景色に飽きてきた頃、俺たちの前に灰色の大地が姿を現した。
「見えてきたな」
「白竜さん、あれが……?」
「そうだ。魔族たちの故郷。君たち人族は北の大陸と呼んでいるのだったか?」
その言葉に、皆の口数が少なくなる。
ジョニィさんですら、少し緊張している様子だった。
北の大陸――別名、魔大陸。
(そういえば……、来るのは初めてだったな……)
千年後の世界では、魔大陸からやってきた魔族や魔王と戦ったが、行ったことは無かった。
上陸をするのは初めてだ。
こうして、俺たちは大魔王のいる大陸へと足を踏み入れた。
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