272話 伝説のパーティー
「
「そうなんですよ、白竜。我が王が急に
「いいじゃないか。『英雄色を好む』という言葉もある。彼は魔王討伐の立役者だ。好きなだけ女を抱けばいい。ついでに私の娘も貰ってくれんかな」
「これ以上増えるのは勘弁ですよ! エルフの長!」
大魔王と戦う話を、
三人とも飲んでいるようで、酒瓶がそこらに転がっている。
「おや、女たらしの精霊使いくんじゃないか」
「我が王~、私は寂しいです……」
「お邪魔しますね」
「よく来た、マコト殿! 共に飲もう!」
俺が三人の近くに座ると、最初に話しかけてきたのはジョニィさんだった。
普段の寡黙な様子がなく、随分と陽気だ。
しきりに俺に酒を勧めてくる。
ついでに、娘さんの婿にならないかと熱く口説かれた。
ジョニィさんにはお世話になっているが、ここでOKするとアンナさんとモモに何を言われるかわからないので、丁重にお断りしておいた。
ジョニィさんは残念そうだが、無理強いはしてこなかった。
「我が王~、私も構ってくださいまし……」
「悪い悪い」
と言いながら、俺はその美しい蒼い髪をなでた。
実際、
彼女無しでは生き残れなかった。
これは予想だが、千年後の
今の時点で彼女に聞いてもわからないことではあるが。
精霊には歳を重ねるという概念は無いらしい。
千年後に帰ったら、是非確認してみよう。
やがて酔いつぶれた
「考えられんな……、生きた天災である大精霊をそのように従えるとは……」
「やはり私の目に狂いはなかった。精霊使いくんは、魔王を倒せる逸材だった」
「俺じゃなくて倒したのは、
「時の神級魔法を使っておいてよく言う。魔王は精霊使いくんに完全にビビっておったぞ」
「そうでしたっけ?」
その辺は、記憶が曖昧だ。
『明鏡止水』スキルの100%のせいかもしれない。
そんな雑談をしていた時だった。
「マコト殿、我々に話があってきたんだろう?」
ジョニィさんが断言しながら、酒をぐいと飲み干した。
俺にも注がれたものだが、日本酒のようにきついお酒でとても一気には飲めなかった。
ジョニィさんは、酒が強い。
「そうなのか? 精霊使いくん」
「ええ……、まぁ」
「しばらくは、ゆっくり身体を休めたらどうだ? 魔王を倒したばかりだぞ?」
呆れた口調で
その姿がとても絵になる。
(さて……、どう切り出そうかな)
若干、顔を引きつらせていたが一応の同意は取れた。
あとは、
もっとも俺自身、
「これから
ジョニィさんは、大きな盃に酒を注ぎながらこともなげに言った。
「え?」
「何?」
俺と
先に反応したのは、
「馬鹿なことを! まずはこの大陸で戦力を整えるべきだ。魔王を倒し各地に隠れていた戦士たちが集まってくる。それに他にも魔王は居る! 大魔王はもっとあとにすべきだ!」
俺だって
「
ジョニィさんは、さらに酒を飲み干す。
……飲み過ぎでは?
「やれやれだ……、族長殿は短慮過ぎる。精霊使いくんも、何か言ってやれ」
当然、反対してくれるだろうという口調だった。
少し申し訳ない気持ちになった。
「
「なん……と……」
「流石は運命の女神様だ。
ジョニィさんは、本当に楽しそうだ。
反対に、
「
「いいさ、力を貸そう。そういう約束だからな」
「……いいんですか?」
「何度も言わすな」
「ありがとうございます」
俺は二人に頭を下げた。
「うーん……、我が王は無敵……です……」
この子にも、もうひと働きしてもらわないといけない。
俺はジョニィさんに注いでもらった酒を、ぐいっと飲み干した。
少しむせた。
(なんとか全員の同意は得た……か)
――こうして、大魔王へ挑む面々との約束を取り付けることができた。
◇翌日の早朝◇
「もう旅立つのか……」
「すいません、メルさん。夢の中で
「……よく女神様に文句など言えるな、精霊使いくんは」
「遂に大将首か。腕が鳴る」
ジョニィさんは、愛刀を腰に携えて不敵な表情を浮かべている。
というかジョニィさんって、ちょくちょく発言が日本人っぽいんだよなぁ。
転生人?
まさかな。
「ジョニィさん、街の皆に挨拶はしなくても本当にいいんですか? 黙っていくと皆さん寂しがりますよ」
なんと彼は、黙って出ていくらしい。
「構わん、書き置きを残してきた。今まで一族が滅びないことだけを考えてきたが、この街はもう私が居なくても大丈夫だ。大魔王を倒したあと、私は世界中を旅したい」
「そう、ですか」
これは歴史で習った通りだ。
大魔王を倒したジョニィさんは、世界中を巡る。
ついでに、各地に子供を残していくらしい。
なるほど、今までは一族のために自分のやりたいことを我慢していたのか。
そう考えると奔放なのは、流石ロザリーさんの祖父って感じだ。
「師匠……」
しかし魔法の腕は大きく上がっている。
「大丈夫だよ、モモ」
「は、はい」
本当なら戦いに巻き込むのは気が引けるが、ついてくるなと言っても無理だろう。
だから、俺が守らないと。
「ほ、本当に行くんですね……マコトさん」
彼女の腰には聖剣バルムンクが携えられている。
――マコトさんが大魔王と戦うというなら、僕もついて行きます。
昨夜震えながらも、そう言わせてしまったことが心苦しい。
だけど、大魔王を倒すには、彼女の力が不可欠だ。
(それにしても……)
俺はあらためて、パーティーメンバーを見回した。
伝説の聖なる古竜様。
そして、救世主――光の勇者のアンナさん。
(伝説のメンバーが揃ってる……)
もっともアベルとアンナさんが同一人物であることは、想定外だったが。
俺が一緒に行ってもいいのだろうか? という気すらしてくる。
(あんたが居なきゃ、始まらないのよ!!)
頭の中で、キンキンと声が響いた。
声色は美しいんですけどね……、もちっと穏やかな声を出せませんか?
(こっちは神界規定違反の罰則で、てんてこ舞いなのよ!)
声だけでなく、目の下にくまができている
24時間、働き詰めらしい。
女神稼業ってブラックなんやな……。
(いいわね、絶対に勝つのよ……、負けたら私は女神剥奪なんだから……)
さて、街の住人に見つかると騒がれてしまうので旅立とうかという時、誰かの足音に気がついた。
「皆様、お見送りに来ました」
その穏やかな声の主は
てっきり一緒に来てくれるかと思ったが、彼女自身の戦闘能力は低いらしく足手まといになってしまいます、と言われた。
「では、行ってきますね。エステルさん」
「はい、お気をつけて。ですが、旅立ちの前に皆様の勝利を祈らせてください」
――運命魔法・女神の祝福
そして、アンナさんに近づくと、手の甲にキスをした。
キスされた場所がぽわっと小さく輝いた。
「これは……?」
アンナさんが尋ねると、
「幸運を授ける運命魔法です。これで敵からの矢や遠距離魔法が当たらなくなります」
おお!
それは助かる。
巫女様の
ワクワクして待っていたが、モモ、ジョニィさんと来て俺はスルーされた。
あ、あれ……?
「あの……エステルさん?」
「ふふふ、マコト様には
えぇ~、俺も
(あんたにはねぇ! 世界一の幸運がついてるのよ!)
本当かなぁ……。
こっちに来てから大変なことばっかりなんですけど。
「まぁ、特に意味はありませんが、勝利を願ってキスくらいならいくらでも……」
そう言ってニコニコしながら、
ん?
手の甲じゃなくて、なぜ首に手を回すんです?
「師匠! 早く出発しますよ!」
「エステルさん! 幸運の魔法をありがとうございました! マコトさん、行きましょう!」
大賢者様と光の勇者さんに、すごい力で服の襟を引っ張られた。
く、首が苦しい!
どうやら、からかわれたらしい。
「やれやれだ……、では向かうぞ」
白竜さんが、竜の姿に成った。
俺たちはその背に乗る。
俺たちは大迷宮の街を離れ、黒い雲が覆う空へ飛び立った。
こうして、ついに大魔王との決戦の地へ向かうこととなった。
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