209話 絶望
「……え?」
俺の口から、そんな言葉が漏れた。
魔王を一撃で倒した、桜井くんが?
「うそ……」
フリアエさんの呟きが聞こえる。
信じられないが、俺たちの後方に吹き飛ばされた桜井くんが倒れている。
これは現実だ。
「リョウスケェ!」
横山さんが悲鳴を上げて桜井くんに駆け寄り、回復道具を使っている。
が、すぐに意識を取り戻す様子は無い。
……ザ、ザ、と足音が響いた。
「では、月の巫女は頂いていこう」
その言葉に反応したのは、俺とルーシーだった。
――精霊の右手
俺の右腕が青く輝き、
「王級氷魔法・氷の不死鳥!」
「王級火魔法・炎の不死鳥!」
精霊の力を借りるため発動に少し時間がかかる俺と、呪文の詠唱が必要なルーシーの王級魔法が同時に放たれた。
青と赤の巨大な不死鳥が絡み合うように、太陽の勇者に突き刺さった。
ゴウ!! と音を立てて爆発が起きる。
竜ですら一撃で葬れると確信する威力だった。
しかし……
「欠伸がでるような技だな」
火傷一つ負っていない太陽の勇者が、爆発の中から現れた。
あの攻撃を受けて、無傷!?
「月の巫女、抵抗はするなよ」
「「「!?」」」
突然、俺たちの真後ろに太陽の勇者が移動した。
まったく見えない!?
「は、離しなさいよ! ……『魅了』が効かない!? 何で!?」
フリアエさんが腕を掴まれてもがいている。
俺とさーさんが、それを助けようとした時。
ドン! という音が響き、気が付くと数メートルも吹き飛ばされていた。
口の中に、血の味が滲んだ。
身体中が痛みで悲鳴を上げている。
俺の隣にルーシーが倒れ、唇から血が滴っていた。
「ルーシー! 大丈夫か?」
「……だ、大丈夫」
苦しそうだが、意識はある。
さーさんは、反対側に吹き飛ばされている。
何をされたんだ……?
「あんたっ!
フリアエさんが怒鳴った。
そうだ!
フリアエさんには、『報復の呪い』があった!
それを聞いた太陽の勇者は、面倒くさそうに頭をかいた。
「俺に呪いは効かないんだよ」
「は、離せっ! くそ、この馬鹿力がっ!」
「うるさい女だ」
「ぅぐっ!」
太陽の勇者が、フリアエさんの
こいつ、なにをっ!
「……ぁ」
「ほら、『報復の呪い』はどうした? 俺の首は何ともないが?」
太陽の勇者は、楽しげに嗤っている。
女の首を絞めて悦んでいるクソ野郎!
怒りが爆発しそうになり、精霊魔法を使おうとした矢先――先に動いた人影があった。
「このっ! ふーちゃんを離せ!」
七色に輝くさーさんが、太陽の勇者に殴りかかった。
――『アクションゲームプレイヤー』スキルの無敵時間
さーさんの必殺技。
この攻撃ならヤツに通じるはず!
「ほう」
ずっとニヤニヤしていた太陽の勇者が初めて表情を変えた。
興味深そうに。
「面白い。貴様は神域に片足を突っ込んでいるな」
さーさんの拳を太陽の勇者が、
「ぐぐっ」
さーさんが悔しそうに、表情を歪めた。
無敵時間のパンチを止められた!?
あらゆる防御を無効化する、無敵時間の攻撃を!?
「ふむ、多少の痛みを感じるな」
「では、次は俺様の番だな」
太陽の勇者の拳が七色に輝いた。
いや、燃え上った。
あれは、まるでさーさんの無敵時間のような……。
ゾワリと悪寒が走った。
駄目だ、あの攻撃を喰らっちゃ……。
「さーさん、逃げろ!!」
「遅い遅い」
俺の叫びを太陽の勇者があざ嗤った。
次の瞬間、閃光のような太陽の勇者の突きがさーさんに突き刺さった。
ドス、というおぞましい音が耳に届く。
「きゃああああああ!」
悲鳴を上げたのはルーシーだった。
太陽の勇者の拳は、さーさんの
……何が起きてる?
脳が目の前の出来事を理解してくれなかった。
がはっ、とさーさんが大量の血を吐き、びくんと痙攣した。
さ、さーさん……?
うそ……だ……。
「いかん、
太陽の勇者の声で我に返った。
その時、さーさんの身体が白く輝き、ふっと消えた。
「あ……」
ルーシーが小さく声を上げた。
あれは、さーさんの『アクションゲームプレイヤー』の『残機』スキルが発動したのだろう。
『明鏡止水』で冷静な部分がそう告げた。
だけど、すでに…………俺は、平常心を失っていた。
「あ……がっ…………」
首を掴まれたフリアエさんが、泡を吹き意識を失いかけている。
隣のルーシーが泣きながら次の魔法の呪文を唱えている。
聖級魔法の詠唱だ。
おそらく奴には通じないだろう。
いや、唱え終わる前に殺されるかもしれない。
桜井くんは、まだ倒れている。
横山さんも動けそうにない。
……ノア様?
(………………)
返事は無い。
――明鏡止水100%
何か…………。
何か手が………………………………あった。
『その身を捧げ、
はい
いいえ
迷わなかった。
できることは、これしかない。
さーさんを殺した、このクソ野郎をぶちのめすには、これしか。
ちらと、隣には震えながら呪文を詠唱するルーシーがいる。
「……ゴメン、ルーシー」
「ま、マコト……?」
俺は小さく仲間に詫びた。
(すいません……ノア様)
俺は女神様に懺悔した。
(……っ!……)
返事の声は届かなかった。
俺は
ノア様の奇跡によって、止まっていた『精霊化』の魔法が俺を
右腕から肩に、そして身体が青く輝き始める。
俺はそれを止めなかった。
――姫を助け、
俺は寿命を自爆魔法に注ぎ込み、……に祈った。
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