204話 高月マコトは、女神のライブに参加する


 ――わぁーーっ!!

 ――イラ様ー!!

 ――こっち向いてー!!


 怒号のような歓声が響く。

 興奮する観客たちが飛び跳ね、地面が揺れている。

 隣を見るとふじやんやピーターも、大声を張り上げている。


「タッキー殿! 女神様ですぞ、こんな近くに生女神さまが!」

「すげぇ! 降臨した女神様が……生きててよかった! なぁ兄弟ブラザー!」

「う、うん……」

 俺は割と気軽に会ってるんだけど。

 普通はなかなか会えないんだなぁ……。


 運命の女神イラ様が降臨したエステルさんが、舞台の真ん中で歌って、踊っている。


 ただ、なんだろう。

 なんか既視感がある。

 俺は、こんな光景をよく目にしている気がする。



「みんなー☆ 楽しんでるかな~~~~?」



 ――ウォオオオオオオオオオオオオ



 イラ様が、きゃぴっとウインクをすると、歓声が上がる。

 うっわ……。


 完璧な笑顔。

 愛らしい仕草。

 そして、どんなに動き回っても下着は見せないミニスカート。


(あ……ノア様と一緒だ)

(失礼ね! 私はもっと可愛いわよ!)

 聞かれてた。 


(イラちゃんって、ノアを意識してるわよねぇ)

 そーなんですか? エイル様。

(そうそう、ノアが神界一の美の女神って呼ばれてるのが気に喰わないんですって)

(ふふん! まぁ、私の一番は揺るがないけどね!)

 へぇ……。


 スポットライトと照明が眩しいステージの上では、ヒラヒラしたドレスのエステルさんイラさまが電波な曲を歌っている。


「ちょっと、あざとすぎるかな……」

 俺が小さく呟くと、隣からギロリと睨まれた。


「タッキー殿? まさか、イラ様の悪口を言うつもりはないでしょうな? 拙者が商人見習いで、寝る時間も無い時、商業の国で降臨されたイラ様を見て以来、それを心のよりどころにしてきた拙者の前で、まさか完璧で幸運なイラ様の悪口を言ったりはしませんよなぁ!?」

兄弟ブラザー……いくら兄弟ブラザーでも言っていいことと悪いことの区別はつけてもらうぜぇ……。イラ様は俺の心の支えなんだ。マフィアの息子なのに喧嘩が弱くて、獣人族だから頭も悪い。優秀な兄貴と比べられても、イラ様の御姿を見ると心が洗われたんだ。その完璧で幸運なイラ様を悪く言うなんて、兄弟ブラザーがするわけないよなぁ!?」

 二人とも凄く早口だ。


「……か、完璧で幸運なイラ様と会えて最高です」

「「うむ!」」

 怖い。

 これが狂信者か。


 俺は信者ファンでないことが周りにバレないよう程度に応援した。

 ライブは大盛況に終わった。



 ◇



 ふじやんとピーターは一緒にライブを観て、すっかり意気投合したようだ。

 二人で飲みに行ってしまった。

 この調子だと、近日中にふじやんも兄弟ブラザーになることだろう。


 俺も誘われて、しばらくは一緒に居たのだが二次会は遠慮した。

 ノリについていけなかった。


 俺は空を見上げた。

 まだ、夕方にもならない時間だ。

 さて、どうしたものか?


 思いつきで俺がやってきたのは、前に一度だけ訪れたことがある運命の女神の巫女エステルさんがいる屋敷。

 目的は、桜井くんの予知の件を相談するためだ。

 なんだけど、商業の国の大貴族の屋敷の前は警備の人が多く、俺一人でふらっと入れる雰囲気ではなかった。

 それに……ライブ後すぐだし、きっとお疲れだよなぁ。

 このタイミングは、無理だったか、と思っていたら。


「あら? そこにいるのはローゼスの勇者マコトではないですか」

「ジャネットさん?」

 白い甲冑姿をしたペガサス部隊の隊長ジャネットさんに声をかけられた。


「確か入院は……もともと不要そうでしたものね」

 クスリと笑われた。

 ジャネットさんも、何度か病室に見舞いに来てくれていた。

 毎回、俺が水魔法の修行をしているのを呆れていたけど。


「で、私との婚約は受けて下さらないのに大賢者様の守護騎士になってしまったマコトは、こんなところで何をしてるんですか?」

 少しとげのある口調のジャネットさん。


「えっと、運命の女神の巫女エステルさんに会いに来ました」

「ふうん? ……約束はあるのですよね?」

「いえ?」

「え? アポ無しですか」

「やっぱ、無理ですかね」

「当り前でしょう」

 ジャネットさんに大きくため息をつかれた。

 常識知らずだったらしい。


「エステル様は、さきほど女神様の降臨を終えられたばかり。当分は誰の面会も……」

「水の国の勇者、高月マコト様はおられるか!?」

 ジャネットさんの言葉を遮るように、大声で名前を呼ばれた。

 おや?


「はい、ここにいます」

 俺は手を上げて、知らせた。


「エステル様がお呼びです! 屋敷へお入りください!」

「「……」」

 俺とジャネットさんは顔を見合わせた。


「約束はしてないのですよね……?」

「はい、ふらっと来ました」

「呼ばれましたね……」

「ですね……」

「さあ! どうぞ! お連れのかたもご一緒に!」

 執事っぽい人が俺を急かす。


「ジャネットさん、行きましょうか?」

「わ、私もですか!?」

「なんか一人は不安なんで……」

「……もう、仕方ないですね」

 我ながら無茶を言ったけど、ジャネットさんはついて来てくれた。



 通された部屋は、面会用の応接室だった。

 中には、先ほどのヒラヒラのドレスとは全く違う雅なドレスに着替えたエステルさんが座っていた。

 周りには護衛らしき騎士たちが、ずらりと並んでいる。



「ようこそ、ローゼスの勇者。それにバランタイン家の長女も居ますね」

「突然の来訪お許しください」

「こんにちは、イ……エステル様」

「……」

 うっかり「イラ様」と言いそうになって、エステルさんに「おい!」という目で睨まれた。


 その後、エステルさんは護衛に「下がっていなさい」と命じ、部屋には三人だけになった。



「では、用件を聞きましょうか」

「何で俺たちが来たのがわかったんですか?」

「あなた……私を誰だと思ってるのですか?」

 未来を見通す『運命の女神』の巫女。

 そっか、俺たちが来ることくらいは把握してるのか。

 でも、魔王戦では『予知』外しちゃったからなぁ、イラ様。


「……魔王戦の失態は忘れなさい」

「はーい」

「あの……会話がおかしくないですか?」

 俺の心をイラ様が勝手に読んで話を続けるので、確かにへんな会話になってる。

 ……まあ、いいや。

 話を続けて誤魔化そう。


「実は光の勇者……桜井くんのことなんです」

「ああ、そういうことですか」

 だから勝手に心読んで回答すると、会話が変になるから!

 隣のジャネットさんが、「??」って顔してるから。



「桜井くんが『大魔王復活後に死ぬ未来を防ぐ』、もしくは『死にそうになっても生き延びられる』ような魔道具とか、魔法ってないですかね?」

「ありません」

「そう……ですか」

 俺の質問に対して、エステルさんが断言した。

 どうやら死んだ人間が『生き返る』ほどの神器や魔法は都合よく転がっていないらしい。


「太陽の巫女……いえ、『慈愛の聖女』ノエルが『蘇生』魔法を使えます。大魔王との決戦では彼女を光の勇者の側に付けるしかないでしょう」

「それしかありませんか……」

 以前フリアエさんが言っていた方法だ。

 イラ様と言えど、完璧な回避策はお持ちじゃないようだ。

 はーつっかえ……。


「邪神の使徒マコト。言葉が過ぎますよ」

 やべ、言い過ぎた。

「失礼いたしました」

「あの……エステル様、マコト、さっきから何を……」 

 あかん、ジャネットさんが混乱している。

 エステルさん(イラ様)も同じことを思ったのか、ふぅ、と小さくため息をつくと



 ――パチン



 と指を鳴らした。

 その瞬間、部屋の空気が粘性を持ったような奇妙な空間に変わる。


「ジャネットさん?」

 隣のジャネットさんが静止したように瞬きすらしていない。

 これは……?


「『隔絶結界』です。面倒なので私とあなただけが認識できる空間を創りました」

 さらりと言うが、それ聖級魔法のはずなんだけど……。

 

「さて、さっきから好き勝手言ってくれたわね、ノアの使徒マコト」

 口調が変わった。

 ギロリと睨みながら、こちらに近づいてくるエステルさんイラさま

 うっわ、お怒りだ。

 いかん、何か言わなければ!


「さ、さっきのライブは素晴らしかったですよ!」

 イラ様の足がピタリと止まった。


「あなた…………………………居たの?」

「はい、友人と一緒に参加してました」

「ふぅん、……で、どうだったの?」

 目から怒りの感情が弱まる。


「お、踊りも歌も最高でした! 友人二人なんて泣いてましたよ!」

 ふじやんとピーターが泣いてたのは本当だから、嘘じゃない!


「あら……素直ね。素直な子は好きよ」

 エステルさんイラさまの目が怪しく金色に輝き、俺の頬に手を当てた。

 って、これ『魅惑』眼やん!



(ちょーっと、待ちなさい! 私のマコトを誘惑するんじゃないわよ!)

「ちっ、聖級の結界じゃノアの神眼は防げないわね」

(駄目よー、イラちゃん。マコくんは私が先に目をつけてたんだからー)

「エイル姉様も居るのですか……」

 ノア様とエイル様が会話に割り込んできた。

 なんか急にやかましくなったな。


「話を戻しますけど、桜井くんの『死の未来』は避けられないんですかね?」

「今のところは……そうね。この前の獣の王ザガンを撃破したら未来が変わるかと思ったけど、ダメだったわ。やっぱり復活する大魔王をなんとかするしかないわ。『蘇生』が使える太陽の巫女ノエルは常に側につけておかないとね」

 そっかぁ……。

 

「でも、ノエル王女の『蘇生』魔法を使うと言っても戦争には参加できませんよね?」

「……大魔王戦は別よ。大魔王イヴリースだけは総力戦で当たらなければ勝てない。全ての巫女も戦争に参加させるわ」

「え!? ソフィア王女もですか?」

 大丈夫だろうか……?


(そうそう、だからソフィアちゃんを守ってあげてねー)

「わ、わかりました」

 にしても大魔王の復活っていつなんだ?

 前々から復活する復活するって言われてるけど、全然しないやん?


「10日後よ」

「え?」

 エステルさんイラさまがさらりと、言った。

 と、10日後⁉


「もうすぐですね……」

 ついにかぁ……大魔王イヴリース。

 どんなやつなんだろう?


「次の作戦は前みたいなことにはならないわ。蛇の教団は潰しておいたし」

 エステルさんイラさまは少し気まずそうに言った。

 そうだ、蛇の教団が居なければ未来予知の精度が高まるんだった。

 じゃあ次は……大丈夫かな?


「希望に添えず、悪かったわね。他に用件はある?」

 腕組みをしたエステルさんイラさまが尋ねる。

 他か……何かあったような……。

 そうだ、大事な話が残っていた!


「フリアエさ……月の巫女のことなんですけど」

「ん?……あー、月の巫女と魔人族の差別をなんとかしたいの?」

 話が早い。

 でもエステルさんイラさまは面倒そうな顔をした。


「駄目……ですか?」

「んー、千年前の月の巫女のせいで滅茶苦茶にされたから……どうしようかしら」

 千年前の月の巫女――厄災の魔女。

 大魔王側に寝返っていたという裏切り者。

 でも、フリアエさんは関係ないだろ?


(イラちゃん、千年前の件はそろそろ水に流してもいいんじゃないかしら?)

 やったぁ、エイル様は優しい!


(そうそう、ついでに私の件も水に流すべきよね? 私も沢山信者が欲しいなぁ)

「(ノアはダメ)」

(えー!)

 えー、なんで?

 俺もついでにノア様のこともお願いしようと思ってたのに!


月の女神ナイアの巫女……厄災の魔女は、勝手に暴走してただけだから、確かに今代の月の巫女は無関係よ。でもノアの信者は、がっつりノアが指示だしてたでしょ! 千年前の運命の女神わたしの勇者も、あんたの使徒に殺されたし!」

「でも、千年前と状況が違いますよね?」

「でも、あんたもノアの言う事なら『何でも』聞いちゃうでしょ?」

「まあ、大体は」

「じゃあ、ダメ。月の女神ナイアは信者を放置するから無害だけど、ノアは放任……の振りしてがっつり『扇動』するからノアの信者は危険なの。だからノアの信者を増やすのは駄目」

 はぁ……そっかぁ。

 仲間が増えれば、色々できると思ったんだけど。


「ちなみに、ノアの信者を増やすなら誰を誘うつもり?」 

 イラ様は答えがわかってるだろうに、聞いてきた。


「とりあえず、ルーシーとさーさん、ふじやん、ですね」

「紅蓮の魔女の娘と、火の国の国家認定勇者、水の国一番の大商人……駄目ね」

(それは……うん、止めときましょう)

 ええー! エイル様まで!


(ケチ―!)

 ノア様の声が響いた。


(でも、そろそろ月の巫女と魔人族は気の毒だし、平等に扱ってあげてもいいと思うわ)

「本当ですか!? エイル様」

 やったぁ。


「でも、決定には太陽の女神アルテナ姉様の決裁が必要ね」

(マコくん、今度イラちゃんと一緒にアルテナ姉さんに聞いておくわ)

「ありがとうございます!」

 よかった。

 これでフリアエさんや月の国ラフィロイグの魔人族の人たちも救われる……といいんだけど。 


「じゃ、話は終わりかしら?」

「そうですね……」

 他に言い残したことは……あ、そうだ。


「イラ様って普段と人前でキャラが全然違うんですね」

「な⁉ 別にいいでしょ!」

 俺の言葉に、イラ様が過剰に反応した。


(イラちゃんねー、ちょっとキャラ作り過ぎよねぇー)

(痛いからそろそろ止めときなさいよ)

「いいの! 放っておいてください、エイル姉様! あとノアには言われたくないのよ!」


(私はもう少し落ち着いた女神で通してるわよ?)

 そうかなぁ?


 にしても運命の女神イラ様。

 俺としてはもう少し、厳かなイメージだったんですよ。 


(ねぇねぇ、マコくん。魂書ソウルブックを見てみなさい)

「エイル様? 魂書ソウルブックですか?」

(そのスキル説明ってイラちゃんが書いてるの)

「え?」

 俺は急いで魂書のスキル欄に目を通した。



『水魔法使い:初級』……初級の水魔法が使えるスキル。あなたの所持魔力量が少ないから、初級なのはしかたないね! 頑張って修行してね!



「これ……イラ様が書いたんですか?」

「そうよ……文句ある? 魂書ソウルブックにも書いてあるでしょ」

 本当だ……。

 小さく、運命の女神イラより、って書いてる……。

 そっかぁ、運命の女神様のキャラはアレが一般常識だったのか。

 目の前のエステルさんは、どちらかというとおしとやかな外見なのになぁ。


「もういいでしょ、そろそろ結界を解くわよ」

 腕組みをしたイラ様が、ふんと、横を向いた。


「はい、色々教えていただき、ありがとうございます、イラ様」

 俺は跪き、お礼を言った。

 いつもそれくらい謙虚になさい、といって「パチン」とエステルさんが指を鳴らした。



「あ、あら? 私はいったい……」

 ジャネットさんは、パチパチと瞬きしている。


「エステルさんとの話は終わりました。ジャネットさん、帰りましょうか」

「え? あれ? ……いつの間に?」

 混乱しているジャネットさんの手を引っ張る。

 連れて来て悪いことしちゃったな。


「では、エステルさん。イラ様によろしくお伝えください。ありがとうございました」

 さっきも言ったが、もう一度御礼を言った。


「月の巫女のことはどうなるかわかりませんよ。まあ……何か困ったら私を頼りなさい」

「失礼いたします、エステル様」

「また来ますねー」

 ヒラヒラと手をふるエステルさんイラさま

 俺とジャネットさんは、部屋を出た。



 ◇



「あの……高月マコト。随分、エステル様と仲良くなってませんか?」

「そうですか? 前からこんなもんですよ」

「そうは思えませんが……あなたは、大賢者様やノエル姉様、タリスカー将軍、紅蓮の魔女様……意外に権力者に取り入るのが上手ですね」

 それは褒めてるのかな?


「私のことは便利な女くらいにしか思ってないようですが」

 じとっと睨まれた。

 あ、怒ってる。


「め、飯行きましょう! 飯」

 俺は話を誤魔化すために話題を変えた。


「む……まあ、かまいませんが」

「いい店があるんですよ! こっちですよ」

 と言ってもふじやんが経営してる店だけどね。


 困ったらふじやん頼み!

 あ、でも今はピーターと飲みに行ってるかな。

 まあ、いっか。

 あの店、料理は美味しかったし。

 

 ◇


「いらっしゃいまセー、高月サマ。いつもご贔屓ニ……って、そちらはジャネット・バランタイン様!?」

 ニナさんがビックリした顔で耳がぴこん、と立っていた。

 あちゃー、そういえばジャネットさんいい家のお嬢様だった。 

 事前に、言っておいたほうがよかったか。

 

「私のことは気にしなくて構いません」

「は、ハイ……小さな店で恐縮ですガ……どうぞ、ごゆっくり」

 ニナさんが手短に挨拶し、すすすっと俺の側に来た。


「高月サマ! どうしていつも連れてくるのは王族や大貴族なんですか!? しかも予約なしで!」

 怒られた。

「スイマセン……ところでニナさんは何で毎回店番を? 別にやんなくてもいいでしょ?」

 ニナさんもふじやんの奥方だから、無理に働く必要無いはずだ。 


「貴族の真似事より、身体を動かす方が性に合ってるんデス。それにしても……高月サマは毎回お連れの女性が変わりますネ。佐々木様とルーシー様には秘密にしておきますネ」

 と呆れ気味にウインクされた。

 いや、そういうんじゃないんだ……。


「どうかしましたか?」

「いえいえ! 何でもありまセン! ジャネット様!」

「ジャネットさん、何を頼みますか?」

 俺とニナさんは、慌ててジャネットさんに向き直る。


 俺たちは軽い食前酒と、おススメの料理を幾つか注文した。

 ふじやんのお店は、貴族街にある庶民風の食堂だ。

 ジャネットさんは珍しいのか、きょろきょろとしている。


「貴族の住む三区街にしては、珍しいお店ですね。気軽に入りやすい」

「でしょ? 俺の友人が経営してるんですよ」

「あなたの行きつけ、ということですか。覚えておきますね」

 微笑むジャネットさんは、機嫌が良さそうだ。

 エステルさんの屋敷に無理に連れて行った分は返せたかな。


「ジャネットさんは、普段どんなところで食事を?」

「私は部隊のみんなと行動を共にすることが多いですね。実家は堅苦しいので最近行ってなくて……結婚結婚と両親が五月蝿いですし(ぼそ)」

「え? 後半が聞き取れなかったですが」

「いいんです! 聞こえなくて」

「はぁ……」

 しばらく、雑談をしながら夕食を楽しんでいた時だった。



「よお、空いてるか?」

「いらっしゃいませー。お好きな席にどうぞー!」

 声のデカい客が入ってきた。

 金ぴかの鎧に、どぎつい金髪。

 派手な騎士さんだなぁ……と酔った頭でぼんやり見ていたら、鋭い目つきの金ぴか騎士がつかつかとこっちにやって来た。


(……ん?)


「おい、ローゼスの勇者。何で俺の妹と一緒に居る?」

「に、兄様⁉」

「げ」

 よく見ると。


 そこに立っているのは、北天騎士団団長で稲妻の勇者のジェラルドさんだった。

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