165話 高月マコトは、観戦する
「優勝は、佐々木アヤァ~~~~~!!! 新たな火の国の勇者の誕生だぁ!!」
聞き違いじゃなかった。
確かに、さーさんが優勝したと実況が叫んでいる。
(決まるの早くない?)
例年は、決勝が行われるのは夕方~夜にかけてらしいのだが。
「アヤー!」「強ぇー! 圧倒的過ぎるだろ!」「あんなちっこいのに、なんだあの馬鹿力は!」「ぁぁ~、可愛い~、持ち帰りたいー」「(*´Д`)ハァハァ、アヤたん」
午前中とは打って変わって、好意的な歓声が多い。
いや、熱烈な歓声と言うべきか。
火の国の人たちは、強い人ほど好かれるらしいというのは本当みたいだ。
一部、変なのも混じってるけど。
「マコト! 戻ったの!?」
「ルーシー。試合は……終わったみたいだな」
「そうなの! アヤってば、全試合、一撃で終わらせたのよ! 凄かったわ」
俺はルーシーの姿を見つけ駆けよった。
って、さーさん全試合ワンパンかよ。ぱねぇ。
「ねぇ、私の騎士。異世界の連中ってなんでこんなデタラメなのよ」
フリアエさんが、大きな日傘をさしながら手で扇いでいる。
あ、スカートの影に黒猫が隠れてる
「なう、なう」
暑かったろうに、おまえも応援してくれたのか。
俺は喉を撫でて労った。
「ただいま、姫。さーさんが特別なだけだよ。無事、優勝したみたいでよかったよ。応援ありがとう」
闘技場の真ん中にあるリングでは、さーさんが観客に手を振っている。
「応援するまでも無かったわよ。圧倒的だし。でも、最初は野次ってた連中がだんだん黙っていくのは痛快だったわ」
フリアエさんが呆れた表情をしつつも楽しそうだ。
彼女も、火の国に対して多少思うところがあったのだろう。
「さーさんは、怪我とかしてない?」
全員ワンパンで倒したなら、大丈夫だと思うけど。
「私が用意した回復士が無駄になりましたね」
ソフィア王女が苦笑しながら言った。
「でも、ソフィアのおかげで安心できたよ」
俺はお礼を言った。
「高月くん!」
「うおっと、さーさん」
さっきまでリングに居たさーさんが、抱きついてきた。
「優勝したよ!」
「ああ、おめでとう。ゴメン、決勝に間に合わなくて」
「ううん、本番はこれからだから」
そういって、VIP席のほうを見上げる。
視線の先、頬杖をついてこちらを見下ろす黒髪に浅黒い肌の美女――火の女神の勇者オルガ・ソール・タリスカーと視線が絡まった。
「それでは、これから休憩を挟んで優勝者佐々木アヤとオルガ様の
実況が高揚した声で、宣言した瞬間。
――シュタッ、リングの真ん中に何者かの影が降り立った。
「オルガ様?」
実況の声が疑問形で響く。
さっきまで
え、あそこから飛び降りたのか?
十メートル以上あるよ?
勇者オルガは何も言わず、腕組みをしてこちらを見下ろしている。
まるで挑発するように。
「じゃ、行ってくるね。高月くん」
「え、休憩を挟むんじゃ……」
俺が聞く前に、さーさんはひとっ飛びでリングの中央へ降り立った。
さーさんは勇者オルガとほんの一メートルほどの距離で睨み合う。
「……おや、これは一体。試合は、もう少し後の予定ですが」
実況の戸惑った声が響きと、観客席からのざわめきが大きくなる。
俺は『聞き耳』スキルで、さーさんと勇者オルガの会話を拾った。
「試合が終わった後でしょ。回復魔法をかけてもらいなさい」
腕組みをした勇者オルガが、顎で回復士のほうを示した。
「別に要らないよ。さっきまでのはただの準備運動だから」
さーさんが淡々と返事をした。
「へぇ……、じゃあこれからが本番というわけ? 先日の続きかしら」
「そうだよ。あなたをやっつけるから」
不敵に微笑み合う二人。
ビリビリと大気を震わせているのは、二人の闘気がぶつかっているからだ。
その緊張感に当てられてか、観客席が静かになる。
「あ、あの……、試合はもう少ししてからですが……」
リングに立っている審判が、おずおずと勇者オルガに話しかける。
「この子は、すぐに試合を始めたいみたいよ」
「私はいつでもいーよ」
勇者オルガとさーさんは、お互いに準備ができていることを審判に伝えた。
それを聞いて審判が、実況席の人に何かの合図を送った。
「おおっと、どうやら二人ともすぐに試合を行うようだ!」
「「「「「「うぉおおおおおおおおお!!!!!」」」」」
実況の声に、観客席は一気にヒートアップする。
「それでは、選手紹介にうつります! 特別試合、対戦するは火の国を代表する戦士。『灼熱の勇者』オルガ・ソール・タリスカー選手! 」
勇者オルガは、名前を呼ばれても悠然と構えている。
―――オオオオオオオオオ!
ただし、周りの観客は歓声をもって勇者オルガを讃えた。
火の国において、火の女神の勇者は武の象徴であり、美しい容姿と歴代の勇者でも随一の力を誇るといわれている『灼熱の勇者』オルガの人気は、絶大だ。
「対して挑戦するは、今回の武闘大会を圧倒的強さで勝ち抜いた『水の国の戦士』佐々木アヤ選手! 他国の戦士が火の国の国家認定勇者となるのは、何十年ぶりか! オルガ様への健闘を期待します!」
名前を呼ばれたさーさんが、笑顔で観客に手を振る。
―――オオオオオオオオオ!
勇者オルガに負けないくらいの歓声が上がる。
すっかり観客を味方につけたみたいだ。
対戦相手が火の女神の勇者であっても、さーさんを応援している人も多い。
もっとも、観客の声を『聞き耳』スキルで聞いてみると、
「どっちが勝つと思う?」「バカ、おまえ。オルガ様が負ける訳ないだろ」「でも、アヤちゃんも強いぜぇ、いい勝負すると思うな」「あぁ、今までの対戦で一番強いのは間違いないだろうな!」
こんな会話が聞こえてきた。
やはり火の国の民にとって、火の女神の勇者こそが最強であり、勇者オルガの勝利を疑っている者は居ない。
そうこうするうち、勇者オルガとさーさんがリング上で距離をとった。
どちらも特に構えをとらず、自然体だ。
観客には、「早く始めろー!」と一部ヤジを飛ばしている者もいる。
「それでは、グレイトキース大武闘大会、特別試合を開始します!」
実況が試合の開始を宣言した。
「始め!」
審判が合図をした瞬間――、さーさんが突っ込んだ!?
一瞬で距離を詰めたさーさんの拳が、勇者オルガに迫る。
それを躱し、カウンターに回し蹴りを放つ勇者オルガ。
その蹴りを、さーさんが腕でガードした。
ズシン、と重そうな音が響きさーさんの足がリングに沈み込む。
おいおい、そのリング石製だぞ。
そのまま、お互い何度か拳を打ち合うが、どちらも躱すかガードをしている。
……ように見えた。
正直、目で追うのが精いっぱいで細かい動きは追えていない。
「見たか、今の攻防」「ああ、すげぇ、あの一瞬でフェイントを2回入れたぞ」「さっきのパンチは3発か?」「ばっか、4回だ。左と右で2回ずつだ」
観客の目が肥えすぎじゃない?
なんなの、こいつら。
なんで普通に解説してるの?
「ルーシー、見える?」
「ええ、二人ともまだ様子見ね。少なくともアヤは、8割くらいのスピードだと思うわ」
「……そ、そっかぁ」
二人とも本気じゃないの!?
予想外の答えが返ってきた。
目の良いルーシーには、ばっちり見られているようだが、どうやら本気を出した二人の戦いを俺が見ることはできなさそうだ。
しばらく打ち合って、さーさんと勇者オルガが距離を取った。
「やるね。前よりずっと強くなってる」
勇者オルガが、感心したように笑った。
「でしょー、修行したもんね!」
さーさんも無邪気に笑顔で返した。
「じゃあ、そろそろ終わりにしようかしら」
そう言った瞬間、勇者オルガを中心に爆発をするような闘気が膨れ上がった。
――熱気を闘気に変える
火の女神の加護を受けた勇者オルガを長年強者たらしめていた能力。
火の国において、その効果は凶悪だ。
燦燦と降り注ぐ太陽の日差しによって熱された空気が、全て勇者オルガの味方だ。
次の瞬間、勇者オルガの姿がかき消えた。
ドガッ!!!
と重量のある物体がぶつかったような音がし、黒い影がリングの端に吹っ飛んだ。
(さーさん!?)
俺は焦って慌てて目で追ったが、吹き飛んだ影は、勇者オルガだった。
彼女は、すぐに起き上ったが初めて見せる驚愕の表情を浮かべていた。
「よしっ!」
ルーシーが小さくガッツポーズをした。
な、何が起きたの?
ダメだ、まったく見えなかった。
「る、ルーシー……どうなったの?」
俺は小声で、ルーシーに耳打ちした。
「勇者オルガが、多分本気を出したんだけど、アヤも武闘大会で
ルーシーが嬉しそうに解説してくれた。
な、なるほどー、……って、え?
「さーさん、『アクションゲームプレイヤー』スキルを使わずに優勝したの!?」
「そうよ? もともと勇者オルガに見せないために、温存する作戦だったの」
嘘でしょ。
以前戦った時は、スキルを使っても歯が立たなかったのに。
『進化』してからは、スキルを温存して戦ってたのか……。
「ちっ」
もう一度、勇者オルガの闘気が膨れ上がる。
が、さーさんは余裕の表情で迎え撃つ。
再び、勇者オルガとさーさんが激突した。
次に吹き飛ばされたのは、さーさんだったが大きなダメージを負った様子は無い。
すぐに立ち上がった。
次はさーさんから仕掛け、三度、二人が激突した。
――数分後。
さーさんと『灼熱の勇者』オルガはまったくの互角だった。
……さーさん、強過ぎでは?
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