154話 高月マコトは、レベル上げを手伝う
さーさん。
本名:佐々木アヤ。
異世界転生により、現在の種族はラミア族。
レベルは35。
ステータスは、ゴールドランクのニナさんをゆうに超えている。
そしてさーさんは、異世界に来て一度も
なぜなら、最初から強かったから。
大迷宮では、
あとは、ニナさんに格闘技の真似事を少し教わったくらい。
扱っている武器は、ローゼス王家の宝物庫で埃を被っていた『鬼神槌』。
普段は、ほとんど使っていないので、ただのアクセサリになっている。
ルーシーは、毎日数時間の修行(集中力の限界)。
俺は、毎日12時間くらいの修行(気絶したら終了)。
さーさんの修行時間はゼロ。
「私、高月くんのパーティーの裏方だから」
そう言って旅の荷造りを全部やってくれたり、料理を作ってくれたり、買い出しをしてくれたりしている。
基本的には、サポート役に徹してくれている。
それでも――うちのパーティーの『最強』はさーさんである。
王級魔法を覚えたとはいえ、ルーシーの魔法はコントロールが悪い。
俺に至っては、さーさんにデコピン一発で吹っ飛ばされる。
つまり――本気で修行したら、どこまで強くなるのか想像もつかない。
◇
「ここ寒いんだけど、マコト!」
いつもの薄着のルーシーが、自分を抱きしめるようにして震えている。
「そんな恰好してるから」
俺は、自分の上着をルーシーに貸した。
「ねぇ……私の騎士。こんなところに何が居るのよ?」
頭から毛布を被って顔だけ覗かせているのは、フリアエさんだ。
その恰好、優雅じゃないよ姫、って言ったら殴られた。
ここは、
テーブルマウンテンの山頂は、地上からの標高は1000メートル近くあり、切り立った崖は人の足では登れない。
そして、灼熱の荒野である火の国の平野と違い、高地の気温は非常に低い。
俺たちは、今そこに立っている。
「絶景ですなぁー」
「ああ、壮観だね」
ふじやんと俺は、崖から見下ろすオレンジ色の広大な大地を眺めながらつぶやいた。
この場所には、ふじやんの飛空船で連れて来てもらった。
「あ、あぶないよ、高月くん」
「旦那様、気を付けてくだサイ」
絶壁近くで景色を眺めていると、さーさんとニナさんに注意された。
浮かれ過ぎたか。
俺は、さーさんのほうへ振り向き言った。
「さーさん! じゃあ、レベル上げをしよう!」
「え、えーと……うん、どうやって?」
あ、説明してなかったか。
いきなり連れてきたもんな。
「ご説明しましょう! 佐々木殿。このテーブルマウンテンはその高さゆえ、普通の冒険者はなかなかやってこれず希少な魔物が多く生息しています。さらに百以上あるテーブルマウンテンのうち、我々が今立っている場所にこそレベル上げに最適な魔物『
「『
「そ、そうなんだ……」
俺やふじやんのテンションの高さと比較して、さーさんは若干引き気味だ。
ホワイ?
「ねぇ、マコト。なんでそんなことを知ってるの?」
俺とふじやんの説明にルーシーが尋ねてきた。
「おいおい、ルーシー。RPGでレベル上げのための狩場を探すのは常識だろ?」
ふー、やれやれというジェスチャーをすると。
「なんか私の騎士のテンションが高くてウザいわ……」
フリアエさんに冷たい目で見られた。
ノリ悪いなぁ。
「ところで、その『
さーさんがキョロキョロと周りを見渡している。
標高1000メートルの高台の上は、岩肌と背の低い雑草が生えているだけでぱっと見ただけでは、生物が見当たらない。
「そうデス、高月様、旦那様。『
ニナさんも心配そうにこちらを見つめてくる。
ふっふっふ、その点は抜かりないのですよ。
俺とふじやんは、ニヤリと笑い合った。
「ルーシー、火を頼む。でっかいやつ」
「えぇ、うん。寒いからいいけど……
ルーシーが杖を振るうと、小屋くらいの巨大な火の玉がふわふわと出現した。
「これ、どうすればいいの?」
「しばらく、そのままで維持しておいて。姫、魅了魔法お願い」
次にフリアエさんに声をかける。
「私? 魅了魔法って誰に?」
「
「あんた、本当に人使い荒いわね……火の勇者に襲われた時は、私のこと放置してたくせに」
おっと、まずい。
ちょっと、お怒りだ。
「いやいやいや、姫は物陰に隠れてたから安全だと思ってたんだよ」
「ふーん、本当かしら。あなた、私の守護騎士ってこと忘れてない?」
「大丈夫大丈夫、ちゃんと
「……ふん、次忘れたら許さないわよ」
あわあわと弁明すると、一応納得してくれたようだった。
フリアエさんが、被っていた毛布をばさっと放り投げた。
「おっと」
ニナさんが、慌ててキャッチする。
「じゃあ、行くわよ。魅了魔法を歌声に載せるから、みんなは耳を塞いでおいて。……私の騎士以外」
「高月くんは、大丈夫なの?」
「マコトは、耳塞がなくて平気?」
フリアエさんの言葉に、ルーシーとさーさんが怪訝な視線を向ける。
「私の騎士には、どーせ魅了魔法が効かないから」
「とか言って、マコトを誘惑しようとしてない?」
「ダメだよ、ふーちゃん。高月くんは、三人用だから」
「しないからっ! 二人とも目が怖いのよ!」
フリアエさんが、若干引いている。
そして、さーさん。
ス〇夫みたいなこと言わないでください。
三人用って何だ?
「……んっ、じゃあいくわよ」
すーっ、とフリアエさんが大きく深呼吸した。
胸の上あたりに手をそえ、大きく口を開いた。
「~~~~♪」
フリアエさんの透きとおった歌声が響く。
風に乗る美しい声を聞くだけで、癒されてくるような錯覚を覚えた。
(流石だな……)
いつか大迷宮で聞いたハーピーの女王の歌声とは、比較にならない音色。
気が付くと、周りから鳥や虫が集まりフリアエさんの歌声を聞き入っている。
そして、岩陰からキラキラと光る小さなトカゲが這い出てきた。
そろそろとルーシーの
その数は、およそ数十匹。
「おお~、出てきた。大漁大漁」
俺がフリアエさんに笑顔を向けると、返ってきたのは白けた視線だった。
「……以前、はぐれ竜を操ってやった最上の魅了魔法を使ったんだけど。何ともないの?」
「何ともあったら困るだろ」
「ちょっとくらい、魅了されなさい」
隙あらば魅了してくるの、ヤメテくれませんかねぇ。
ノア様じゃあるまいし。
俺は耳を塞いでいるみんなの方を振り向き、さーさんの肩を叩いた。
(さーさん、倒しちゃって)
(う、うん……なんか悪い気がするけど……。でも、強くならなきゃっ!)
さーさんは、覚悟を決めた顔をした。
手に持っているのは、『鬼神の槌』。
さーさんの姿が、かき消える。
さーさんの『アクションプレイヤー』スキルの『ダッシュ』攻撃と『隠密』スキルの合わせ技で、
――さーさんは、一気にレベルが上がった!
◇
「勇者マコト、今日はレベル上げに遠くまで行っていたのでしょう? 休まなくていいのですか?」
宿の中庭で修行をしていると、後ろからソフィア王女に話しかけられた。
ちなみに、ソフィア王女が宿泊している宿だけあって、中庭には美しい人工池と噴水があり、水の精霊たちが楽しそうに遊んでいる。
というか、こんな水辺じゃないと精霊がまったく居ないわけですが。
俺は中庭の芝生に座って、水の精霊と話をしながら水魔法を修行していた。
ちなみに、さーさん、ルーシー、フリアエさんは夕食のあと宿にある大浴場に行って、その後は部屋で女子トークしているらしい。
ふじやんは、ニナさんと仕事だと言って出かけている。
「ここ、座りますね」
「え」
ソフィア王女が、俺と同じように地面――芝生の上に腰かけた。
しかも、その背中を俺の背中にもたれるように身体をあずけてきた。
「あ、あの」
背中にソフィア王女の柔らかい肌の感触が当たる。
「私だけ仲間外れにしてくれましたね」
背中を向けて会話しているので、お互いに顔が見えない――とソフィア王女は思ってそうだが、俺はこっそり『RPGプレイヤー』スキルの視点切替で、表情を確認した。
(めっちゃ、拗ねた顔してる……)
一応、伝言は残したんだけどなぁ。
直接、言いに行ったほうがよかったかー。
「レベル上げは、順調ですか?」
表情はともかく、口調だけは冷静にソフィア王女が質問してきた。
「今日だけで、
いやぁ、流石は経験値の塊、
今までのレベル上げが、アホらしくなる。
「さっ……、30!?」
流石に冷静さを保てなかったのか、ソフィア王女がこちらに振り向き、長い髪が俺の後頭部を撫でた。
俺も振り向いたので、至近距離で顔と顔が向い合せる。
「「……」」
数秒、見つめ合った。
「そ、それではアヤさんは、相当強くなりましたね」
顔を赤らめつつソフィア王女が、頼もしそうに言った。
「いえ、残念ながらまだまだ、火の勇者には届かないみたいです」
さーさん、曰く。
少ししか戦っていないが、火の女神の勇者オルガには、遠く及ばないらしい。
俺には、もはやさっぱりわからない次元なんだけど。
二人とも強すぎて。
「武闘大会には間に合いそうですか?」
ソフィア王女は、心配そうな表情を浮かべた。
火の国の武闘大会まで、残り二週間ほど。
さーさんが出場することは、ソフィア王女には報告している。
少し心配されたが、反対はされなかった。
一応、安全に配慮されたスポーツ大会のような位置づけなので、命の危険は無い。
守護騎士のおっさんに「勇者殿は出場しないのですか……」と残念そうに言われた。
水の精霊が使えないからなぁ。
「残り二週間で、できる限りのことはしますよ。一応、裏技も考えているんで」
「わかりました、では楽しみにしていますね」
ソフィア王女の表情が、柔らかくなった。
が、すぐに険しい表情に変わる。
「もう一点。これは藤原卿に聞いたのですが……あなたの仲間が、ブナハーブン家の貴族に奴隷にされかかっているとか……」
河北ケイコさんのことか。
「そっちは、ふじやんの調査待ちですね」
「申し訳ありません……ブナハーブン家は火の国の軍部に影響力が強い貴族。普段、
しょんぼりとした顔をさせてしまった。
やっぱり、相手のほうが強かったかぁ。
「仕方ないですよ、そればっかりは。あ、でもそう言えば……太陽の国の桜井くんか、ノエル王女経由でその貴族に話をつけてもらうことはできませんか?」
救世主の生まれ変わりと、太陽の国の次期国王。
これなら流石に無視できないだろう。
が、ソフィア王女の顔は曇ったままだった。
「太陽の国と火の国は、全体の国力の差はあれど、軍事面では競合する立場にあります。特に、火の国は次の魔族との戦争『北征』で、太陽の国より大きな戦果を挙げ、大陸の盟主になることを狙っています。このタイミングで、話を持ち込むのは難しいでしょう……」
「そうですか……」
まあ、それくらいふじやんもとっくに考えてるよなぁ。
やっぱり、旨い話はないかぁ。
(最後の手段は、
ノア様の言葉が蘇った。
神との取引は、破滅を招く。
多用は危険だ。
地道に、コツコツいこう。
俺は、それしかできない。
「そろそろお休みでは? 夜更かしは、美容に悪いですよ」
ソフィア王女に声をかけた。
俺はもう少し修行を続けようかなと思っていたのだが、なぜか腕を掴まれた。
「勇者マコト、あなたも修行のし過ぎは身体に毒です。そろそろ寝なさい」
「いや、俺はもう少し修行を……ちょっと、引っ張られると」
凄い力で、ソフィア王女に引きずられた。
(まあ、俺のステータスが低すぎる訳だけど……)
水の女神の巫女であるソフィア王女に、腕力で勝てるはずもなく。
その日は、自分の部屋に無理やり押し込まれた。
◇
それから、昼はさーさんのレベル上げ。
夜は、酒場で情報収集などを続けた。
火の国に到着から五日後。
――さーさんのレベルは99になった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます