147話 高月マコトは、女神様を知る
――女神様の空間にて
「ハロー☆ お疲れさま、まこくん」
一点の曇りもない笑顔の水の女神様が居た。
「どーも……エイル様」
なんで、俺の信仰するノア様より先にエイル様が声をかけてくるんですかねぇ。
「マコト」
そして、神妙な顔をしたノア様が腕組みをして立っている。
「ノア様。無事、魔王の復活が阻止できました。『神鎧』の魔法、ありがとうございました」
俺は跪き、お礼を述べた。
が、ノア様の表情は、晴れない。
「悪かったわね。寿命まで使わせて、
もしや、気にしているんだろうか。
「結果的に仲間も無事だったし、マッカレンや
最後の石化で、俺って死んではない……よな?
「それは問題ないわ。いま、フリアエちゃんが、石化した
へぇ、やっぱりフリアエさんは居残ってもらってよかった。
つーか、セテカーの野郎、石化し過ぎだろう……。
「で、エイル」
ギロリ、とノア様が水の女神様をにらむ。
「あら、何かしら?」
「しらばっくれないで! あんた、
キー、とノア様が両手を上げて怒っている。
「そうですよ、エイル様。別にわざわざ隠す必要が無いじゃないですか」
「「え?」」
ノア様とエイル様が同時に振り向く。
「マコくん、怒ってないの?」
「特に」
木の国の勇者マキシミリアンさんと出会えて。
ルーシーのお母さんの、滅茶苦茶な戦闘力を知れて。
ついでに、
有意義な冒険だった。
「……ねぇ、ノア。マコくんって、ちょっと変わってるのね」
「危機感が無いのよ。マコト、魔王に会って喜んでるなんて変態よ?」
なんですか、人を変人みたいに。
「そういえば、俺が『捧げた』魔族の魂って、エイル様が転生させているんですか?」
魔王ビフロンスの言葉を思い出す。
生贄術・供物で捧げられた生き物は、聖神族によって生まれ変わるらしい。
「そう、強い魔族の魂は、生まれ変わると強い戦士になるからね☆ 有効に使わなきゃ。マコくんが倒した魔族シューリちゃんは、今度立派な勇者に生まれ変わるわよ」
きゃるん、と可愛く返事する水の女神様。
「はぁ、まあ、それで水の国の戦力が増強されるならいいと思いますけど……」
正直、俺程度で最高戦力になってしまうのは、水の国の大問題な気がするし。
しかし、将来はシューリさんが同僚になるんだろうか?
「……それなんだけどさ、エイル。上級魔族→勇者って、そんな急激に正反対の存在にしても魂の浄化は大丈夫?」
ノア様が、確認するように問いかけてきた。
「ノア様、どういう意味ですか?」
「んー、魔族の魂ってやっぱり『悪神族』の加護を受けて、そっち寄りに魂が染まっているの。それを『聖神族』の勇者にしちゃったら、不安定な存在になっちゃうと思うのよねー」
へぇ、流石、ノア様はなんでも知っている。
「普通は、あんまり強い力を持たせず徐々に魂を洗浄していくのが普通なんだけど……。マコトが倒したシューリって魔族がいきなり勇者に転生させられたら、すぐに発狂しちゃうんじゃないかしら」
「え?」
ぎょっとして、ニコニコ笑っているエイル様のほうを見つめる。
「んー、そうねぇ……。まあ、
さらりと、いうエイル様。
「悪趣味ね」
ノア様が、白けた視線を送っている。
「だって、仕方ないじゃない。水の国の戦力は少ないし。魔族との戦争の勝率は、50%以下だしぃ」
(え?)
「バカっ! あんた、マコトの前で未来の情報を言っちゃダメでしょ!」
「大丈夫よ。海底神殿は天界からの視線が届かないようにノアが張った『結界』があるでしょ。ふふふっ、ここって秘め事を話すのにピッタリよね」
さっきから色々と物騒な会話が続く。
そして、一番気になる言葉が、
「エイル様、人族は魔族に敗れる可能性が高いんですか?」
「そうなの、
「で、エイルは戦争に負けた場合の戦力を用意しようとしてるってわけ。今から強力な勇者を創っても、今回の戦争には間に合わないから」
エイル様の言葉に、ノア様が補足してくださった。
「だからぁ、マコくんにはこれからも強い魔族をたっくさん、捧げて欲しいの☆ 10人も勇者が作れれば、戦争に負けても反撃できるんじゃないかなぁ。まあ、そのうちまともに使えるのは5人くらいかもだけど。残りは頭がおかしくなって死んじゃうかな?」
「……」
真っ黒だよ! この
やべぇ、こっちのほうが邪神じゃない?
「……い、いいんですか? そんなに軽く命を扱って……?」
不敬にあたりそうだが、思わず非難するような口調になってしまった。
それでも、
静かな口調で、「いいのよ、だって
――私たちが、世界の支配者だから」
そう語る、
地面を這う、蟻に向ける視線だった。
これは、あれかな。
(神様にとって、俺たち地上の人間など虫けらに過ぎないんだろうか)
「……ち」
ノア様が、不機嫌そうに腕組みをして、そっぽを向いている。
「マコト、あんた
「いやー、でも
大国と言う意味では
「何言ってんの。たった今、木の国を救ったばっかりじゃない。木の女神の巫女に、風樹の勇者、英雄ロザリーちゃんまで、全員マコトの味方よ? みんなで、そっちに引っ越しなさいよ。ついでに水の女神の巫女との婚約も解消しちゃえばいいわ」
ノア様も言うことがコロコロ変わるなぁ。
巫女と仲良くしろって言ったの、ノア様ですよ?
「ちょ、ちょっと待って! そ、それは、待って! ソフィアちゃんが泣いちゃうから!」
急にエイル様が慌てだした。
「はっ! だからって私のマコトが、便利屋みたいに使われたらたまんないわ!」
「ま、マコくん~、今後は誠実な対応を心がけますので、ソフィアちゃんとの婚約の解消だけは……」
エイル様が、すっごい
俺は、頬をぽりぽりと掻いて少し考えた。
(……そもそもソフィア王女の婚約って、まだ口頭レベルのような。契約書とかにサインとか要らないのかな……?)
「勇者業は、継続しますよ。ソフィア王女とは今後も」
変わらない付き合いと……と言いかけて、はっとなった。
(エイル様って、一見優しそうだったけど、今回みたいな腹黒い一面を持ってたから、それを信奉する巫女のソフィア王女も、もしかして、実は裏の顔を……)
「待って、マコくん! 誤解よ! ソフィアちゃんは、私と違って本当に純粋だから!」
あ、心の中、読まれた。
私と違ってって、言っちゃったよ。エイル様。
ちらっと、ノア様のほうに視線を向けると。
「ソフィアちゃんは、私の信者じゃないから断言できないけど……。多分、あの子は大丈夫よ。女神の性格が悪いから、信者も性格が悪いってことは無いわ。特に、エイルは外面は完璧だから信者も騙されているはずよ」
「あら、酷い。でもね、ソフィアちゃんって毎晩、マコくんのことが心配で私にお祈りしてくるのよ? 可愛いでしょー。だから、大事にしてあげてね」
「それ、俺に言ってもいいんですか……?」
次会った時、どんな顔をすればいいのか。
「これからもこっそり、力を貸すから。ね! 私水の女神だし、マコくんとは相性いいでしょ?」
「あんまり、嘘はつかないでくださいね」
イマイチ信用できないけど。
まあ、ノア様も邪神を隠してたし。
女神様は、嘘つき!
はっきりわかんだね!
「あ、マコト。フリアエちゃんが、石化の呪いを解いてくれたみたい。そろそろ目覚めるわよ」
「お、そうですか。もう少しお話を聞きたかったですけど」
特に、魔族との戦争の話は聞きたい。
勇者は、参加必須なんだよなぁ。
負ける可能性が高い戦争とか……嫌だなぁ。
そんなことを考えていると、徐々にノア様とエイル様の姿がぼやけてくる。
どうやら、目覚めが近いらしい。
「あ! そうだ。
そんなエイル様の声が、うっすら聞こえた。
俺の視界が真っ白になり、意識が遠のいた。
◇
頬にザラザラした感触があった。
薄目で横を見ると、黒猫が頬を舐めていた。
「……ツイか」
心配してくれたんだろうか。
「あら、お目覚め? 石像の勇者さん?」
「……」
目を開いて早々に、美しい声で嫌味な言葉をかけられた。
艶やかな黒髪に、絹雪のように白い肌。
深窓の令嬢のような、可憐なその顔は、
「姫か……」
「あなたねぇ、他のエルフや騎士は、すぐに石化の呪いが解けたのに、なんで私の騎士は一週間も呪いの解除にかかるのよ。魔法耐性ゼロって、なめてるの?」
フリアエさんに、呆れた口調でため息をつかれた。
「仕方ないだろ、レベル上げしてもステータスが全然上がらないんだから」
起き上ろうとして、身体が鉛のように重いことに気付く。
風邪で39度くらい、熱を出した時のような。
なんですか、これ。
「いいから、寝てなさいって。まだ、全快してないんだから」
フリアエさんに、無理やり寝かされた。
後頭部に、ふわりと柔らかい感触を感じる。
(ん?)
そういえば、フリアエさんは俺の顔を横から見下ろしている。
この姿勢は、つまり……。
『RPGプレイヤー』スキルの視点切替で、外から見ると。
そこには、フリアエさんに膝枕をされた俺が居た。
こ、これはちょっと恥ずかしい……。
「いや、もう平気だから……」
無理やり起き上ろうと頑張った。
「はーん、私の騎士ったら照れてるわね? まあ、この世で一番美しい私の顔を間近で見たら、仕方ないわね。いい加減に、そろそろ魅了されなさいよ」
フリアエさんが、楽しそうだ。
(この世で一番美しいかぁ……)
さっきまで、夢で見ていたノア様とエイル様の二柱の女神様を思い出す。
お二人とも人間離れした美貌だった。
うーむ。
(あれと、比べちゃダメか)
ぶっちゃっけ、女神様のお二方と比較するとフリアエさんも普通に見える。
「……何その顔?」
一転、訝し気な顔をするフリアエさん。
おっと、表情に出てしまったか。
「……姫はいつ見てもウツクシイなー」
「ちょっと! なんで取ってつけたように、言うわけ! その同情的な視線が腹が立つんだけど!」
ポカポカ叩かれた。
「ちょっと、待って。普通に痛いんだけど!」
俺の貧弱なステータスに、人類最高レベルの巫女のパンチは普通に重い!
が、フリアエさんが止まらない。
「本当に、許せないわ! 魔法使いさんや、戦士さんは連れて行って、私だけ留守番で。私の騎士は、のん気に石になって帰ってくるし!」
「あー、心配してくれたのか。ありがとう、姫」
「うるさいうるさい! 次は私も連れて行きなさい!」
「いや、ダメだろ」
巫女が戦場に出ちゃ、いかんでしょ。
(でもまあ、心配かけちゃったのは、悪いことしたな)
ポカポカと叩いてくるフリアエさんをなだめつつ、今後は無理しないようにしようと思った。
まだ、目覚め立てで、意識がぼんやりしていた。
だから、近づいてくる人影に気付かなかった。
「楽しそうですね、勇者マコト」
「え?」
冷たい眼と口調のソフィア王女が、俺を見下ろしていた。
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