139話 高月マコトは、女神たちと話す
「……ええと、ノア様、と……エイル様? 何やってるんですか?」
エイル様が、ロープで縛られ、ブラブラ吊るされている。
ノア様が、口をへの字に曲げて仏頂面。
ノア様の手には鞭を持っている。
(なんだ、この状況……?)
「酷いわよねー、ノアったら」
「あんたねぇ! ふざけないでよ! マコト! 私たち、こいつに
(騙された?)
ノア様が怒鳴り、鞭をエイル様にぺしっと、当てた。
あんまり、痛そうではない。
「痛いー☆ ノア、暴力反対ー」
「うっさい! ねぇ、マコト。こいつの言ってた『水の国が亡びる』って真っ赤な嘘だったのよ!」
「あー……」
そのことか。
「あーって……、マコト? 驚かないの?」
ノア様が、きょとんとした顔を向けてくる。
俺は、エイル様を見つめ、告げる。
「本当に滅びるのは……、
俺がそう言うと、それまでのふざけた顔から、エイル様の顔がニヤリと、悪い顔になる。
「へぇ……、いつ気付いたの? マコくん」
「あの、決め顔のところ恐縮なんですが、その恰好だとギャグです」
「あら?」
現在、エイル様の身体は荒縄に縛られている。
本来、ゆったりとしたドレスっぽいワンピースが、縄に縛られ食い込んでいる。
ドレスに隠されていたエイル様の身体の凹凸がはっきり認識できる。
形の良い胸と、くびれた腰、安産型な体型があらわになっている。
その抜群のプロポーションには、一点の非の打ち所がない。
(さすが、水の女神様)
眼福だなぁ。
「マーコートー?」
ゴゴゴゴッ、とノア様の顔が迫っていた。
「ひ、ひゃい、何も見てません! ノア様!」
「見てたじゃない!」
まあ、目の前にありますからねー。
「エイル! あんたもそろそろ降りなさいよ!」
「ノアが縛ったんじゃない」
と言いながら、エイル様がするすると縄から抜ける。
「で、マコくん。私の話を信じてなかったの?」
「うーん、信じてないというか……現状だと、危ないのは
魔王の墓は、木の国に存在する。
現在、魔族たちが集結しているのも木の国。
そして何より。
(氷雪の勇者レオナード王子と水の巫女ソフィア王女が、水の国の危機を知らない)
そんなことあり得るか?
水の国が滅ぶってのは、どうも筋が通らない。
現状なら、一番危ないのは間違いなく木の国だ。
それにしても……。
(女神様って嘘つきしかいないのかねぇ)
嘆かわしいことだ。
「あら、マコくんってば、酷いこと言うわね」
「待って、マコト! 何てこと言うの! それ私は入ってないわよね!?」
「一言も喋ってないんですけど」
心を読まれるので、俺のプライバシーなど存在しない。
「で、エイル様? 何でそんなウソを?」
「えへへ~、怒らないでね?」
可愛く上目遣いしているエイル様を、ノア様がジロっと見て口を開いた。
「木の国で魔王が復活して、それが水の国に被害を与える前に抑えたかったのよ。それも、水の国の戦力は使わない形でね。そうでしょ? エイル」
「まぁまぁ、一応氷雪の勇者レオくんも付いて行ってるし?」
エイル様は、否定をしなかった。
ノア様の言葉が正しいらしい。
「はぁ、なるほど。で、ノア様の使徒である俺を使ったわけですね」
「エイル! 私の信者は、たった一人なのよ! 魔王と戦ってマコトに何かあったらどうするの!?」
ノア様が、怒っている。
保護者かな?
似たようなもんか。
「でもさぁ、マコくんって今や、水の国の最高戦力だからー」
「「え?」」
俺とノア様が、エイル様のほうへ視線を向ける。
「マコトが……?」
「最高戦力……?」
うそでしょ?
「これは、うそじゃないわよ。だって、氷雪の勇者レオナードくんは、実戦経験が乏しいうえに幼い勇者だし。水聖騎士団は、攻撃よりは防衛に特化した部隊だし。水の国の強者って、ほとんどが冒険者だから水の国だけの所属って感じじゃないからねー」
はぁー、困ったもんよねー、と首を振るエイル様。
「エイル、……あんた、もっと戦力を育てなさいよ」
「なんで、そんなことに……?」
自国の戦力の低さを改めて思い知らせる。
「えぇ~、だって私『慈愛と平和』の女神だし? 野蛮な人嫌いだから」
きゃるん、と可愛くポーズをとるエイル様だけど
(これから、戦争っすよ。水の女神様?)
意識、低すぎない?
「ね、だから、マコくん。魔王よろしくね☆」
「えぇ……」
軽いよ、エイル様。
『水の女神エイルの依頼を受けますか?』
はい ←
いいえ
「わかりましたよ、エイル様。木の国の勇者や、巫女さんと一緒に魔王の復活を防ぎますね」
ルーシーのお母さんも居るし、多分、なんとかなるだろう。
「あーあ、マコトったら。安請け合いしちゃって」
はぁー、とノア様がため息をつく。
そうだ、あれは一言、言っておかないと。
「エイル様。『生贄術・供物』凄まじかったですよ。効果と……絵的にも」
可愛い天使たちが、魔族の女を貪り食っている映像が蘇る。
あれは、キツかったなぁ……。
「ふふふー、でしょでしょ。マコくんの寿命伸びた?」
「んー、マコトの『魂書』は、これね。どれどれ」
すでに俺の『魂書』が、ノア様の手にある。
まあ、いっか。
「あら、寿命が15年? 10年も伸びたのね」
「そうなんですよ。自爆魔法使ったあとは、残5年でしたから。エイル様に教えてもらった術のおかげですよ。……でも、これってどういう理屈ですか?」
たった一回の術で、10年の寿命が延びた。
こつこつ『善行』を積んだ時は、1年延ばすのに数か月かかったのに。
エイル様が「ふっ」と、悪そうな流し目を送ってくる。
「マコくんが使った『生贄術・供物』は、生贄に選ばれた獲物の『魂』が、
エイル様が、ドヤった顔で解説してくれた。
「はっ、野蛮な術ね」
ノア様は、腕を組んでつまらなそうに言った。
(そっかぁ、これは魔族シューリさんの魂が、寿命になっちゃったのかぁ……)
相手の魂を喰らう。
もはや、悪魔の所業では?
「ちっちっち、マコくん。穢れた魔族の魂を、女神が浄化して新たな世界の礎にするのよ? これは神の愛よ? 救いなの。Do you understand?」
「は、はぁ……」
ノリノリだなぁ、エイル様。
気が付くと、近くまで来ていたエイル様の両手が俺の首の後ろに回る。
「ねぇ、マコくん? 寿命が延びる術を授かった上に、今なら水の女神に改宗すれば『水魔法・聖級』スキルが手に入るチャンスなんだけど?」
「え、エイル様?」
「あほー!」
ノア様が、鞭で思いっきりエイル様の頭を叩いた。
「ふふっ、神気を封印されているノアの鞭じゃあ、効かないなぁ」
「キー! いいから、マコトから離れなさい!」
「冗談冗談」
エイル様が、さっと離れていく。
ふぅー、驚いた。
「くっそー、あんたなんて私の力が復活したらぶっ飛ばしてあげるから!」
「あら、怖い怖い。神気が戻ったノアに勝てる女神は、アルテナ姉様くらいだからねー。私は、逃げるよー、超逃げるよー」
「ふん、アルテナの奴にだって負けないわよ!」
ノア様は、強気だ。
というか、聞き逃せない言葉が。
「ノア様って、強い女神様なんですか?」
「「ん?」」
口喧嘩中の二人の女神様が、こちらを見る。
「そりゃそうよ。だって、ノアのほうがずっと年上だもの」
「ま、封印されて、いまは最弱の女神だけどね」
(そーなんだ。ノア様は、もとは強い女神様だったのか)
そーいうもんなんだな。
そうだ! そういえば、あれをノア様は知っているかもしれない。
「ノア様、『精霊
ルーシーのお母さんが使っていた必殺技。
ぜひ、覚えたい。
ロザリーさんには、聞きそびれたけど、精霊のことならノア様が一番だ。
「あら? マコトってば、『精霊纏い』ならもう使ってるじゃない」
「え?」
ノア様の予想外の返答に戸惑う。
「前に、私の短剣に精霊を『纏わせて』魔法剣にして、敵を倒してたでしょ? あれが、『精霊纏い』よ。ロザリーちゃんの場合は、自分の身体に『纏わせて』るみたいだけど」
「はぁー、なるほど」
じゃあ、俺も自分の身体に精霊を『纏わせ』れば……。
なんて考えていたら、エイル様からツッコミが入った。
「マコくんのステータスの低い身体じゃぁ、『精霊纏い』には耐えられないんじゃないかなー」
「腹が立つけど、エイルの言う通りね。マコト、多分ロザリーちゃんの真似すると身体を壊すわ」
「……そうですか」
試してみたかったんだけど。
女神のお二人に断言されるなら、多分無理なのか……。
「では、『精霊召喚』は?」
もし、精霊がいつでも呼び出せるなら、相当便利になる!
「あれねー、『精霊召喚』なんて言ってるけど『
「マジですか」
あれ、そんな強引な技だったの!?
「それは……俺には無理ですね」
(こっちの方法もダメか)
幾分、しょんぼりとしてしまう。
「え? マコくん? 強いスキル欲しいんだって?」
エイル様が、後ろから抱きついて耳元で囁いてきた。
め、明鏡止水!
「……改宗はしませんよ?」
「ふふっ、待ってるわよ?」
「エイル―!」
ノア様が、エイル様にライ〇ーキックを放った。
なんで、あれで下着が見えないんだろう?
「あ、そうそう、マコくん。魔王に『生贄術・供物』を使う時の注意なんだけど」
「エイル様、ノア様のキックが頭に刺さってますけど」
なんだ、この絵は。
「エイル、魔王に『生贄術』って効くの?」
ノア様も普通にしゃべってるし!
「一応ね。でも、この前の魔族みたいに『投擲』しちゃダメかな。直接、相手に刺してから『生贄術・供物』を発動してね。魔王相手だと、それじゃないと倒せないかも」
「直接ですかー……」
つまり、魔王の半径一メートル以内に近づけということかぁ。
ハードル高いなぁ。
「では、木の国を救ってきますね」
やれるだけ、やってみよう。
基本は、ロザリーさんにお任せしよう。
「気をつけなさい、マコト」
「頑張ってねー☆マコくん」
二柱の女神様に見送られ、意識が遠のくのを感じた。
(こうして見ると、普通に仲良さそうなんだよなぁ)
ティターン神族と聖神族。
敵対している神族同士のはずなんだけど。
別の女神様は、また違うんだろうか?
そんなことを考えつつ、意識が落ちた。
◇
目覚めは、カナンの里長の客間。
薄暗い部屋の天井が見える。
部屋に居るのは、俺ともう一人。
「うーん……、マコト兄さん……くすぐったいです」
隣には、何やら寝言をつぶやいているレオナード王子。
もう少し、寝かせておこうかな。
俺は、水魔法で顔を洗い。
上着を着て、ノア様にお祈りをした。
天候は、やや曇り。
できれば、雨が良かったけど、晴れよりはいい。
精霊は、それなりに数が揃っている。
「おはよう、ルーシー、さーさん」
先に起きていた二人に、いつも通り声をかける。
ただ、二人の顔はいつも通りではなかった。
「高月くん! 大変だよ」
「あー、もう! 何でママは、自分勝手なの!」
二人が慌てている。
いや、二人だけじゃなく、風樹の勇者マキシさんや木の巫女フローナさんの表情も只事ではない。
「おお! 起きたか、水の国の勇者殿。こちらを見てくだされ……」
里長が、一枚の紙を見せてきた。
(書き置き……?)
メモ用紙のような紙に、殴り書きで一文が記されていた。
『ちょっと、魔王の墓に行って魔族の連中をしばいて来るねー! by ロザリー』
……おいおい、ロザリー母さん。
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