136話 高月マコトは、紅蓮の魔女と話す
――ルーシーの故郷『カナンの里』を襲った危機は去った。
魔王の腹心シューリと五千のアンデッド軍団。
それをルーシーの母『ロザリー・J・ウォーカー』は、たった一人で撃破した。
木の国の最高戦力『紅蓮の魔女』。
(強過ぎない?)
かつて、たった二人で魔王を倒した英雄。
とはいえ……もはや、ルーシーのお母さんがいれば大魔王も何とかなるのではなかろうか?
「さすが、私ね!」
自画自賛しながら、『紅蓮の魔女』ロザリーさんがこっちにやってきた。
口調が、ルーシーと一緒だ。
流石、
「バカもんがー!」
ばし! っと大きな音を立てて里長がロザリーさんの頭を叩いた。
「痛ったー! 何するのよ、お父さん!」
ロザリーさんが、頭を押さえて非難する。
「死んだかと思ったじゃろうが! 心配をかけおって!」
「そーよ、母様!」
ああ、確かに刺された時はびっくりした。
家族なら、その衝撃は俺の比じゃないよな。
「私があれくらいで、死ぬはずないってー」
ケラケラと笑うロザリーさん。
里長やルーシーのお姉さんたちは、頭を抱えている。
しかし、里長が結構なご老人なのに、ロザリーさんの見た目若すぎない?
これで親子って本当だろうか。
正直、ロザリーさんはルーシーのお姉さんにしか見えない。
「なぁ、ルーシー」
小声で話しかける。
「なに?」
「ルーシーのお母さんって、歳いくつ?」
「私も気になるかも!」
さーさんも会話に入ってくる。
「あー……、うん。えっとねー、ママは冒険中で見つけた若返りの秘宝を使ってるから、見た目が年齢通りじゃないの。実際の年齢は200歳を超えてるから。マコト、ママの若作りに騙されちゃダメよ?」
「へぇー200かぁ」「全然、見えないー」
まあ、200歳なんて会ったことがないわけだが。
普通はどんな感じなんだろう?
人間だと、40~50歳くらいかな?
200歳超えかぁ。
大賢者様(1000歳)には負けるが、相当なご年配だな。
なんて考えていた、その時。
「「!?」」
『危険感知』スキルのアラートが鳴り響く。
俺とさーさんが、びくりとして隣を見ると。
「痛い痛い痛い! ママヤメテ! 私何も言ってないから!」
「ル~~シ~~? ママの年齢は、家族以外には秘密っていつも言ってたわよねぇー」
ルーシーが、ロザリーさんの拳で、頭をぐりぐりされていた。
そして、ルーシー、痛そう。
「マコトなら、家族みたいなもんだから!」
「あら? そうなの?」
ロザリーさんが、手を離す。
顎に手を当て、ルーシーと俺をじろじろと観察した後。
ルーシーのお腹に手をあてた。
「何か月?」
「なんでよ!」
なぜルーシーの家族は、すぐその発想になるんだろう?
「えー、だって家族なんでしょ? 子供ができたから里帰りしたんじゃないの?」
「できてないから!」
「そうよ、ルーシーは真面目だから、結婚の報告に帰ってきたのよ」
お姉さんたちも、ルーシーのフォローする。
「子供はこれから作るのよね?」
「そうそう、すぐ出来るわよ」
フォローしてなかった。
すぐ、出来ないって。
「そもそも、マコトと私はそんな関係じゃないから!」
ルーシーが叫ぶ。
「「「え?」」」
里長、ロザリーさん、ルーシーのお姉さん全員が信じられないものを見る目で、
「ねぇ、あなた。ルーシーに何もしてないの?」
「ええ~、私の娘のどこが不満なのよ!? 私に似て可愛いでしょ!」
「おぬし、硬派な男だな!」
ルーシーの女家族は、子作りに積極的すぎる。
そして、里長さんからの、好感度が上がった。
なんだ、これ?
「ねぇ、高月くんー。私、疲れちゃった。もう休んでいいかな」
後ろから肩を、とんとん叩かれて、耳元でさーさんが囁いた。
「ああ、さーさん、悪い。徹夜で探索だったもんな。部屋で休んでていいよ。俺は少し用事があるから」
正直、俺も眠いが、獣の王の部下と出会った話を里長さんたちに報告しないと。
と思っていたら、さーさんが変なことを言い出した。
「ええー、高月くんも一緒に寝ようよー」
「さーさん!?」
「アヤ!?」
俺とルーシーが驚きの声をあげ、ロザリーさんとお姉さんの目がキラリと光った。
「ねぇねぇ、あなたルーシーの彼氏とどんな関係? 三角関係?」
「一緒に寝るってことは、当然、
おいおい、お姉さんにお母さん。
俺とさーさんは、別にそういう関係では……
「身体の関係ですよー☆」
「ちょっと! さーさん!?」
あら、いやだ、とニヤニヤ笑う女性陣と。
「軟派者がっ!」里長さんからの好感度が下がった。
「あ、あ、あ、あ、アヤー!! 待って! いつの間に!? 私たち
なぜか真に受けたルーシーが、さーさんに詰め寄る。
三人一緒って、マラソン大会じゃないんだから……。
てか、その約束、俺が知らないんですけど?
え? そんな予定になってるの?
拒否権なし?
「ふふっ、じゃあ、高月くん! ベッドで待ってるねー」
場をかき乱して、さーさんは奥の客間に消えていった。
「待ってよ、アヤー!」
ルーシーがそれを追いかけていった。
(え? 俺だけ取り残されるの?)
みんなの視線が、こちらに集まる。
結局、俺一人で、魔の森の探索結果を報告しました。
いろいろツッコまれて、大変だったよ!
その後、客間に帰って、泥のように眠りこけた。
◇
目を覚ましたのは、昼頃だった。
当然、隣にはさーさんもルーシーも寝ていない。
部屋が違う。
外に出ると、ガヤガヤ騒がしかった。
「何かありました?」
「マコト兄さん、起きましたか」
「高月マコト、客人ですよ」
ジャネットさんが指さす方向を見ると、巨大な亜人の戦士を里のみんなが囲んでいた。
――木の国の勇者様だ。
――おお、勇ましい御姿。
――魔王軍など、恐るるに足らんな
そんな声が聞こえてきた。
「風樹の勇者マキシミリアン・ラガヴーリン、到着いたしました」
「おお! このような小さな里まで、よくぞいらっしゃった」
里長が、勇者を迎えている。
風樹の勇者マキシミリアンさんは、亜人だった。
種族は『龍人』らしい。
身長は、二メートル以上あるだろうか。
屈強な肉体は、ラガーマンのようでさらに自分の身長ほどの大剣を背負っている。
そしてうっすらと、鱗のようなもので肌がおおわれていた。
これが、龍人か……。
(めっちゃ、強そう……)
ちなみに、西の大陸での勇者序列は第四位。
前回の御前試合では、惜しくもジェラルドさんに敗れたらしい。
龍人は雷属性が苦手なんだとか。
ただ、ちょっと気になることが。
「なぁ、ルーシー。カナンの里って、木の国の中じゃ、小さめの里なんだろ?」
「うん、そうよ。どうかした?」
俺は、小声でルーシーに話かける。
里の規模は、以前ルーシーから教えてもらった。
カナンの里は千人にも満たない。
大きな里は、数千人規模らしい。
「なんで、勇者も巫女もるーちゃんの里に集まるの?」
さーさんが、疑問を引き継いでくれた。
「ああ、それは……」
「おお! あなたが、
風樹の勇者マキシさんが、俺とレオナード王子のほうへ笑顔でやってきた。
「ご無沙汰しております、『風樹の勇者』マキシミリアン殿」
「お久しぶりですな、『氷雪の勇者』レオナード王子。それと、初めまして
「は、はじめまして、高月マコトです」
風樹の勇者さんは、水の国の勇者に会いに来たらしい。
握手を求められた。
近づくとマジででかいな!
おおう、威圧感が……。
若干のビビりが態度に出た。
「マコト、もっと堂々としなさいよ」
「高月くーん、同じ勇者だよー」
「人見知りなんだよ……」
初見は、苦手です。
「ルーシー、久しぶりだな。後ほど、ロザリー様にもご挨拶に行かねば」
「先輩、ご無沙汰です!」
「るーちゃん、お知り合い?」
「学校の先輩よ」
まじかよ。
見た目は怖いけど、話してみると風樹の勇者さんは、普通にいい人でした。
真面目な性格で、勇者としての責務を果たすため、いつも森の聖域で修行しているらしい。
あとは、各里のパトロールなんかもしているそうだ。
ルーシーとは学校の先輩後輩の関係。
ちなみに、生徒会長をやっていたらしい。
……異世界にも、生徒会あるのか。
そんな世間話をした。
その夜は、風樹の勇者を歓迎する宴だった。
といっても、これから魔王の復活阻止のため、魔王の墓に挑む戦いが控えている。
大きく騒ぐこともなく、話題は自然と明後日の決戦の話になっていた。
木の国の戦士が一か所に集まると、魔王側に察知されてしまうため決戦の日時のみ統一して、一斉に魔王の墓を目指すそうだ。
そんな方法で、統一の指揮が取れるのか不安だ。
だが、木の国は、今までそれでやってきたそうだ。
強力な指導者は無く、小さな集団の集まり。
木の女神の巫女、風樹の勇者、里長、レオナード王子、ジャネットさんたちが話している。
最初は、話を聞いていたけどどうも、政治の話っぽかったので眠くなってきて俺は席を外した。
この戦いで、無事魔王の復活を阻止できれば、木の国と水の国の同盟を強化しようとか、そんな話だった。
ジャネットさんは、その際は太陽の国が間に入るとか言っている。
彼女は、ハイランドの五聖貴族の一員だし、何か事情があるのかもしれない。
庶民勇者である俺には、どうにも難しい話だ。
夜風に当たりたくて、俺は外にでた。
空気が澄んでいて、空にはほぼ円形の月が浮かんでいる。
(確か……十三夜月って言うんだっけ?)
今度、さーさんにでも聞いてみようかな。
「精霊さん、精霊さん」
明後日の決戦に向けて、大森林の精霊へ呼びかけた。
水の精霊の数は、……やや少ない。
(大丈夫かねぇ……、今回の相手は強そうなんだけど)
獣の王の直参『ジンバル』。
魔王の腹心『セテカー』。
そして、復活する魔王『不死王ビフロンス』 。
正直、ルーシーのお母さんにお任せしたほうが、確実な気がする。
水の国の外交係兼勇者としては、そういうわけにはいかないが。
どうにも、集中できないながら修行していると、急に声をかけられた。
「あら、ルーシーの彼氏さん。精霊魔法の修行?」
「! こんばんは」
ロザリーさんが、いきなり現れた。
神出鬼没だなぁ。
艶やかな金髪が、月の明かりに照らされている。
いつかの夜のように妖艶に微笑みながら、俺の隣にすっと近づいてきた。
「へぇ、水の精霊に好かれているのね」
「そういえば、ロザリーさんも精霊が視えるんですね」
ルーシーのお母さんの手が、俺の頬に触れる。
ルーシーのように体温が高くない、普通の綺麗な手だ。
少しドキドキする。
「最近は、エルフ族でも精霊魔法を使う子が減ってつまらないわ」
「人族では、もう誰も使ってませんよ」
「ふふっ、そういえばそうね。女神教会は精霊魔法を認めていないものね」
そう言って、パチンと指を鳴らすとそこから花火が打ちあがった。
「今のは?」
「火の精霊、視えなかった?」
「俺は水の精霊専門なんで……」
「……変わってるわね。一番弱い精霊じゃない」
それしか、視えないんですよ。
一応、あなたの娘さんにキスすると火の精霊が視えるんですけどね。
それは、言えない。
「明後日の夜が、満月ね」
「ええ、魔王が復活する予定日ですね」
正直、想定外だった。
魔王イベントは、もっと後だと思ってたから。
ロザリーさんは、まったく気負っている様子が無い。
緊張とかしないんだろうか?
「上級魔族シューリってやつは、期待外れだったわ。あなたが出会ったっていう獣の王の部下と、もう一人の腹心セテカーってやつは、骨があるといいんだけど」
「……」
戦闘狂タイプでしたか。
そりゃ、緊張しないわ。
「でも、不死王の片腕セテカーと言えば、伝説の『石化の魔眼』持ちなのに、よく無事だったわね」
「え?」
「え? 知らなかったの?」
知らなかった……。
『石化の魔眼』といえば、数ある魔眼の中でも最強格の一つじゃないか。
セテカーさん、そんな物騒な眼を持っていたのか。
でも……
「セテカーに眼は無かったですよ」
本来、眼のある位置にはただの空洞があるだけだった。
「ふうん、流石に『石化の魔眼』は復活してないのか……つまらないわね」
「力を取り戻している最中って、言ってましたよ」
森狼たちが犠牲になっていたし。
「じゃあ、楽しみね」
ニヤリ、と不敵に笑う『紅蓮の魔女』様。
頼もしいこと、この上ない。
(セテカーさんに眼があったら、一目散に逃げ出そう)
俺は、心に誓った。
「そういえば、あなた異世界から来たんですって?」
話題が変わった。
「はい、そうです」
ルーシーとよく似た顔で、興味深そうにこちらへ話しかけてくるお母さん。
「あなたの居た世界には、月ってあった?」
「勿論ありましたよ」
何を聞いてくるんだ? 突然。
「やっぱりねー、ところで、こんな話知ってる?」
意味ありげな視線を向けて、ロザリーさんが話を続ける。
「この世には、たくさんの異世界があるけど『月』はたった一つなの」
「へぇ……」
それじゃあ、俺のいた世界の月と今居る異世界の月は同一ってこと?
それはちょっと、ロマンがある。
(まあ……それはないか)
俺の世界だと、月に人が降り立ってるし。
「あ、信じてないでしょー。本当よ? 私が異世界に行くときは、いつも月を通ってるから」
「え?」
異世界に行く?
「異世界に行ったことがあるんですか?」
「勿論よ。ルーシーの父親は、魔界の貴族だからね」
なんてこった。
ルーシー、異世界人ハーフだったのか。
属性、多過ぎない?
「じゃあ、俺の居た世界にも行けますか?」
「行くだけならね。でも、あなたの世界って
「魔法は使えない世界ですね」
「じゃあ、行ったっきり戻ってこれないかなぁ。それは困るから、私は行かないけど、頑張ればあなたは戻れるわよ、多分」
(ま、マジか……!)
衝撃の事実だった。
「マコト! 元の世界にマコト戻るの?」
「高月くん! そうなの!?」
ルーシーとさーさんがやってきた。
話聞かれてた?
元の世界には帰りませんよ、俺は。
「ありゃ、あなたの彼女たちが来たわねー。じゃあ、あとは若いものたちでごゆっくりー」
「あ! あのっ!」
あーあ、行っちゃったか。
できえば、『精霊纏い』とか『精霊召喚』について教えて貰いたかったんだけど。
あとで、見つけて教えてもらおう。
「ねぇ、ねぇ、マコト。ママと何を話してたの?」
「るーちゃんのお母さんを口説いちゃダメだよ?」
「口説かないから!」
どんなナンパ野郎だよ!
しばらくは、ルーシーとさーさんと雑談して。
二人は眠いからって、部屋へ戻っていった。
俺は、もう少しだけ精霊魔法の修行をするので、その場に残った。
ぼんやりと、月を眺める。
(月を通って異世界に、か……)
面白そうな話が聞けた。
どうやら、この世界において月は特別らしい。
月魔法が嫌われているせいで、神殿では教えてもらえなかったけど。
今度、パーティーに月の巫女が居るし聞いてみようかな、とかぼんやり考えた。
しばらく、一人で修行を続けていた。
すると小さな影が、足元に飛び込んできた。
「なう、なう」
「ん? ツイ?」
俺の使い魔(?)である黒猫が足元にすり寄ってきた。
宴会で、大きな魚を貰ってガツガツかじってたはずだけど。
こいつが居るってことは……
「私の騎士、何してるの?」
月の光が似合う絶世の美女。
フリアエさんが、立っていた。
「精霊魔法の修行中っす、姫」
後ろを向いたまま答える。
「あなた、私の守護騎士でしょ。ちょっとは、私を守りなさいよ」
「え?」
聞いたところ、ルーシーの兄たちから口説かれて大変だったらしい。
フリアエさん、美人さんだからね!
しょうがないね!
「あんたねぇ……」
「あ、はい。次から守護ります」
怒られた。
そんな世間話をしている時。
――ゾワリ、と背筋を悪寒が駆け抜け。
強い頭痛と『危険察知』のアラートが鳴り響き、
黒い影が、俺たちに襲いかかってきた。
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