109話 エピローグ(四章)

◇太陽の巫女ノエル・アルテナ・ハイランドの回想◇


 私は物心ついた時から、聖女の生まれ変わりとして育てられました。


 世界の希望である救世主を支える役割。

 昔は幼馴染みで『雷の勇者』スキルを持つジェラルドが、救世主だと言われていた。

「俺が大魔王を倒してやるからな!」

 幼い頃のジェラルドは、そう言って毎日剣の修行をしていた。

 私はそれを横目で眺めつつ、巫女としての修練を積んでいた。


 ――しかし力が足りない。


 聖女アンナ様の伝説によると、何千人もの傷を一瞬で癒して。

 聖女様の歌声でただの兵士が『一騎当千』の強者になったという。

 数々の『奇跡』を起してきた聖女アンナ様には遠く及ばない。


 稲妻の勇者ジェラルドも伸び悩んでいた。

 大陸一の剣士と呼ばれていたが、火の国の『灼熱の勇者』オルガと引き分けることも多々あった。

 御前試合では、五分五分との評価だった。

 伝説の救世主様の生まれかわりが、あの程度なのか……そう噂された。

 ジェラルドは次第に荒れていった。

 

 しかし、魔物は日に日に活発化していく。

 救世暦1010年までには、大魔王が復活する。

 それが女神様の神託だ。

 人々の不安は、徐々に増していった。


 新たな『神託』が下ったのは、そんな時だった。


 ――異世界から来た勇者と女神の巫女が力を合わせ世界を救うだろう


 六国の巫女が、同時に神託を受けた。

 各国が血眼で異世界転移者を捜し、水の国の神殿で保護されているという話を聞きつけたハイランドは、国力の差を武器に『光の勇者』を差し出すよう迫った。



「彼が『光の勇者』桜井様だ。ノエル、おまえが婚約者となり彼を支えなさい。これは国王としての命令だ」

「え?」

 突然の父上からの命令。

 私とジェラルドの婚約は解消され、『光の勇者』が私の新たな婚約者となった。

 さらに王位継承権が、三位から一位へ繰り上げられ、次期国王であることが決定してしまった。

 全ては光の勇者の血縁を、ハイランド王家に取り入れるため。

 私の意志は、どこにもなかった。

 ですが、それは王家の人間として当然のこと。

 私は黙って受け入れた。


(『光の勇者』桜井りょうすけ……綺麗な顔の御方。彼が私の婚約者……)


 遠めに見たりょうすけ様は、穏やかな空気をまとった好青年でした。

 しかし、ハイランドの重鎮たちにもの珍しげに品定めされ少し怯えている様子だった。


「突然のことで、驚かれていると思います、光の勇者様。しかし、ハイランドはあなた様を全力でご支援いたしますゆえ」

 宰相は光の勇者に異常なほど、へりくだっている。

 光の勇者の機嫌を損ねるわけにはいかないのだ。

「大丈夫です。僕はその役を仰せつかります。ただ、クラスメイトたちのことは……」

「はい、それはお任せください」


 光の勇者様の条件は、一緒にやってきた異世界の仲間たちの『安全の保証』だった。

 彼は仲間たちに頼られている。

 なんとかハイランドの期待に応えようとしていた。


 さらに光の勇者様には、私以外の複数の婚約者があてがわれた。

 巫女である私は、光の勇者の子を産むことはできない。

 しかし、大魔王との戦いで光の勇者が命を落とす可能性はある。

 そのための予備の婚約者たちだ。


 ただ、光の勇者と太陽の巫女が疎遠では対外的によくないということで、七日に一度会う機会が強制的に設けられた。

『光の勇者』りょうすけ様は、人当たりがよく、会話も上手で会うことは苦ではなかった。

 ただ当時は、彼のことを好きというわけでもなく、あくまで義務として会っていた。


 私は女神教会の枢機卿と、王位継承権一位の王女の立場を両立している。

 その二つをこなすことは、想像以上に激務で光の勇者との面会も徐々に面倒に感じはじめた。

 おそらくそれは光の勇者も一緒だろうと思っていた。


 前の世界では剣を握ったこともないという彼は、騎士団総長ユーウェイン殿が直々に剣術を指導している。

 毎日、朝早くから剣と魔法の腕を磨き。

 夜は軍を率いる戦術を学んでいるとか。

 相当な負荷のはずだ。

 そろそろ意味の無い面会は、止めたほうが良い。

 宰相にでも相談しようと思っていた。

 


 ――ある日。



(しまった……。今日は光の勇者様とお会いする日でした)


 私は面会を忘れ仕事に没頭していた。

 秘書のものが、スケジュールのメモを書いてくれたのに見落としていたのだ。

 時間は、深夜になっている。


(さすがにもう居ないでしょうけど……)

 明日、お詫びに行こうと思いつつ、念のため約束の場所へ立ち寄った。


「え?」

 そこには深夜であるにも関わらず、待っていてくれた光の勇者様がいた。

 相当疲れているのだろう。

 うとうとしている。

「りょうすけ様!? このようなお時間まで待たれなくても。明日も早いのでしょう?」

「ああ、ノエル王女。お仕事終わりましたか」

 彼は気にしてない、という風に爽やかに笑った。


 私はイラッとした。


 そんな無理をしてまで、こんな無意味な面会へ参加する必要はないのに。

「りょうすけ様、あなたはハイランドの最重要人物です。あまり無理をしては……」

「無理はしてないよ」

 強く言い切られた。


「……では、なぜですか?」

「先週聞かせていただいた、女神教会での仕事の話の続きを聞きたくて」

「あんな話がですか……?」

 前回の面会では、私が個人的に行っている『種族差別の撤廃』活動について軽く触れた。


 王族・貴族たちの間では、反発が多い施策だ。

 正直、私だけでは無理だと思い始め、愚痴を言ったのだ。

 それを光の勇者様は、微笑みながら聞いてくれた。

 楽しい会話では無かったと思うのですが……。


「ノエル王女が、初めて本音で話してくれた気がしたのでうれしかったんですよ」

「!?」

 ドキリとした。

 

 私は『百方美人』スキルを持っている。

 その効果は、どんな人に対しても好印象を与える、というもの。

 おかげで初対面の相手でも、そつなくこなせる。

 が、誰かと深く付き合うことをしてこなかった。

 強いて言えば……水の国ローゼスのソフィア王女は立場が近いので、親近感を持ってますが。

 しかし、本音を見せていないことを指摘されたのは……大賢者様以外では初めてだ。

 

「やっと少し親しくなれたのかなと思って。今日は逃せないと思ったんですよ」

「……変わったお人ですね、りょうすけ様は」

「でも、今日は遅いですね。次にゆっくり話しましょう」

 結局その日は、あまり話せなかった。でも、


(もう少し、きちんと話してみたい……)


 私は、光の勇者りょうすけ様に興味を持った。

 それから、私はスキルを使わず本音で接した。

 太陽の国の堅苦しいところ、種族差別への不満、教会内部、王族、貴族みなが権力争いをしていること。

 私の愚痴を、りょうすけ様はニコニコとして聞いてくれた。

 気がつくと、自然に本音で話せる相手になっていた。

 七日に一度の面会が、待ち遠しくなっていた。

 彼を好きになっていた。


 そうなると厄介なもので。

 光の勇者には沢山の婚約者が居て。

 中には、彼の子供を授かった者もいる。

 嫉妬心が芽生えてくる。


(落ち着きなさい……ノエル。私は『冷静』だから……)


 教会の修練で習ったスキルを使い、心を落ち着けた。

 私は、一番目の婚約者だ。

 それに、二番目以降の婚約者をりょうすけ様があまり好いていないことを知っている。


「婚約者たちは……自分の家を取り立ててくれとか、もっと高い爵位が欲しいとか、そういうことばかり言ってきてさ」

 りょうすけ様は、困ったように苦笑いしていた。

 浅ましいことだ。

 光の勇者の子を授かるという名誉な役目を貰っておきながら。


 だんだん、りょうすけ様の悩みも聞くことができ。

 私たちは、お互いに気兼ねなく話せる間柄になっていた。

 あの日までは。


 ――月の国ラフィロイグ跡地での『月の巫女』討伐


 人々の不安を減らすため、宰相が国王に提案したのだ。

 実行は太陽の騎士団を主力に編成された部隊が行った。

 中でも重要な役割を果たしたのが『光の勇者』りょうすけ様。

 彼の持っているスキル『状態異常無効』が注目された。


 月の巫女の魅了魔法には、何人なんぴとにも抗えない。

 彼女が本気を出せば、月の国が復活すると信じられていた。 

 その前に、不安の芽を摘み取るという計画だった。


 計画は無事終了した。

 だが、帰って来たりょうすけ様は――精神こころを磨り減らしていた。 


「ノエル王女、僕には月の国ラフィロイグの住民は、貧しくその日を暮らすのも精一杯に見えた。月の巫女を守っていた彼らを殺す意味はあったのか……?」

「それは……」

「月の巫女に罵倒されたよ……。おまえたちは略奪者だと。自分たちは静かに暮らしていたいだけだと……」

「……」

 報告では、月の巫女を守っていた人間は魅了魔法にかかっていたらしいが、特に悪事を働いていたわけではない。

 しかし、『報復』の呪いで殺す事ができない『月の巫女』本人を除いて、月の巫女の周りにいた者たちは全て排除された。

 それを行ったのは、神殿騎士団であり。

 命令を下したのは教皇だ。


 りょうすけ様は、その作戦に納得しておらず。

 少なからず太陽の国に、不信感を持ったのだと思う。


 その日から、りょうすけ様は『月の巫女』に会いに行くようになった。

「りょうすけ様。月の巫女に会っている……のですか?」

「ああ、今まではハイランド側の話しか聞いてこなかった。ハイランド以外の人の話も聞くべきだった」

 りょうすけ様の言葉は正しい。

 でも不安だ。

 私ですら、一目見て魅了されかけたあの『月の巫女』に会いにいくなど。

 彼は魅了されてしまったのではないか?

 もやもやする。


 私は一計を案じ、水の国の大迷宮『ラビュリントス』に現われたという『忌まわしき竜』を討伐する部隊の編成に、りょうすけ様の部隊を組み込んだ。

 水の国からの要請が来ていることは、渡りに船だった。

 彼と一緒に、少し国を離れたかったのだ。

 彼に気分を変えてもらいたかった。

 出て行く途中、彼は暗い顔をしていた。




 その表情が変わったのは、大迷宮に着いてすぐのことだった。

「サキ! 高月くんに会ったんだ!」

「えっと、高月くんってクラスメイトの……?」

 久しぶりに明るい表情のりょうすけ様と、婚約者の一人の横山サキさんが話していた。


「りょうすけ様、何か良いことがあったのですか?」

 気になった私は話かけてみた。

「ノエル王女、僕の幼い頃からの友人に再会できたんです! 水の神殿にずっと残っていたという話から、音沙汰がなかったので心配してたんですが。よかった……」

 こんな嬉しそうなりょうすけ様は初めて見た。

 気になった私は、その冒険者の経歴を調べてみた。


「高月まこと……アイアンランクの冒険者ですか」

 異世界からの転移者であり、マッカレンという田舎街の冒険者。

 冒険者ランクの上がるスピードは多少早い。

 それにしても異世界から来た戦士にしては地味な経歴だ。

 私は、さして気にすることなく記憶の片隅に追いやった。

 

 次に彼の話を聞いたのは、忌まわしき竜の討伐後。


「……王級魔法で忌まわしき竜の二匹を引きずりだした?」

「ああ、さすが高月くんだ! やっぱり最初から彼に手伝ってもらうべきだった」

 りょうすけ様が興奮気味に語る。

 報告では、高月まことの職業は『魔法使い見習い』。

 王級魔法が使えるはずが無い。

 しかし、一緒にいた騎士団員全員が見たという。

 

「一度、会ってみましょうか……」

 私は『洞察眼・超級』スキルを持っている。

 伝説の『読心』スキルほどではないが、相手を見抜くことにかけては自信がある。

 もし有能な人であれば、太陽の国に来て欲しい。

 りょうすけ様と仲が良い人のようですし。

 彼を支える人材は、多いほど嬉しい。


「……高月まことです」

 一目みた彼の印象は――ごくごく普通の青年だと思った。

 凄腕の魔法使いでも、強い戦士にも見えない。

 人は良さそうだが、やや頼りなさげ。

 どこにでもいる一般人

『洞察眼・超級』スキルは、そう結論付けた。


 しかし、私の勘は、

(彼は……何でしょうか、何か気になる)

 わからない。

 しかし、ソフィア王女の居る手前、強くは誘えず。

 彼は水の国に残ることを選んだようだ。

 ならば、忌まわしき竜の討伐補佐の功績を称えるため太陽の国に呼んで、ゆっくり交渉しましょう。

 私は、そのように考えていた。




「え? 高月まこと様がローゼスの国家認定勇者に?」

 驚いた。

 大迷宮から戻って、それほど日は過ぎていない。

 彼とソフィア王女は、馬が合ってないようでしたが……。

 一体、何があったのでしょう?



 それからローゼスの勇者高月まことが、ハイランドへやってきて

(稲妻の勇者ジェラルドに勝ってしまいました……)

 城内では、彼の噂で持ちきりだ。

 しかも、

 

「え……勇者まことのことを聞きたいですか……。ノエル様、彼は水の国の勇者ですよ!」

 ソフィアさんの態度が、大迷宮の時から180度変わっていた。

「え、ええ。大丈夫ですよ、ソフィアさん。彼を太陽の国に引き抜いたりしませんから」

「絶対ですよ、ノエル様」

 氷の彫刻の姫と呼ばれているソフィアさんの変わりよう。

 彼のことを語る時に、瞳が輝いている。

『洞察眼・超級』スキルを使うまでもない。

 これが恋をした乙女なのでしょうか……?


 しかし、学院時代は『私は水の国のためにこの身を捧げます。生涯結婚しません』と言っていたソフィアさんが。

 人は変わるものだ。

 彼女の恋は、是非実って欲しい。 

 できることがあるかはわかりませんが、影ながら応援したい。

 

 それにしても光の勇者りょうすけ様にあれほど慕われ、ソフィアさんの心を奪っていった彼。

 高月まことが……やっぱり何か持っている。

 

 次に彼が現れた時、私は衝撃を受ける。


「つ、月の巫女の守護騎士!? まこと様、な、何を考えているのですか! ソフィア王女も一緒だと言うのに」

 突然、深夜に面会を求めてきた水の国の面々。

 しかも、呪いの巫女を連れて。

 

 でも、そのあと彼らから聞かされた話はさらに驚愕の内容だった。

 実は十年以上前から、王都の獣人族たちは『蛇の教団』に呪いをかけられており。

 明日に『反乱』という形で、呪いが発動するというのだ。


(そ、そんな……。大魔王が復活する前に、王都シンフォニアが壊滅してしまう……)

 私は絶望しそうになったとき。


「で、こんな案がありまして」

 ローゼスの勇者まことは、事も無げに打開策を提案してきた。

 それは、月の巫女の『呪い・解除』の魔法を、雨の水を媒介に伝えるというもの。


「というわけで、大賢者様。天候の操作をお願いしますね」

「賢者使いの荒いやつめ。高くつくぞ」

いつもの血液でいいですよね」


 困難と思われた、天候の操作をあっさり大賢者様に依頼して。

 王都シンフォニアの危機は、脱してしまった。


 その後、蛇の教団の襲撃を防ぎ、千年前の魔物の群れを一掃した。

 今や、ハイランド城にいるもので彼の武勇を知らぬものはいない。

 ソフィアさん曰く、本人はあまり自覚がなさそうとのことですが……。


 あげく『』もある。

 私は、どうしても彼と話をしておかないと、と思った。



 ◇高月まことの視点に戻る◇


 

 ハイランド城の最上階。

 黄金騎士に守られた大きな扉の奥が、ノエルとの面会室らしい。


「失礼しまーす……」

 おそるおそる中に足を踏み入れた。

 大きな窓を背に、逆光の中でノエル王女が微笑んでいる。

 絵になるなぁ。


「よく来てくれました、勇者まこと様。もう水の国に帰られるとか。ゆっくりして行けばよろしいのに」

「毎日知らない人が訪ねてくるので、落ち着かないんです」

「あら、そうだったのですね。りょうすけさんが、まこと様がもう帰ると知って悲しんでましたよ」

「……あー」

 そういえば結局、桜井くんとは騒動の日以来、話してないなぁ。

 いつも忙しそうだから、遠慮してしまって会えなかったな。


「今後の勇者様のことについて、少しお話させてください」


・来年の北征計画について

・六カ国の勇者を含む主要メンバーでの定例会議があること

・忌まわしき魔物など、やっかいな魔物が現れれば国家間で協力すること

・蛇の教団については、どの国でも受け入れないこと


 そんな内容だった。

 普通だな。

 わざわざ王女様が直接言うほどのことだろうか。


「ところで、少し脱線しますが」

 ノエル王女の表情が変わった。

 先ほどの真面目な顔から、少しイタズラめいた表情に。


「ソフィアさんのことをどう思います?」

「え?」

 何ですか、急に。

「勇者にしていただいて感謝してますよ」

 無難に応えた。

 が、ノエル王女の想像した回答と違ったらしい。


「ソフィアさんを、女性としてどう思います?」

「えっと……」

 なんだこれ。

 俺が言いよどんでいると、ノエル王女はため息をついて微笑んだ。


「まこと様は、月の巫女の守護騎士となりましたよね? もしや魅了されてたりしませんか?」

「それは大丈夫ですよ。俺は魅了魔法が一切効かないようなので」

 ノア様のお墨付きだ。

『RPGプレイヤー』スキルの隠れ効果もわかったし。


「正直信じられませんが……。でも安心しました。これからもソフィアさんと力を合わせてくださいね」

「ええ、水の国は好きなので」

 そこに二言は無い。

 これが聞きたかったことなのだろうか?


 少し考えるような仕草をして、ノエル王女が口を開いた。


「ところで……まこと様の太陽の国での二つ名をご存知ですか?」

 やや微妙な顔をするノエル王女。

「……いえ」 

 二つ名? 

 そんなのがついてるのか?

 少し間を空けて、ノエル王女は口を開いた。


「大賢者様の愛人」

「え?」

 今なんて?


「大賢者様の愛人……。それがまこと様の二つ名です」

「ちょっと、なんですか、それ!」

 ゴブリンの掃除屋より酷くない!?

「先日の戦勝パーティーでのやりとりが、原因です」

 あれかー。

 でも、あれだけで?


「おかげで、太陽の国ではまこと様に逆らえるものはいなくなりました」

「……は?」

 どういうこと?

 

「ご説明します。大賢者様の太陽の国でのお立場を」

「……確か、ハイランドで三番目に偉い人、ですよね?」

 ふじやんに教えてもらった話だ。


「それは表向きです。いいですか、この国で『伝説の救世主アベル様とそのお仲間』は、神に等しい扱いです。ハイランド国王は、アベル様が建国された国を引き継いだ。女神教会の教皇は聖女アンナ様の立場を受け継いだ。大賢者様は……伝説の魔法使いの末裔」

「実際は、当人ですけど」

 その言葉に、ノエル王女はうなずいた。


「そうです……つまり、大賢者様は神にも等しい存在なのですよ」

「……」

「国王陛下……私の父も、教皇猊下も大賢者様には頭が上がりません。大賢者様は世俗の権力に興味が無い御方なので、肩書きは大賢者としてのもののみですが、権威は最も高いのです」

「そうなんですか……」

 最近はルーシーの魔法の師匠だったりしたので、かなり気安く話してた。

 駄目だったのかなぁ。


「お気づきではなかったのですね。ソフィアさんの言う通りですね」

「ソフィア王女が、何か言ってました?」

「勇者まこと様は、自分のやった事に対しては無頓着だと」

「……そんなことは」

 

(あるわよ)

 ノア様?

(鈍感系、反省しなさいー)

 えぇー、慎重プレイ派なんですけど。

(まことは攻略前は慎重だけど、攻略後が雑なのよ)

 そうなんだろうか?

 確かに、どんなイベントでも攻略後はあんまり気にしないかも……。

 

「まこと様?」

 ノエル王女が顔を覗き込んできた。

 ちょっと、近いっす。

「ご忠告、ありがとうございます。気をつけますね」

「はい、ソフィアさんとこれからも仲良くしてくださいね」

「はぁ」

 ソフィア王女推しだなぁ。

 あとは、時間があれば桜井くんとも会って欲しいとか。

 愛されてるね、桜井くん。


 俺は、面会の御礼を言って退室した。


 ……ノア様のことは、ばれなかったんだな。

 よかった。

 


 ◇



「まこと、面会で何て言われたの?」

「高月くん、ご飯に行こうー」

「遅いわよ、私の騎士」

 ハイランド城の入り口でルーシーとさーさんが、待っていてくれた。

 フリアエさんは、顔が見えないフード付きのローブを着ている。


「悪い、お待たせ。ふじやんの飛空船で飯でも食いながら話そう」

 色々あったけど、ここでできる事は終わった。


 マッカレンに帰ろう。

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