104話 王都シンフォニアの騒乱 その4
「私が太陽の騎士団、第一師団団長オルトです。よろしくお願いします、ローゼスの勇者様」
「第二師団団長ストラです。共に戦いましょう」
「北天騎士団、副団長バーグだ。よろしく頼む」
北門へ向かう途中、一緒に戦う軍隊の指揮官さんたちに挨拶をされた。
「ローゼス第一王子、氷雪の勇者レオナードです。よろしくお願いします」
「ローゼスの勇者高月まこと……です」
この注目される感じは、慣れないなぁ。
あと、めっちゃこっちを睨んでくる人がいるんですけど。
黄金の鎧に身を包んだ、金髪で釣り目の美人な女騎士。
初対面のはずだけど、ちょっと誰かに似てるような。
あ、こっちに来た。
「聖騎士隊、隊長ジャネット・バランタインよ。先日は兄さまがお世話になりましたね」
「……えっと」
あー、稲妻の勇者ジェラルドさんの妹さんか!
確かに似てる!
ん? ってことは……北天騎士団って……
「すいませぬ、勇者殿。本来はジェラルド騎士団長が居るはずなのですが」
副団長さんに言われて、気付いた。
ここって、ジェラルドさんの部隊か!
なんか、心なしか北天騎士団の皆さんの視線が冷たい気がする。
総長さん! なんで、ここに水の国を配置したんですか!?
いじめ? いじめなの?
(あー、気まずい……)
道中は、会話が弾みませんでした。
◇北門前◇
迫ってくる魔物の歩みは、速くはない。
威圧するようにゆっくりと前進してくる。
魔物使いに操られているからか、どの魔物も不気味なほど大人しい。
……これから暴れるために、力を温存しているように。
「近づいて来ましたね、まことさん……」
レオナード王子が青ざめている。
「なんの! 恐れる事はありませんぞ! 魔物の数は約五千! こちらの兵の数は一万以上!」
守護騎士のおっさんは、元気だなぁ。
そーいえば、ついにこのおっさんと役職も被っちゃったか。
「なんで、あんたらが偉そうなのよ。弱小国家の騎士のくせに」
「そうそう、私達の邪魔しないでよねー」
「水の国の兵士なんて、要らないんじゃないー? きゃはは」
バカにしたような声が上から振ってきた。
見上げると――
(ペガサス騎士団?)
先ほどのジャネットさんを中心に、女性の騎士たちがペガサスに乗って優雅に空中に浮かんでいた。
女騎士たちは、皆美しくペガサスを含め絵になるのだが……
(性格キツそうな人たちだなぁ)
お近づきにはなりたくない。
「ローゼスの勇者まこと。兄さまを倒した腕前が、マグレでないことを期待していますよ」
ジャネット聖騎士隊長の声はとげとげしい。
まあ、これは仕方ないものとして受け止めよう。
「何か作戦はありますか?」
太陽の騎士団長オルトさんに聞いてみる。
「偵察隊の話では、こちらに迫る魔物に『忌まわしき魔物』は含まれてないそうです」
「へえ。じゃあ、こいつらは陽動ですかね?」
強い魔物がいないなら、よかった。
「そのようですな。しかし油断は禁物です」
「魔物がこちらへ到達する前に、魔法使い部隊に一斉射撃させます」
「魔法攻撃だけで半分近くは、減らせると思いますぞ、勇者殿」
「おおー」
確かに、ぱっと見でも三千人以上いそうな魔法使い部隊が呪文を詠唱中だ。
詠唱を聞いたところ、全て上級魔法だな。
これは、良い先制攻撃。
こちらに向かってきている魔物は、集団になっている。
いい的になりそうだ。
(にしても、できれば俺は海側の配置がよかったなぁ)
今さらだけど。
ただ、海側が蛇の教団の本命部隊と見られていたため、太陽の国側も最高戦力を置いている。
つまり――
――カッ!
一瞬、目がくらむような光に襲われた。
後ろを振り向くと、西門のほうで巨大な光の柱が十字になって輝いている。
あれは……
「光の勇者殿か」
「伝説の『光の剣』スキル。いつみても凄まじい威力ですな」
「おそらく『忌まわしき魔物』が出たのでしょう」
太陽の騎士団たちの話し声が聞こえる。
桜井くんのスキルは、相変わらず派手だなぁー。
そして、やっぱり海側が本命の魔物か。
「どうやら、西門側で戦闘がはじまったようですな」
「こちらも、そろそろ……ん?」
――キェエエエエエエ!
鳥の鳴き声のような何かが聞こえた。
「おお! なんだあれは!」
守護騎士のおっさんの指差す南門の方向には、炎で出来た巨大な鳥が羽ばたいている。
「炎の不死鳥……火の王級魔法。あれほどの使い手がいたとは」
太陽の騎士団のひとが驚いている。
いや、俺も驚いた。
あの魔法を使っている
「ルーシー、王級魔法が使えるようになったんだな……」
戦いの前だというのに、目頭が熱くなる。
水の街マッカレンで、ルーシーの火魔法の修行を一緒にした日々が思い出される。
正直、ルーシーの『火魔法・王級』はただのファッションだと思っていた時期が俺にもありました。
立派になったなぁ……。
今度、近くで魔法を見せてもらおう。
「あ、あれはルーシーさんの魔法ですか!?」
「なんと! 凄まじい!」
レオナード王子と守護騎士のおっさんが驚いている。
ちなみに、さーさんはルーシーと一緒に居てもらっている。
大賢者様と一緒とはいえ、ルーシー一人だけ別行動は申し訳ないので。
「ローゼスの魔法使いか……」
北天騎士団の副団長まで、呆然としている。
仲間が褒められると、気分がいい。
ただ、気になる事が、
「晴れちゃったなぁー……」
桜井くんの『光の剣』の影響か、ルーシーの王級魔法のせいか……
折角、大賢者様が雨を降らせてくれたのに。
雲はまだ、残ってるけど雨は止んでしまった。
俺、水魔法使えるかなぁ……。
俺は迫ってくる魔物の群れに視線を戻す。
遠目に、大きな魔物の姿が見えてきた。
「来ましたね」
「うむ」
俺の声に、太陽の騎士団長さんがうなずいた。
――ここで『RPGプレイヤー』スキルが発動する。
(え?)
『
はい ←
いいえ
(ここで選択肢か……嫌なタイミングだなぁ)
今さら逃げる気はない。
だけど、
(
いにしえ……昔から生きてるってことだよな?
「誰か、この中で『鑑定』スキルを持っている人はいませんか? できれば超級以上で」
俺は大声で、太陽の騎士団、北天騎士団のひとたちを見渡して言った。
「私が持っております。勇者殿」
魔法使いらしき人が、手を上げてくれた。
「今さら何を調べるのです? 怖気づいたのですか? 水の国の勇者」
「臆病者ねー」
「魔物の群れに恐れをなしたのかしら?」
煽ってくる女騎士たちは無視して、俺は魔法使いにお願いした。
「魔物の中に『千年前の魔物』が混ざってないか、調べてもらえませんか?」
「勇者殿! やつらの中に、千年前の魔物がいると?」
「多分……」
「少々お待ちを……」
みんなの注目が、俺と魔法使いの人に集まる。
「か、確認しました……」
魔法使いの人の声が震えている。
「どうなのだ?」「千年前の魔物はいたのか?」「びびり過ぎじゃない~、水の国の勇……」
「全部です!」
あちゃー、全部か。
たしか、千年前の魔物って普通の魔物より3~4倍以上強いんだよな?
「約五千の魔物の群れは、
「ば、バカな……」
「うそでしょ……?」
「そんな、ありえない……」
騎士団の皆さんの表情が、一変する。
げ……、もしかしなくてもこっちが本命か!
大主教イザク、忌まわしき魔物をエサに桜井くんを釣ったのか。
「魔法使い部隊、一斉に放て!」
太陽の騎士、第一師団団長オルトさんが、合図を送ると同時に数千の閃光が放たれた。
閃光が魔物の中心に向かって放たれ、爆発と爆風が起きる。
「即座に、次の詠唱にかかれ! 目の前の敵は全て千年前の魔物だ! この程度では、倒せない!」
――オオオオオオオッ!!!!!!!!!!!!!
騎士団長の言葉に応えたわけではあるまいが、魔物の群れが一斉に威嚇してきた。
そして、突っ込んでくる。
倒れている魔物は……見たところ一体もいない!?
半分近く倒せるって話は?
あれは、通常の魔物の想定か……。
「あれ、勝てますか?」
隣の第二師団の団長さんへ聞いてみるが
「おそらくこの人数では勝てない可能性が高い。増援を呼びに行かせました、勇者殿」
第二師団の団長さんの声は、緊張で硬い。
しかし冷静だ。
増援を呼んだなら、やることは一つだな。
「じゃあ、時間稼ぎしましょう。レオナード王子、手を貸してください」
「は、はい! ひゃぁ!」
女子のような声を上げるレオナード王子に、申し訳ないなぁと思いつつ
「
――レオナード王子の魔力と、精霊の魔力を合わせ
「氷魔法・
ズズズッ……、と可能な限り高く分厚い氷の壁を、俺たちと魔物の間に作成した。
「す、すごい」「……こ、こんな巨大な氷の壁を無詠唱で」「なんて魔力量だ」
騎士団の皆さんがざわめくが、これはあくまでただの時間稼ぎだ。
「土魔法が使えるもの! 勇者殿の作った壁を補強しろ!」
「壁を越えてくるもの、回り込んでくる魔物を順番に狩れ!」
「魔法使いは、壁の向こう側へ次の魔法を放て! 魔力が切れるまで、撃ち続けろ!」
壁の両端から回り込んでくる魔物と、激しい戦闘が始まった。
魔法使い軍団は、魔法を放ち続けている。
「グリフォンだ!」
「飛竜もいるぞ!」
飛行できる魔物が壁を越えて、襲ってきた!
見覚えのある飛竜やグリフォンでなく、全身が真っ黒の魔物だ。
これが千年前の魔物か!
「良いか! 勇者殿をお守りしろ! このような戦いで勇者殿を失うわけにはいかん!」
「「「「「はっ!」」」」」
(え? ちょっと、何?)
わけのわからないまま、太陽の騎士団の人たちが俺やレオナード王子を中心に陣を組む。
「あ、あのオルトさん?」
「ノエル王女の命令です。他国の勇者殿であるレオナード様、まこと様の安全を最優先にするようにと」
「そんな……」
「まこと様のおかげで、千年前の魔物であることを事前に察知でき、氷の防壁まで作ってくださった。あとは、我々の役目!」
「後ろへお下がりください」
北天騎士団の副団長まで、俺の前へ立ち俺とレオナード王子を守ろうとする。
「ぐわっ!」「がはっ!」「ちくしょう!」
太陽の騎士団や北天騎士団は善戦しているが、一人、また一人と倒れていく。
魔物の一体一体が異様にタフなのだ。
倒したと思っても、立ち上がってくる。
ビシリ、魔物をせき止めている氷の壁にヒビが入る。
ドンドンと、壁に魔物がぶつかる音がする。
(あの壁が壊れれば、地上を歩く魔物たちが一斉に向かってくる……)
今ですら、押されているのに、そうなったら終わりだ。
一気に押し込まれる。
「きゃぁあああ!」
「レッドドラゴンだー!」
ペガサスに乗った女騎士が、ドラゴンに襲われてる!?
「水魔法・氷の槍!」
女騎士がドラゴンに、食いつかれる直前にドラゴンの目を魔法で射抜いた。
ギャァアー、とドラゴンが苦しげに身をよじる。
「助かった!」
「まだだ!」
気をそらしただけだ。
ドラゴンは怒りの雄叫びをあげ、炎のブレスを吐く動作を見せる。
「水魔法・氷の槍!」
最後の魔力を振り絞って、ドラゴンのもう片方の目を潰す。
炎のブレスは、女騎士とは関係ない方向に轟音をたてて、発射された。
(精霊さん……精霊さん……)
駄目だ。
ここは、聖神族の威光が強い、太陽の国の王都。
精霊の数は、少ないし、声も小さい。
さっきの氷の壁を作った時に、精霊に借りられる魔力の上限に達した。
(どうすれば……?)
魔物の数は増えていく。
こちらの数は、少しずつ減っている……。
『明鏡止水』スキルを使ってなお、不安と焦りが頭をかすめる。
その時、
――
巨大な稲妻がレッドドラゴンと、その周りにいた飛竜を打ち落とした。
大粒の雨が降り、風が吹き荒れる。
(大賢者様か!?)
「てめえら! それでもハイランド最強の北天騎士団か! 気合入れろ!」
黄金に輝く鎧に、まぶしいほどの金髪。
全身に稲妻のようにはじける
稲妻の勇者ジェラルドだった。
おおー、絶妙のタイミング!
ヒーローは遅れてやってくるな!
「「「「「「おお!」」」」」」
北天騎士団の人たちが、稲妻の勇者の激に応える。
太陽の騎士団の人たちにも、安心の笑みが浮かんだ。
なんだ、信頼されてるじゃないか、ジェラルドさん。
ビシリッ! 防壁が破られた!
壊れた壁から、魔物が飛び出してくる。
「くたばれやぁ! 魔物どもが!」
ジェラルドさんが、壊れた壁から溢れる魔物の群れの中心に突っ込んだ。
うぉ、あそこに特攻するのか。
凄いな、さすが稲妻の勇者。
「ま、まことさん、ジェラルド殿は千年前の魔物のことを知らないのでは……?」
「「あ」」
俺と隣にいた騎士団長さんが、同時に間抜けな声を出した。
し、しまった。注意しなきゃ!
「おーい、ジェラルドさんー!」「ジェラルド殿ー!」
「死ねやぁーーー!」
俺と騎士団長さんの声は届かず、ジェラさんは魔物の群れに突っ込み砂埃に掻き消えていった。
……えっと、大丈夫かな?
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