93話 高月まことは、マフィアに招待される

 ――カストール一家ファミリー


 彼らは太陽の国ハイランドの三大マフィアと呼ばれ、

 西の大陸で最も有名なマフィアの一つだ。


(俺は、たった今知ったけどね……)


 ピーターの所属しているマフィアって、そんな大手だったのか……。

 てっきりマイナーなマフィアと勝手に想像してた。 

 本人は、あんまり強くなかったし。


「『カストール一家ファミリー』『シャウーラ一家ファミリー』『デネボーラ一家ファミリー』が、王都シンフォニアの裏稼業を取り仕切っておりますな」

 ふじやんが、解説してくれた。

 その下部組織が、大陸中に散らばっているとか。


「カストール家は、賭博ギャンブル業を取りまとめているマフィア……ですネ」

 ニナさんが苦虫を噛み潰した表情をしている。

 どうしたんだろう?


「ニナ殿が、火の国グレイトキースで借金をしてしまったマフィアですな。奴隷になってたところを拙者が買い取りました」

「ああああー、言わないでください! 思い出してしまいマス!」

 ニナさんが、長い耳をブンブン振っている。

 ちょっと可愛い。

 そういえば、昔ニナさんは賭博ギャンブルで借金したって言ってたっけ?


「ちなみに、気になるニナさんのお値段は?」

 ふじやんに聞いてみる。

「確かぴったり百万Gでしたな。即金で買い取りましたぞ!」

「おおー、お手ごろ価格」

 奴隷の値段なんて知らないけどね。 


「旦那様! 高月様! 変なこと言わないでくだサイ!」

「ニナ……あなたには、今後、絶対に賭博ギャンブルはさせませんからね」

 悪ノリする俺とふじやん。呆れた表情のクリスさんが居た。

 ちなみに、さーさんはルーシーを寝室へ連れて行ってくれた。


「勇者まこと。カストール一家ファミリーの招待には応じるのですか?」

 バカな話をしてたら、ソフィア王女のクールな声で引き戻された。


「うーん、招待状には何て書いてあるの? ふじやん」

「読み上げましょうか」



 ――親愛なる兄弟へ。

 俺たちの永遠の友情を祝う、盛大なパーティーととびっきりの食事を用意した。

 是非、俺たちに礼を尽くさせて欲しい。

 勿論、あの強いお嬢さんも一緒に連れてきてくれ。

 場所は、グランド・ハイランド・カジノの最上階のVIPエリアだ。


 追伸:渡しておいたバッジを見せれば、カジノにフリーパスで入れるようにしておく。カジノで遊んでもいいぜ。俺の名前を出せば、サービスしてくれるはずだ。

       ピーター・カストール――


「「「「……」」」」

 えっと。


「これ、行ったらどうなるかな?」

「……おそらく接待を受けると思いマスヨ」

「そして、ずるずると引き返せなくなるのでしょうね……」

 ニナさんとクリスさんの顔を見るに、行くのは反対みたいだ。


「タッキー殿? ここに書いてるバッジとは?」

「これかな」

「見せてくだされ」

 ふじやんに、ピーターから渡された黄金のバッジを渡す。

『鑑定』をしているのか、じっと見つめている。

 

「……バッジに彫られた双子の紋章。間違いなくカストール一家のものですな」

「ピーターと言えば、一家の首領ドンジェノバ・カストールの五男。大物ですね……」

 ため息をつくふじやんと、冷静だが心なし声が小さいソフィア王女。


「てか、いつ来いって書いてないけど」

 メッセージには、場所しか指定されていない。

 日程を忘れてない?

「タッキー殿、これは『いつ来ても良い』というマフィア特有の言い回しですな」

「あなたを歓迎する準備は、ととのっているからそちらも準備をしてくれと」

 えぇ……準備?

 マフィアに入る気は、これっぽっちもありませんよ。


「一番の懸念は、カストール一家の背後バックにいる貴族ですね」

「マフィアが貴族と繋がっているのですか?」

 クリスさんの発言に、ぎょっとなる。


「高月様、それがハイランドの常識なんデス……残念ながら」

「三大マフィアには、それぞれ貴族の後ろ盾があります。カストール一家の後ろに居るのは……バランタイン家です」

「げ」

 まじすか。

 ジェラルドさんの、実家じゃないですかー。やだー。


「のこのこ招待されて行ったら、拉致されたりしませんかね……?」

「マフィアと貴族の関係は、あくまで権力によるバックアップと上納金のトレードですから……。ジェラルド卿が負けた仕返しを、マフィアが行うとは思えませんが」

「一応、タッキー殿はカストール家のご子息の命の恩人なわけですし……」

 クリスさんとふじやんは、安心するように言ってくれるけど。


「勇者まこと。あなたは水の国ローゼスの代表なのですから。心配は要りません」

「ソフィア王女……」

 力強いその声で少し安心する。


「じゃあ、あまり先方を待たせるのは怖いから今日さっと行って、バッジを返して帰ってこようか」

「高月くんー、どこ行くの?」

 ルーシーを寝かしてきたさーさんが、戻ってきた。

 俺はさーさんの手を掴む。


「さーさん、一緒に行こう」

「へっ? う、うん。どこに?」

 話についてきてないさーさんを巻き込む。

 ふふ、了承したね。

 もう取り消せませんよ?

 申し訳ないが、荒事なら近接最強のさーさんは外せない。


「拙者も行きましょう。なにやら因縁をつけられた時に、交渉ができる人間が必要でしょう」

「助かる、ふじやん」

 うう、すまないねぇ。

「だ、旦那様が行くのなら、私も行きマス」

 ニナさんまで。

 凄い行きたくなさそうなのに。


「では、水の国ローゼスからも騎士を何名か……」

「いえ、ソフィア様。それでトラブルになれば国家間の問題になる可能性が。旦那様にお任せするのが良いと思います。ニナ、お願いしますよ」

「クリス。任せてくだサイ!」


 話がまとまった。

 俺、さーさん、ふじやん、ニナさんの四人パーティーでマフィアの本拠地アジトへ向かった。


 緊張するなぁ……。



 ◇


 

 ――グランド・ハイランド・カジノ


 それは、シンフォニアで最も巨大なカジノらしい。

 建物は異様な存在感を放っている。

 建築物の高さはおそらく10階程度。

 この世界では、高いほうなのだろうけど日本の高層ビルには遠く及ばない。

 ハイランド城や聖アンナ聖堂に比べても控えめだ。

 何が目立つのか。

 建物全体が、黄金に輝いているのだ。


「金閣寺?」

「それよりはるかに大きいよ、高月くん」

 俺とさーさんは、その建物をぽかんと見上げた。


「王都シンフォニアで、最も大金が激しく動いている場所ですな」

「ふふー、ありとあらゆる賭博ギャンブルができマスヨー」

 ふじやんの解説に、楽しそうにニナさんが補足する。

 ニナさん、今日は賭博ギャンブルしに来たんじゃないですよ?


「ところで変な場所に建ってるんだね」

 黄金の建物は、六区街と七区街の壁をぶち抜くように建っていた。


「カジノの中は、一種の治外法権ですな。入り口が人族用と亜人用で分れておりますが、中には色々な種族が入り混じっております。この中での差別的な発言は、禁止されております。ある意味シンフォニアで最も平等な場所と言えましょう」

「へぇ、それは皮肉な」

 娯楽好きに人種が関係ないか。

 

「ねぇー、高月くんー、藤原くんー、中入ろうよー。って、え? 子供には早い? 失礼ね!」

 パタパタ走って中に入ろうとするさーさんが、黒服のガタイの良いにーさんに捕まっていた。

 俺はそちらに近づいた。


「あのー」

「あー? なんだ、にいちゃんたち? この子の連れか?」

 黄金のバッジと招待状を見せる。

「ピーターさんって人に招待された、高月と言います。入ってもよいですか?」

「た、高月さま! お待ちしておりました! こちらへどうぞ!」

 目に見えて態度が変わる。

 重そうな扉を開いてもらい、カジノ内に入った。


「「「おおー」」」

 真っ赤な絨毯。

 沢山のスロット台が並び、ジャラジャラとコインが流れ出る音が聞こえる。

 ルーレット、ブラックジャックの台にはピシッとしたスーツを着込んだディーラーが立っている。

 カジノの中をつかつか歩いているのは……バニーガール?

 水着のような衣装に、ガーターストラップがついた網タイツ。

 エロっ!

 そしてあの耳は、本物なのか、付け耳なのか……。


 ついつい、隣のニナさんと見比べていると。

「高月様?」

「あ」

 ニナさんと目が合ってしまった。

 慌てて目を逸らす。


(まことったら、友達の奥さんをそんな目で見ちゃダメよー)

 女神さま! 誤解です!

(本当かな~?)

 うそです。

 バニーもニナさんも気になります!(耳が)


「こちらのカジノのバニーガールは、全てウサギ耳族の獣人ですぞ」

 ふじやんが苦笑しながら教えてくれた。

「へぇー、ニナさん似合いそう!」

 俺も思ったけど、口に出すのはどうなんだろう。

「ニナ殿も、出会ったときはバニー姿でしたなぁ」

 懐かしそうに言う、ふじやん。


「「え?」」

 俺とさーさんが、驚きの声を上げる。

 ニナさんってバニーガールだったの?

 バニーガール(ニナさん)をお買い上げしたの?

 この鬼畜! ……いいなぁ。


「お、おや、言いませんでしたか?」

「聞いてないなぁ」

「藤原くんのスケベー」

 クラスメイトのノリで、俺とさーさんでふじやんをからかう。

 ニナさんは、キョロキョロとカジノの遊戯台をキラキラした目で見ている。

 放っておくと、遊戯台のほうに行きそう。

 ニナさんをさーさんが、引っ張ってくる。


「こちらです、高月さま」

 俺たちが無駄口を叩いている間にも、スタッフさん(黒服)が案内してくれた。

「VIPルームへご案内します」

 階段で上に上がるのかと思いきや、吹き抜けになっている場所へ連れてこられる。

 そこに、鉄の柵に囲まれている場所があり、魔法使いが一人いた。

 

「上へ参りますー」

 俺たちを乗せた床が、上昇する。

 え、エレベーター!?

『浮遊魔法』で上がってる!

 さすが、剣と魔法の異世界……。

 ただし、上昇スピードは相当ゆっくりだ。


「ねぇ、ふじやん」

「お? なんですかな」

「カストール家で、注意が必要な人って誰かな?」

 小声で話しかける。

 この間に、注意点を復習しておこう。


「それは勿論、カストール一家の首領ジェノバ・カストール殿ですな。ですが、さすがに本日は不在でしょう。裏社会の顔役だけあって、めったに人前には姿を現しません。別名、『スカーフェイス』と言われてまして、顔に大きな傷がある人物です」

「うんうん、なるほど。他には?」


「あとは、カストール家の長男ジャック・カストール殿でしょうな。おそらく、本日居る可能性が高いのは彼でしょう。金髪で大柄な美丈夫だそうですぞ」

「へぇ……。ちなみに、何の種族のひと?」

 ピーターは確か狼っぽい耳をしてた。

 それを思い出しながら、聞いてみた。


「タッキー殿。カストール家の幹部のほとんどは人族ですぞ」

「え? そうなんだ」

「ただし、首領の妾の何人かは、亜人だそうですな。人族と亜人の客を両方相手にする商売のためでしょうなぁ」

 なるほどねぇ。

 人族の息子と、亜人の息子を適材適所に使っていると。

 商売人だな。


 そんな会話をしているうちに、俺たちは最上階にたどり着いた。

 

 1階のカジノフロアも高級感が溢れていたが、最上階は別格だ。

 黒を基調とした、重々しい内装。

 豪華なシャンデリアがキラキラ光を放っている。

 その下に、黒服の集団が待っていた。


 その中にいた、軽薄そうな男がひょいひょいと近づいてくる。


「よお、兄弟ブラザー! 待ってたぜ!」

「あ、ああ」

 笑顔で肩に腕を回してくる、ピーター氏。

 このフレンドリーさ。

 クラスメイトのヤンキーっぽさがあるなぁ。

 でもそんな嫌な感じがしないのは、彼の人柄かな?

 もしくは、俺の慣れか。

 

「紹介するよ。俺の自慢の家族ファミリーだ」

 そこにはずらりと、迫力のある男たちが並んでいた。

(おお……、マフィアだ。マジもんのマフィアだ) 


 その後ろには、高級なドレスを着た見目麗しい女性達が並んでいる。

 遊女だろうか?

 しかし、それよりも目を引くのが――


 黒服集団の真ん中に座っている、高価そうな服に豪華なアクセサリをつけた中年の男。

 彼の顔には、大きな傷があった。

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