91話 高月まことは、ハイランド貴族と話す

 ――ハイランド城『銀翼の間』


 ハイランド城の最上階の一つ階下。

 最上階は、王族しか入れない場所である。

 つまり、王族を除く最も身分が高い人々が集まる場所な訳で。


(えっと、それぞれ誰でしたっけ? ソフィア王女)

(……もう一度だけ言いますよ、勇者まこと)

 小声で、ソフィア王女とひそひそ話す。



 太陽の国ハイランド 第一王子ガイウス・ハイランド

 同国   第二王子ジュリアーノ・ハイランド

 同国   第二王女ノエル・アルテナ・ハイランド 兼 太陽の女神アルテナ教会 枢機卿


 太陽の女神アルテナ教会 ロマ・ボルジア教皇


 東領地当主 ミハエル・ローランド大公爵

 西領地当主 マルコ・ホワイトホース大公爵

 南領地当主 ロレンツォ・ベリーズ大公爵

 北領地当主 バルトロメオ・バランタイン大公爵


 宰相 ヴィットリオ・ホワイトヘザー 

 太陽の騎士団 総長 ユーウェイン・ブラッドノック



 巨大な円卓に、太陽の国ハイランドの重鎮がずらりと、並んでいる。


(覚えましたか?)

(……無理です、ソフィア王女)

(はぁ、わかりました。またあとで教えます)

 ソフィア王女が、ため息をつきながら少し嬉しそうに言った。

 そんな出来の悪い子みたいに……。

 こんな沢山、いっぺんに覚えられませんよ。


 あらためて彼らを見渡す。

 やんごとなき方々は、あまり機嫌が麗しくは無さそうだ。


「国王陛下は、どうされたのか?」

 頬杖をついた大公爵の誰かが、口を開いた。

「陛下は体調が優れぬ。本日の会議は、欠席なされる」

 宰相のひとが答える。


「またですか。国王陛下にも困ったものだ」

「他に揃っていないのは……大賢者殿は、いつも通りか」

 大賢者様は、サボりの常連らしい。

 確かに、サボりそうなイメージがある。


「我々の貴重な時間を取ってまで、話したいこととは何かな? ノエル」

 言外に、さっさと始めろと言うのは第一王子か。

 それにしても、妹相手に随分とげとげしい。

「それについては、ソフィア様からお話します」

 ノエル王女が、こちらを振り向いてにっこり笑った。


「ああ、さきほどから端に座っているのは誰かと思えば、隣の小国の姫でしたか」

 大公爵の一人が、つまらなそうに言った。

「侮ってはいけませぬぞ。その小国の魔法使いに負けてしまった勇者殿がおられるのですから、くくくっ」

「マルコ殿、何が言いたい?」

「いえいえ、バルトロメオ殿。ジェラルド卿は、お元気ですかな?」

「……」

 

 なぜか、ギロリとこちらを睨まれる。

 ソフィア王女の表情は、変わらない。

 すげぇなぁ、俺は胃が痛いっす。帰りたい。


 ああ、なんでこんな面倒なことになったんだっけ?



 ◇数時間前◇



 俺が戻ってくると、宿にはふじやん、ニナさんの他にソフィア王女がいた。

 ルーシーは、まだ大賢者様のところか?

 最近、修行頑張ってるなぁ。

 ふじやんが、こちらへ駆け寄る。


「ふじやん、ただいま」

「戻りましたか! タッキー殿、今回の反乱の取りまとめをしている者を洗い出せましたぞ」

「早くない!? 藤原くん」

 さーさんが、驚きの声をあげる。

 うん、だよね。

 ノア様に聞いてたけど、ふじやんの情報収集能力は反則だろ。


「藤原卿は、優秀ですね」

 ソフィア王女も会話に参加してきた。

「ソフィア王女は、なぜこちらに?」

「私はこのあとハイランド城へ来るように言われています。その前に、反乱に関する最新情報を集約しようと思いましたが……私たちよりはるかに多くの情報を、藤原卿が集めてくれました。ところで、勇者まことと佐々木あや。あなたたちは、九区街へ行ったそうですね。危険はなかったのですか?」

 心配をかけたんだろうか?

 表情は変わらないけど、声色から感じた。


「特に危険はなかっ……」

「大変でしたよ! 九区街の住人に追われるわ、地下水路ではアンデッドに襲われるわ! 高月くんは、新しいマップがあるとすぐ行きたがるんだから」

 俺の回答を、さーさんに遮られた。

 ん? 思い返すと、そこそこトラブル多かったか。


「今なんと言いました?」「佐々木殿! アンデッドですと!」「本当デスカ!?」

 全員から、総ツッコミされた。


「えっと、九区街に入ったらスラムの人たちに追われて……」

「そっちも気になりますが、アンデットとは!?」

「地下水路にスケルトンやゾンビがいっぱいいたんですよ」

 俺は簡単に、今までの話を説明した。


「地下水路がそんなことに……」

「カストール一家ファミリーの若頭デスカ!?」

麻薬ウィードが蛇の教団の資金源……」


 皆、驚くポイントが違った。

 特にソフィア王女が、難しい顔をして考えこんでいる。


「勇者まこと、私と一緒にハイランド城へ来てください」

「え? 何か食べたいんだけど……」

「一刻も早く、ノエル様の耳に入れておいたほうが良い情報ばかりです。特に、地下水路のアンデッドの件」

「もう、知ってるんじゃないですか?」

「それでも行きます」

 

 強制的に同行させられました。

 俺は呼ばれてないんだけど……。

 ちなみに、他のメンバーは留守番だ。

 さーさんたちに見送られつつ、ハイランド城のノエル王女に会いに言って。

 ふじやんの集めた情報と、俺の話をしたところ「すぐ会議をしましょう」とノエル王女が提案。

 この場を、開くに至った。


 ……腹、減った。



 ◇



 ソフィア王女が一通りの説明を終える。


「獣人共の反乱とは」

「恩知らずな家畜どもだ。やはり、我々の制度は生ぬるかったのだ。今一度、全て奴隷に戻すべきだ」

「それでは、大魔王復活の前に良い手とは言えぬ。木の国スプリングローグ火の国グレイトキースは、亜人が多い。彼らからの反発が入る」

「来年の北征計画にも影響が出るでしょう」

 

 ちなみに俺は一言も発言していない。

 居る意味あるの?


「細かいことは後にして、反乱の首謀者どもをさっさと捕らえ、処刑すればいいだろう」

 おっと、過激な発言入りましたよ!

 あなたの顔は知ってるよ、ジェラルドさんのお父さん!

 息子さんに似て、血の気が多い。

 逆か、父に似たのか。


「反乱を計画していたとはいえ、今は実行前。他国への配慮もありますので、計画の先導者は、国外追放ということにしましょう」

 温和そうなおじいさん……女神教会の教皇がやんわり発言する。

「それでいいんじゃないの?」

 終始つまらなそうにしているのは、第二王子か。


「それでは皆様、ソフィア様から提出いただいた反乱のリーダーのリストを元に逮捕、取調べをします。よろしいですか?」

「「「「「「……」」」」」」

 反論が無い。

 ノエル王女が、にっこりと「では、進めます」とまとめた。

 ノエル様が、会議の進行役なのか。



「では、次の議題へ」

「地下水路のアンデッドか……」

「これは王都を守る神殿騎士の怠慢では? ロマ教皇」

 性格の悪そうな大公爵が、教皇のほうを見てニヤリとする。

 さっき、ジェラルドの親父さんを煽ってた人か。


「緊急で神殿騎士団には地下水路の探索を命じております。しかし、これまで結界の張られている王都でこのようなことはなかった。原因の追究こそ重要では?」

「原因などすぐにわかるはずがない」

「いえ、簡単でしょう。アンデッドを創るのは死霊魔法。死霊魔法といえば呪われた月の属性。そういえば、先日、月の巫女を逃がしてしまった困った御方がおりましたな」

「あれは、月の巫女と蛇の教団の関係性を吐かせようと……」

 

 うろたえたような第一王子。

 彼が、ミスったのか?


「それで逃がしてしまっては元も子も無い」

「月の巫女は、先日、六区街で神殿騎士の一人と接触したという報告がありました。おそらく地下水路は関係ありますまい」

「何を言う。呪われた者は、薄暗い場所を好むものだ。ところでその神殿騎士はどうなったのだ?」

「……呪われていたよ。もう使い物にならん」


(ソフィア様、呪われていたとは?)

(月の巫女は、闇と呪い魔法の達人なのです。詳しいことは後で)

 闇魔法かぁ。

 ちょっと、憧れる。


「まあまあ、地下のアンデッドが脱走した月の巫女が原因とも限らん。ところで、アンデッドの強さはいかほどなのかが、問題だ」

「それについては、ここにいる勇者まことから説明を」

 おっと、俺が話すのか。

 全員の視線が、初めてこちらへ向いた。


「えーと、俺と仲間の冒険者二名で九区街から地下水路に入りました。もしかすると『蛇の教団』の手がかりがあるのでは、と思ったので。ただ、居たのはアンデッドだけです。倒した数は、50体ほど」

「……50体は多いな」

「しかし、冒険者二人で倒される程度の魔物だ。大した問題ではない」

「何を言う! そちらにおわす勇者殿は、我が国が誇る『稲妻の勇者』を倒された強者。彼にかかっては、どんな魔物もイチコロでしょう!」 

 さっきから、ジェラルドさんの話が出る度に、俺がバランタイン卿から睨まれるので、煽るのはやめてくれません?

 仲が悪いのだろうか? 悪いんだろうな。


「地下水路のアンデッドは、現在、神殿騎士1000名が討伐に当たってます。まもなく、全て駆除されるでしょう」

 ニコニコと話す教皇様。

 この人は、温和で話しやすそうだ。

 ノア様の言う、頭の固いというイメージが湧かない。


「では、あとは月の巫女を捕らえるだけだな」

「それも時間の問題でしょう。検問を固め、王都の外には絶対に出られない」

「しかし、地下水路では魔物避けの結界が弱まるのは盲点でしたな。改善をしませんと」

 雑談モードになった。

 俺の出番は、終わりか。



「最後に」

 ノエル王女が、皆を見渡した

「まだ、あるの? もう、いいよ。勝手にすれば」

 第二王子は、帰りたそうだ。


「王都の近くの森の魔物が、最近増加・活発化しているという報告がありました。魔物を使って村や街を襲うのは、『蛇の教団』の常套手段です。最近では、水の国の王都でも発生しました」

「蛇の教団には、武器も人数も足りないからな。魔物を使うくらいしか手があるまい」

「だが、悪くない手だ。特に最近の魔物は手ごわい」

「ふん、水の国の王都と我がシンフォニアを比べるなど、バカバカしい! 特に今は、太陽の騎士団、神殿騎士団、四天騎士団が集結しておるのだぞ。魔王が出ようと、恐れるに足らんわ!」


(あらー、これは魔王フラグかしら?)

 ノア様、聞いてたんですか?

 念のため聞きますが、大魔王はまだ復活してないのですよね?

(まだよ)

 ……信じてますからね?


「蛇の教団との関係性は、不明です。しかし、王都ホルン騒乱を引起こした彼らの次の攻撃目標が、王都シンフォニアになっていたそうです。楽観は危険でしょう。ユーウェイン殿、王都の守護はよろしくお願いしますね」

 ノエル王女が、騎士団総長へ視線を向ける。

 ずっと静かに話を聞いていた寡黙な男は「承りました」とだけ発言した。


「では、本日の会議は解散です。女神様へ感謝を」


 会議が終わった。

 疲れた……。



 ◇



「では、私はこのあとノエル様と話がありますから」

 ソフィア王女は、相変わらずの無表情で、去ろうとする。

 だけど。

(少し疲れてそうな……)


 ――まことさん、姉さまを助けてくださいね。

 レオナード王子が、言ってたな。

 俺で、元気付けられるのか、わからんけど。


「ソフィア王女」

「はい。どうしました?」

 振り向く顔は、冷たく美しい。

「今度、一緒にご飯に行きませんか?」

「!?」

「あ、よかったら、ですけ」

 

 がしっ! と手を掴まれた。

 ルーシーくらい熱い。


「約束ですよ」

「は、はい……」

 凄い勢いで約束された。

 多分、嫌がられては無い……よな?

 美味いもん食えば、元気になるかな?

 今度、ふじやんに良いお店を聞いておこう。


 ノエル王女の居る王族階へ行くソフィア王女を見送り、ハイランド城の階段を降りた。


(そういえば、ルーシーはまだ大賢者様のところかな?)


 また、血を吸われるかもと思って敬遠してたけど。

 折角だし、一緒に修行見てもらおうかな。

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