81話 高月まことは、勇者と戦う
「水の国のカス勇者が何してんだぁ? あぁ?」
それは俺に向かって言われた発言かと思ったが、どうやら違ったらしい。
そこに立っていたのは、黄金の鎧を着た目つきの鋭い騎士だった。
金髪に群青の瞳。
鎧の豪華な装飾から、かなりの高い地位の人物と思われる。
そして、相当性格が悪そうだ。
てか、ガラが悪い。
「おいおいおいおい。黙ってないで、何か言えよ、おい、クソガキ」
おい、が多いやつだな。
「レオナード王子、彼は?」
下を向いて俯いてしまった、レオナード王子に尋ねる。
「……太陽の国の『稲妻の勇者』ジェラルド殿です」
「ああ? ジェラルド『様』だろうが! 弱小カス国家の勇者の分際で、同格とか思ってないだろうなぁ」
なんだろう、この田舎のヤンキーみたいな勇者は。
桜井くんやレオナード王子と違って、品が無さ過ぎない?
「そこまで言わなくていいのでは?」
とりあえず、やんわりと仲裁してみる。
稲妻の勇者は、ゴミがしゃべったかのような目をした。
「何だお前? ゴミがしゃべんなよ」
口に出されたよ!
「高月くんは、水の国の勇者よ!」
「忌まわしき魔物を倒したんだからね!」
さーさんとルーシーが代わりに自己紹介をしてくれた。
自分で「僕勇者です」とか言いづらかったから、まあいっか。
「勇者……高月……」
男の表情が険しいものに変わった。
「おまえ、異世界から来た勇者か?」
「つい最近、拝命したばかりの新人勇者ですけど」
無難に応えておく。
「ツラ貸せよ」
お前はチンピラか!
まあ、見た目も発言もチンピラそものものなわけだが。
……一応、こいつ勇者なんだよな?
「何でしょう?」
男はそれに応えずに、俺の前に一本の木剣を投げつけてきた。
「手合わせしようぜ。心配すんなよ、手加減してやるから」
ニヤニヤと、嗜虐的な笑みを浮かべる。
うーん、嫌な予感しかしませんねー。
「まことさん! いけません、彼はそうやって気に入らない者をいたぶるのが趣味なんです!」
レオナード王子が叫んでくる。
まあ、そんなことだろうと思ったよ。
「うるせーな、カスが。俺はお前くらいの年齢の時には、魔物や竜を百匹以上狩ってたんだよ。自分の国のダンジョンに忌まわしき魔物が出たのに、家で震えているようなクズは引っ込んでろ」
「……くっ」
レオナード王子が悔しそうに震えている。
しかし、そっか。
レオナード王子は、子供だからダンジョンに行かないのは普通だと思ってたけど、太陽の国の勇者は9歳でも働かされるんだな。
この国に労働基準法はあるんだろうか? 無いか。
「おい、どーすんだよ。勇者はその国の力の象徴だ。まさか、断らねーよなぁ?」
稲妻の勇者氏が、煽ってくる。
「それとも、後ろの娼婦みたいな魔法使いか、まな板みたいな胸の格闘女でもいいぞ。つーか、勇者のお前より後ろの女どものほうが強いんじゃないか?」
なんだと、この野郎!
まあ、当たってるんだけどね。
後ろの二人のほうが強い。
ただ、仲間をそんな風に言われると、むかっとなる。
「高月くん、いいよ。代わりに私が相手するよ」
さーさんが、イラッときたのかやる気を出している。
「ねえ、こいつに隕石落とし喰らわせていいよね?」
ルーシーまで! ああ、むしろさーさんより短気だったか。
「まあまあ、ちょっと待って。俺が相手すればいいんですよね?」
「おう、最初からそういってるだろグズが。とっとと、こいよ、おら」
なんだろう、この大陸で最大の国の首都にいるはずなんだけど。
民度低くない?
あ、勇者だし貴族か。
貴族度低くない?
「まことさん……すみません。僕のせいで」
「何ってるんですか、あいつが頭おかしいんですよ」
「彼は……元々、太陽の国の勇者代表でした。それが、異世界から来た『光の勇者』桜井さんに、立場を奪われて以来、あんな調子のようです。まことさん、無理しないでください……」
「あ~……なるほど……」
桜井くんに追い抜かれちゃったクチかぁ。
可哀想に。
しかし、こんな小さな子供に八つ当たりは、みっともないだろう。
訓練場の真ん中には、稲妻の勇者氏が腕組みをして待っている。
……そんな、ど真ん中に行かなくても。
周りの戦士たちが、「なんだなんだ」とこちらに注目しだした。
嫌だなぁ。
俺もゆっくりと、そちらに向かう。
正直、帰りたい。
「稲妻の勇者ジェラルド・バランタインだ」
木剣を構えながら、男が名乗った。
げっ、バランタイン家って逆らっちゃ駄目な貴族じゃなかったっけ?
太陽の国の五聖貴族の一つ。
その格は、太陽の国
さっきからレオナード王子に、無礼な口調を平気で言うと思ったらそういうことか……。
めんどうなやつに、目をつけられたなぁ。
「えっと、水の国の勇者高月まこと……」
名乗るのがマナーなんだよな? 多分。
俺は剣を使わないので、その場にあった杖を借りた。
「魔法使いか……、そのカスみたいな魔力で、よく勇者名乗ってるな」
バカにするように言ってくる。
さっきから、さーさんやルーシーのほうが強いと言ったり。
俺の魔力量が少ないのがわかるってことは、鑑定スキル持ちか。
「おら、行くぞ!」
開始の合図もなく、いきなり突っ込んできた。
き、消えた!?
回避スキル!
間一髪、ジェラルドの放つ一撃を避ける。
耳元を、ぞっとするような風切り音が通り過ぎる。
こ、こいつ。
これで、手加減してるってのか?
「なんだ、その亀みてーな避けかたはよぉ!」
「がはっ」
肩あたりに、強烈な衝撃が走る。 蹴られた!?
回避スキルを使ったあとの、一瞬の硬直時間を狙われた。
「おら! 終わりだ」
更に追撃をかけようとしてきたところを
(水魔法・氷針)
「ちっ!」
切り札の一つの、無詠唱、目潰し魔法をあっさり避けられる。
以前、さーさんにも避けられたし、ある程度のレベル差があると効かないかぁ。
「ゴミみてぇな攻撃しやがって」
くそっ、攻撃がほとんど見えない。
とにかく、剣の攻撃のみを避けることに集中して、それ以外の攻撃はくらってもいい。
「げほっ」
また、回避スキル後のあとを狙われた
今度は背中を蹴られる。
回避! 回避! 回避!
「めんどくせーな! とっとと這いつくばって、詫びいれろや! お前みたいな、ゴミが勇者名乗るんじゃねぇぞ、おぃ!」
好き勝手言いやがって!
回避スキルで避けているはずだが、傷が増えていく。
木剣のはずなのに、金属で切られたような切れ味だ。
闘気をまとうと、こうなるのか……。
「おいおい、剣一本で終わっちまうぞ。せめて、魔法剣スキルくらい使わせろよ」
この野郎。
(水魔法・霧)(水魔法・氷針)
霧で視界を隠しつつ、もう一度目潰しを狙うが。
「うぜぇ!」
勇者が叫ぶと、突風が巻き起こり回りのものを全て吹き飛ばした。
無茶苦茶かよ!
「おら!」
速っ!?
「っ!?」
――ドン! と間近で爆弾が爆発したような衝撃を受けて、吹っ飛ばされた。
口の中が切れたのか、血の味が広がる。
胃の中が逆流しそうなのを、なんとか抑える。
もう一回くらったら、意識飛びそう……。
「高月くん!」「まこと!」「まことさん!」
ルーシーとさーさん、レオナード王子が駆け寄ってきた。
「あんた! いい加減にしなさいよ! まことは、魔法使いなのよ!」
「いいよ、ルーシーさん。次は、私が相手するから」
「まことさん……、僕も一緒に」
ルーシーとさーさんが、怒りの声を上げて、俺と稲妻の勇者の間に入る。
レオナード王子は、涙目だ。
「あー、ちょっと、待って待って、三人とも。まだ、俺大丈夫だから」
正直、身体は悲鳴を上げているが、なんとかふらふらと立ち上がる。
「……おまえ、バカだろ」
心底、バカにしたような声で話してくる稲妻の勇者。
「おい……まずいんじゃないか?」「ジェラルド様は、前も気に入らないヤツをリンチにしてたし……」「彼は、水の国の勇者だろう、問題になるぞ……」「誰か、ノエル王女を呼んで来い」「とっくに、呼びに行ったよ」
ざわざわと、そんな声が聞こえてくる。
こいつ、いっつもこんなことやってるのかよ……。
ろくでもねーな。
「おい、どーした? 全員でかかってこいよ。俺が勝ったら、その二人の女は貰ってやるよ」
ゲスい笑みを浮かべる、稲妻の勇者ジェラルド。
……これが、太陽の国の勇者かぁ。
「女共。俺様のベッドで、可愛がってやるよ。光栄に思え」
「誰が、おまえなんかと……」「こいつ最悪」
ルーシーとさーさんが、小さく罵倒する。
「戦うのは、俺一人だ」
俺はさーさんとルーシーを押しのけて、前へ進む。
「駄目だよ! 高月くん」「ねぇ、一緒に戦いましょう! まこと」
「大丈夫だから」
泣きそうな二人に微笑み、俺は前に進む。
駄目だな。
仲間にこんな顔をさせちゃ……。
――ああ、正直、
まだ、『明鏡止水』スキルは50%で発動中だってのに。
「高月くん! 大丈夫か!?」
「勇者まこと!」
誰か来た。
身体の痛みを我慢して、後ろをみると桜井くんやソフィア王女の姿があった。
みっともないところ見られちゃったなぁ。
「今すぐ、やめなさい!」
ノエル王女が、厳しい表情で止めに入る。
「……ノエルか」
苦々しげに、呟くジェラルド。
「何をしているのですか。彼は、水の国の勇者ですよ。このようなこと、許されると思っているのですか!」
「うっせーな。引っ込んでろよ!」
おいおい。凄いな。
ノエル王女は、太陽の国の第一王位継承者。
西の大陸の最高権力者候補のはずだけど。
こんな、口調が許されるのか?
……いや、そんなことより
「ノエル王女。これは、ジェラルド様と俺で同意した試合でして。最後まで、やらせてもらえませんか?」
「勇者まこと! 何を言っているのです!」
珍しく、ソフィア王女が大声を上げている。
「高月くん……」
不安げな表情の、桜井くん。
悪いね、心配かけて。
「水の国の勇者、高月様。危なくなったら止めますよ?」
ノエル王女が、真剣な目で見つめてくる。
「……ええ、助かります」
こちらを気遣うノエル王女に、礼を言う。
そして、腕組みをしている稲妻の勇者に向き直った。
「稲妻の勇者、ジェラルド。俺はこれから『とある』魔法を使うから、それを避けきったらそちらの勝ちってのはどうだ?」
「はぁ? くだらねぇ。んなもんがあるなら、とっとと使えよ、ゴミが。俺が勝ったら、お前の腕を一本切り落としてやるよ」
げ、マジで言ってるのかこいつ。
「そんなことはさせませんから、ご安心を」
ノエル王女が言ってくれるが。
目の前のドS勇者は、本気で腕を切り落としてきそうだ……。
「じゃあ、みなさんは、離れてください」
「くだらねぇ、くだらねぇ。強力な魔法は発動まで時間がかかるんだよ。発動前に、俺に斬られて終わりだ」
周りの人が、俺達を取り囲むように輪を作る。
……もうちょっと、離れて欲しいけど。
まあ、いっか。
「おら、早くしろよ。そのカスみたいな魔力で」
「では、お言葉に甘えて」
――俺は『明鏡止水』を0%にした。
「くたばれや!」
ジェラルドが、一瞬で距離を詰める。
(水魔法・水龍)
その剣が届く前に――俺を中心に、巨大な水柱が吹き上がった。
俺がはなった
(みんなを呼んできたよ) (もっと呼ぼうよ) (キミ痛いの?) (大丈夫?) (あいつにやられたの) (あいつムカつくね) (やっちゃえ) (手伝うよー)
(ほら、遊ぼう)(わーい) (違うよ、あいつをやっつけるんだよ) (もっと、たくさん呼ぼうよ) (ねぇ、うで大丈夫?) (痛そうー) (かわいそうー)(許せないねー) (ねー) (ぼくらと遊ぼう)
(もっと呼ぶよー) (ともだちたくさんきたー) (ほらー) (わーい) (はやく、魔法つかってー) (はやくはやくー)
(ねぇー)
(ほらー)
(わーい)
――精霊たちの大合唱が耳に届く
みんな、自由気ままに話している。
戦いの最中に、ずっと精霊に話かけ続けて、だんだんと増えていった。
いまや、沢山の青い精霊たちが俺の周りを飛び回っている。
俺は彼らの持っている『無限のマナ』を少しだけ借りる。
彼らの魔力で、超級魔法を撃ちつづける。
「邪魔くせぇんだよ!」
稲光のような光と、彼を中心に大きな竜巻が巻き上がる。
水龍が、ジェラルドに近づけない。
水龍の群れの中を掻き分けながら、突き進んでくる稲妻の勇者ジェラルド。
腐っても勇者だな。
超級魔法程度じゃ、止まらないか。
ジェラルドに向かって、俺は言った。
「じゃあ、これからでかい魔法を使うんで」
「……あん?」
一瞬、怪訝な顔をした稲妻の勇者ジェラルドの顔を見ながら。
――精霊ってね。感情をさらけ出したほうが喜ぶのよ。
ノア様のセリフが、蘇る。
俺は
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