74話 フジワラ商会は、王都で人気である

「おーい、フジワラ商会から食事の差し入れがきたぞー」

「それだけじゃない、衣類も貰えるって」

「子供が幼いから助かるわ……本当に」

「商会の店員さんは、みんな可愛い獣人ばっかりだし、癒されるなぁ」

「俺も入社しようかなぁ……」

「男の採用条件は厳しいらしいぞ」


 現在、王都ホルンは魔物の被害から復興中である。

 巨人が暴れていたエリアがもっとも破壊が大きい。

 それ以外の大型の魔物に家を壊され住む場所を失った人々も大勢いる。

 国や教会が、避難民たちに仮住居を提供しているが、物資が足りない。

 特に食べ物と着るものだ。


 それをいち早く読み、サポートしているのがフジワラ商会、つまりふじやんの経営する会社だ。

 ……いや、まじで凄過ぎでしょう?

 本当に、俺と同い年ですか?


 王都で魔物が暴れる事件が発生したその日に、飛空船でマッカレンに戻り、ありったけの物資と人材をかき集めて戻ってきたらしい。

 他の貴族や商会が、数日後にやっと救援の人材や物資を寄越したころ。

 王都の避難民には、全てフジワラ商会の商品が行き届いていた。


「ふじやんさんって、凄いわね!」

 ルーシーは、避難民の子供達が楽しそうに遊んでいるのを、眺めながら言ってきた。

「はーい、順番守ってねー。割り込みは駄目だよー」

 さーさんは、子供たちにお菓子を配っている。

 そーいえば、さーさんは弟が4人も居たっけ?

 馴れた様子で、子供達の相手をしている。


 ここ数日、俺とルーシーは、冒険者たちと一緒に瓦礫の片付けとか、家の修復を手伝っていた。

 しかし、魔法がある世界は良いね。

 でかい瓦礫も、『浮遊魔法』とかいうので、さくっとどかせてしまう。

 俺やルーシーは、当然そんなものは使えないので、地道な掃除だ。

 一応冒険者ギルドから報酬は出る。


 さーさんは、料理が得意なのでニナさんたちと一緒に、食事作りのボランティアをしたり、子供達の相手をしたりしている。

 こっちはさーさんが自主的に、名乗り出ていた。

 俺とルーシーは今日の仕事を終えて、夕食前にさーさんを迎えに来たところだ。

 

「はーい、じゃあ。これで最後ね。あ! 高月くん、ルーシーさん」

「お疲れ、さーさん」

「大変ね、あや」

「ううん、子供と遊ぶのは楽しいよ」

 連日だと大変だろうに、疲れる様子も無く笑顔のさーさん。

 えらいなぁ。


「そろそろ宿に戻ろう。今日あたり、ふじやんも戻ってくるんじゃないかな」

「ずっと、色々動き回ってるみたいだものね」

「ニナさんも声かける?」

「うーん、ニナさんは、お店の部下たちの面倒みないといけないみたい」

「大変……、もうすぐ新婚なのに」

「ねぇ」

 女性二人が、気の毒そうに見ている。

 そっか、確かにニナさんは、ふじやんの婚約者なんだよな。

 クリスさんもだけど。

 それが、こんな事件に巻き込まれるってのはついてないよな。


「じゃあ、俺たちだけで戻るか」

「うん」「はーい」

 今日の仕事を終え、俺たちは宿に戻った。



 ◇


――夕食時。


「いやー、やっと皆さんに会えましたな」

 はっはっは、と軽快に笑うふじやんが居た。

 隣にはクリスさんが、ぐったりしている。

 

「大丈夫ですか? クリス」「あぁ……、ニナ。久しぶりですね」

 ニナさんがクリスさんを気遣ってるので大丈夫かな。


「藤原くんのおかげで、子供たちは家が無くても元気そうだよ」

 さーさんが、笑顔だ。

「佐々木殿には、ニナ殿を手伝っていただいたようですな」

「助かりましタ! 佐々木様は、子供の扱いがお上手で」

「弟の面倒たくさん見てたからねー」

 照れるように頭をかいてるが、流石だと思うよ。ほんと。

 王都の子供達は、みんなさーさんを慕ってたし。


「ところでタッキー殿。聞きましたぞ! 何でも、あの忌まわしい魔物を倒されたとか!」

 ふじやんが、どこで聞きつけたのか先日の話題を振ってきた。

「おいおい。滅多なことを言っちゃ駄目だよ、ふじやん。あれは氷雪の勇者レオナード王子とその場に居た冒険者が、んだ」

 少しおどけた感じで、俺は答えた。

 

――忌まわしき魔物は、勇者によって倒された。


 現在、王都の民にはそのような話が流布されている。

「幼い勇者が、魔物に負けるところだった」なんて噂が広まった日には、王都の民が怯えてしまう。


 それを配慮した王族と冒険者ギルドによる打ち手だ。

 王都のギルド長じきじきに、巨人との戦いの場にいた冒険者たちに低姿勢でお願いをされた。

 無論、口止め料は王族依頼とあって高額だ。


「まことったら、また自分の手柄を譲っちゃって」

 ルーシーが呆れ気味に苦笑している。

「でも、そーいうのってカッコいいね! 影からみんなを守るヒーローみたいな」

 さーさん、良いこと言うね。


「そもそもあの巨人が倒せたのは、ソフィア王女のおかげだよ。別に手柄を譲ったわけじゃないよ。王族が倒したみたいなもんだ」

「……ソフィア王女に同調魔法をされたのですよネ? 高月様、なんと恐れ知らずな」

 ニナさんが、はわわという顔をしている。

 まあ、緊急事態だったんで、しゃーないですよ。


「同調って、あれよねー」

 ルーシーが、過去の経験を思い出したのか難しい顔をしている。

「何かあったのですか?」とクリスさん。

「昔ルーシーと同調したら全身火傷を負ったんですよ」

「はぁ……それは。大変でしたね」

 クリスさんが、驚いたようなピンとこないような顔をしている。


「なあ、ルーシー。手出して」

「え? なによ?」と言いつつ、右手を伸ばしてくれる。


 それの手を掴みつつ「同調」した。


「はうっ!」ルーシーがびくんとなり。

「熱っ!」俺は熱湯を浴びたような、熱気に襲われた。


「な、何するのっ!」

「あー、ごめん、ごめん。俺の熟練度が上がったから、もしかしたらルーシーとの同調うまくいくかと思ったけど……。全然無理だわ」

 なんか、ルーシー前より魔力が荒ぶってない?

『火・水・木・土』魔法が使える大魔道スキル持ちだから、同調はできるはずなんだけど。

 身体の相性悪いなぁ。

 そう考えると、ソフィア王女とは相性良かったのか。


「変態」

 顔を赤らめたルーシーが、ジト目で呟いた。

「失礼な」

 いや、いきなり同調はデリカシーなかったかな?


「ねー、ねー。私もやってみて」

 さーさんが手を掴んでくる。

「やめといたほうがいいわよー、あや。ぞわぞわってなるから」

「まあまあ、いいからいいから」

 下からぱちっとした目で覗き込まれる

 さーさんは、魔法使いスキル無いからどうなるんだろう。


「同調」

――だが、何も起きなかった。


「……何ともないよ?」

「うーん、魔法スキルが無いと駄目みたい」

「なーんだ、つまらないー」

 さーさんのステータスは、近距離パワー型だったからなぁ。

 魔力は、一般人並だったはず。


「高月様、高月様。私は土魔法・中級と水魔法・初級を持ってますヨ」

 ニナさんまで、興味を持ったのか手を伸ばしてくる。

 てか、水魔法持ってたんですね。

 使ってるのを見たことなかった。

 使わないか、水魔法弱いし。

 

 差し出されたニナさんの手を掴もうとして……


『ニナさんと同調しますか?』


 はい

 いいえ ←


 ……何だろう。

 この選択肢は。

 ルーシーや、さーさんの時は出なかったのに。


 目の前には、ワクワクとした顔のニナさんが。

 ウサギ耳が、ぴょこぴょこ動いている。

 この人、ふじやんの奥さんになるんだよな?

 理由はわからないが、『はい』は、止めておいたほうが良い気がする。

 なんとなく、嫌な予感がする。


「ルーシーは大魔道スキル持ちなんですが、さっき同調失敗したのでやめておきましょう。調子が悪いみたいです」

「そうですカー」

 がっかりした顔のニナさん。


(NTRのチャンスだったのに)

 何を言ってるんですか? 女神様。


 ◇


「ところで、今回の騒動。裏にいたのが、魔人族だったようですぞ」

 しばらくして、ふじやんがそんなことを言ってきた。

「魔人族?」

 なんだっけ? それ。


「それなにー?」

 さーさんも知らないようだ。

「魔人族というのは、魔族と人族の血が混じった種族を指します。千年前の暗黒時代、魔族が地上を支配して人族が奴隷として生かされていた時代に、多く生まれたようです。彼らはその生き残りですね」

 クリスさんが説明してくれた。


「魔人族は、国を持たない種族。というより国を持ったことが無い流浪の種族ね。千年間、西の大陸と北の大陸を転々と移り住んできた。現在は、月の国の廃墟に多く住んでいると言われてるけど……」

「魔人族は、人族と魔族、どちらにも嫌われている種族なのデス」

 ルーシーとニナさんが補足してくれた。


「はあ……異世界にも人種問題ってあるのか」

 どこの世界でも変わらないね。

「今回の事件を起したのが、彼らなの?」

「佐々木殿。そうなのです。実はその背後関係を調べていて、数日かかってしまったのですぞ」


「「「え?」」」

 王都の避難民の救援をしつつ、そんなことまでしてたの?

 何この人、チート怖い。 


「そうなんですヨ! 旦那様が、避難民の中から急に犯人を見つけ出してですネ!」

「私は恐ろしかったですよ。もしニナより強かったらと思うと……」

 興奮した様子のニナさんと、少し怯え様子のクリスさん。


「それでそれで?」

 さーさんが、続きを聞きたがっている。俺も気になる。

「いえいえ、騒ぎを引き起こしたらしい魔人族を騎士団に引き渡して終わりですぞ」

 ふじやん笑いながら答えるが。


「うそはいけませんよ、藤原様。魔人族の男を騎士団に引き渡した時、彼らのアジトの場所まで正確に、騎士団に伝えていたではありませんか。あの時の、魔人の引きつった顔はよく覚えています。一体、いつの間にそんなことをまで調べていたのですが……」

 クリスさんが、呆れ気味につっこんだ。


 これは、あれか。

 ふじやんのチートスキル『読心』が活躍しまくってますね。

 

「いやいや、そんな大したことしてませんぞ。タッキー殿に比べれば危険は少なかったですからな」

 謙遜するふじやんだが、マジ半端ないわぁ。

 

 俺たちはそれぞれの無事を祝いつつ。

 久々の皆揃っての食事を楽しんだ。



 ◇



――翌日、ローゼス城から、呼び出しがあった。


 その場を仕切るのはクールビューティーなソフィア王女だ。

 この人も、働きづめだろうに。大変だな。


「商人藤原。この度の王都への貢献、大儀でした。民への大量の物資の寄付。さらに裏で動いていた魔人族の逮捕の協力まで。おかげで、多くの民の命が助かりました」

水の国ローゼスに住む者として当然のことですぞ」

 うやうやしく頭を下げる、ふじやん。

 大したもんだなぁ。


「何か望みはありますか?」

「実は、この度マッカレンのご息女のクリスティアナ様と婚約をすることになりまして」

「そうですか」

 ソフィア王女は、驚くことなく続ける。


 え? ここでそんな重要なこと言っていいの?

 って思ったんだけど。

 後で聞いたことだが、数日前にマッカレンに戻っていた時に、クリスさんはふじやんとの婚約を実家に報告していたらしい。

 随分問い詰められたそうだが、王都が緊急事態ということで、急ぎ説得したそうだ。

 そりゃぐったりしてるわけだ。


「爵位と領地をいただけるのでしたら、マッカレンの近くを希望いたします」

「よろしい。では、そのように手配しましょう。追って詳しい内容を伝えます」

「ありがとうございます」

 話はついたようだ。


 これで、ふじやんは貴族の仲間入りかぁ。

 しかも奥さんが二人。

 ……なんか、ふじやんがすげー遠くに行ってしまった気分だ。

 なんだろう、この気持ち。


 忘年会で久しぶりにあった昔の友人が、ベンチャー社長になってたみたいな? 

 違うか。


「次に、高月まこと」

 ソフィア王女に呼ばれ、前へ進む。


「この度の、忌まわしき魔物の討伐大儀でした」

 あれ? レオナード王子が倒したことになってるんだけど、いいの?

 

 周りを見ると、レオナード王子がキラキラとした目で見ている。

 まあ、身内ばっかりだし、緘口令かんこうれいは敷いているのだろう。


――ここで、ソフィア王女が少し息を吸った。


 何だろう?

 俺は爵位とか、要らないのでお金でいいですよ。 

 あー、でもなぁ。

 ふじやんは、貴族だし……とか、ぼーっと考えていると。




「高月まこと。あなたに、水の国ローゼスの勇者の称号を与えます」

 ソフィア王女が、淡々と告げてきた。




 ……は?

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