65話 高月まことは、元・守護騎士と再会する

「貴様が、なぜここにいる!?」

 元・水の巫女の守護騎士が、こちらに大股でやってきた。


「そちらこそ、クビになったって聞いたけど?」

 ソフィア王女が、嘘をついていたのか。


「その通りだ! 貴様のせいで、栄誉ある巫女様の守護騎士の任を外れ、今は王宮の見回り騎士隊長だ!」

 ああ、部署異動か。

 クビになったわけじゃ、なかったんだな。

 確か「守護騎士を辞めてもらいました」って言ってたしな。

 あの性格の悪そうな王女のお付きより、王宮見回りとかのほうが楽そうでよさげだけどな。

 

「そうか、マッカレンの冒険者が国王に謁見されていると聞いたが、貴様らか。ということは、王宮仕えの栄誉を賜ったわけだな」

「いや、俺は爵位はもらっていないから……」

「ならば、本日より我らの同僚。こちらへ来い! 騎士道をたたきこんでやろう」

 こいつ、話聞いてねぇー。

 なんか、知らない間に訓練場らしき場所に連れて行かれた。

 ルーシーとさーさんも一緒だ。


 ◇


「さあ、好きな武器を取れ! 魔法使い用の杖もあるぞ!」

 確かに使い込まれて、ボロボロの武器(木製)が並んでいる。

 どうしたもんかな。

 うーむ、『RPGプレイヤー』視点でまわりを見渡すと。


(せ、精霊が全然居ない……)


 水の国ローゼスは、政教一致の国だ。

 ローゼス城は、王城であるとともにこの国最大の教会でもある。

 なんでも、王族は数年の司祭経験があるんだとか。

 王女が、教会の巫女だしな。


 おかげでローゼス城は、聖神様の威光が隅々にゆきわたり、精霊には大変住み辛い環境のようだ。


(まあ、俺は爵位を貰ってないから、こいつらの同僚でもなんでもないし、理由を言って断ることもできるが……なんか、しゃくだな)


 そんなことを考えていると、後ろから声が上がった。


「高月くんと戦いたいなら、まずは私が相手になるよ!」

 さーさんだ。


「誰だ、貴様は? 高月まことの仲間か」

「佐々木あやよ、はじめまして。高月くんは、私たちのパーティーのリーダーだから、先にメンバーの私が相手になるわよ」

 さーさんが、びしっと決めている。

 が、花柄のシャツにスカート。

 元の世界の服装に近い格好。

 この世界だと町娘のようなさーさんに、元・守護騎士の男は呆れたように言った。


「冒険者仲間と言うわけか、女子供を我が相手をするのは、騎士道に反する。おい、おまえが相手をしてやれ」

「はいっ!」

 ほう、騎士道とはかっこいいことを言う。

 前に出てきたのは、女騎士だった。

 

「私はこの武器を使おう」

 女騎士が選んだのは、一本の木刀。

「私は、素手でいいわ」

 さーさんは、何も持たずに前へ出た。

 女騎士が、不機嫌な顔になる。


「怪我をしても知らんからな。剣道三倍段という言葉を知らないのか」

 いや、何でそっちが知ってんだよ。

 俺らの世界の言葉だぞ。

 と思ったが、どこの世界でも共通認識なのかもしれない。

 素手より、武器を持っているやつのほうが強い。

 普通は。


「冒険者らしいな、ランクは?」

 女騎士が、剣を構える。

「ストーンランク? だっけ、高月くん」

「そうだよ」

 さーさんは、だらりとした自然体だ。


 というか自分の冒険者ランクは覚えておこうね、さーさん。

 訓練場にいた騎士たちが、わらわら集まって見学している。

 ストーンランクという声を聞いて、同情するような顔をしていた。

 皆、さーさんの負ける姿を想像してるのだろう。


「始めろ!」

 元・守護さんが掛け声を上げた。

「ストーンランクとは……。一撃で、決めてやろう!」 

 女騎士が、さーさんへ突っ込んで行く。

 なかなかのスピードだ。

 さーさんは、特に動かない。

 女騎士が、剣を振り上げ――


 ぺしっ! という、ちょっと間抜けな音がして、女騎士は5メートルほど吹き飛ばされた。

 さーさんの、張り手で。


「あれ? やり過ぎたかな?」

 さーさんが、頭をかいている。


「「「「……え?」」」」

 元・守護さんと訓練場にいた騎士さんたちの目が、丸くなっていた。


「あや、凄いわね!」

 ルーシーがぴょんぴょん跳ねて、喜んでる。

 まあ、当たり前だわな。


「で、次は? ちょっと、弱すぎるんだけど?」

 さーさんが、あたりを見渡した。

 挑発だと受け取られたのか、場の空気が剣呑になる。


「次はおまえだ。行け」

「はっ!」

 次に、出てきたのは大柄の男だ。

 騎士道は、どこ行った?


 まあ、15秒後には、そいつも吹き飛んでいたわけだが。


「つ、次だ!」

 元・守護騎士が次々に、部下らしき騎士を指名するが、全てさーさんが叩きのめしてしまう。


「な、なんて強さだ」「これでストーンランク……」「マッカレンの冒険者は化け物ぞろいか……」

 違いますよ。マッカレンは、平和な田舎街です。


 さーさんは、ラミア族である。

 ラミア族は、中位クラスの魔物とはいえ、人間に比べれば身体能力は高い。

 そして、異世界転生者であるさーさんは、ステータスが通常のラミアの10倍だ。

 かつ、スピードや攻撃力が3倍になる強スキルまで持っている。


――あやちゃんの身体能力だけなら、勇者なみだから。

 ノア様の台詞が蘇った。

 まあ、勝てんわな。

 というか、大迷宮で俺が高月まことだと気づいてもらえなかったら、俺もこうなっていたのだろうか……。怖い。


 ぼーっと、見ていたら訓練場に居た全ての騎士が全員、さーさんに倒されていた。

 残るは、元・守護騎士の男だけだ。


「最後は、あなたね」

 さーさんは、息ひとつ切らせていない。

 ……俺のクラスメイトはチート持ちばっかりだ。


「き、貴様、卑怯だぞ! 女に戦わせて、自分は高みの見物か! 高月まこと、貴様が戦え!」

 おお。俺に矛先を変える作戦か。

 頭、良いね。

 さーさんは、格闘技だと間違いなくうちのパーティ最強だからな。

 残り二人は、魔法使いだし。


「……何言ってるの?」

 空気が変わった。

「あ、あや……?」

 ルーシーが、少し怯えた声を出す。

「さーさん? どしたの?」

 まあ落ち着いて、と言おうとして俺も感じた。

 大迷宮でした時のような、プレッシャーを。


 これ……『威圧』スキルか。

 獣人族が得意と聞くけど、ニナさんに教わったのかな。

 倒された騎士たちが、青ざめて震えている。

 最初に吹き飛んだ女騎士は、膝をがくがくさせて、へたりこんでいた。


「あなた、昔の高月くんに、酷いことしたのよね?」

「さーさん。あれは、ちょっと大げさに言っただけだからさ」

 さーさんやルーシーにはよく「水の神殿でソフィア王女や守護騎士の男にバカにされてさ」と、酒の席で愚痴っていた。

 それを、覚えていたみたいだ。


 さーさんからのプレッシャーは、どんどん増していく。

「わ、我は、その……」

 哀れ、元・守護さんはまともに喋れていない。


――ドンッ!!


 さーさんが、床の石を踏み抜いた。

 石の床は砕け、円状に巨大なヒビが広がる。


「……うそ」「あれ、魔法強化された石畳だぞ」「やばい、あんなのに蹴られたら……」「……死ぬって」


 周りの騎士から声が聞こえてきた。

 おっと、どうやら高級な石床みたいですよ。

 弁償とか、させられないよね?


「あなたには、私の全力を見せてあげるから」

 さーさんが、初めて構えを見せた。

 あれは『アクションゲームプレイヤー』のダッシュスキルと溜めスキルを出す時の構えか。


 ハーピー女王の身体に、大穴を開けたさーさんの必殺技だ。

 ……いや、駄目だろ。

 相手、死んじゃうって。


 俺のために怒ってくれるのはうれしいが、さすがに死人が出るのはまずいので止めに入ろうと思って。


「何をしているのですか」


 涼やかな声が響いた。

 はっとしたのか、さーさんの『威圧』スキルが静まる。

 よかった。


「なんですか、この騒ぎは」

 やってきたのは、ソフィア王女でした。

 もう会わないって思ってたのに、さっそく会いましたね。

 ソフィア王女は、俺たちを見てやや不機嫌そうに言った。


「異世界の勇者さま方。訓練をつけていただけるのは、ありがたいですが、我ら水の国ローゼスの騎士は弱いので。ほどほどにしてくださいね」

 なんと言ってよいかわからず、俺たちは小さくうなずいた。

 元・守護さんが凄い情けない顔をしているのが印象的だった。


「あ、あの! あなた方が大迷宮を救った冒険者さまですか?」

 ソフィア王女の後ろにいる、10歳くらいの少年に、話しかけられた。

 騎士のような格好だが、よく見ると身に着けている素材が違う。

 ……あれは、高級品だ。


「はじめまして、高月まことです。こちらが、仲間のルーシー・J・ウォーカーと佐々木あやです」

 ルーシーとさーさんが、ぺこりと頭をさげた。 


「はじめまして。レオナード・エイル・ローゼスです」

 胸の前に手をかけ、貴族流の挨拶をされた。


 エイルは、水の女神様の名前。

 そして、ローゼス王家の苗字。

 つまりこいつは。


「レオナード王子!?」

 ルーシーが、驚愕の声をあげる。

 やっぱり、王子様か。

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