64話 高月まことは王都ホルンへ到着する

「あれが水の国ローゼスの王都ホルン。それと中央にそびえるローゼス城か」

 その姿が、飛空船の上からだんだんはっきりしてきた。


「大小、千以上の噴水と花に囲まれて、この大陸一美しいと言われている城ですね」

 クリスティアナさんが、補足してくれる。


「でも、あの工事中の城壁は不恰好ねー」

 さーさんの言う通り、みやこ全体を大きく取り囲むように建設中の高い壁が、景観を壊している。


「大陸有数の観光名所であるホルンは、最低限の防衛設備しか有せず、景観の維持に努めておりましたからなぁ」

「デモ、数年前に予言された大魔王の復活を受けて、急遽、城壁を強化中なのですヨ」

 なるほどねぇ。

 最近は、魔物が活発化、凶暴化しているっていうし。

 大変だな。

 

「ねぇねぇ、都に着いたらどこに行くの?」

 ルーシーは、うきうきした様子で聞いてくる。


「まずは、城に行って王様に挨拶するよ」

「期日までには、余裕があるんじゃないの?」

「7日以内に来い、って書いてあったから早めでもいいんじゃないかな」


 面倒なことは、先に終わらせてしまいたい。

 都の探索は、あとでゆっくりできるしな。


「では、そろそろ降りましょう」

 ふじやんの声で、みんなうなずいた。


 ◇


――百花の大通り。

 王都ホルンの正門から、ローゼス城までまっすぐ伸びている大通りだ。

 その名の通り、道の脇には様々な花が咲き誇っている。

 ヨーロッパの街並みを思わせる、レンガ造りの建物。

 通りは、大勢の人で賑わっている。

 道歩く人々は、人種様々で、人間族、獣人族、エルフ、ドワーフらしきひとたち。

 大人、子供、老人が入り混じって歩いている。


 マッカレンも似た感じだが、ここの人たちは少し雰囲気が違う。

 なんというか、洗練されているのだ。

 服装といい、しゃべりかたといい。


「なんか、田舎から都会に出てきたって感じがする」

「ははっ、初めて王都に来た時、拙者も同じことを思いましたぞ」

 ふじやんが、笑いながら言った。


「ちょっと、ちょっと」くいくいと、ルーシーが袖をひっぱってきた。

 その先にいるのは。

「あ……すいません、クリスティアナ様」

 しまった。マッカレンの領主様の娘が居たよ。


「いいんですよ。王都に比べれば、マッカレンは田舎街ですから」

 苦笑だけで、許してくれた。

 

「ねー、あれってなにー?」

 ナイス、さーさん。話題を逸らしてくれた。

 指差す先には、広場に張られた、でっかいテントが見える。

 なんだろう、あれ。

 前の世界では、あーいうテントは……。


「あれは『魔物使いのサーカス団』ですネ。大陸中を回る、雑技集団ですヨ」

「拙者は、昔一度見ましたが、なかなか見事なものでしたなぁ」


 やっぱりサーカスか。

 この世界にもあるんだな。

 と思ったが、こちらの世界のサーカスは人間が芸をするのではなく、魔物を調教して見世物にしているらしい。

 そのあたりの違いは異世界だな。


「あ、巨人やドラゴンがいるわね!」

 ルーシーの指差す方向には、10メートルはありそうな巨人や、少し小さめの竜が、檻に入っているのが見えた。

「ドラゴンも調教できるんだな」

 魔物使い、すげぇ。


「いえ、あれは飛竜ですよ。さすがに純粋なドラゴンを操れるような魔物使いは、サーカス団でなく国から雇われているでしょうね」

 クリスティアナさんが、教えてくれた。


「でも、あの魔物たちストレスがたまってるね」

「さーさん、わかるの?」

「うーん、なんとなくね」

 魔物同士のシンパシーというやつだろうか。


「サーカス団にいる魔物は、もともと人間を襲ったりして、本来殺されるところをサーカス団が買い取っているのですヨ。ただ、扱いは……悪いですネ」

 本来は、討伐対象の魔物を利用してるってことか。

 魔物愛護団体なんてものがあれば、クレームがきそうだが、そんなもんは無いのだろう。


「それにしても、花が多い街ね」

 ルーシーは、サーカスより花のほうが好きらしい。

 至るところある花壇や、鉢植えを眺めている。

 

「綺麗な街だな」

 本当にそう思う。ここは、花の都だ。


「そろそろ到着ですぞ。門番の衛兵へ話してきますな」

 この辺の段取りは、いつもふじやん任せだ。

 頭が下がる。


 芸術的な装飾が施された門をくぐり、俺たちはローゼス城へ入った。



 ◇



「おもてを上げよ」


――入城するや、ローゼス国王との謁見だった。 


 他にも、王様の元へ訪れている人は大勢いたが、俺たちがくるや最優先で通された。

 ちょっと優越感だ。


「このたびの、大迷宮での忌まわしき竜の討伐協力、大儀であった」

「迷宮の町は、水の国ローゼスの貴重な財源。あなた方、異世界の勇者には救われました」

 ローゼス王と王妃が、淡々と感謝の意を口にする。

 礼として、爵位と金、どっちがいいかと聞かれたので、ちょっと迷って『金』と答えた。

 貴族として、王家への宮仕えというのはちょっとな。

 いいですよね? ノア様。


(まことの好きにしなさいー)

 問題ないみたいだ。

 

 国王の言葉が終わり、最後にソフィア王女が口を開く。

「高月まこと、藤原みちお。そなたらが、所望した水の国での商業に関する許可証です。私の名でサインがしてあります」

「ありがとうございます」

 ふじやんが、うやうやしく受け取る。


 水の国は、貴族と聖職者の力が強い。

 ソフィア王女は、水の女神を信仰する教会の巫女。

 貴族と聖職者のトップに近い人物だ。

 そのサインの意味は大きい、らしい。


(まあ、これで会うのは最後かな)

 ちらりと、見上げると。

 氷のような視線と、目が合った。

(うわ……、睨まれてるわー)

 嫌われたもんだ。

 ソフィア王女が、言葉を続ける。

 

「商人の藤原。そなたが望むなら、爵位を与えますが」

「え?」

 ソフィア王女の言葉に、小さく驚きの声を上げたのはクリスティアナさんだった。

「……いえ、こちらの許可証で十分です、王女さま」

 結局、ふじやんはそちらは断ったようだ。


 こうして、謁見が終わった。

 あー、肩がこった。



 ◇



「ふじやん、どうして爵位は断ったの?」

 疑問に思って、聞いてみた。

「ソフィア王女から爵位を賜れば、王都ホルンに住まないといけないですからな。それにあれは、拙者というよりタッキー殿への、布石ですぞ」

「えっ、どういうこと?」

「おそらく、拙者とタッキー殿がマッカレンの街でパーティーを組んだり、商売をやっていることを調べたのでしょう。我々を水の国に繋ぎ止めるのが、目的だったようですぞ」

 後半は、小声だ。

 ソフィア王女の心を読んだらしい。

 そんな意図だったのか……。


 ふと見ると、クリスティアナさんが難しい顔をしていた。

 どうしたんだろう?


「まこと、街を探索するわよ!」ルーシーが張り切っている。

 でもな。街の探索より、重要なことがある!

「いや、まずは城を探索しよう」

 RPGゲームの基本だ。

 なにげに、異世界に来て初めてのお城だ。

 探索し尽くしてやる!


「タッキー殿、待たれよ」

「高月くん、待って」

 ふじやんとさーさんに、両脇をがしっと掴まれる。


「え?」

「リアルの城で、つぼを割ったり、たんすを調べてはいけませんぞ?」

「それって犯罪だからね? 隠し部屋とか隠し通路を探しちゃ駄目だから」

「……え? 駄目なの?」

 そ、そんなバカな……って、そりゃそーだ。

 駄目に決まってるね。

 うん、知ってた。


 ルーシーとニナさんとクリスティアナさんが、ポカンとしている。

「……まこと?」

「いや、そんなことシマセンヨ?」

 あー、ゲーム脳怖いわー。

 近くのつぼを叩き割って、たんすの中を調べようとしてた。

 

(はぁ~)

 女神様のため息まで、聞こえた。

 なんですか、みんなして。

 人を変人扱いして。



 ◇



 俺の奇行を止めて安心したのかふじやんは、ホルンの商会に挨拶に行くと言って出かけて行った。

 ニナさんは、ふじやんに同行。

 クリスティアナさんは、王都にいる貴族へ挨拶に行くらしい。

 お付きの人々と一緒に、出て行った。


 じゃあ、俺たちは王都の街を探索しようかなと、思っていたら。


「貴様! 高月まことか! なぜ、ここにいる」

 急に、声をかけられた。


 振り向くと、そこにいたのは、元・水の巫女の守護騎士の男だった。

 あれ? クビになったんじゃなかったっけ?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る