61話 女神様は会議する
「まこと、今日のミーティングを始めるわよ」
気がつくと目の前にノア様がいた。
2時くらいまで修行してたんだけど、いつの間にか寝落ちしちゃったか、俺。
ノア様は、なぜかいつものワンピースではない。
タイトな黒のスカートに、白のワイシャツ。
ついでに、眼鏡をかけている。
女子教師スタイル?
「ご機嫌うるわしく、ノア様。その格好はどうしたんですか?」
「これから私達は、一緒に世界転覆を目指すからね! できる女っぽいでしょ?」
くいっと、眼鏡を上げる。
その姿を見ると。
(コスプレにしか、見えないんだよなぁ)
「失礼ね、まあ良いわ。私達の方針は覚えてるわよね」
「大魔王の脅威を排除。平行して聖神族の信仰心を減らす、ですね」
女神様が、空中に浮かぶホワイトボードに、文字を書き込む。
ばんっ! とホワイトボードを女神様が叩いた。
「さあ! これからどうする? まこと」
女神様、ノリノリだなぁ。
「強い仲間を見つける、ですか?」
俺一人で、世界の体制をどうにかできるとは思っていない。
「いい回答ね。じゃあ、具体的には誰を仲間にする?」
「うーん、桜井くんとか。勇者たちですかね?」
でも、連中は聖神族の影響が強いから仲間にするのは無理だろうなぁ。
「悪くないわ。ただ、勇者連中は戦力的に強力だけど、世界への影響という意味では限定的ね」
「でも、地道に一人づつノア様へ改宗させるなんて、無理ですよ?」
「そう! だから狙い目は、こいつらよ!」
ノア様がホワイトボードに書いたのは。
「……巫女って、え?」
「まことと面識のある巫女は二人ね」
ノエル王女とソフィア王女、と書かれている。
「いやいやいや、絶対無理ですよ」
ノエル王女は桜井くんの婚約者だし、ソフィア王女に俺は嫌われている。
てか、俺も苦手なんですけど。
「大丈夫よ! 好きの反対は無関心。『嫌い』は『好き』に変換できるわ!」
「そんなギャルゲーみたいに上手くいきませんって」
ふじやんが好きな美少女ゲームだと、最初は主人公を嫌っていたヒロインが、途中でころりと主人公に惚れる。
でも、それはゲームだけだ。
俺の体験談だと、一度女子に嫌われると嫌われたままだ。
「じゃあ、ノエルちゃんを寝取るってのはどう?」
「勘弁してください」
よりによって、桜井くんの
できるわけがない。
「そもそも、巫女に手を出したら聖神族が黙ってないのでは?」
「そうね。ただ、まことのいる大陸だと女神の巫女の影響力は絶大よ。連中とどう付き合っていくか、考えておきなさい。少なくとも、前みたいな態度はNGよ」
「……わかりました」
確かに、自分が住んでる国の王女に嫌われてるってのは、問題だよな。
「こちらからも良いですか?」
「ふむ、言ってみなさい、まこと」
いちいち眼鏡をくいっ、てやらなくていいですよ。
「ふじやんとパーティーの仲間には、ノア様の目的を伝えて手伝ってもらおうと思ってます」
「うーん、でも協力してくれないかもしれないわよ?」
「その時は、諦めますよ。無理強いはしません」
「もしかすると、教会に告げ口に行くかもよ?」
「あいつらは、そんなことしませんよ」
ちょっと、ムッとして言い返してしまう。
「冗談よ。ただし、話をする相手は慎重に選びなさい」
邪神信仰は、バレたらまずいものな。
「わかりました。では、慎重に信頼できる人間を探します」
「そうね、まずは身近な人からね。いいと思うわ」
ノア様に、承認を得られた。
じゃあ、ふじやん、ルーシー、さーさんと話そう。
「ところでノア様。海底神殿へ挑むのはいつがよいでしょう?」
海底神殿に囚われている女神様を救う。
これも俺の目標のひとつだ。
忘れたわけじゃない。
ただ女神様は、困ったように頭をかいて言った。
「海底神殿は、海神ネプトゥスが飼っている神獣リヴァイアサンが守っているわ」
「噂は聞いてます」
神話とかで。
「神獣リヴァイアサンは、……海の中で戦うのであれば大魔王より強いわ」
「……え?」
「たかだか千年前に地上を支配した魔族の王と、何百万年も海の主をやってる、怪物よ? 比べるまでもないでしょ」
そんなこと言われても、冒険者ギルドの情報にはそんなこと書いてなかったし。
「まずは、大魔王をどうにかします」
「それが賢明ね」
うん、うん、とノア様は腕を組んでうなずいている。
「じゃあ、今日はこんなところで」
「じゃーねー」
ひらひらと手を振るノア様を見送った。
ノア様、楽しそうだったな。
◇
「う、うーむ……」
ここは『猫耳亭』の奥座敷。
ふじやんに、ノア様のことを説明した。
ここで断られたら、終了だなぁ……。
「はぁ……」
ふじやんは、大きなため息をついた。
「やっかいな道を選ばれましたな……」
「う、うん」
「タッキー殿は、ゲームで難易度が3つあれば、いつも『ハード』を選択してましたな」
「『イージー』や『ノーマル』は甘え」
「別に、この世界でも同じポリシーである必要は無いと思いますが……」
うん、俺もそう思うよ。
でも、選んじゃったんだ。
「無理の無い範囲で、お手伝いしますぞ」
「ありがとう!」
よかった! まじで、助かった。
はー、と背もたれにだらっと倒れこんだ。
緊張したぁ。
ふじやんが、ふっと笑う。
「拙者とタッキー殿の仲ではないですか」
「いや、親しき仲にもね」
今回ばかりは、随分無茶をお願いしてしまった。
そこからは、しばらく雑談をしていて、ふと『ある約束』を思い出した。
「ところで、話が変わるんだけど」
ニナさんに、頼まれてたんだった。
「ニナさんのことなんだけど……」
そこで、ふじやんの渋面に気づいた。
あれ? 何かまずかったか?
「いえ……タッキー殿に隠すほどのことではないのですが……」
ふじやんが、言いづらそうに語る。
なんとクリスティアナさんに、
「凄いな、じゃあ、ふじやんは貴族の仲間入りか」
あ、でもニナさんが……。
「ニナ殿には、まだ言っておりません……。というか、そもそもお受けするべきかどうか」
「悩んでるってわけか」
「クリス様とニナ殿は、仲が悪いですからなぁ」
「まあ、恋敵だからねぇ」
「それだけではないのですぞ」
なんでもこの大陸の貴族は、獣人族やエルフなんかの亜人を低く見てるそうだ。
太陽の国が、一番その傾向が強いそうだが。
水の国に限らず、貴族はそうらしい。
そして、昔ニナさんの主人だった貴族が、性格の悪いやつで、ニナさんは貴族を嫌っているんだとか。
「そりゃ、仲良くはできないよなぁ……。でも、ニナさんのことは好きなんだよね?」
「それは、もちろん。この世界で商売を始めて、最初に雇った子ですし。今までずっと、頑張って店を助けてくれましたからな」
「ウサギ耳、可愛いし」
「……ですな」
照れなくてもいいだろうに、今さら。
「クリスさんのことはどう思ってるの?」
なんで、こんな問い詰めてるんだろう?
でも、ふじやんとこんな話をするのは、前の世界じゃ考えられなかった。ちょっと楽しい。
俺たち女っ気、皆無だったし。
「クリス殿は……、最初に会った時は、将来やら婚約者について悩んでおられて。その相談に乗っていたんですが」
なんでも、貴族として親が用意した嫁ぎ先に行くことに疑問を持っていたと。
それをふじやんが『読心スキル』を使って、信頼を引き出したと。
当時は、商人として成功するために貴族と近づきたかったらしい。
俺たち異世界人は、身寄りが無いし、致し方ないか。
「で、気がつくと惚れられてたってわけか」
「拙者のために、婚約破棄までしたそうで……」
「お、おお……、それは責任重大だな……」
うーん、もう別世界な感じだ。
「まあ、これは拙者の問題。何とかしますぞ」
ふじやんはぐいっと、エールを飲み干した。
う、うーむ、大人だ。
話を変えるように、こちらを向く。
「拙者から一つお願いをしてもよいですかな?」
「お、おう。勿論いいよ」
邪神の使徒に付き合わせるのだ。
何でも協力するつもりだけど、俺で力になれるのだろうか?
「先日、
「ほぉ~なるほど」
しかし、そんな重要なことを素人に聞いてもいいんかな。
「こういうのは、色々な人に聞くのが良いのですよ」
「うーん、やっぱりふじやんが好きな猫耳関連の商売じゃない?」
「そーいうのは、やり尽くしてるのですぞ。この店も、今は拙者がオーナーですからな」
「え?」
な、なんだってー!! 『猫耳亭』のオーナーがふじやん?
……知らない間に、友人が行きつけの店を買収してたよ。
「じゃ、じゃあ、ふじやんが好きなラーメン店を始めるっていうのは?」
「それについては、ラーメン用の養豚場と契約しておりましたな。そろそろ、理想の味が出せそうですぞ」
「……すげぇな」
駄目だ、俺が考えてることなんてとっくに始めてたよ。
ここは、視点を変えて自分の専門である水魔法から探ってみようか。
「じゃあ、こういうのはどうかな?」
「……ふむ、ふむ、ふむ、なんと! そんなことが可能なのですかな!? それは使えますぞ!」
どうやら、使えそうなアイデアだったみたいだ。
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