62話 ふじやんは新しい商売を始める
「いらっしゃいませー、こちらお試しでいかがですかー?」
「今なら先着30名まで、一割引ですよー」
今日は、ふじやんの新しい商売に参加した。
といっても、見てるだけなんだけど。
客の呼び込みをしようと思ったけど、商品を手渡しているのは、可愛い猫耳やら狐耳の女性店員さんたち。
うん、男は不要だわ。
現場を仕切っているのは、ニナさんだ。
てきぱきと指示を出している。
「売れ行きはどう?」
「評判良いですぞ。タッキー殿こそ『素材』の作成はどうですかな?」
「まだまだ余裕だよ」
「頼もしいですな!」
順調そうで良かった。
「まこと、何してるの?」
「藤原くんのお店のアルバイト?」
ルーシーとさーさんが通りかかった。
「ふっふっふ、我々の共同の新事業ですぞ!」
「ふじやんと一緒に、新しい商売を始めたんだ」
邪神の使徒を手伝ってもらう代わりにね。
「これなにー?」
さーさんが、商品の箱の中を覗いている。
「わっ、冷たい! これって氷?」
ルーシーが中を触って、ビクっとなってた。
「タッキー殿が、精霊魔法で1年間、溶けない氷を作ってくれましてな。それを保冷素材の箱に入れて、冷蔵庫として、販売しているのですぞ!」
「へー、冷蔵庫ってこの世界無いんだ?」と現代人のさーさん。
「冷蔵庫って何?」ルーシーに聞かれる。
「冷蔵庫ってのは、食べ物や飲み物を冷やしておく入れ物だよ。俺がいた世界だと、みんな持ってるアイテムなんだ」
「へぇ、便利そう。でも、溶けない氷なんて作れるの?」
「水魔法と精霊魔法を組み合わせて、『マッカレンの街から出さなければ、しばらく溶けない』って魔法なら」
実際は、精霊さんに丸投げしている魔法なわけだが。
マッカレンの精霊にお願いして、常に氷状態を維持してもらっているのだ。
当然ながら知らない土地では、すぐには使えない。
「すごーい、じゃあ売れそうね! 儲かってるの?」
「まあ、売り始めたばかりなので、ぼちぼちですぞ」
さーさんの問いに、苦笑するふじやん。
「俺の熟練度だと、今の保持期間は1年が最大なんだけどね。頑張れば、2年、3年って延ばしていけそう」
「タッキー殿が、修行のために作っている氷が無駄に余っていると聞きましてな。これは使えると思ったわけですぞ」
いちいち、溶かすのが面倒だったんだよね。
「あー、確か最近ギルドの裏の水路が凍ってるって、マリーが不思議がってたわね。あれ、まことの仕業だったのね」
「マリーさんにばれて、最近はちゃんと解凍してるよ」
たまに、溶けない氷を放置してたら、見つかって怒られた。
「高月くん、本当に修行好きねー。レベル上げと一緒だ」
さーさんが、笑っている。
「お二人は何を?」ふじやんが尋ねる。
「ルーシーさんに、街を案内してもらってたの。あとは買い物かな」
「だったら、俺も誘ってくれればいいのに」
三人パーティーだろう? と少し寂しく思っていると。
「まこと、あやの下着を一緒に選びたいの?」
ルーシーが、冷たい目で聞いてきた。
「いいよー、一緒に行こうよー」ニコニコとさーさん。
「あ……やっぱ、いいです」
うん、女の子たちで行ってください。
「あと、少しで商品が完売しますから、みなさんでお食事どうですカ?」
店員への指示出しが終わったのか、ニナさんがやってきた。
「賛成ー」
「行こう、行こうー」
なんやかんや、みんなで夕飯に行くことになった。
◇
「新たな商売の成功に!」
「「「「かんぱーい」」」」
俺たちは、新商品の売れ行き好調ということで、猫耳亭で祝い酒を味わった。
「いやー、タッキー殿の精霊魔法は便利ですなー」
「さすがですネ!」
ふじやんとニナさんが、褒めてくる。
この二人は、すぐおだててくるな。悪い気はしないけど。
「今のところ、マッカレンと大迷宮くらいでしか使えないけどね」
ニンニクとオリーブオイル味のパスタを食べながら答える。
これ、美味いな。自分でも作れないかな。
「この店の料理、美味しいね!」
さーさんは、大きな魚のフライにかぶりついている。
「ちなみに、オーナーはふじやんだよ」
「「「え?」」」
ルーシーとさーさんと、ニナさんが驚いた顔をする。
って、なんでニナさんが?
「ご主人様、また勝手に店を買いましたネ?」
じとっと、ニナさんがふじやんを見つめる。
「い、いいではないですか!? 前々から、こちらの店は狙ってたんですぞ!」
「ご主人様は、欲しいものに対する我慢ができなさ過ぎデス」
ふじやんが、ニナさんに叱られている。
「藤原くんって、そういえば気に入ったゲームはシリーズまとめて買ったり、漫画の全巻買いしてたよね」
「バイト代を全て自分の好きなものを買うのに注ぎ込んでたっけ?」
さーさんと昔のことを思い出す。
懐かしいな。
「はぁ……、会計の子がまた、怒りますヨ」
「ニナ殿、その時は一緒に……」
「仕方ないですネェ」
こうしてみると、いいコンビだな。
「ふじやんさんとニナさんて、仲いいわね」
「ふじやんが、異世界に来て最初の仲間らしいからね」
「ふーん? ところで、まことの最初の仲間は私よね」
なぜ、急にそんなことを言ってくるんだい? ルーシー。
「ねぇねぇ、高月くん。中学の時の話をしましょう」
さーさん、変な対抗意識はやめましょう。
わちゃわちゃと、しばらく楽しく飲んでいた時。
「まことくん! ここにいたの!」
焦った様子で、マリーさんがやってきた。
「マリーさん、どうしました?」
「
え。なんか、嫌な予感が。
「はい、ノエル王女からのメッセージよ」短い文章が書かれた、紙を差し出してくる。
「……」
これ絶対、桜井くんの仕業だろ!
「えーと、大迷宮を救った功績を称え、招待します……ですか」
「ちょっと、報告に無かったわよ!」
マリーさんが、ぷりぷり怒っている。
そーいえば、ハーピー女王を倒したことしか報告してなかったっけ?
「忘れてました」
「もぉー、まことくんは、これだから」
髪をくしゃくしゃされた。
「招待日は1ヵ月後よ。わかった?」
「はい、わかりました」
女神様からは、巫女=王女とは仲良くするように言われている。
これは、渡りに船というやつか。
「呼び出しは、もう一つあるわ」
「え?」
マリーさんが、もう二つ目の紙を取り出す。
「ソフィア王女から、水の国の王都へ来るように命令が届いてるわ。期日は7日後ね」
「……」
こっちは、命令かよ。
しかも、期日が短いし。
あの冷たい目をした、王女が頭に浮かぶ。
う、うーむ。
気が進まないなぁ。
「命令って書いてあるけど、実際は感謝の言葉を言いたいから王都に来なさいって。ノエル王女からの招待状と、変わらない内容よ」
マリーさんが補足してくれた。
「行かなきゃ駄目ですかね?」
「まあ、今後も水の国に居るなら行っておいたほうが無難ね」
「ですよね」
しゃーないか。
「ギルドから色々と連絡事項があるから、明日は顔を出してね」と言って、マリーさんは俺達の席に腰を下ろした。
何やってんすか?
「今日の業務終わり! じゃあ、飲むわよー。こっちにエールひとつー」
「普通に割り込んでくるのね」呆れ顔のルーシー。
「だってー、折角まことくん帰ってきたのに、また遠くに行っちゃうし!」
そっか、またしばらくマッカレンを離れるのか。
戻ってきたばかりなのになぁ……。
その気持ちが、顔に出たのかもしれない
「お、まことくん、私に会えなくて寂しい? 寂しいかー」抱きつかれた。
「寂しいですよ」
マリーさん見ると、マッカレンに戻ってきたって気分になるんだよな。
冒険者登録した時、最初に受付してくれた人だし。
「っ!?」
マリーさんが、ぱっと離れた。
顔を赤らめて、口をぱくぱくしている。
変なことは言ってないよな?
「まことくん、今日は私ん家に泊まる?」すすっと、寄ってきて耳元でささやかれた。
「泊まりませんって」
前は、酔い潰されただけだし。
「高月くんが、女たらしに……」「私も言われたい……」
さーさんに、ルーシー。君達は、何を言ってるんだい?
毎日会ってるだろうが。
結局、飲みたがるマリーさんに引っ張られて、店が閉店まで飲むことになってしまった。
◇
翌日、冒険者ギルドにて。
「高月まことさん。今回の大迷宮における『忌まわしき竜討伐』への貢献を鑑み、シルバーランクへの昇格となります」
前日、あれだけ飲んでおきながら、全く二日酔いの様子を見せず、きりっとした顔ができるマリーさんは流石だと思う。
俺はまだ、頭がガンガンする。
「って、俺がシルバーランクですか? 最近アイアンランクになったばかりですよ?」
「くっ、シルバーランクへの最短到達記録まで、更新されたか!」
後ろから、ジャンの悔しそうな声が聞こえてきた。
「まこと、やったわね!」
ルーシーが、ぐっと親指を立てて、ニコニコしている。
さーさんは、よくわかっていないっぽいがニコニコしてる
そして、俺自身もピンときていない。
「俺では、力量不足な気がするんですが。しばらくはアイアンランクでいいですよ」
タイマンで、キメラとやり合っていたニナさんを思い出す。
俺が同じ強さとは、どうしても思えないんだよなぁ。
「辞退なんて、駄目に決まってるでしょ。
わがまま言うんじゃありません、とマリーさんに怒られた。
――強制イベントでした。
俺はシルバーランクになり、祝いと称して、ルーカスさんや串焼き屋台の大将に散々飲まされた。
マリーさんには絡まれ、ジャンに「すぐ追いつくからな!」と宣言され。
そして、俺たちは再びマッカレンを旅立った。
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