60話 ルーシーは高月まことに想いを寄せる

- ルーシー視点 -


「え? ジャンと付き合うことになったの!?」

 エミリーと一緒にランチをしてる時のこと。


「うん、てかルーシーが言ったのよ。さっさと告白しろって」

「そ、そうだっけ」

 久しぶりに会った友人には、男が出来ていた。

 まあ、会ったときから付き合ってるようなものだったけど。


「で、ルーシーはどうなのよ?」

「うぅ……」

 当然聞かれるよね。


「あの、新しくパーティーに入った、あやって子。昨日はまことくんと……」

「あ、あれは何も無かったって、まことが言ってたでしょ!」

「でも、一緒に温泉入ったんだってね」

「うぐ……」

 

 昨日は、二人で話したいかなと思って、私は遠慮したんだけど。

 たった一日でそんなに進展するなんて、思わないじゃない!


「あの二人は異世界の時からの知り合いみたいだし。ルーシーまずいんじゃない?」

「……うぅ」

 今までは、まことと二人のパーティー。

 これからは三人パーティーだ。


「まことくんとあやちゃんが、くっついちゃうかもねー」

「……」


 次の冒険に出かける時のことを想像する。

 まこととあやは、前の世界の話で盛り上がっている。

 冒険が終わって「俺達はちょっと一緒に温泉入ってくるから」「ルーシーさんは、ギルドで待ってて」「え、えっ? ちょっと……」

 ぽつんと、ギルドの屋台で二人を待つ私。

 そこに腕を組んだ二人が現われて……。

 

「や、やだ!」悲鳴を上げた。

「じゃあ、さっさと告白しなさい」

 びしっと、言ってくるエミリー。

 くそぅ、彼氏持ちだからって偉そうに。

 

「エミリーさん……。どうやって告白すればいいですか?」

「えーと、私の時はね……」

 私はエミリーに告白の方法を相談した。



- 高月まこと視点 -


「え? ルーシー、ゴブリン狩りに行きたいの?」

 俺はちょっと意外に思った。

 大迷宮の稼ぎで余裕があるから、そんな小金を稼がなくてもいいじゃん。


「う、うん。ほら、やっぱり初心って大事じゃない?」

 良いこと言うね。

「よし、じゃあさーさん、行こうぜ」

 久しぶりのゴブリン狩りだ。

 三人パーティーの初陣にちょうどいいな! 安全だし。


「ゴブリンかぁー。私はやめとくよ。最近、ニナさんに格闘技を教わってるんだ。そっちに顔だすね」とさーさん。

「……えー」

「そんな顔しないでよー。だって、ゴブリンなんて大迷宮で散々見たし」

 折角の三人パーティーの初陣なのに。いーですよー。

 ルーシーと二人で行きますよー。


 ルーシーが小さくガッツポーズしてる。

 なんでだろう?


 ◇



 大森林の中を流れる川を、水魔法で上流に向かって進む。

 ルーシーは、俺にしがみついている。

 この感じ、久しぶりだな。


「ねぇ、ひとつ聞いてもいい?」とルーシー。

「どしたの?」


「今使ってる補助魔法の『水面歩行』って、別に身体が触れて無くても使えるのよね?」

「当たり前だろ。離れてたって使えるよ。身体に触れてたら自分にかけた『水面歩行』の効果が移るから魔力を節約できるってだけで」

 俺の魔力量が少ないせいで、節約癖が身に染み付いている。

 ……我ながら貧乏性だなぁ、とは思うけど。


「私に抱きついて欲しいから、いつもしがみつかせてるわけじゃないわよね?」

「違う。というか、肩に手を置くだけでいいんだよ。そんなに抱きつかなくても」

 ルーシーの胸部が押し付けられるから、未だに緊張するし。


「いやよ。まことの水魔法で移動すると、カーブで振り落とされそうになるもの」

「あー、まあ確かに」

 思いっきり加速して曲がるのが気持ちいいからなー。

 

 そんな雑談しているうちに、目的の場所に着いた。



 霧が深く、薄暗い。

 昼間なのに、空気が冷たく感じる。

 魔の森の近くだ。

 敵感知スキルには、たくさんの魔物の反応がある。

 ああ、懐かしい。


「ふっ、俺は戻ってきた」

「……私が誘っておいてなんだけど。まことってホント、ゴブリン狩り好きよね。」

 恥ずかしい二つ名まで、持ってるからな。

 俺がこの世界に来て、一番自信のあるクエストだし。

 

 しばらく二人でゴブリンを、ちまちまと狩った。


「ルーシー、魔法のコントロール上手くなったな」

 ルーシーの顔が、ぱっと明るくなる。

「でしょ! 大賢者様がくれた魔法の腕輪のおかげね。これをつけると魔法の熟練度が、底上げされるみたい」

「へえー、後で借りていい?」

「熟練度:50以上は効果ありません、って説明書に書かれてたわよ?」


 説明書付きだったのか!?

 大賢者様はアフターサービスまで完璧だ。

 そして、俺には効果なさそうだな。

 俺は熟練度:100超えだし。


「ねぇ、このあと予定ある?」

 ルーシーが、話題を変えた。

「うーん、このまま狩りのつもりだったけど。何か希望ある?」

「ちょっと、行きたいところがあって」

「いいよ。付き合うよ」

 ルーシーの魔法の精度が向上して、今のところ危なげない。

 魔の森の奥に行かない限りは大丈夫だろう。


 俺達は、水魔法を使って再び移動した。

「方向は?」

「えーと、その先を右かな」

「……こっちは、迷いの森だよ?」


 魔の森ほど危険な魔物は居ないが、森全体がダンジョンになっている場所。

 地図マップスキルが無いと、道に迷い抜け出せないと言われている。

 推奨はアイアンランク以上。

 一応、俺たちは基準を満たしているけど、今日はダンジョンに来る想定じゃなかった。


 「大丈夫よ。迷いの森は、エルフの子供達の遊び場なの。昔は散々行ったから、安全なルートを把握してるから」

 ルーシーがそういうならいいかな。

「ナビは任せた」

「了解~」

 俺たちは、森のダンジョンを進んだ。



「ルーシー、迷ってない?」

「ち、違うの! 久しぶりだったから、えーと、こっちのはずよ」

「……地図マップスキルで戻れるようしておくよ」

 大丈夫だろうか。

 やや、まごつきながら奥へ入った、


 ◇


「へぇ、ここかぁ」

 そこは一面に咲き乱れる花畑だった。

 日本では見たことが無いような花がたくさん咲いている異世界の花畑。


「ね? 綺麗でしょ。エルフの秘密の場所なの」

 ルーシーが自慢するだけあって、幻想的な美しさだった。

 キョロキョロと見渡しながら、花を踏まないように進む。

 甘い匂いがする。


「ねぇ、ここ座って」

 花畑のなかに、ちょうど二人分座れるくらいの岩があった。

 ルーシーの隣に腰掛ける。


「……」

「……」

 何だろう、無言が続く。

 そういえば、ルーシーは何か用事があったんだっけ?


「ね、ねぇ。最近どう?」

「どうって言われてもな」

 毎日会ってるだろ。


「女神様はお元気?」

「……ああ、元気だよ」

 タイムリーな話題を振ってくる。

 もしかすると、ノア様のことで悩んでいるのを見抜かれたんだろうか。

 

「何かあった?」

「……いや、大丈夫だよ」

「何か困ってるなら、話してよ。仲間でしょ?」

 ルーシーの大きな瞳が、俺の顔を覗き込んでくる。


 ルーシーは、この世界に来て最初の仲間だ。

 隠し事は、あまりしたくない。

 でも、邪神の使徒のことは俺の頭の中でも、まとまってないんだ。

 少しだけ、待って欲しい。


 思えばルーシーとの付き合いも長い。

 水の神殿で、独りで修行している頃は「俺はソロでやってやる!」と息巻いていた。

 実際、マッカレンで数ヶ月一人で冒険者をやってきた。


(でも、グリフォン討伐や大迷宮探索は、ルーシー無しじゃ考えられなかったな)


 今からソロで冒険者をしろと言われたら、できるだろうか?

 俺は1年前より、強くなった。

 でも、もう一人で冒険者はやりたくないな……。


 ルーシーは、岩に座って足をぷらぷらさせている。

 何やら眉間にしわを寄せている。

 相変わらず、綺麗な横顔だ。


 ルーシーにお礼を言おう。

 これまでの感謝と、これからもよろしくと。


「なあ、ルーシー」「ねぇ、まこと」

 俺たちは同時に、話しかけていた。 


「「……」」

 見つめ合ったまま、無言になる。

 お礼を言うだけなんだけど、改めては何やら気恥ずかしいな。


 ルーシーがずい、と寄ってくる。

 息がかかるくらいの距離。

 ルーシーの高い体温を感じる。


「あ、あのさ……まこと」

「……うん、ルーシー」

 何だ?

 この雰囲気。


 まるで、これから告白されるみたいな……。


 いやいやいや、勘違いするな、俺。

 パーティー内で、恋愛トラブルを起すなよってジャンが言ってたじゃないか。


「あの……わたし」ルーシーが何か言おうとして。


「……待った、ルーシー。誰かに見られてる」

「えっ!?」

 気づくのが遅れた!

 囲まれてる。


 俺は座っていた岩を降り、短剣を構える。

 マズイな。

 辺りに水辺は、無い。

 ルーシーが服の袖を掴んでくる。


(ルーシーを、まず逃がさないと……)


「……襲って来ないな?」

「……もしかして」

 ルーシーが、微妙な表情をしている。


「あらあら、ばれちゃったわねぇ」「ルーシーねーちゃん、その人彼氏?」「やっぱり、ロザリーさんの娘ね。異種族の男を連れてきたわ」「ねぇねぇ! ルーシーの彼氏紹介してよ!」

 

 なんか、わらわら人が出てきた!?

 しかも、みんなエルフだ!


「え! うそ。なんで、みんな」

 ルーシーが焦った声を上げる

「知り合い?」

「じ、実家の近所の人たち……」


「今日は、みんなでピクニックだったのよー」

「そしたら、ルーシーねーちゃんが男連れてくるからさ」

「みんなで、隠れて見てたんだー」

 うわー、全然気づかなかった。

 さすが森で暮らしてるエルフの皆さんだ。

 みんな隠密スキルを持ってるんだろうか?


「い、いっ、いつから見てたの!?」

「「「「「「最初から」」」」」」


「いやぁー!!」

 あ、ルーシーが走って逃げていった。

 エルフの子供たちが、追いかけてる。


 俺は、ルーシーのご近所さんたちに、質問攻めにあった。

 ルーシーの知り合いのエルフの人たちは、みんなフレンドリーだな。

 想像してた閉鎖的なイメージじゃなかった。


 あと、おばちゃんエルフに果物を山のように貰って、持って帰るのが大変だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る