55話 高月まことは仲間たちに呆れられる

「高月様……」

「まこと……」

 仲間のテーブルに戻ってくると、ニナさんとルーシーが、呆れたような心配そうな顔で話しかけてきた。

 聞こえてましたか、耳の良いお二人は。


「タッキー殿。ソフィア王女に無礼を働いたとか……」

「いやー、ふじやん。失敗したよ」

「高月くん、甘いものでも食べて落ち着いて」

 さーさんが、ケーキを勧めてくる。

 こんなものまであるのか。


「意外でしたね。高月様が、あんなにお怒りになるトハ」

「でもさ、2年前は必死で加護を貰えないか頼み込んだのを、袖にしておいて。それを忘れて、ぬけぬけと自分たちの仲間になれって言ったんでしょ? 怒って当然よ!」

 ルーシーは感情的だけど、いつも味方してくれる。

 こういう所はありがたい。


「タッキー殿。マッカレンを出て、太陽の国ハイランドへ移住するのですかな?」

 ふじやんが、寂しそうにつぶやく。


「うーん、王女の護衛の騎士に出てけって言われたからなぁ……」

「桜井くんのいる国に行くの?」

 さーさんは、ドーナツとフルーツを食べている。

 食べ過ぎじゃない?


「他にアテが無いからねー」

「じゃ、私もそこに行くわけね」

 ん? と思ってさーさんのほうを見ると。


「何で変な顔してるの? 私こそ高月くん以外にアテが無いんだから」

 当然でしょ、という顔でワインを飲み干している。

 ドーナツとワインは合わないだろ。


「えぇ、太陽の国ハイランドかぁ……」

 ルーシーが微妙な顔をした。

「ルーシーは、ハイランド行きは反対?」


「高月様、太陽の国ハイランドは、人族至上主義なんですヨ。ルーシー様のようなエルフや、私のような獣人族は住みづらい国なんですヨ」

 え? そうなの? 知らなかった。


「ハイランドの亜人や獣耳族は、人族より劣った扱いを受けますからなぁ。拙者は、あまり好きではないのですよ。水の国ローゼスは、そのへんの差別意識が低いのが良いところですぞ」

「ふじやんは、商売より趣味を取ったのか」

「当たり前ですぞ!」

 ぶれない友人だ。


「ニナさんも、太陽の国ハイランドは苦手ですか?」

「あの国の貴族や商人は、獣耳族にはすぐセクハラをしてきますカラ。かといって、顧客を無下にできないので気を使いますネ」

 う、うーむ。ニナさんも、太陽の国にいい印象が無いようだ。


「何より、佐々木殿のようにラミア族であることがばれると、一発でアウトですぞ。間違いなく、追われますな」

「そっかぁ……。そういえば、俺の邪神信仰もハイランドじゃばれるとまずいか……」


「「「それは、どこの国に行ってもヤバイから」」」

 さーさん以外の3人に総ツッコミされた。

 あ、そうですか……。


「よく考えるとルーカスさんや、マリーさんや、串焼きの大将に会えなくなるのも寂しいし。ジャンやエミリーも……」

「国をでるのをやめますか?」

 ふじやんが、期待するように言う。


「うーん、ソフィア王女に頭を下げるのか……」

 あれだけ啖呵を切った手前、非常に躊躇われる。

 桜井くんあたりに頼んでみるか?

 いや、でもなぁ。

 そんなことをうだうだ悩んでいると。

 


「やあ、さっきは大変だったね」

 やってきたのは爽やかイケメン勇者の桜井くんだった。

 この野郎! 誰のせいで悩んでると思ってる!


「桜井くんが変なとこに呼び出すから、大変なことになったよ。どーしてくれる」

 とりあえず、ジト目で非難してみる。

 桜井くんの隣に、隠れるように横山さんがいる。


「大丈夫だよ。高月くんが太陽の騎士団に入ってくれれば、僕が全力でフォローするから」

 にかっと、笑う桜井くん。

 ちょっと、何いってるのかわからないんですけど。


「絶対入らないから」 

 太陽の騎士団て、要は軍隊だろ?

 万年帰宅部の俺が、体育会系の頂点みたいなグループに入るわけないだろ! いい加減にしろ!

 1日でドロップアウトする自信がある。


「た、高月くん。今日は……その。ありがとう」

 横山さんに頭を下げられた。

 俺に話しかけてくるのは珍しい。

 というか、少し怯えられてる?


「別に大したことしてないから」

「な、何言ってるの? ハイランドでも数少ない王級魔法を使えて、今回の忌竜討伐の第二功労者なのよ!?」

 王級魔法は、色々な人に指摘されたけど1回使うのに7日間準備が必要なことをみんな忘れてるんだよなぁ。


「まあ、それはそうと、何か用? 桜井くん」

「そうだ。実は、大賢者様が高月くん……というか、精霊魔法の使い手に会いたいって言ってるんだ」

「す、凄い! ほとんど人前に姿を現さない大賢者様が! やったわね、まこと」

 ルーシーが、自分のことのように喜んでいる。


「えぇ……、もう偉い人には会いたくないんだけど。パスしていい?」

 さっき、ひどい目にあったし。

 自業自得だけど。


「タッキー殿……。大賢者様は太陽の国で、3番目に権威があるというお方。素直に応じておいたほうが……」

「まこと! わがまま言っちゃだめ」

 仲間から、呆れの目で見られる。

 やっぱり、行かないとダメかぁ。


「一人で行かないとだめ?」

「いや、仲間と一緒でも良いって」

「よし、ルーシーとさーさん。一緒に行こう」

 一人じゃ不安だ。


「いいの? やったぁー」ルーシーは飛び跳ねて喜んでいる。

「えぇー、面倒だなぁ。私はいいよ」さーさんは、嫌な顔をする。

 ずっと、のんびり食べてばっかりの友人を巻き込んでやる。


「ふじやんは、どうする?」

「うーむ……、お会いしたい気もしますが、この席を空にするわけにもいきませんので残っておりますぞ」

「高月様、大賢者様にケンカ売ってはいけませんヨ」

「そんなことしませんから……」

 ニナさんからの評価が下がってる。


 俺たちは桜井くんに連れられ、太陽の騎士団の駐屯地へ向かった。


「白の大賢者様ってどんな人なんだ? ルーシー」

「この大陸でもっとも偉大な魔法使いよ。知ってるでしょ?」

「具体的に、どんな人かまでは知らないよ」

 神殿の授業で、太陽の国の権威ある魔法使いだって教わっただけだ。


「初代の大賢者様は、千年前に救世主アベルと共に大魔王と戦った英雄なんだ。これから会うひとはその15代目だね」

 桜井くんが説明してくれた。

「ふぅん、でも初代は凄くても末裔は関係ないんじゃない?」

 さーさんが、鋭いことを言う。

 お願いだから、本人の前で言わないでくれよ?

 俺も思ったけどさ。


「それが違うのよ、あや。大賢者様は『継承』スキルっていう力があるの」

「千年前の初代様の力を代々引き継いできたんだ。大陸最強と呼ばれる所以だよ」

「はぁ~なるほどね」

 伝説の魔法使いの能力を、そのまま引き継いでいるわけか。

 それは強そうだ。


 そうこうしているうちに、巨大なテントの前に着いた。



――耳鳴りがする。


(ま……こ……と。まこと! そこに……入るのはめなさい! ……くそっ!……結界が……)

 女神様? どうしました?

(そいつに……会っては……)

 なんだろう。


 こんな、途切れ途切れなのは初めてだ。

 どうしようか……大賢者様には会わないほうがいいのかな。



「大賢者様。第七師団、団長の桜井です。精霊使いの高月くんを連れて参りました」

 桜井くんが、テントの中に向かって呼びかけた。

 

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