54話 高月まことは王女と話す

「マッカレンの冒険者、高月まことよ。ノエル王女を待たせるな!」


 いちいちフルネームで呼ばなくても、聞こえてるよ。

「これ、行かなきゃ駄目?」

 仲間たちに聞いてみる。


「駄目に決まってるでしょ!」

「高月様。粗相をしてはいけませんヨ」

「桜井殿がいますから、きっとフォローしてくれるはず……」

 要は行けってことか。


「頑張ってねー」

 ローストビーフを頬張っているさーさんに手を振られる。

 くそー、人ごとだと思って。


 重い足取りで、騎士団や貴族らしき連中が集まっている一角へ向かった。

 なんか、テーブルや料理が英雄酒場のものと全然違うんだけど。

 凝ったデザインのテーブルに、高級そうなボトルの酒と、上品な料理が並んでいる。ちょっと、貰ってもいいのかな?


「やあ、高月くん」

「ああ、桜井くん。なぜか呼ばれたよ」

「僕がノエル王女に、高月くんの話をしたら是非、会って話がしたいって」

 おまえのせいか!

 恨みがましい目で見ると、ごめんごめん、と謝られ俺は、高貴そうな女性の前へ連れて行かれた。


 隣には、さっきからこの場を仕切っているおっさんが居る。

 確か、宰相補佐の人だっけ?


「貴様が、高月まことか。ふん、王女の前に出れる格好ではないな」

「……」

 いきなり呼んどいて、何言ってんだ? このおっさん。


「お前の職業は、なんだ?」

「……魔法使い見習いですけど」

 精霊使いは、スキルはあっても職業としては認められてない。

 なので魂書に書いてある職業を名乗る。


「見習いだと! 異世界から来た勇者の仲間ではなかったのか!? そのような下賎なものが……」

「ロベール、私が呼んだのです。控えなさい」

「はっ、失礼致しました」

 ロベールと呼ばれたおっさんは、渋々一歩下がった。

 こいつとは、仲良くできそうにないなぁ。


「初めまして、まことさま。太陽の巫女、ノエル・ハイランドです。この度は忌竜の討伐、大義でした」


 透き通った声は、楽器の音色のようで耳に心地よい。

 美しい金髪に、ブルーの大きな瞳。 

 絵に描いたようなお姫様が、そこにいた。


「高月まことです。ありがとうございます。でも、忌竜は桜井くんが一人で倒したんですよ」

「そんなこと無いよ。高月くんのおかげで一人の犠牲も出なかったからね」

 横から桜井くんが、入ってきた。


「あら、仲がよろしいのですね」

 ノエル王女様は、ニコニコしている。

 その笑い顔はチャーミングで、魅了魔法持ちじゃないかと勘ぐってしまう。

 この大陸で一番大きな国の、最高権力者候補と聞いたが、想像したより気さくな人だな。

 

「いずれ正式にお礼をしますね。本日は、ご挨拶だけ」

「えーと、お話できて光栄です」

 駄目だ、何と言っていいかわからん。

 桜井くん! 助けてくれ。

 ちらりと、クラスメイトを見ると。


「ノエル王女、彼は優秀な魔法使いです。王国へ客人として招待しては?」

 違う! そうじゃない、桜井くん。

 空気読んで!


「りょうすけさまが、そんなことをおっしゃるのは珍しいですね。でも、彼は水の国ローゼスの民。勝手に連れて帰っては、ソフィア様に叱られますよ。ねぇ、ソフィア様?」

 げ、そういや居たな。

 ちらりと見ると、ローゼスの王女、水の巫女のソフィア王女が立っていた。


「ええ、彼は我が国の民ですから。、高月まこと。この度は、ご苦労様でした」

「……」


 こいつ、俺のこと忘れてるのか。

 まあ、王女がいちいち昔一度だけ会ったやつのことなんて覚えてないよな。

 こちらも初めましてと言うべきか、考えていると隣にいる騎士が怒鳴ってきた。

 ああ、こいつか。

 久しぶりだな。


「無礼であろう! ソフィア王女の御前だぞ! ひざまづかんか!」

 あ、もしかして王女の前って、立ってると駄目だった?


 ちらりとノエル王女を見ると

 「今日は無礼講ですよ」と笑っている。

 うーん、寛大だ。

 ノエル王女は、余裕があるなぁ。


 ソフィア王女は、ニコリともせず続ける。

「良いのですよ、高月まこと。あなたは優秀な魔法使いだそうですね。我が国の信仰する女神様の加護を与えましょう。あなたは、栄誉ある水の国の守護魔法使いとして迎え入れます」

 は? 何言ってるんだこいつ。


「ソフィア王女の恩情に感謝するがいい! 貴様は今日から俺がしごいてやる」

 となりの偉そうな騎士が、何か言っている。


――イラっとする。

 2年前の怒りが再燃した。


「遠慮しておきます」

「……何だと?」

 ソフィア王女の騎士が、ずいと詰め寄ってくる。


「貴様、自分の立場が分っているのか?」

「高月まこと。何が不満なのですか」

 ああ、こいつら。

 ぬけぬけと言いやがる。

 

「2年前、俺が必死で水の女神様の信者になると伝えた時は、見向きもしなかったのに、今回は自分たちの仲間になれ、ですか? 随分、自分勝手な言い草ですね」


 違う。

 こいつらは、王族やら貴族であり、偉いんだ。

 だから、自分勝手なのは当然であり、ここで逆らうのは得策じゃない。

 が、ここで尻尾を振って、やつらの配下になる気は起きなかった。


「……あなたは、もしや」

 ソフィア王女は、何か思い当たったのかもしれない。


「貴様! ソフィア王女になんて口の聞き方だ! 水の国ローゼスに居られると思うなよ」

 隣の騎士は、わかり易く恫喝してくる。


「じゃあ、出て行くさ。あんたたちのために、働くのはまっぴらだ」

 あーあ、言ってしまった。


(あらあら、まことってば。短気ねー)

 未熟でした、女神様。


「あら? 高月さま。もし行く先が無ければ、ハイランドはいつでもお迎えの準備ができてますよ」

 ノエル王女が、ニコニコとして提案してくれる。

 隣のソフィア王女が少し嫌そうな顔をしていた。


「高月くん……。困ったことがあったら、いつでも言ってくれ」

「ああ……、ありがとう、桜井くん」


 ノエル王女と、桜井くんに軽く頭を下げ。

 ソフィア王女と隣の騎士とは目をあわさず、俺はその場を立ち去った。


 うーん、失敗したかなぁ。

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