53話 桜井りょうすけは忌竜と戦う
- 桜井りょうすけ視点 -
凄い! 本当に忌竜を引っ張り出してくれた。
ダンジョン深くに隠れてしまい、どうやって討伐するか途方に暮れていたやっかいな魔物。
それを高月くんの魔法で、彼もろとも空高く放り出してくれた。
ふと、思い出す。
(しまった、高月くんは飛行魔法が使えなかった!)
慌てて高月くんのほうを見ると、小さな傘のようなアイテムを持って、ふわふわと落下していた。
よかった、どうやら魔法のアイテムを持っていたらしい。
彼は右手を上げて「後はよろしく」みたいなジェスチャーをしている。
(よし! ここからは僕の仕事だ!)
聖剣を構え、聖闘気を集中させる。
――『光の勇者』スキル。黄金の聖闘気。
それを、剣へ伝わらせる。
敵は、2匹の忌竜。
高月くんの魔法の水龍は消え、やつらは自由になって醜悪な姿を晒している。
(出し惜しみなく、全力で行く!)
剣を両手で構え、振りぬく。
――
剣から放たれた光が、十字に敵を切り裂く。
片方の忌竜が、はじけとんだ。
(よし!)
それを見て、敵わないと悟ったのか、もう一匹が逃げ出した。
逃がすか!
(あれは、町の方角!)
しまった。
慌てて追うが、やつのほうが少し早い。
町では、突然現われた見たことの無い不気味な竜の出現に混乱している。
忌竜が、ブレスを吐こうとしている!?
マズイ! 忌竜の
迷宮の町が、人の住めない呪われた町になってしまう!
しかし、ここから全力で攻撃すると、町を巻き込む。
(どうすれば……)
ちらりと、高月くんを見ると「おいおい、何やってんだ」という顔で見られた。
両手を挙げ、「俺はお手上げだ」とポーズしている。
そうだ……、彼はここまでやってくれた。
これ以上は、頼れない。
町を巻き込むのを覚悟で、『光の剣』をたたきこもうとして
――シリャーーーーン
忌竜が透明な壁にぶつかって、それが砕けたような音がした。
忌竜は、戸惑っているようだ。
(……あれは、結界? しかも、何重にも張られている?)
あんなことができるのは。
町の端の太陽の騎士団の駐屯地。
その一番奥の、巨大なテント上空に白いローブを着た魔法使いが浮いているのを見つけた。
(大賢者様!)
彼女が、結界を張ってくれた!
これなら。
聖剣を構える。
――
二匹目の忌竜が悲鳴を上げるまもなく、切り裂かれた。
◇
- 高月まこと視点 -
「貴様らよく、聞けー!! 今宵の酒席は、見事、伝説の邪竜を倒した光の勇者を称えるものである!」
今日の英雄酒場は、いつも以上にごった返している。
「本日の酒代は、全て
「「「「「「「うおー!」」」」」」」
だだっ広い野外酒場に、一部特設会場が設けられ、ハイランドの騎士や貴族たちが集まっている。
桜井くんや横山さんの姿も見える。
というか、本日の主役だ。
「光の勇者様、万歳ー!」「太陽の騎士団、万歳ー!」「桜井さま~、こっち振り向いてー」「抱いてー!」「聖騎士さまも素敵!」
黄色い声援が飛び交っている。
「いやぁ、凄い騒ぎですな」
「私たちは、身内で打ち上げをしまショウ」
俺たちは、ふじやんとニナさんが手配してくれた少し豪華なテーブルで、たくさんの料理とお酒を囲んでいる。
桜井くんが忌竜を倒したあと、俺はルーシーやニナさんと合流した。
ルーシーには「何あれ! まこと、まさか王級魔法まで使えるの!?」と詰め寄られた。
「私のアイデンティティが……」とぶつぶつ言ってたが、おまえは王級魔法のスキル持ってるだけで、王級魔法は使えないだろ。
太陽の騎士団の人たちは、負傷している人も多かったが、冒険者ギルドの人たちの助力もあって無事、ダンジョンを出ることができた。
大迷宮の魔物は落ち着き、迷宮の町は平和を取り戻した。
そして、現在の宴席に繋がる。
「ところで、さっきから演説してる人って誰?」
冒険者ギルドの人じゃないし、商人って感じでもない。
「あちらは、
「ですな。王子派の一人でして、今回の討伐で、桜井殿が失敗したら王国へ報告する手はずだったそうですが、当てが外れてこんな仕事をしているのでしょう」
ふじやんが、意地悪く笑う。
ほんと、何でも知ってるなぁ。
「でも、忌竜退治はまことも協力したんでしょ? 全部、太陽の騎士団に手柄を取られて
「そうでもありませんぞ。桜井殿が、冒険者ギルドにタッキー殿の活躍を伝えておりましたからな。いずれ、ギルドからタッキー殿に連絡があるでしょう」
「だから、なんで俺より情報が早いんだよ」
エールとから揚げをつつきながら、つっこむ。
「まあ、こっちの主役は俺じゃないからね」と言って、料理をパクパク食べている同級生の肩をたたく。
振り向いたさーさんは、骨付き肉を口にくわえ、手にワインを持っている。
よく食べるし、よく飲むなぁ。
身体ちっちゃいのに。
「さーさん、ハーピー女王退治おめでとう」
「うん、ありがとう。みんなの……特に高月くんのおかげよ」
「そんなことないって」
「でも、ダンジョンで高月くんに出会えなかったら私……」
さーさんは、話しながら腕やら腰に手を絡めてくる。
なんだろう、ラミアの種族柄なのだろうか。
単に酔ってるだけかもしれないけど。
「ちょっと、ちょっと! あやは、まこととの距離が近すぎるのよ!」
「別にー。昔からこんな感じだし。ねえ、高月くん?」
そうだっけなー。
「で、あやはこれからどうするの?」
「そういえば、ラミア族を裏切った姉がどこかにいるんだよね?」
さーさんが、ダンジョンを探索するなら俺も付き合うつもりだ。
「それなんだけど、多分あいつはここにはいないと思うの。正直、ただのラミアが一人で生きるには大迷宮は厳しい環境だと思うし」
さーさんの考えでは、上層は人間の冒険者が多すぎるし、中層以下はラミアが生きていくには大変だから、どこか別の場所に逃げたのではないかということだった。
「高月くんたちは、マッカレンって町に帰るのよね? 私もついていっていいかな?」
「それは勿論……」
「当たり前でしょ! 私たちパーティーよ!」
ルーシーに先に言われてしまった。
男前だなぁ。
「よろしく、さーさん」
「タッキー殿~。そのパーティーには、拙者も入っておりますよな~」
「ご主人様、ご主人様。めずらしく酔っ払ってますネ」
ニナさんに聞くとふじやんは、一人留守番で心配し通しだったらしい。
「おいおい、ふじやん。俺たち相棒だろ」
「おぉ! 相棒! よい響きですな!」
「相変わらず仲いいねー」
さーさんが、呆れたように笑っていた。
「ところで、光の勇者様ってどうやって忌竜を倒したの? まことは間近で見てたんでしょ?」
「ああ、なんか剣が光ったと思ったら、一瞬で敵がバラバラになってさ」
「もう少し、詳しく教えてよ……」
「あ、このパスタ美味しいー」
「さ、佐々木様。それは大皿なので、取り分けてから食べるものデス」
ほどほどに酔い、盛り上がっていた頃。
先ほどの太陽の国の偉いさんが、大声で叫んだ。
「マッカレンの冒険者、高月まことよ。光栄にもノエル王女から感謝の言葉が賜られる。こちらへ参るが良い!」
迷宮の町の冒険者たちが、一斉にこちらへ振り向いた。
えぇ……、酔い醒めるわー。
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