52話 高月まことは忌竜と戦う

「水魔法・八岐大蛇ヤマタノオロチ


 七日間かけて精霊と仲良くなった、その全てをこの魔法に込めた。


――水の王級魔法・ヤマタノオロチ。


 山かと見紛うほどの、巨大な八つ首の水の大蛇が現われる。

 後ろを振り返ると、興奮した顔の桜井くんと目を輝かせたさーさん、腰の抜かした横山さんが居た。


「ねぇねぇ! 高月くん、これって蛇だよね!」

 ラミアのさーさんは、親近感が湧いたらしい。

 ……やっぱり、この子変わってんなー。


「精霊さん、この下に『嫌なやつ』が2匹いるんだ。ダンジョンの外に追い払ってくれないかな」

 

 シャァァァァアアア! と水の大蛇は雄叫びを上げると、ざぶんと暗闇の水中洞窟へ潜っていった。


 初めて使ったけど、王級魔法の迫力凄いな。

 超級以上の魔法は、生き物っぽくなるって聞いたけど、オロチは生きてるみたいだった。

 てか、怖い。

 ルーシーもそのうち、こんな火魔法使うのかな……。

 魔法が暴走したら、パーティーが全滅しそう。


「高月くん! 凄いじゃないか!」

 桜井くんのテンションが高い。

「通用するといいんだけど」

「あれは王級魔法?」

「だね。初めての割りにうまくいったかな」


「えっ……そっ……、お……王級?」

「さきちゃんー、立てる?」

 腰を抜かしている横山さんを、さーさんが支えている。


「さーさん。横山さんと一緒に、ルーシーたちと合流してもらっていい?」

「いいけど、高月くんは?」

「忌まわしき竜ってのを、ダンジョンの外に出すまでは、魔法をコントロールしないといけないんだ

「僕はどうすればいい?」

 桜井くんが、聞いてくる。

 おいおい、何言ってんだ? 勇者サマ。


「敵をダンジョンの外に叩き出すから、ぶった切ってよ」

「わ、わかった」

 水魔法は、派手そうに見えて攻撃力が低いから、王級魔法でも多分、敵は倒せないはず。


「た、高月くん!」

 急に横山さんに呼ばれた。

「どしたの?」

「う、うしろ!」


 ざばっ! と巨大な水しぶきが上がり八岐大蛇が再び出現した。


――キャァァアアアア! と耳障りな、不快な叫び声がダンジョン内に響いた。


「あれが……忌竜?」

 さーさんが、ぽつりとつぶやく。


 竜と呼ぶには違和感がある、のっぺりとした白いミミズのような巨大な生き物がいた。

 その身体には、無数の口がある。

 今は、オロチに絡まれて、もがいている。

 もう一方の竜は、身体中に目がありぎょろぎょろと、絶えず目が動いていた。


 なんか、イメージしてたのと違うな。

 邪竜というから、もっと厳つくて禍々しいのを想像してたけど。

 あれは、どちらかと言うと。


「なにあれ! 気持ち悪っ!」

「だねぇ」

 さーさんに同意する。

 忌竜はキモイ。キモ竜だ。

 

――キャァァアアアァァァァッァァ……


 忌竜は、ガラスを引っかいたような耳障りな悲鳴を上げながらオロチに連れ去られていった。

 

「じゃあ、桜井くん。行こうか」

「あ、ああ……」

 


 ◇



 忌竜が、なんとかオロチの絡みつきから逃れようと暴れている。

 逃げられないように水の魔法をコントロールして、運んでいく。


「高月くん、こいつをどうやって外に出すんだい?」

「地底湖の天井に穴が空いた場所があるんだ。そこまで連れて行って、外に放り出すよ」


――キャァァアアアァァァ!!!!


 忌竜が苦しげな悲鳴を上げている。

 あれは口がいっぱいあるほうの忌竜か。


「高月くん、あの忌竜の声は心を不安にさせる効果があるんだけど、大丈夫? 僕らの仲間の魔法使いは、あの声で魔法が使えなかったんだ」

「へえ」


 確かに、若干不快な声だけど。

 魔法が使えないとかは、無さそうだ。

『明鏡止水』スキルの効果だろうか。


「大丈夫そうだよ」

「……うちの団の上級魔術師が全滅してたんだけど」

 桜井くんは、呆れたように言った。

「じゃあ、あの目がいっぱいあるやつも何か悪い効果が?」

「ああ、目が合うと魅了の魔法にかかってしまうらしいんだけど、平気?」


 魅了に関しては、さっきのハーピーでも効かなかったからな。

「ああ、問題ないかな。桜井くんこそ平気なの?」

「僕は太陽の女神様の加護で、状態異常が無効なんだ」

「……」

 このチート野郎め。

 そんな俺の視線に、桜井くんは気づいていない。


――ギィャァァアアアァァァ!!!!


 彼は、興奮したように目の前で繰り広げされる2匹の忌竜と水のオロチの激しい絡みを眺めている。


太陽の国ハイランドでも、王級魔法の使い手は、ほとんどいない。特に水の王級魔法は始めてみたよ」

「この1回の魔法を使うのに、準備が7日間必要でさ。しかも、精霊が協力的じゃないと使えないし。燃費がいい魔法じゃないよ」

「単に発動させるだけじゃなく、ここまで完璧にコントロールできる魔法使いは、そうはいないよ」

 随分、褒めてくるなぁ。

 太陽の国ハイランドには、優秀な魔法使いがいないんだろうか。


「そろそろ見えてきたね」

 地底湖に天井の穴から、太陽の光が指している。

 もう夜が明けたのか。


「ルーシーにメテオで、大穴を空けておいてもらってよかった」

「何か言った?」

「いや、こっちの話」

 

 じゃあ、最後の仕上げだ!


「桜井くん。俺が忌竜を外に出す。俺の魔法はダンジョンの外に出ると消えるから、やり直しはできないからな」

「それは聞いてないよ!」

 あ、先に言っておけばよかったか。


「桜井くんなら大丈夫だろ」

「くっ、やるよ!」

 桜井くんが、覚悟を決めた顔をする。


「精霊さん、そっちに行くよ」

 俺はオロチの頭の上に乗る。

 間近には、皮膚が目で覆われている忌竜がいる。


(うへぇ、近づくとさらに気味が悪いな……)

 さっさと終わらせよう。


「水魔法・大昇龍」


 ヤマタノオロチが巨大な龍に姿を変え、2匹の忌竜と俺を巻き込みながら、ダンジョンの天井に空いた大穴から飛び出した。


(ありがとう……精霊さんたち)


 ダンジョンの外に出た瞬間、俺の精霊魔法は力を失い、消えてしまった。

 俺と忌竜は、空中高くに放り出される。


(桜井くんは、着いてきてるか?)


 ふと見ると、黄金のオーラをまとっている桜井くんが見えた。


(太陽の光を吸収してる?)


 どんどん、輝きが増している。

 これが、『光の勇者』スキルか。 


 桜井くん、あとは頼んだ。

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