49話 佐々木あやは仇敵と再会する


- ハーピーの巣から -


(外に何かいる)

(見張りは何をしてたんだ)


 ハーピーは、魔物ではあるが知能が高く、集団での行動や、身を守る術に長けている。

 巣の入り口付近にいたハーピーは、すぐに異変に気づき外を見て。

 驚愕した。


 朝が来たのかと思うほどの光が、我々の巣を攻撃しようとする魔法の光だと気づいた次の瞬間には、全てが飲み込まれた。


 巣が、無残に崩れおちる。

 魔法に焼かれ、崩れる天井に潰される仲間たち。

 しかし、難を逃れ飛び立つものもいる。

 空中にさえ逃げれば、ダンジョンで我々に攻撃できるものはいない!

 

((((え!?))))


 空中を飛んでいた私たちハーピーの群れが、いきなり水に飲み込まれた。

 ハーピーは泳ぎが苦手だ。

 普段泳ぐことなんて無いのだから。


((((何が起きてる!?))))


 冷静な判断がつかないまま落下していき。

 ハーピーたちは、地底湖に叩きつけられた。



 ◇



- 佐々木あや視点 -


「佐々木様!」

「うん、高月くんたちが成功したんだ!」

 私たちは地底湖の滝の裏に潜んでいたが、轟音とともに天井が崩れ落ちてきたので外へ飛び出した。 


 憎いハーピーの巣の残骸とともに、ハーピーが降ってきた。

 大量の水に巻き込まれながら。


「ルーシー様の『火土混合魔法・流星群』に、高月様の『超級魔法・水龍』。えげつないコンボですネ」

「地底湖には、大海蛇シーサペントや大王鰐がいる。彼らはハーピーをエサと思うはず」

「さっそく襲われてますネ」

 ばしゃばしゃとハーピーが逃れようとするが、水生の魔物のほうに分があるようだ。


「えいっ!」「ホイ!」

 たまに逃げ出すハーピーを私とニナさんで、再び水面に叩き落とした。

 ハーピーたちは、悲鳴を上げながら水の中に引き込まれていく。

 家族のカタキ!

 一匹も逃がすもんか!


「はぁ……はぁ……、もう他にいないかしら」

「あとは、女王がどこにいるカ……」

 やつを探すが、見当たらない。

 逃げられてしまったのだろうか?


「おーい、さーさん、ニナさん」

 しばらくして高月くんとルーシーさんが、

 手には、小さな傘のようなアイテムを持っている。


 なんでも『落下傘』というアイテムらしい。

 広げると、高いところから落ちてもふわふわと降りられる魔道具だそうだ。

 藤原くんは、便利な道具もってるなぁ。


「どう? ハーピー女王は倒した?」

「まだですネ。落ちてきた中にいたのかどうか」 

「まこと、敵探知はどう?」

「数が多すぎて、特定は無理かなー」 


 どこだ。

 敵の親玉は、どこにいる? 


 騒がしかった、ダンジョン内が徐々に静かになる。

 ハーピーはあらかた、倒したようだ。


「あっけなかったわね。帰って祝杯を上げるわよ」

「おい、ルーシー。そういうのはフラグなんだよ」

「ルーシー様、油断はいけませんヨ」

 早くも勝利モードのルーシーさんを、高月くんとニナさんがたしなめる。


 かくゆう私も、少し勝利に酔っていた。

 あれほど、手が出せなかったハーピー族を一網打尽にできた!


 その時、歌声が聞こえた。

 聞き逃しそうな、かすかな歌声。

 なんだろう、心地よい音楽のような。

 ダンジョンには、似つかわしくない。


「あれ? 何か聞こえない?」

「何でしょう……。 たしかに何か聞こえますネ」

「たしかに何か聞こえるような……」

 私たちは、辺りを見渡した。





「やってくれたわね」

 そしてそいつは、現われた。


 私たちは一斉に振り向く。

 整った顔立ちに、美しいライトブラウンの羽根。

 ハーピー女王クイーンが、そこに居た。

 ハーピー女王は、しゃべりながらも歌を歌っている。

 器用なやつ。


「まさか! セイレーンの歌!?」

 ニナさんが、焦ったように叫ぶ。


「え、ハーピー女王じゃないの?」

「進化してセイレーンの能力を手に入れたんでしょう! こいつの声は男性を魅了します。高月様、やつの歌声を聞いてはいけません!」

 

 高月くんは、すこしきょとんとした顔でハーピー女王を見ている。


 関係ない!

 やられる前に、殺す!

 そう思い、近づこうとして。 


「魔法使いの男が死んでもいいのかしら?」

 ニヤリと、ハーピー女王は笑った。


「魔法使いの男! 短剣を自分の首筋に当てなさい」

 その声に指示されるがままに、高月くんは短剣を首元に持っていった。


「しまった!」ニナさんが叫ぶ。

「ま、まこと」ルーシーさんが杖を両手に抱えて、あわあわしている。


「ふふ、私の声は人間の男に特別よく効くのよ。仲間に男が居たのが運の尽きだったわね」

「セイレーンの歌声は、男性を魅了します。佐々木様の仲間を襲った人間というのも、こいつに操られたのでショウ」

 ニナさんが、悔しそうに言う。

 そういうことだったのか……。


「誰かと思えば、あの時殺したはずのラミアの子か……。生きていたとはね」

 憎々しげに私を睨んできた。

 私も、殺気を含んだ目で睨み返す。


「あんたの家族はみんな死んだわよ。ざまぁないわね」

「ハーピー族は、女王の私が生きていれば何度でも蘇るわ。残念だったわね」

 バカにしてくるように、言ってくる。

 くそっ! たしかにその通りだ。

 私たちラミア族は、大母様を殺されたからもう終わりなのだ。


「動いては駄目よ。人間の男は私のほうへゆっくり来なさい。お前の仲間の女が私に攻撃してきたら、自分の首を切り裂いて自殺するのよ」

 高月くんは、その声に従うように、こくんと頷いた。


「そ、そんな……」ルーシーさんが悲痛な声を上げる。

「……」ニナさんは、機会を伺っているようだが動けない。

 

(どうすれば……)


 高月くんを人質に取られては、うかつに動けない。

 私はハーピー女王と高月くんを交互に見て。

 気づいた。


(高月くん?)


『セイレーンの歌声』とやらで、魅了されているはずの彼は。

 こっちをじっと見つめていた。

 その目は澄んでいて、魅了されているようには見えない。


(操られてない?)


 高月くんはこちらを見つめながら、ゆっくりハーピー女王に近づいている。

 その目は、何かを訴えかけてるような。

 

(よし)


 私は、右手に力を集中させる。

 以前は、無意識でやっていた『アクションゲームプレイヤー・溜め攻撃』スキルというやつだ。

 もちろん、今のまま攻撃に言っても通用はしないだろうが……。


「女どもは、ここに残ってなさい。運がよかったわね。子供たちがいれば、エサにしてやるのに。人間の男は貰っていくよ」


 私は、高月くんを信じて力を溜め続ける。

 大丈夫だ、きっと。


「人間の男どもは本当にバカだね。私の歌声を聴くと、私が女神に見えるらしいよ。会った瞬間に、ひざまづくやつまでいるからね」

 勝ち誇った顔に、腹が立つ。


「ほら、私の足でも舐めるかい。女神様の足だよ」

 調子に乗っているのか、ハーピー女王は足を高月くんの前に突き出す。

 忌々しいが、男性を魅了するというのに納得できるような美しさだ。


「ま、まことに足を舐めさせるなんて……。うらやまし……なんて酷いことをっ!」

「あの~、ルーシー様?」

 ニナさんが、つっこむ。 

 ルーシーさんの発言は、あとで問いただそう。


 高月くんは、ハーピー女王の足に顔を近づけるようにゆっくりと屈み。


「そんな薄汚れた足が、女神様の足なわけないだろ」

「え?」


 ハーピー女王の足首が切り落とされた!


「ぎゃぁぁああああ!」

 悲鳴を上げるハーピー女王の目には、氷柱のようなものが刺さっている。

 短剣で切りつけると同時に、魔法を使ったのだろうか?

 いつの間に発動したの!?


「さーさん! 今だ!」

 高月くんが叫ぶ。


 そうだ、今しかない。

 私は、『ダッシュ』の能力で、一気に距離を詰め。


 その勢いを殺さないまま、力を『溜めた』右拳を、敵の胴体に叩き込んだ。


「がはっ!」

 ハーピー女王の腹に大穴が開く。

 私の拳は、敵の身体を貫通した。


「く、くそ……、貴様っ!」

 ふざけたことにまだ息があるようだ。

 ハーピー女王の爪が私を切り裂こうと迫る。


――すぱん


 高月くんの短剣が、ハーピー女王の首を切り落とした。

 ころんと、その首が転がる。

 その短剣の切れ味、凄すぎない?


「あ、ありがとう、高月くん」

「カタキが討てたね、さーさん」

 

 私は、張り詰めていた緊張が解けて、ふらっと高月くんのほうに倒れこんだ。

 

(あ、私返り血で汚れてる)


 はっとして離れようとする私を気にせず、高月くんは受け止め、抱きしめてくれた。


「お疲れさま」

「……うん」


(カタキはとったよ、大母様、姉様たち、キョウダイのみんな……)


 私は、高月くんの肩に頭を乗せて目を閉じた。

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