50話 高月まことは女神様のことを話す


「……なぜ……私の魅了の……歌声が効かない」


 首だけになったハーピー女王が、苦しげに声を上げている。

 え? てか、まだしゃべれるの?


「何こいつ……なんで生きてるの? 怖いんだけど」

 ルーシーがドン引きしている。

 うん、俺もなんだけど。

 夢に出そうだから、生首がしゃべるとかやめて。


「あいつ……大姉様はどこにいるの?」

 さーさんが、生首に話しかけている。

 なかなかシュールな絵だが、真面目な話のようなので黙っておこう。


「……知らないよ……ラミアの巣の入り口を開いたあと、どこかに消えたよ……」

「……そう」

 さーさんは、沈んだ声だった。

 そうか、もう一人のカタキがまだ残ってるんだな。

 それは、そうとしてこの生首ハーピーどうすれば?


「百年以上生きた魔物の生命力は、異常ですからネ。しかし、魔物の力の源は心臓です。首と胴体が離れては、もうすぐ息絶えるでしょう」

 ニナさんが、ビビっている俺に説明してくれた。

 よかった。


「ところで、高月くんはどうしてこいつに操られなかったの?」

「それは私も気になりましタ!」

 ニナさんとさーさんが、逆に俺に聞いてくる。


 ルーシーは、杖でハーピー女王の生首をつんつんしている。

 やめーや。


「俺は、誘惑魔法やら魅了スキルが効きづらいらしいんですよ。『明鏡止水』スキルがあるので」

「うーん、確かに精神安定系のスキルは魅了や幻術に抵抗することができると聞きましたガ……」

 ニナさんは、首をひねっている。


「まったく効かないというのは、おかしいんですヨネー」

「でも、高月くんの演技のおかげでカタキが討てたわ」

 さーさんは、まだ俺の肩に顔を埋めている。

 そろそろ恥ずかしいんだけどなー。

 離れてもいいのかなー。


「あや、そろそろまことから離れなさいよ」

 つつくのを飽きたのか、ルーシーがこっちに来た。

「えー、もう少し、もう少し」

 ルーシーがさーさんを引き剥がそうとして、さーさんがイヤイヤしている。

 妹と姉みたいで少し微笑ましい。

 だけど、俺を挟まずにやってほしい。


「そういえば、高月様は女神様を見たことがあるんですカ?」

 ニナさんが興味深そうに聞いてくる。

「ええ、たまに夢に出てきますよ。昨日も話しましたし」

「おぉぉ! 実際の女神様を見たあとでは、セイレーンの魅了も効果が無いのも納得ですネ!」

 そういうものなのかな?


「高月くーん、女神ってなにー?」

「まことってば、邪神様を信仰してるのよ。なんでも、凄い美人なんだってさ」

「そうそう、凄い美人でしょっちゅう誘惑してくるんだよね」


「め、女神様が誘惑をしてくるんですカ!?」

「昨日は、際どい服装だったし、しょっちゅう身体を触ってくるし……」

 あれは、ドキドキするからやめて欲しいんだよなぁ。


「えぇ……、その女神様、もしかしてビッチなんじゃ」

 ルーシー! なんてことを言うんだ!

 違いますよね?


(こらー、私は『処女』女神よ!)


「女神様は、処女だと言ってるよ」

 女神様の名誉のために、宣言しておこう。


「自分で言うあたり怪しいわね」

 さーさん、そーいうこと言っちゃ駄目。


「み、皆様。あまり神様のことをそういう風に言っては、罰が下りますヨ。あ、どうやらハーピーの女王は息絶えたみたいですね」

 バカな会話をしているうちに、ハーピー女王は死んだらしい。

 まあ、どうでもいい話だ。

 

「何か貴重な素材はありますかね」

「羽根はおそらく素材になりますネ。しかし、百年以上生きた魔物は、心臓が一番重要な部位です」

「へぇー、これ?」

 さーさんが、躊躇無くハーピー女王の心臓を取り出した。

 グロい……。


「心臓の中に魔石があるはずです」

「うーん、これかしら」

 さーさんの手にあるのは、オレンジ色に輝く魔石だった。

 

「おお! 素晴らしい大きさの魔石。これは値打ちものですネ」

「もう一個あるわ」

「なんと」

 さーさんが取り出したのは、同じくらいの大きさの紫に輝く魔石だった。


「なんだか、こっちの魔石は持ってると落ち着く……」

 さーさんが、じっと魔石を見つめている。

「その魔石はおそらく、ラミア族の女王のものでショウ……」

「!? これが?」

 そっか、さーさんの母親の遺品なのか。


「それは、あやが持ってればいいんじゃない?」

「そうだね、さーさんのものだ」

 ルーシーの意見に俺は同意する。


「え、でも……」

「ご主人様も喜んでそうすると思いますヨ」

「ありがとう……」

 さーさんは、魔石を大事そうに胸の前で抱きしめた。

 よかった、カタキが討てて。本当に。

 

 

 ◇



「じゃあ、そろそろ戻ろうか」

「また、あの抜け穴通るの?」

 ルーシーは不満そうだ。


「仕方ないだろ、他に道が無いんだし」

「無事に勝てたのですから……、みなさん! お静かニ!」

「誰か来たわね」

 ニナさんの目がするどくなり、ルーシーが杖を構える。

 続いて俺の敵感知にも反応があった。


「魔物と人間のパーティーが戦ってるみたいよ」

 さーさんが指差す方を見ると確かに、20名ほどの集団が魔物に追われている。

 

「どーする?」

「まことに任せるわ!」

 うーむ、さーさん、ニナさんも俺を見ている。


「とりあえず、精霊魔法の回数には余裕があるから、助けるよ」

 1週間もかけたのに、出番が少なかったんだよな。


「精霊さん、精霊さん、ちょっと、手伝って。水魔法・水鯨」


 巨大な水のクジラが、現われる。

 地底湖を、クジラが泳ぎながら20名のパーティーを巻き込んで、クジラの尻尾が魔物を弾き飛ばす。

 

「わわっ!」「ちょっと!」

 ルーシーがさーさんに、抱きついている。

 大量の水とともに、人間の集団が俺たちのいる場所に流れ着いてくる。

 

「高月様、よくこんなに器用に水を操作できますネ……」

 ニナさんが呆れ気味に言った。


「あら? こいつら太陽の騎士団じゃない」

「ほんとだ」

 確かに胸元にフェニックスの紋章がある。

 てことは、彼もいるのか?


「みんな! 無事か!」

 飛び込んできたのは、光の勇者桜井くんだった。


「やあ、桜井くん」

「た、高月くん? あの魔法はきみなのか?」

「えーと、何と言うか……」


「りょうすけ! 大丈夫? って、あら、あなたたちは」

 続いて現われたのは、元クラスメイトの横山さんだった。


「さきちゃん?」

「え? あなたって、もしかしてあやちゃん?」

 うそー、生きてたの? 久しぶりー、どうしてたのー? 何か雰囲気変わった? ちょっとねー

 女子二人は盛り上がっている。

 さーさん、横山さんと仲よかったんだな。


「みんなを助けてくれてありがとう」

 桜井くんが、礼を言ってきた。

「何があったの?」


 太陽の騎士団といえば、全員が上級職のエリート集団だ。

 大迷宮の中層の魔物ごときで、手こずるとは思えない。


「ああ、実はこの奥の下層で忌まわしき竜と出会って戦闘になったんだけど……」


 どうやら、残る二匹の忌竜というのが、協力し合っており手ごわいらしい。

 二匹を引き離そうと、団員たちが試みたところ下層の魔物たちまで襲ってきて、劣勢になったところを忌竜が攻撃をしてきて、撤退をしたらしい。

 俺たちが見たのは、中層まで何とか逃げてきたところだそうだ。


「幸い死人はいないのだけど、ちょっと今回は失敗したな……」

 珍しく桜井くんの表情が暗い。

「お目付け役の白の大賢者のヤツが、協力的ならもっと事態は変わったのに……」

 横山さんが悔しそうに、表情を歪ませた。


「あの方は、俺たちが失敗した時の保険なんだ。頼りにはできないよ」

 桜井くんは、淡々としているな。


「ええ! 白の大賢者様がこちらに居るの!」

 ルーシーが驚きの声を上げる。

「なあ、ルーシー。白の大賢者って大陸で最強って言われてる人?」

「へぇ~。まことが知ってるなんて珍しいわね」

 これは神殿で習ったからな。


「仕方ないよ、さき。忌竜討伐は、俺たちで何とかするように言われてるんだから」

「でも、失敗したなんて報告すれば王子派に付け入られるわ……」

「ああ、ノエル王女に迷惑をかけてしまうな」

 詳しい事情はよくわからないが、随分困っているようだ。



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 これは、あれだ。

 女神様のお願いを聞くイベントだな。


 「桜井くん、手伝おうか?」

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