48話 VS ハーピー


 ハーピーとの決戦前夜。


 夢を見た。

 何も無い空間――女神様の部屋だ。

 久しぶりだな。

 

 俺は片膝をつき、両手を組んだ。


 現われた女神様は、アイスをくわえ、うちわを仰いでいた。

 ついでにいうと、Tシャツにスパッツという、ラフな格好だった。 

 というか、ちょいエロい。


(ええ~……)


「あら? 来たの?」

 胸元をあおぎなら、こちらを振り向いた。 

 たまに信者と会うときくらい、ちゃんとした服装にして欲しい。

 美人が台無しだ。


「心の声が聞こえてるわよ」

「服装がだらしないですよ、女神サマ」

「ちょっとぉ。信仰心が足りないわよ」

「毎日祈ってますよ」


 むぅー、と女神様がむくれる。

 軽口はこれくらいにしよう。


「ありがとうございます。佐々木さんと会えたのは、女神様のおかげです」

「んー、感謝なさいー」

 アイスをくわえながら、言われても。


「ところで、まこと。どうして光の勇者くんとは、仲良くしないの?」

 あれ?

「彼は女神様の嫌う、聖神信者の一派ですよ。仲良くしていいんですか?」

「そんなの気にしないでいいから。とりあえず、仲良くなっておいたら後で利用できるでしょ」

 相変わらず黒いことを言う女神様だ。


「クラスメイトを利用するっていうのはちょっと」

 心情的に抵抗があるんだけど。

「彼は、今後この大陸のキーマンになるわよ。つべこべ言わずに、親しくなりなさい。私の言う通りにしたら、友人と再会できたでしょ」

「それは、感謝してますが……」

 

「佐々木あやちゃんは、いいわね。ステータスだけなら勇者クラスよ。ルーシーちゃんの魔法も、だんだん強くなってきたし、まことのパーティーの見栄えがよくなってきたわね」

「肝心の俺が弱いんですが」

 周りばっかり強くなってもなぁ。


「ステータスなんて飾りよ。一発逆転できる大技さえあればいいのよ! 精霊魔法を引き続き極めなさい」

 最近は指示が具体的だ。

 

「とりあえず、ハーピーなんかにやられるんじゃないわよ」

 くしゃりと、髪をなでられる。

 何やらチカラが沸いてくる気がした。

 もしかして、応援のために会ってくれたのだろうか。


「お任せください、女神様」

 一礼して、頭を上げた時には女神様は消えていた。



 ◇

 


「じゃあ、行こうか」

「本当に、こんなに早い時間に行くの?」

 ルーシーが眠そうに目をこすっている。


――午前2時。


 ハーピー女王討伐の出発時間だ。


「私はてっきり、昼間に行くものかト」

「甘いですぞ! ニナ殿。この世界は弱肉強食。敵の弱点は容赦なくついていきませんと。ハーピーは鳥の魔物。夜のほうが視力が落ちますからな」

「私たちラミア族は寝込みを襲われたわ。やり返してやるわ!」

 さーさんは、興奮気味だ。


「ハーピーは、今頃熟睡しているよ。そのまま永眠させてあげよう」

「まこと、発言が怖いわよ」

 さーさんに言ったんだけど、ルーシーにつっこまれた。


「俺とルーシーは、ダンジョンの外から。ニナさんとさーさんは、地底湖で待機。攻撃時刻は、いまから2時間後の4時。ふじやんは、吉報とハーピー女王の素材を待ってて」

「うむ。必要なアイテムは、忘れないよう注意してくだされ。武運を祈ってますぞ!」


 全員で小さくうなずき、出発した。



 ◇



「大迷宮の外の森。夜は暗くて不気味ね」

 隠密スキルを発動させた俺の腕をしっかり掴んだルーシーと二人で歩いていく。


「俺はここ3日間、何度も往復したから散歩コースみたいなもんだよ」

「……大変じゃなかった?」

「いや、楽しいよ」

「変人ね」

 

 ボス戦前の入念な準備。

 ここは手を抜けないところだ。

 ちょい、テンションも上がる。


「霧も凄いし。視界が悪いのは、いいことなんだろうけど……」

「この霧は精霊にお願いしたんだ。なかなかいいアイディアだろ?」

「この広範囲を!? ふぐっ!」

「声大きいって」

 ルーシーの口を塞ぎならが、静かに進む。


 しかし、道中は長い。

 暇だな。

 そーいえば、ニナさんに頼まれたふじやんの女性関係とか、聞けてないな。

 この戦いが終わったら、飲みに誘おうかな。


(変なフラグ立てるのはやめなさい)

 失礼、女神様。

 気をつけます。


「ねえ、まこと」

 しばらく、進んでいるとルーシーに話しかけられた。


「この前、あやと一緒に出かけた時のことなんだけどさ」

「ああ、仲良くなった?」

 そういえば、二人でどんな会話をしたんだろう。


「まあまあよ。ラミア族のご飯がまずかったから、食堂やカフェのメニューに感動してたわ」

「あー、生魚とか木の実ばっかり食べてたらしいからなぁ」

 さーさんの食生活を聞いた時は、本当に同情に値するものだった。

 

「甘いものが食べたいって言ってたけど、迷宮の町ってあんまり無いのよね」

「そういえば、ふじやんがチョコレートを持ってくるっていってたな。他にはどんなこと話したの?」

「……」

 あれ?

 食べ物の話しか、してないのか?


「あとは……まことが、前の世界でどんな様子だったかを話してくれたわ」

「ただのゲーム好きのぼっちだったよ」

 さーさん、変なこと言ってないだろうな。


「私は、マッカレンでのまことの様子を、あやに話したわ」

 ん?


「なんで俺の話ばっかり……」

「あやが聞きたがったからよ。私も昔のまことの話聞きたかったし」

「あー、そう……」

 ちょっと、恥ずかしいな。

 しかし、それは盛り上がったのだろうか?



 ◇



「そろそろだ。ルーシーはここで待ってて」

「うん、見張りを倒すのよね」

「ああ」

 そう言いながら、短剣を引き抜き、『明鏡止水』スキルを深く設定する。

 深い霧で視界は最悪だが『暗視』と『敵探知』でハーピーの位置は把握している。 


 敵は気づいていない。

 足音を消し、後ろからハーピーの首と心臓を二撃。

 返り血は、水魔法で浴びないようコントロールする。


 大きな岩の上、低い木の枝、大迷宮へ続く大穴の付近にいる3匹のハーピーを仕留めた。

 交代の時間まで、しばらく余裕があることも事前に把握している。


「ルーシー、終わったよ」

「5分も経ってないんだけど……。まことって暗殺者が向いてるんじゃない」

「そんな職業無いだろ」

 暗殺向きのスキルはあるが、『暗殺者』という職業は無い。

 表向きは。



 俺たちは、大迷宮へ続く大穴へ近づき、そっと中をうかがう。

 大迷宮の天井に、木やツタでできた巨大な鳥の巣のようなものが見える。

 ハーピー共の巣だ。



「ルーシー、任せた」

「オーケー。あやのためにも、特大のを食らわせてやるわ」

 そう言って、詠唱を始める。

 

 ルーシーの杖は、巨神のおっさんのおかげで岩弾魔法くらいなら、呪文の詠唱を飛ばせる。

 ただし、今回は大量の大岩を呼び出す魔法だ。


 巨大な岩石が、次々に現われる。


「炎をまとえ。火属性付与」

 巨大な岩石が、赤く燃え上がる。


 夕焼けのように、辺りを赤く照らし始めた。

 

「ルーシー! ハーピーが気づき始めた!」

 何匹か、巣からこちらを覗いているやつがいる。

 

 だが、遅い!


流星群メテオ!」


 ルーシーが杖を振るうと、大小の燃える岩石が、ハーピーの巣を吹き飛ばした。

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