47話 高月まことはハーピーの巣を見つける


「すいません、ニナさん。手伝ってもらって」

「いえいえ。ご主人様からは、できるだけ力になるようにと言われてますかラ」


 俺たちが今いるのは、大迷宮の中ではなく、外。

 ダンジョンの外側から、地底湖の天井を目指している。


 メンバーは、ニナさんと俺の二人だけ。

 理由は『隠密』を使える面子が2人だけだったからだ。

 さーさんは、現在スキルの練習中。 


 大迷宮を3日かけて、マッピングスキルを使ってくまなく探したがハーピーの巣への道は見つからなかった。

 ハーピーは、空飛ぶ魔物なので地上からの道は無い可能性が高いと思っていた。

 そこで、ダンジョンの外から地底湖の吹き抜けになっている天井部分を探索することにしたのだ。


「木がうっとおしいですね」

 ダンジョン外は、うっそうと茂った木々が視界を邪魔する。


「高月様、お気をつけて。ダンジョンの中ではないとはいえ、魔物がいる可能性がありまス」

「敵探知のスキルと、ニナさんの聞き耳スキルがあれば多分、気づかないってことは無いと思いますよ」

 ウサギ耳族であるニナさんは、獣族の中でもっとも聴覚に優れているらしい。


「魔物がいますね」

「はい、迂回しましょウ」

 余計な戦闘を避けるため、魔物の気配を察知すれば遠回りする。

 そのため、道中は時間がかかった。


「……」

「……」

 草木を分けながら、もくもくと進む。

 無言が続く。


 うーん、何か気の効いたことの一つも言えないのが、つらい。

 桜井くんとかだったら、会話に困らないんだろうなぁ。

 と思っていたら、ニナさんから話題を振られた。


「高月様は、ご主人様と異世界の時からのご友人なんですよネ?」

「そうですよ。といっても前の世界での付き合いは1年くらいですけど」

 それにしてはふじやんには、色々世話になっている。

 感謝が尽きない。


「高月様に少々聞きたいことがありまして」

「何ですか?」

 ふじやんのことか?


「ご主人様の好みの女性とはどんな人なんでしょうカ?」


 そっち系の話題かー。

 彼女居ない暦イコール年齢の俺に聞かれてもさぁ。

 しかし、ニナさんにはお世話になっている。

 真摯に対応しよう。


「基本的には、獣耳の女性が好きですよ」

 これは本当だ。

 間違いない。

 なんたって『猫耳亭』で飲む時は、獣耳の素晴らしさを100回くらい説法されてるからな。


「それは存じてるんですが……」

 ニナさんの長い耳は、しょんぼりと垂れている。

「何か不安なことが?」


「私がいくらモーションをかけても、乗ってくださらないんですヨ」

「……」

「この前は、寝室にかなり際どい格好で行ってみたのですが、手を出してくださらなくて……」


 思ったよりアダルトな相談だったよ!

 無理だ……俺には、この会話は荷が重い。

 ふじやん、何で手を出さないんだよ!

 ニナさん、可愛いじゃん!


「もしかして、私の気持ちに気づいてないのでしょうか……?」

「いや、それは無いと思いますよ」

 100%気づいてるから大丈夫!

 心読めるからね! 彼。


「かくなるうえは、夜這いするしか……」

「……」

 ニナさん、ウサギなのに肉食系女子!


「マッカレンの領主の娘は、ご主人様に気があるようですし……」

「ああ、クリスティアナさんでしたっけ?」

「汚いやつなんですヨ! ご主人様の飛空船の航路を確保するために、色々と要求してきて」

 まあ、権力者ってそんなもんだしね。


「今度、ふじやんにさりげなく聞いておきますよ」

「是非!」

 安請け合いしたけど、良かったのかなぁ。


 そんな会話をしているうちに、目的の場所に近づいてきた。


「マッピングスキルによると、そろそろ地底湖の上あたりですね」

「高月様のマッピングスキルは、相当精度が良いですね。こんなに広大なエリアをカバーできるなんて」

 そうなんだ?

 あまり、意識したことなかった。


「止まりましょう。ハーピーがいますね」

「ええ、見張りみたいです。3匹いますネ」

 敵探知にひっかかったのは2匹までだった。

 やはり、ニナさんがいてよかった。


 しばらく観察していると、見張りらしきハーピーが、穴から出てきたハーピーと交代した。

 どうやら、その付近に巣があるので間違いないようだ。


「巣の場所は、ほぼ特定できましたね」

「見張りがやっかいですガ」

「一度、戻りましょう」

 ハーピーに気づかれないよう、そっと俺たちは冒険者の町へ戻った。



 ◇


 

「というわけで、ハーピーの巣は地底湖の真上で間違いなさそうだ」

「そこにアイツが……」

 さーさんの目が、鋭くなる。

 

「一つ良いニュースがありますぞ」とふじやん。

「どうやら、桜井殿――太陽の騎士団が『忌龍』を討伐したとか」

「あー! 確かに今日、冒険者ギルドが騒がしかったわ。それのせいだったのね」

 最近は、ギルドで情報を集めたり、修行をしているルーシーがぽんと手を打つ。


「へぇ、さすが桜井くん。大迷宮に来て1週間も経ってないのもう討伐完了か」

「それが、完了ではなさそうでしてな」

「どういうことですカ? ご主人様」


「『忌龍』は3匹いるそうですぞ」

「え? そんなに!」

 むしろ悪いニュースじゃないか。


「じゃあ、まだ大迷宮の魔物の行動は変なままなのね……」

 ルーシーが落ち込んだ。

 ここ最近、ダンジョンに潜れて無いからなぁ。


「で、私たちはいつハーピー女王を倒すの?」

 さーさんの声は硬い。

「安全なのは、全ての『忌龍』が討伐されてからのほうが良いと思いますが……」

「それはいつ?」

「わかりませんな……」

 今回すぐ討伐されたからって、次もうまくいくとは限らない。

 大迷宮は広いし、何より太陽の騎士団が勝てるとは限らない。


「ハーピー討伐は3日後にしよう。少なくとも俺の精霊魔法を十分に強化しよう。あとは、ルーシーの魔法が仕上がるのを待とう」

「ルーシーさん、3日で仕上がる?」

「あやの目が怖い……、わかったわ! 任せて」


「決まりですネ」

 ニナさんが、みんなを見回す。

 俺が言葉を引き継いだ。


「じゃあ、3日後。ハーピー女王クイーン討伐に向かおう」

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