43話 佐々木あやは再会する
「高月くん……?」
え?
この魔物、今なんて言った?
あれだけうるさかった『危険感知』のアラートがぴたっと止む。
「ま、まこと!? 魔物が!」
ルーシーが、突然現われたラミアに悲鳴を上げる。
今までこんな近くまで、魔物の接近を許したことはなかった。
「高月……まこと!?」
ラミアが
俺をフルネームで叫ぶ、魔物。
なんか、発音も日本人のそれだ。
これは……。
間違いない。
このラミア、1年A組のクラスメイトだ。
しかし、こんなことがあるのか?
(ええい! 駄目でもともとだ!)
「なあ、この辺に隠れられる場所はないか?」
ラミアに尋ねる。
ラミア族は、大迷宮の中層を縄張りにしている。
俺たちより、土地勘があるはずだ。
「こっち!」
「わかった」
ラミアが指差したのは、大小ある滝の中でもひときわ大きな滝。
たぶん、滝の裏に行けってことだと推測する。
「ルーシー、俺に捕まってろ」
「え、わ、わかった!」
ルーシーが俺の腰にしがみ付く。
なぜかラミアが、少しムッとした顔をする。
がしっと、ラミアまでしがみ付いてきた!?
「ひっ! な、なにこいつ」
「ルーシー、心配するな。大丈夫だから」
若干、自信ないけど。
さっきのアラクネみたいに、油断させて、とかないよな?
「精霊さん! 助けてくれ! 水魔法・暴れる水龍」
アラクネの巣と違って、地底湖の上なら水は使い放題だ。
さっきの倍くらいの水龍が、暴れ狂う。
俺たちを取り囲んでいた、魔物が吹き飛ばされて、流されていくのを片目に、俺たちは滝の裏に逃げ込んだ。
滝の裏は広めの空間が広がっており、魔物の影は見えない。
逃げ切れたか。
「はぁ、はぁ、はぁ……しんどかったぁ」
「はぁ、はぁ、はぁ、逃げられた……、ってこいつまで何でいるのよ!」
「……」
ルーシーが慌てて飛びのく。
ラミアがこちらを――いや、俺をじっと見つめてくる。
「高月くん」
「は、はい」
思わず返事をしてしまう。
しかし、この子は……誰だ?
「高月くんだぁ……」
今度は、体中をぺたぺた触られる。
う、うーむ。
「ちょっとぉ、あんたら何してるの?」
ルーシーが、ちょっと離れた位置でドン引きした顔をしている。
はたから見ると、魔物に抱きしめられているようなものか。
「……」
ラミアは、ルーシーのことはシカトしている。
というか、俺しか見て無い。
「えーと、あのさ」
しかたなく、俺がラミアに話しかける。
1年A組の知り合いで、俺に親しげに話しかけてくる人物。
ふじやんを除くと、1名しか心当たりが無い。
外見は全然違うけど……。
まあ、間違ってたら謝ろう。
「さーさん、だよね?」
「気づいてなかったの?」
うわっ。
凄い不機嫌な声になった。
「いや、だって。姿が全然違うし」
「あー、そっかぁ。ほい、『人化の魔法』」
おお、ラミアがだんだん人の姿に……って、ちょと、待て!
「あんた、服くらい着なさいよ!」
ルーシーさん!
ナイスツッコミだ。
人の姿になった、ラミアは全裸だった。
慌てて後ろを向く。
「さーさん! 何か着るものないの?」
「うーん、だって魔物だし」
なんか恥じらいを無くしてる!
「これ、貸してあげるから」とルーシーがマントを、渡してくれた。
さーさんは、マントをドレスのように巻きつけた。
「あと、これ着て」
俺の上着を羽織らせる。
よかった、これで面と向かって話ができる。
「久しぶり、さーさん」
「高月くん!」
抱きつかれた。
「ねぇ、まこと。誰なのよこいつ」
ルーシーが不満げだ。
「ごめん、ごめん。この子は佐々木あやさん。俺と同じ異世界の出身だよ。さーさん、こっちの子はルーシー。同じパーティの仲間なんだ」
ルーシーとさーさんが見つめ合う。
「……はじめまして、ルーシーさん」
「……はじめまして、あや。とりあえず、まことから離れなさいよ」
「久しぶりの再会なの。別にいいでしょ。……あなた、高月くんの彼女?」
「ち、違うけど!」
さーさんが、小さくほっと息をついた。
「さーさん。ところで、何でこんなところでラミアやってるの?」
聞きたいことだらけだ。
「高月くん! 聞いてよ!」
さらに強く抱きしめられる。
「……」
ルーシーがじとっとした目で睨んでくる。
まあ、きっと辛い思いをしたんだろうから、優しくしようよ。
「あのね、私……」
◇
「……って、ことがあって……」
さーさんの、波乱万丈のラミア人生を語ってもらった。
「許せないわね、そのハーピーと裏切り者は! 私の魔法で吹っ飛ばしてやるわ、あや!」
「え、ええ。ありがとう……」
熱血なところがあるルーシーは、感化されて怒っているようだ。
「……」
「高月くん? どーしたの?」
俺はショックを受けていた。
さーさんの、ラミア族に生まれ変わった話。
ダンジョンでの生活。
魔物の群れとの、日々の戦い。
(俺より、はるかにハードモードじゃないか……)
正直、こっちの世界にきて。
神殿で自分のステータスの低さを知って。
俺が異世界で、一番苦労していると思っていた。
(さーさんに比べたら、ぬるゲーじゃないか!)
「もっと、がんばろ……」
「なんか、苦労してるのね。高月くん」
なぜか、同情の目で見られた。
「苦労してるのは、さーさんだろ。ところで、俺たちダンジョンの上層に上がりたいんだけど道ってわかるかな?」
「上層? 地底湖の上に上がる抜け道なら、姉様たちに聞いたからわかるよ」
「よし! ルーシー、行こう。戻れそうだ」
「ねぇ、私は……?」
さーさんが不安げな顔をする。
「一緒に行こう」
置いていかないって。
「うん!」
また、抱きつかれた。
ルーシー、いちいちそんな目で見るなって。
◇
俺たちは、大迷宮の上層を目指す。
「ここかな、ちょっと狭いから気をつけて」
「いや、狭いって言うか」
「ギリギリだな……」
道というか、穴だった。
「ラミアの姿なら、簡単なんだけどねー」
「うう、岩がごつごつして膝が痛い……」
「さーさん、あとどれくらい?」
「そろそろ出れるはず。出口あったよ」
上がってきた先は、確かに水の洞窟だった。
「人居ないわね」
「たぶん、時刻が早朝だからだよ」
「え! そんなに時間経ったの?」
ルーシーが驚きの声をあげる。
「ここが上層なんだ」
さーさんが、キョロキョロとダンジョンを見渡している。
「さーさんは、初めて来たの?」
「うん、上には人間が多いから危ないって聞いてるから」
「中層の魔物にとっては、上層が危険なのか……」
なかなか、面白い。
「まこと、ここって水の洞窟のどのあたりかしら?」
「たぶん、入り口と大瀑布の中間地点くらいかな」
マッピングスキルで確認する。
敵感知は、弱い魔物しか反応が無い。
「とりあえず、無事脱出だな」
俺たちが一日ぶりに大迷宮からできることができた。
すでに、ダンジョンの外にでると夜が明け朝日が昇るころだった。
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