42話 高月まことは再会する


「はっ」


 私――佐々木あやは、目を覚ました。


「あれ?」

 私、死んでないの?

 自分の身体を見てみる。

 大きな怪我は無い。

 身体を切り裂かれた記憶があるのに。


 辺りを見渡す。

 ここは、私のお気に入りの滝の裏の広場だ。

 住処を出て、すぐの場所だ。


「大母様! みんな!」

 住処に向かって駆け出した。 

 あれは夢! みんな生きてる!

 そうだよね!


 見慣れた住処の入り口を守る大岩は、内側から壊されていた。

 いつもワイワイと賑わっていた、洞窟の中はがらんとして、誰も居ない。


「冷たい……」

 いつもの住処じゃない。

 あの悪夢の時と同じ。

 あれは、夢じゃなかった……。


「うっ、うっ、うう……」

 涙が溢れる。

 みんなの最後の光景が、目に焼き付いて離れない。

 あの虚ろな目。

 血まみれの大母様。

 なんで、あんなことに……。


 ラミア族の住処は、ラミア族しか入れない魔法がかかっていた。

 だから、敵が入ってくることはありえない。

 誰かが裏切らない限りは。


 大姉様、いや。

 あのクソヤロウ……。

 キョウダイを、大母さまを、姉様たちを……。


 なぜだかわからないが、私は生きてた。

 なら、敵を討つ。

 それまで、私は死ねない。



 それから、私は魔物を狩って、狩って、狩って、狩って、狩って、狩って、狩って、狩って、狩り続けた。

 特にハーピーだ。

 いつか、あの親玉が出てくるんじゃないかと、徹底的に潰そうとしたのだが、あいつらは空に逃げるから手が出しづらい。

 最近は、私を見ると逃げるようになってしまった。

 くそっ!


 寝る場所は、誰もいないラミア族の寝床だ。

 扉が壊されてしまっているので、前ほど安全では無いが他に場所を知らなかった。


 もしかすると、裏切り者のアイツが帰ってくるんじゃないかと思ったが、姿を見せなかった。

 どこに行ったのだろう。

 案外、どこかで野垂れ死んでいるのかもしれない。


 しかし、もし生きているなら。

 必ず、私が殺す。

 あの裏切り者と、ハーピー共の親玉を殺すことだけが私の生きがいだ。

 だけど、私はそこまで強くない。

 

 そういえば、大母様がこんなことを言ってたっけ?


「強くなりたいなら人間を食べなさい。あいつ等は、神に祝福された強い力を持っている。魔力の高い人間を食べると強くなれるよ。私みたいにね」


 今の私では、ハーピーの親玉には勝てない。

 私はもっと強く、ならないと……。

 手段は、選んでいられない。



 ◇



 しばらくは、たった一人で戦い続けた。


 ある日のこと。

 気づいたのは、地底湖のほうで大きな音がしたからだ。

 慌てて、私は寝床から飛び出した。

 敵が襲ってきたのかと思ったが、そうではないらしい。


 魔物たちが、何かに群がっている。

 あれは、人間?

 姉様たちが言ってた冒険者だろうか。


 二人の人間がいる。

 真っ赤な髪の女と、グレーぽい服装で黒髪の男。

 女のほうは魔法使いだろう、杖を持ってるし。

 男はなんだろう、軽装に短剣。

 盗賊かしら。


 女魔法使いは、身体から魔力があふれ出している。

 強い生命力を感じる。


(あいつを襲えば……、食べれば私は強くなれるのだろうか) 


 だが、その前に憎たらしいハーピー共がいる。

 先に、あいつらを片付ける!

 ハーピーを蹴散らしながら、2人を観察する。


 比較すると、圧倒的に強いのは女の魔法使いのほうだ。

 男のほうは、そこらのゴブリンくらいの生命力しか感じない。

 最初は、そう思っていた。

 でも。


(違う……。やっかいなのは、男のほうだ)


 数十匹の魔物に囲まれて。

 女魔法使いは、必死の形相で魔法を唱えて、悲鳴を上げながら大海蛇やアラクネの糸から逃げている。


 片や、短剣を持ったあの男は。


(あいつ、後ろに目があるの?)


 後ろから襲ってくるハーピーを最小限の動作でかわし。

 水中から飛び出してくる大海蛇から軽やかに逃れ。

 アラクネの糸を、サクサク切り裂いている。


 身体能力は高くなさそうなのに、まるで踊っているように気軽に全ての攻撃をさばいている。

 

(しかも、あの落ち着きぶりはなに?)

 

 ぎりぎりの命のやりとりをしながら。

 ふと、魔物からの攻撃が無いわずかな時間に。

 ぽりぽりと、頬をかいていた。

 やれやれ、困ったな、みたいな感じで。


(やっかいなのはあの黒髪の男だ……。あいつから狩ろう)


 私は集中力を高めた。

 それにしても、あの頬をかく仕草。

 どこかで、見た覚えがあるんだけど思い出せない。



 -まこと視点-


「くそ、減らないな」

「隕石落とし!」

 ルーシーの放った魔法が、巨大な水柱を発生させる。

 既に7発目の魔法になる。

 何匹かの魔物を巻き込むが、まだ数は多い。


「大丈夫か? ルーシー」

「うん、魔力はまだまだ平気」

 さすが、底なしだな王級魔法使い。

 ただ、集中力のほうがそろそろ限界かもしれない。


「ルーシー、しばらく魔法は使うな。俺が回避するから」

「わ、わかったわ……」

 ふらついているルーシーの肩を抱き寄せ、辺りを見回す。


 俺たちを囲んでいる魔物は50匹以上。

 大体の魔物は、下位~中位クラスの魔物だ。

 気をつけないといけないのは、2匹。

 

 ひとつは、でかいワニのような魔物。

 大王鰐キング・クロコダイル

 これは、ギルドに情報があった。

 地底湖の主らしい。

 ただ、今のところ俺たちに興味が無いようで、オークやらゴブリンを襲っている。

 だから、そこまで心配はしていない。

 

 問題は、もう一匹。

 この混戦に気がつくと混じっていた、一匹のラミア。

  

(通常は、ラミアは群れで行動すると聞いたんだが……)


 このラミアは、たった一匹で行動している。

 一見、ハーピーやアラクネと戦っていて、こちらに興味は無さそうだが……。 


(こっちを狙ってるな)


 危険感知スキルがのアラートが鳴りっぱなしだ。

 

(しかも、めちゃくちゃ強いぞ。こいつ)


 ラミア族は、魔物としては中位クラス。

 しかし、こいつは一撃でオークを叩き潰し、紙のようにハーピーの翼を引きちぎっている。

 というか、ハーピーはこのラミアの姿を見て逃げてしまった。

 その点だけは、ラッキーだったが、あのラミア一匹のほうが気を使うな……。


 さっきの精霊魔法を使ってからは、十分時間がたった。

 そろそろでかい魔法を使って、魔物たちをまきたいのだが……。


(あのラミアが狙ってる状況じゃ、魔法は使いたくないな)


 隙を作ってしまう。

 できれば、気をそらしたいが。


「ルーシー」

「はぁ、はぁ……なに?」

「いや、何でもない」

 ラミアに気をつけろと、言おうとしたがそんな余裕は無さそうだな。

 俺が対処しよう。


 ラミアに対して、あえて

 スキルで視界は360度見えているので、特にラミアからは注意を逸らさない。

  

(誘いに乗るかな……)


 しばらくは、ラミアに背を向けたまま周りの魔物の攻撃を避ける。

 短剣を構え、その時を待つ。


(来た!)


 ラミアが一気に、距離を詰めて迫ってくる。


(早いっ!)


 振り向きざまに、短剣を振るうが、虚しく空を切った。


「水魔法・氷針!」 

 本命の目潰しの魔法を放つ。

 ラミアの眼前に、氷の針が生まれ、発射される。


(避けられた!?)

 この魔法を避けられのは初めてだ。


「くそっ!」


 ちょっと、まずいか。

 俺は、近接格闘はからっきしだ。 

 至近距離で、ラミアと目を合わせる。 


(綺麗な魔物だな)

 場違いな感想を抱きつつ、ルーシーを守るため短剣を構えなおす。

 だが、一向に襲ってこない。 


 目の前に迫る魔物は、驚いたように目を見開いて言った


「高月くん……?」

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