41話 高月まことは○○に遭遇する
「助けてください……、お礼に何でもしますから……」
消えるような、はかない声でその少女は訴えた。
ふらふらと、足がもつれるようにこちらへ近づいてくる。
「大丈夫? 仲間とはぐれたの?」
ルーシーが心配そうな顔でかけよろうとする。
その腕を俺は、がしっと掴んだ。
「まこと? どうしたの?」
「……」
「まさか、こんなボロボロの女の子に何か要求するわけじゃないわよね?」
ルーシーが、怒りの表情を見せる。
「……あ、あの。私にできることでしたら何でも……」
少女が助けを求め続ける。
「大丈夫よ、困った時はお互い様だもの! 礼なんて要求しないわ! まこと、手を離して!」
「……はぁ」
大きくため息をつく。
「ちょっと! 私がお人よしだっていうの! もういいわ。まことがそんな薄情なやつだなんて……」
「ルーシー、そいつ魔物だよ」
さっきから『危険探知』が鳴りっぱなしで非常にうるさい。
「は?」
「っち!」
ルーシーはぽかんとして。
切なげな表情を浮かべていた少女は、忌々しげに顔を歪ませ。
――バキッバキッバキッバキッバキッ、と下半身からたくさんの足が生えてきた。
「アラクネかー」
「キャアアアアアアア!」
ルーシー、うるせぇ。
「ルーシーは、蜘蛛が怖いなら後ろ下がってて」
「違うわよ! びっくりしただけよ。怖くないから!」
シャアッ! とアラクネが襲ってくる。
(水魔法・氷針)
アラクネの目に氷の針がささる。
ギャァアア! 悲鳴が上がった。
「胴体に蜘蛛の目もあるけど、そっちは見えないのかな?」
「なに冷静に観察してるのよ! 岩石弾!」
ルーシーが、杖を向けると一抱えほどの大岩が大砲のように発射される。
ぐしゃっ、と嫌な音と立てて岩は蜘蛛女を潰した。
アラクネは、岩の下敷きになって動かなくなる。
「死んだ?」
「うーん、死んだふりの可能性もあるから確認しようか」
(水魔法・氷針)
――アアアア! 再び目潰しをすると、死んだふりだったのかアラクネが悲鳴を上げた。
「ルーシーさん、よろしく」
「まことって、容赦ないわよねー。火属性付与」
ルーシーが、発射した岩石に火属性付与の魔法を唱える。
ジュウゥ、と嫌な匂いを漂わせながらアラクネは、バタバタと足を動かせ、やがて動かなくなった。
「お疲れさま、ルーシー」
「ほんっとうに、びっくりしたわ。何なのあいつ」
「中層は、人に化ける魔物が多いってマリーさんが言ってたろ。アラクネ、ラミア、ハーピー。あとは、アンデッドの中に人間ぽいやつもいるって聞くし。注意して進もう」
「さすがにゾンビと人間は間違えないわよ」
「たぶん、ヴァンパイアのことだと思……、ルーシー止まって」
「ね、ねぇ。まこと……」
ルーシーも気づいたか。
――カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ、カサ
音が聞こえる。
人の足音ではない。
虫だ。
これは虫の這う音だ。
「これって……」
「ああ、囲まれてるな……」
ぞろぞろと、大きな蜘蛛の上に女の子が生えた魔物が現れた。
全員が、ギラギラとした目をこちらに向けている。
舌なめずりをしている子もいる。
うーん、肉食系女子だね。
「ここってさ……」
「
「もう嫌ぁ……」
やっぱりルーシーさんは、虫が嫌い系女子だったか。
まあ、普通はそうだよな。
「逃げるぞ」
アラクネの群れが、徐々に距離を詰めてくる。
「ど、どうやって?」
ルーシーは青い顔をしている。
「精霊さん、精霊さん」
呼びかける。
今回は、急ぎだ。
(水魔法・暴れる水龍)
小手技は通じそうに無いので、今できる最大の魔法を使う。
俺やルーシーを含め、アラクネたちを水でできた龍が吹き飛ばしていく
精霊魔法は細かい制御が難しいのだが、なんとか水の龍を地底湖のほうへ誘導する。
俺とルーシーは、自分の放った魔法に巻き込まれながら地底湖へ叩きつけられた。
「ぷはっ! 乱暴な逃げかたね」
「いや、まだ逃げ切れてないな」
アラクネたちは、泳ぎが苦手なのか地底湖の中までは泳いでこない。
岸から糸を放ってくる。
あれに捕まったらやばそうだ。
「ねえ、他の魔物が集まってきてない?」
「そうだな。ちょっと、暴れすぎたな」
岸にはアラクネだけでなく、オークや洞窟狼やゴブリンの姿が見える。
「ルーシー、舌かむなよ!」
「え? ひえっ」
水魔法で水面を一気に加速する。
『回避』!
ざぱんっ、とさっきまで俺たちが居た場所を大きな蛇が大口を開けて通り過ぎた。
「し、シーサペント!」
「水の中にも魔物がいっぱいいるなぁ」
「上からハーピーが来てるわ……」
確かに頭上には、ハーピーが何匹かぐるぐる飛び回っている。
ルーシーは、ちょっと目が虚ろだ。
おいおい、諦めるの早すぎだろ。
「見ろよ。魔物同士は特に仲良くなさそうだぞ」
「え?」
アラクネとオークと洞窟狼は、小競り合いをしている。
あ、大海蛇がオークを引きずり込んだ。
ブヒィィッ、と悲しげな声が滝の音にかき消される。
「まこと!」ルーシーが大声を上げる。
「キャハハハッ」
ハーピーが後ろから襲ってきた!
「見えてるんだよ!」
RPGプレイヤースキルのおかげで、視界は360度良好だ。
自分に気づいてないと、油断していたハーピーの足を短剣で切り落とした。
「危なかった……」
明鏡止水スキルで冷静とは言え、少し焦った。
(まこと、大丈夫?)
「大丈夫に見えますか?」
女神様。もうちょっと、導いてくださいよ。
「ね、ねぇ。これからどうしよう……」
ルーシーが肩を強く掴んでくる。
頭上のハーピー、水中の大海蛇、周りを囲んでいるのはアラクネをはじめとする魔物たち。
どこにも逃げ場が無い。
ここまで魔物に取り囲まれたのは初めてだ。
『明鏡止水』99%。
落ち着け。
(
意地が悪いことを言いますね、女神様。
ニヤニヤ顔が、浮かんできますよ。
『回避』!
大海蛇が、再び襲ってくる。
「ルーシー、俺は回避に専念するから、どこでもいいから岸の魔物を蹴散らそう」
「で、でも、岸に上がったらまことは水魔法が使えないわよ!?」
そうなんだよなー。
精霊の力は、さっき借りたばかりなのですぐには使えない。
岸に上がったら、俺はただの役立たずだ。
『回避』!
ハーピーの攻撃を避けつつ、短剣で切りつける。
ハーピーの肩翼が欠け、地底湖に突っ込むのが見えた。
魔物が減る様子は無い。
むしろアラクネの数は増えている。
ただし、岸のほうでは色々な魔物たちが勝手気ままに争っている。
ああ、これはまずい。
まずいなぁ。
一人で逃げる
仲間を見捨てない←
ふざけた選択肢を出しやがって!
「ルーシー、諦めるなよ」
「う、うん」
俺はルーシーの手を握り、短剣を構えなおした。
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