44話 ふじやんは再会する


 タッキー殿とルーシー殿が、大迷宮から一晩経っても戻ってこない。


「ご主人様、そんなに心配でしたら私が大迷宮に潜りますヨ」

 ニナ殿が、提案してくれる。


「ううむ……、しかし上層にドラゴンが出現したという発表がありましたからな。いくらニナ殿とはいえ、お一人でドラゴンの相手は無理でしょう」

「逃げるだけなら何とかなりますヨ」


 悩ましい。

 昨日、冒険者ギルドから上層にドラゴンが出たという発表があり、冒険者の町は騒然となった。

 通常は、数名の行方不明者リストが昨日は、1日で数十人更新されたのだ。

 友人のタッキー殿とルーシー殿の名前を行方不明者リストに発見した時は、愕然とした。

 商談を進める心の余裕がなくなり、今日の予定は全てキャンセルした。

 しかし、一向に友人たちは戻ってこない。


「ドラゴンが上層に現われたのは、『忌竜』の影響でしょうカ?」

「そういう噂ですな……」


 大迷宮の中に、『忌竜』と呼ばれる存在が生まれた。

 ドラゴンですら、避けるという邪悪な魔物。

 千年前の大魔王が、使役したと言われている。

 そいつのせいで、大迷宮の魔物たちの行動がおかしくなったと冒険者たちが話している。


「タッキー殿が、ドラゴンに出会ってなければいいのですが」

「ドラゴンの出現位置は、大瀑布のあたりと聞いてますネ。昨晩、大瀑布に向かうと高月様が言っていたような」

「確かに聞き覚えが……」

 ああ、心配ですぞ。

 

「でも、高月様は強力な魔物相手でも、冷静に対処されるお方。きっと大丈夫ですヨ!」

「そうですな。しかし、待っているばかりでは落ち着きませんなぁ」

「では、もう一度ギルドに行きま……、ご主人様! 高月様の声が聞こえます!」

「なんですと!」



 ◇


-まこと視点-


「タッキー殿!」

 どすどすと、ふじやんがかけてくる。

「ルーシー様! ご無事でしたか! おや、そちらのお方は?」

 ニナさんが、にこやかな顔から一転、鋭い視線に変わる。

 さーさんの魔物の気配を察知したんだろうか。


「俺やふじやんと同じ異世界出身者だよ。色々ややこしいから、中で話していいかな」

「な、なんと! 佐々木殿ではないですか!」

 ふじやんが、驚愕の声を上げる。

 すげ、一発で気づいたのか。

 まあ、人間モードは、かなり前の面影を残してるからなぁ。


「藤原くんは、すぐに気づいたのになぁ。高月くんは、気づかなかったなぁ」

「そーいうこと、言わない」

 徹夜で魔物と戦って疲れてたんだよ。 



 ◇



「なんと……そのようなことが」

「佐々木様……。大変な目に合われたのですネ」

 さーさんの話を聞いて、ふじやんとニナさんが涙ぐんでいる。

 いい人たちだ。

 なんでも、昨日からずっと待っていてくれていたらしい。


 ちなみに、さーさんは着替えている。

 女物の服はニナさんのものしかなかったそうで、タンクトップに短パン。

 明るい場所で見ると、肌が青白い。

 髪の色は少し紫がかった黒髪。

 ただ、顔はさーさんの面影のままだ。

 懐かしい。


「なに、あやをじろじろ見てるのよ」

 ルーシーにつっこまれた。


 つられるように、さーさんがこちらを振り向く。

 きょとんとした顔は昔と同じだ。


「で、さーさん。これからどうする?」

 まあ、聞くまでもなさそうだけどな。


「家族の敵を討つ」

 強い決意を感じる声だ。

 一度決めると頑固だからな。

 中学の時から、変わってない。


「しかし、たったお一人では……」

 ニナさんが、何か言いたげにふじやんのほうを見る。

 ルーシーは、俺のほうを見てくる。



 佐々木あやを手伝う←

 佐々木あやを手伝わない


 

 考えるまでもない、さーさんは大切な友人だ。

 だけど、気になることが1点。

 どうも、この『RPGプレイヤー』スキルによる選択肢は、危険な状況に立ち向かう前に現われるみたいだ。

 となると、ハーピーは強敵なのか?


(今頃気づいたの?)


 女神様の呆れた声が聞こえてきた。

 正直、雰囲気だけの能力だと思ってました。


(女神様、ありがとうございます。導きのおかげで大事な友人と再会できました)

(あら、そう)

 女神様にお礼を言って、ふじやんのほうを向く。


「ふじやん、攻略方法を検討しよう」

「ふむ、そのためにまずは情報収集ですな」

 俺たちはニヤリと笑いあう。

 さすが親友、わかってるね。


「あら、ノリノリね。まこと」ルーシーが意外そうに言う。

「当たり前だろ。困ってるクラスメイトは助けなきゃ」

「ありがとう、高月くん、藤原くん……」

 さーさんまで、泣きそうな顔をしている。 


「しかし、ハーピーの親玉。かなりの強敵のようですヨ」

 ニナさんが冒険者ギルドの手配書を見せてくる。


『大迷宮ラビュリントス:中層。ハーピーの女王と子供たち――報酬:300万G (災害指定候補)』


「これって強いんですか?」

「うーん、群れ全体を相手にするならグリフォンよりやっかいですネ」

「あれより強いんだ……」

 ルーシーが嫌そうな顔をする。


「関係ないわ。ただのハーピーなら私が一撃で倒せるから」

 拳を握るさーさんは、心強い。

 ずいぶん武闘派になったなぁ。


「ところで、ふじやん。さーさんって、本当にただのラミアなのかな?」

「え? どーいうこと?」

 さーさんが、振り向く。

「普通のラミアより随分、強い気がするんだけど」


「それは拙者も気になっておりますな。佐々木殿のお話ですと、一度死んだと思ったら、生きていたなど不思議なチカラを感じますな。そこでこれを使いましょう」

 ふじやんが手に持っているは、『魂書ソウルブック』か。


「教会でないと、貰えないんじゃなかったっけ?」

 正確には、教会でないと購入できない、か。


「ふふふ、色々なルートがありましてな。どうぞ、佐々木殿。この冊子を持ってくだされ」

「うん、これなに?」

「さーさんのステータスとスキルがわかるんだよ」

 言っている間に、魂書が光を放つ。

 ステータスとスキルが判明したようだ。


「うーん、どうやって見ればいいの?」

「貸して」

 さーさんから、魂書を借りてみんなで覗き込んだ。


 種族:ラミア

 名前:佐々木あや

 レベル:34

 ステータス:xxxxxx

 スキル:xxxxxx


「レベル30以上!?」

「うわっ! 何これ。ステータスもバカみたいに高いわよ」

「私、負けてますネ……」

 ニナさんがショックを受けている。


「さーさんも、異世界特典を受けてるってことか」

「これって凄いの?」

 さーさんは、小首を傾げている。


「ステータスは凄まじいですが、スキルも面白いですぞ」

「えーと、固有スキルは『変化へんげスキル』と『進化スキル』と……お?」

 最後のスキル、これって。

「あら? これって」

 ルーシーも気づいたようだ。


 そこには、『アクションゲームプレイヤー』スキルと書かれてあった。

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