31話 佐々木あやはラミアである
お父さん、お母さん、弟たち。
お元気ですか?
私は元気です。
遠い世界で、頑張っています。
ただし、気分は「最悪だけどね……」
私は蛇に生まれ変わった。
悪夢だと思ったけど、夢じゃなかった。
最近、わかったこと。
ここは、地球じゃない。
もしかすると、私は未発見のUMAに生まれ変わったのかもしれないけど。
こんな生物は、地球にはいないはずだ。
私の今の種族は、ラミア族というらしい。
これは、私を生んだらしい『大母様』から聞いた。
最近は、360度蛇に囲まれても見慣れてしまったのが、我ながら凄い。
爬虫類、大丈夫系女子でよかった。
そして、一番の救いは。
「ねぇねぇ、さっきの蛙、美味しくなかった?」
「私は、虫のほうが好きだなぁ」
「ミミズってまずいよね」
生まれた時は、完全な蛇だった姉妹たちが、今は上半身が可愛い女の子になっている。
会話は全然、可愛くないが。
私も、今はただの蛇ではない。
何度か脱皮を繰り返し、人間ぽい上半身を手に入れた。
「ほら、妹たち。ご飯の時間だよ」
私たち末っ子のご飯は、姉たち(蛇女)が持ってきてくれる。
母様は、基本的に働かないらしい。
うちの大黒柱だからね!
父はいないみたい。
一回、姉に父はいないのか聞いてみたら、怖い顔で「それは母様の前で言わないほうがいい」と言われた。
何か事情があるんだろうか。
さて、ご飯だ。
私たちは、生後数ヶ月。
食べ盛りだ。
末っ子の私たちは、最初にご飯を食べていいらしいのだが……。
ネズミ、カエル、トカゲ、クモ、芋虫、小鳥、フナみたいな魚、あとは木の実みたいなのが山盛りになっている。
「「「「「わーい」」」」」
姉妹たちは、それに群がっていく。
(この辺は食べられそうかな……)
とりあえず、木の実とかを選んでぽりぽり食べる。
ただ、これだけだと栄養が偏ってしまう。
しかたなく、他に何か無いか見渡すが……。
(はぁ……、無理だわ)
ラミア族は、火を使ったり調味料を使う風習は無いようで、基本的に食材を丸呑みだ。
ネズミ、カエルをぺろりと食べてる姉妹たちを横目に、私はまだ食べられそうな小魚をかじった。
(あれ? 姉さまたちが、何かを運んでいる)
麻袋のようなものに、重そうなものが運ばれている。
どうやら、母様のところに運ばれるらしい。
前にも見たことがある、貴重な食材は母の元へ運ばれるのだ。
先日は、大きな牛のような動物が運ばれていた。
「ミノタウロスって言うのよ! あれを倒せるのは、大姉さまくらいね!」
と姉たちが自慢げに話してたのを覚えている。
大姉さまというのは、私たちのリーダーのような存在で、母の次に偉いらしい。
うちの家族のNo.2だ。
「どうぞ、大母様」
麻袋が開けられる。
(げっ!)
「xxxxxxxxxxx!?!!?!」
出てきたのは、人間だった。
金属でできた、鎧のようなものをきた人が何かを叫んでいる。
言葉は聞き取れない。
「生きがいいね」
大母様は、長い身体で人間を巻きつけると、やさしく髪を撫でた。
人間の顔は、恐怖で青白くなり震えている。
大母様は、ニタリと笑うと、次の瞬間一口で食べてしまった。
(あああああああああっ……)
私は、頭を抱えた。
この世界は、魔物しかいないのでは? と疑っていたが人間もいる世界だった。
そして、どうやら私たちは人間の捕食者のようだ。
「人間ってどんな味なんだろう?」「魔物より美味しいらしいよ」「姉さまたちは、食べたことあるらしいねー」「羨ましいねー」「私たちも早く狩りに行きたいね」
姉妹たちの無邪気な声が聞こえる。
会話の内容は、恐ろしいものだったが。
「はぁ……、人間と一緒に暮らすのは無理か……」
実は、もし人間がいる世界ならこっそりここを抜け出して人間の街に行けないかと考えていた。
だって、ここのご飯美味しくないし!
だが、先ほどの人間の怯えっぷり。
そして、人間を丸呑みにしてしまった、母。
共存は絶望的だろう。
「元気ないね、どうしたの?」
ため息をついているところを、大姉さまに見つかった。
「い、いえ。私もそろそろ外に出たいなと思って」
適当な返事をする。
「ふーん、あんたは末っ子の中で一番早く、孵ったそうね。たしかに、そろそろあんたたちも、自分の食べ物は自分で捕れる時期ね」
おお! ここから出られる?
実は私たちはまだ、この巣から外に出たことが無い。
住処は、薄暗い洞窟のような場所で、広さは十分だけど外は危険だということで出してもらえなかった。
「明日はあんたたちの初外出だよ。他の姉妹に伝えておきな」
大姉さまは、そう言い残して去っていった。
あら? 私が全員に伝えないといけないのかしら。
面倒だなぁ。
◇
「わぁー、すごーい」
「家の外って、ひろーい」
姉妹たちは、きゃいきゃい、言っている。
私はというと、呆然としていた
「ふわぁぁ……」
私たちの住処は、大きな滝の裏の洞窟だったようだ。
出口に近づくにつれ、轟々と大量の水が叩きつけられる音がする。
水しぶきが、霧となってあたりは白く薄暗かった。
洞窟から普通に、外にでようとすると滝つぼに叩きつけられてしまうので、脇にある横道から外へ出る。
「ナイアガラの滝?」
実物は見たことが無いが、一面を流れる水の壁がそそり立っている様は、前の世界の世界三大瀑布を思いおこさせた。
巨大な滝は、大きな湖を作り出している。
地下にこんな、巨大な地底湖があるなんて!
凄い凄い!
「ほら! ぼぉっとしてないで、早くこっちにきな」
姉さまに急かされ、絶景を楽しむ間もなく移動させられる。
「ここがあんたたちの狩場だよ」
姉さまに、指差された先は地底湖のほとり、ちょうど滝の水があたらないひらけた場所だった。
「「「わーい」」」
姉妹たちは、気ままに散っていく。
「あまり、遠くに行くんじゃないよ! 水の深いところには魔物がいるからね!」
私たちも魔物じゃないのか、と思ったけど黙っておこう。
私は岩の上を、ぴょんぴょんとジャンプして渡る。
魚でもいないかなと思ったけど、水面は滝からの水で波打っていて、水の中がよく見えない。
ふっと、上を見上げると広大な地底湖の周りはどこまでも広大な滝が流れ続けている。
さらにその上は、太陽の光が差し込んでいるのが見えた。
どうやら、この上は吹き抜けのようになっているらしい。
久しぶりの日の光をぼんやり眺めていると、その中を黒い影がふわふわと飛んでいるのが見えた。
鳥かな?
その黒い影は、円を描くように輪を作って飛んでいる。
「おい! おまえたち! 戻れ!」
姉さまの焦ったような声が聞こえた。
「ハーピーだ!」
え?
と思った時には遅かった。
「キァァァァァアアア」
それは、奇声を上げながら突っ込んできた。
上半身は女、下半身は鳥の怪物だ。
「えっ! えええええええっ!」
気がつくと私は、ハーピーの足に身体を掴まれて高く運ばれてしまっていた。
「はやく、みんな住処に戻るんだ。 あの子はもう駄目だ!」
ええ! それって私のこと!
ちょっと、諦めるの早くない? 姉さま!
「ヒヒヒヒッ」
私を掴んでいる女面鳥身の魔物は、綺麗な顔を意地悪そうに歪めて笑っている。
くっそー、私を子供だと思ってなめてるな。
「えいっ!」
私を掴んでいる鉤爪を強引にこじ開ける。
なんだ、こいつ全然力弱いじゃん!
「エッ!?」
ハーピーが驚いているうちに、私は相手の身体に巻きつく。
そのまま、ぎりぎりと締め上げた。
「ハ、ハナセッ!」
ばーか、離すわけ無いでしょ。
絡み合いながら、地底湖へ落ちていく。
そのまま水中へ突っ込んだ。
ちょっと荒っぽいが無事、着水できた。
よし、逃げよう。
私は水の中をするすると泳いで、滝の裏の住処を目指した。
「ギャァァアアアア」
後ろから悲鳴が聞こえたので、振り返ると先ほどのハーピーが大きなワニのような魔物に喰われていた。
(えええええっ! 何あれ! 怖っ! あんなのがいたの?)
私は大慌てで、姉妹たちに合流した。
戻ったら、初狩でハーピーを仕留めたとしてみんなから賞賛された。
いや、全然嬉しくないから!
なんなのよ! この世界は~!!
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