30話 ふじやんは異世界ハーレムをやっている

「ここでいいの?」

「うーん、ふじやんにはそう言われたんだけどね」


 マッカレンの東門を出た先の草原。

 ふじやんに、大迷宮へ行くことを伝えたところ「それなら、移動手段は任せてくだされ!」と力強く言われた。

 正午に待ち合わせといわれたので、ルーシーと一緒に待っているが一向に誰も来ない。


「出発の日付を間違えて伝えたんじゃない?」とルーシー。

「約束の時間まで、あと5分くらいあるよ」

「でもさぁ。普通、馬車とか用意してくれるならとっくに来てないと変よ?」

「だよなぁ」


 見晴らしの良い草原には、何も見えない。

「まあ、ふじやんも忙しいから。もしかしたら何か急用が……お?」

「あら?」

 突然、辺りが暗くなった。

 何か大きなものが突然、頭上に現われた。


「ええええええっ!」ルーシーが大声を上げる。

「……すげ」

 

 それは巨大な船だった。

 大きな帆が風にあおられて、いっぱいに膨らんでいる。

 白い船体が、太陽の光を浴びて神々しい。

 それがぷかぷかと浮いている。


「飛空船!?」

「なぁ、ルーシー。こっちの世界じゃ、船って飛ぶんだな」

「飛ばないわよ。飛空船なんて、王族くらいしか持ってないわ……」

 ルーシーは呆然と見上げている。

 王族しか持ってないようなものを、ふじやんは所持してるのか。

 半端ないな。


「やっホー!」


 船から誰からが飛び降りてきた!?

 足の骨を折るんじゃないかと心配したが、その人はすたっと華麗に着地した。

 かっこいいね。


「ニナさん」

「高月様、ルーシー様。 お迎えにあがりましタ」

「ふじやんは、どこに?」

「船内におりますよ、ああっ! ちょっと、危ないですヨ!」

 ふじやんまで、飛び降りた?

 しかし、ニナさんのように自然落下でなく、何か魔法のアイテムを使っているのかふわふわと降りてきた。

 どすん、と着地する。

 

「壮観だね、この船は」

「ふっふっふっ、そうでしょう、そうでしょう。 驚かそうと思って秘密にしておりましたからな。タッキー殿と、ルーシー殿は乗客第一号ですぞ!」

「すごーい! これで大迷宮まで行けるのね」

「なんか、悪いね。ここまでしてもらうなんて」

「何を言っているのですかな! この船の動力は、タッキー殿のお知り合いの巨神から譲っていただいた魔石ですぞ! あれなくしてこの飛空船は完成しなかったですぞ!」

「そっか、あれを使ってるのか」

 ここ最近、忙しそうにしてると思ったらこれを作ってたんだな。


 そんな感じでわいわい話していると、街からもわらわら人が集まってきた。

 まあ、目立つよな。

 集まってきた人の中から、高そうな馬車から降りてくる、上品そうな女性が近づいてきた。

 ふじやんに近づき、挨拶をする。


「藤原様、この度は飛空船の完成おめでとうございます」

「おお! クリスティアナ様のご助力のおかげで完成させることができましたぞ。今後は、この船でさらにマッカレンを発展させることをお約束しますぞ」

「頼もしいですね。それから、私のことはクリスとお呼びくださいませ」

「いえいえ、拙者のような一商人には恐れ多いですぞ」

「何を言っているのですか。私たちの仲じゃありませんか」

 何やら話し込んでいる。

 ふじやんの知り合いか。


「ねぇ、ルーシー。ふじやんと話している人ってだれ?」

「え? まこと知らないの」

 ルーシーに、まじかコイツ、みたいな顔される。

 そんなこと言われたって知らんものは、知らん。

 何となく身分が高そうな人ってのは、わかるけど。


「マッカレン領主の次女ですヨ。クリスティアナ・マッカレン。ご主人様を狙ってる、姑息な女ですヨ」

 ニナさんが不機嫌そうに言う。

 へぇ、領主の娘か。

 さすがふじやん、大物と知り合いなんだな。

 そして、ニナさんがわかりやすく嫉妬している。


「ふじやんさんってやっぱり、人脈が広いのね!」

 ルーシーは、のん気に感心している。


「ご主人様、そろそろ出発では?」

 ニナさんが急かす。

「おお、そうでしたな。 それではクリス様、お話の続きは戻った時に」

「はい、お土産話を期待してますね」

 領主の娘の人は、ふじやんの手を握ってにっこりと微笑んでいる。

「ご主人様~、行きますヨ」

 それをニナさんが、腕をひっぱっていく。


「ニナさん、道中、藤原様をよろしくお願いしますね」

 ここでクリスさんが、微笑んだままニナさんへ話しかける。

「ええ、もちろん。、指一本触れさせませんヨ」

 ニナさんは、にっこりとクリスさんへ微笑み返す。

「「ふふふふ」」

 一見、仲が良さそうに笑っている。

 こちらからふじやんの顔は見えない。

 どんな顔してるんだろうか、あのモテ男は。

 異世界ハーレムしてやがるな。


「じゃあ、ルーシー行くか」

「うん、楽しみ!」


 俺たちは、空飛ぶ船に乗り込んだ。



 ◇


「うわー、高いー。速いー」

 ルーシーが、船の先端で手を広げて風を一身に受けている。

 タ○タニックかな?

 あれ危なくないのか。


「ルーシー様! あまりギリギリに立つのは危険ですヨ」

 やっぱりニナさんに注意されてる。


 俺は手すりにもたれながら、空の旅を楽しんだ。

 風が気持ちいい。

 

「乗り心地はどうですかな? タッキー殿」

「始まりの街で、いきなり空中移動の乗り物とはさすがだね」

「普通のRPGゲームなら考えられませんな」

 ふじやんが、苦笑しながら言う。

 しかし、実際はふじやんのいままでの努力のおかげだろう。


「ところで、この船は誰が運転してるの?」

「この飛空船のために、雇った船員たちですな。あちらに、有翼の獣人がいるでしょう?」

 たしかに船内にぽつぽつと、背中に翼の生えた獣人がいる。

 ちなみに全員女の子だ。


「いや、それは偶然ですぞ」

「ふじやん、うそはいけないよ」

「まあ、女の子を採用したのは拙者ですな」

 あっさり白状した。


「ふじやんは女の子が好きだね。さっきはクリスさんにモテててたくせに」

 高校じゃ、お互い女子と縁が無いことを嘆いていたのに。

 変わっちゃったな。

 そこで、ふじやんが難しい顔をする。


「そこは難しいところでしてな」

 ふじやんが語るには、現在マッカレンの領主には3人の娘が居て跡継ぎは決まっていないらしい。


「普通は、長女が継ぐんじゃないの?」

「それは家によって異なるらしいですな。マッカレンの領主様は、一番街を発展させたものが跡継ぎと言っているそうですぞ」

「なるほど、それでクリスさんは実績が欲しいからふじやんと仲良くしたいわけだね」

「ご主人様の財産目当てなんですヨ! 今や領主よりも富を蓄えていると噂されるご主人様ですからネ!」

 ニナさんが会話に割り込んでくる。

 多分、その長い耳で聞き耳を立てていたんだろう。

 よく考えると、ルーシーもニナさんも耳がいいから、うっかりしたこと言えないな。


「今回の飛空船は、作るだけでなく航路を確保しないといけないので利権を持っているかたへ話を通さないと、商売ができなかったのですよ」

 ふじやんが、頭をかきながら説明してくれる。

「しかし、苦労した根回しのおかげで大陸初の空中客船が実現できましたネ!」

 ニナさんが興奮気味に話す。

「しかし、あの女には大きな借りを作ってしまいましたが……」

「ニナ殿、我々のスポンサーを悪く言ってはいけませんぞ」

「大変だね」

 商売も女性関係も。

 

「ねえ! ところでこの船の名前は?」

 ルーシーが、会話をぶった切って聞いてくる。

「ふふふ、よくぞ聞いてくれましたぞ!」

 ふじやんは話題を変えたかったのか、ノリノリだ。


「この船名はセント・カノン号! 大陸の空を駆ける白い翼ですぞ!」

「へぇ、素敵な名前ね!」

「さすがご主人様!」

 ルーシーとニナさんが、称える。


 セント・カノンか。

 多分、ふじやんが好きだった美少女ゲームのヒロインひじりカノンから取ったな。

 そんなことを考えていると、ふじやんと目が合った。

 若干、気まずそうだ。


「いい名前だね」

「まあ、良いではないですか」

 いい名前だと思うよ、ほんと。


「この船って、魔物に襲われたりしないの?」とルーシー。

「この飛空船の大きさをここまで巨大にした訳がそれですぞ。今後は客船として遣う予定なので、部屋を確保する必要もありましたが、飛竜やグリフォンでも襲えないサイズにしてますからな」

 なるほどね。

「でも、ドラゴンは?」

 魔物の頂点である、ドラゴンは恐れを知らずに全てを破壊してくると聞いている。


「ドラゴンの縄張りだけは、避けるよう航路を計算しておりますな。一応、船全体に防護魔法をかけているのと、船員の有翼人は戦闘員でもありますからな。仮に魔物が襲ってくれば、戦ってくれますぞ」

「おおー、考えられてるね」

 それなら安心そうだ。


「大迷宮に着くのは、どれくらい?」

「約1日ですな。 明日の朝には着くと思いますぞ」

「すごーい。馬車なら、マッカレンから1週間はかかるのに」

「何も迂回せずに、直進できますからな。当然ですぞ」

 ふじやんは誇らしげに言う。

 

「それでは、船内を案内しますぞ! 夜には豪華な夕食も用意してますからな」

「わーい」

 ルーシーは子供みたいにはしゃいでいる。

 正直、俺も同じようにはしゃぎたい。


 俺たちは、しばしの空の旅を楽しんだ。

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