20話 高月まことははじめてのダンジョンに挑む
俺はこの世界で始めてダンジョンに入った。
異世界に来て、1年と半年くらい。
ずいぶん時間がかかったもんだ。
本当は、すぐにでも色々なダンジョンに挑戦したかった。
しかし、魔法使い見習いのソロでダンジョンに行って、魔物に取り囲まれたら……、みたいな想像をしてずっと後回しにしていた。
念願叶った感じがして、少し感動した。
「これは、すごいな……」
「うわー、綺麗」
俺の声にルーシーが続く。
地味な入り口からしばらく洞窟を進むと、床も壁も天井もクリスタルでできたダンジョンだった。
暗い洞窟を想像していた予想を裏切られる。
淡い光がダンジョン全体から発せられ、幻想的な空間が広がっていた。
「ほおー、これは見事ですな」
「ふじやんでも、珍しいの?」
「ええ、通常のダンジョンはもっと不気味な雰囲気ですぞ。そっちも悪くないですが」
はじめてのダンジョンだったが、どうやらレアな物件に当たったようだ。
「ここは強い魔法使いに作られたんでしょうネ。出てくる敵が、魔法生物ばかりです」
「え? 魔法生物なんですか?」
それは困った。
魔法生物とは、その名の通り魔法で作られた生き物だ。
有名なのはゴーレムとか。
そして、魔法生物は魔法への耐久力が高い。
「俺の魔法が通じるかな……」
魔法生物相手だと傷ひとつ負わせられない気がする。
「まこと! 元気出して! 私の魔法で吹っ飛ばしてあげるからっ!」
「ダンジョン内でルーシーの魔法ってのも怖いなぁ」
全員、黒こげになりそうだ。
「ちょっと、何よ! 人がなぐさめてるのに」
「まあまあ、落ち着いてくだされ」
ふじやんが仲裁する。
「あ、敵が来たネー」
ニナさんが指差す。
そちらから、木で出来た人型の魔物がわらわら出てきた。
「ウッド・ゴーレム?」
「そうですな。先に調査したところこのダンジョンは、ここはあいつらの巣のようです」
「木なら火で燃えるわよね! 私の出番ね」
「おい、ばか、やめろ」
腕まくりして呪文を唱え始めるルーシーの口をふさぐ。
「ふぁっ! 何するのよ、まこと」
「ニナさんが倒してくれるみたいだぞ」
「ふふふ、お二人はゆっくりくつろいでいてよいですぞ」
「行っくヨー」
そんな会話をしている間に、ニナさんがひとっ跳びで、魔物の集団の中に突っ込んだ。
いま、助走なしで10メートルくらい飛ばなかったか?
「ニナさん、すご……」
ルーシーがぽかんと大口をあけている。
ニナさんが、回し蹴りを放つ。
どがん、と車が衝突したような音とともにゴーレムが吹っ飛ぶ。
吹っ飛ばされたゴーレムは、壁に激突してバラバラに散らばった。
敵も大人しくやられてはいない。
四方からニナさんを押さえ込もうと取り囲む。
「助けに入ったほうがいいんじゃない?」
「いえいえ、大丈夫ですぞ」
ふじやんへ尋ねるが、友人は余裕の表情だ。
「ハッ!」
とニナさんが、気合とともに地面を踏みつけると、ドン! という音とともに周りの衝撃波らしきものが円状に広がった。
周りのゴーレムは、すべて吹き飛んだ。
「あれは、土魔法かな」
ニナさんの使う体術に魔法を組み合わせて使っているように見える。
魔法闘士ってやつか。
「え! あれ魔法なの?」
ルーシーが驚きの声を上げる。
なんで、魔法使いが気づかないんだよ。
「ニナさんも無詠唱魔法使えるんだ……」
ショックを受けているらしい。
別に気にすることは無いと思うが、一応訂正してあげるか。
「ニナ殿は無詠唱魔法ではありませんぞ」ふじやんが先に教えてくれた。
「え? そうなんですか?」
「あれは特定の動作をすると、自動で魔法が発動するように訓練している成果だね。さっきの地面を踏みつけると、衝撃波が出る、みたいに」
「その通りですぞ。よく知ってますな」
ふじやんが感心したように言う。
一応魔法使いだから、その辺は見ればわかるはずなんだよなぁ。
ルーシーさんは全然、気づいてなかったようだが。
「じゃ、じゃあ! 私も真似できるの?」
3分間の詠唱を短縮できると思ったのだろうか?
「ルーシーは闘気をまとえるの?」
「……え?」
剣士や闘士は、魔法使いが魔力(マナ)と呼んでいる力を闘気(オーラ)と呼んでいる。
具体的には、自分の身体や武器にまとわせているそうだ。
中級以上の戦士はみな使っているそうだから、ジャンも使っていたはず。
そんな説明をルーシーにした。
「ジャンの風の刃も同じタイプの魔法だったな」
「え? あれって、魔法武器じゃなかったの?」
「あれも魔法みたいなもんだよ」
魔法というか、闘気を使った技か。
「ニナどのは、魔法闘士の師匠のもとで何万回と同じ技の修行をさせられたとぼやいてましたな」
「だろうね。物理攻撃と魔法を同時にできる技の習得難易度は魔法の比じゃないって言うし」
「……そ、そうなんだ」
楽はできませんよ? ルーシーさん。
俺は魔法剣士になりたかったから、その辺は昔詳しく調べた。
わかったのは、俺の魔力量だと闘気として使ってしまうと5分くらいでガス欠になることだ。
闘気をまとえば、剣を振れるくらいに身体が強化されるらしいがいったんは、その使い方は諦めた。
「終わったヨー」
5分後。
ニナさんの無双によってウッド・ゴーレムは全て粉々になった。
「無茶苦茶ですね」
これがシルバーランクの実力か。
「ニナさん、すごーい」
ルーシーがぱちぱち拍手している。
「お疲れ様ですぞ、ニナ殿」
「これくらいなら、楽勝ですヨ」
ニナさんは、息ひとつ切らしてない。
「こいつらは、ダンジョンによって生成されているみたいでしばらくするとまた沸いてくるので、さっさと奥に進みましょウ」
「なんか、僕ら要らないんじゃない?」
「まあまあ、そうおっしゃいますな。もしかすると別の敵がいるかもしれませんし」
「どうかなぁ」
ダンジョンは、シンプルな構造で基本的には一本道。
所々に、横穴がありそこから魔物が出てくる。
魔物は無限湧きなのだろうか。
ニナさんが簡単に処理してしまうが、数はかなり多い
一応、最近手に入れた精霊魔法で水を生成して水魔法で攻撃もやってみたが、敵へのダメージ効率が悪い。
俺が氷の矢を10発当てるより、ニナさんが蹴りを一発入れたほうが早いのだ。
「これ、私とまこと二人だと無理だったね」
「そうだな。俺の魔法じゃ倒せないし、ルーシーは魔法の連発ができないから数に押されて負けてただろうね」
今後の参考にしよう。
「それにしても数が多いわね」
特に何もしてないルーシーは、暇そうだ。
「これだけの数のゴーレムを生成して、操るとなるとかなりの魔力が必要ですな。このダンジョンの動力になっている施設には、貴重なものがある可能性がありますな」
ふじやんは、楽しそうだ。
「ニナさんはどこまで下見したんですか?」
俺はニナさんに話かけてみた。
ちょうど、魔物の群れを倒し終わったところだ。
「うーん、この先に下に下りる階段があったのでその手前までですネ」
その言葉通り、通路の先に大きな階段があった。
階段はかなり長く続いたが、途中に敵が出ることはなかった。
階段を降りると、少し開けた空間になっており大きな扉が見える。
どうやら、この施設の最深部が近いようだ。
「問題は、扉の前にいるあれだね」
「ですなぁ」
さっきから危険感知のアラートがうるさい。
扉の目の前には、先日のグリフォンと変わらない大きさの魔物が横たわっていた。
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