14話 VS グリフォン(後編)


「では、みなさん。魔法を覚える第一歩は魔力マナを感じることです」


 これは、水の神殿の授業の時の話だ。


「両手を前に出して、私と一緒に声に出してください。天に御座す神々よ……」

「「「「「天に御座す神々よ……」」」」」


(こ、これが魔法の詠唱ってやつか)


 高校生でこれは、かなり恥ずかしいな。

 が、この世界で魔法を使うには、詠唱するのが通常らしい。

 我慢だ。


「どうですか? マナを感じましたか?」

「あまり……」

 周りの子供達が、温かくなったとか、光った!とかはしゃいでいる横で俺は何も感じなかった。


 あれ、これってヤバくね?

 まさか、子供達にも負けてしまう。

 青くなっていると先生がやってきた。


「まことくんは、年齢が高いので仕方ないかもですね。こういうのは子供のほうが敏感なんですよ」

「そうなんですか……?」

「そんな不安そうな顔しないで。一緒にやってみましょう」

 そう言って、先生が腕を掴んできた。


「手のひらに意識を集中してください」

「は、はい」

 手のひらに何かひんやりした感触があった。

 こ、これか!?


「どうですか? まことくん」

「なんとなく、感じました。」

「いま、先生がまことくんと同調シンクロしました。魔法使い同士で、身体を触れることで相手の魔力に干渉する能力です」


「そんなことができるんですね」

「上級以上の魔法使いなら皆できますよ。上級魔法使いは弟子を取ることが多いですからね。誰かに魔法の使い方を教えるのに一番手っ取り早い方法です。」

「僕もそのうち、使えますか?」


「魔法使いの熟練度が上級レベルになれば使えますよ。ただ、属性の適正が無いとうまくいきませんから注意してくださいね」

「先生は水魔法も使えるから、同調シンクロできたってことですか?」

「そうですね、先生は『月』以外の6属性が使えますから」


 この先生、結構すごいんだな……。


 そんな会話を思い出した。

 そして、俺は散々水魔法を使い続けたおかげで熟練度だけなら上級レベルと先生に言われている。


 ◇


 ジャンとルーシーのほうに駆けよる。


「ジャン! 少し時間を稼いでくれ! でかい魔法使うから!」

「わ、わかった!」


 ジャンが、剣を捨て盾を構えて両足で踏ん張る。

 グリフォンの足が、ジャンを襲う。

 それをなんとか、凌いでいる。

 頼むぞ、ジャン。


「ルーシー魔力を高めろ」

「え! 何?」

「右手を出して、とにかく魔力で何かを生成しろ! コントロールは俺がやる!」

「何かって、私は火魔法しか出せないわよ!」

「じゃあ、それでいい。思いっきりやれ!」

 ルーシーの右手を掴み、もう片方の手で腰に手を回す。

 いつかの先生のように。


「ひゃ! な、どこ触ってるの!?」

「いいから! 急げ!」

「えええっ、わかったから。そんなにくっつかないで」


(こんな感じか?)


 普段は自分の身体から、手に魔力を集めている感覚を、ルーシーの身体と一体になったイメージで魔力を集める。

 ルーシーの魔力と同調する。

 本来、属性の適正が無いとできないらしいが、他に方法がない。

 駄目ならグリフォンの餌だ。


 ぶわっと、暴風に飲み込まれたような感触を受けた。

 そして、それがルーシーの身体の中から来てるのだと悟る。


(これがルーシーの魔力か)


「んんっ」

 隣からルーシーが色っぽい声を上げるが、気にする余裕が無い。


 俺の持つ小さな魔力とは違う、嵐のような膨大な魔力。

 これが『王級』の魔力か。

 ルーシーはいつも、こんなのをコントロールしようとしてたのか。

 これはしんどいな。


 今後は、もう少し優しく修行に付き合おう。

 ルーシーがまだ魔力を高めている。

 それをいつもとは違う火の魔法に変換を試みる。

 

 突然、目の前に選択肢が現れた。


 おい! なんだよ。

 この忙しい時に。


 『ルーシーと同調魔法を使いますか?』


 はい←

 いいえ


 はい、に決まってる。


 『本当によいですか?』


 はい ←

 やっぱり止める



 ……なんか、しつこく聞いてくるな。

 どうせ他に手はない。

 やるしかない。


 ルーシーから流れ込む膨大な魔力を、右手に集める。


「ファイアストーム!」


 目の前に巨大な火の竜巻が、出現した。


「すごい、発動した! しかも上級魔法!」

「気を抜くと暴走しそう……だけどなっ!」


 台風の中を自転車で猛スピードで走っている気分だ。

 汗が吹き出て止まらない。

 身体が熱い!

 燃えるようだ。


「ジャン! 離れろ!」

「おう!」

 ジャンがエミリーの近くまで避難した。


 ぐるるるるっ、グリフォンが警戒したように後ろへ下がる。


「あああ、避けられちゃう!」

 エミリーが悲鳴をあげる。

 火の竜巻は、グリフォンには届かない。

 ばさっと、グリフォンが空中へ回避した。


「おい! まこと。どうするんだ!」

 火の竜巻は、ちょうどグリフォンの横を通過しようとしている。


(イメージしろ。水と同じように。グリフォンは油断してる。今なら当てられる)


「広がれ!」


 火の竜巻が、一気に大きな渦に変わる。

 熱風がここまで届いた。


 ぎええええええっと、グリフォンが炎に飲み込まれる。


「えええっ! ファイアストームを発動途中から変化させたの!?」

「いつか使えるようにって練習してたんだよ」

 こんな規模の大きい魔法は、想定してなかったけどな。 


 グリフォンが炎から逃げようともがくが、火の柱がそれを追いかける。

「逃がすか」

 ルーシーの暴風のような魔力にも慣れてきた。


(それにしても熱いな。なんか、あと焦げ臭いような)


 なんか、全身がちりちりするような気がする。

 汗は止まってる?


「ちょ、ちょっと、まこと!」

「おい! まこと燃えてるぞ!」

「え?」


 ファイアストームの炎で良く見えてなかったが、俺の身体が燃えてる?


「なんだこれ?」

「まこと! 魔法止めて!これ以上はまずいって」

 ルーシーが焦っている。


「ルーシーは大丈夫なのか?」

「私は平気! とにかく魔法止めて!」


解放リリース


 魔法をとめる。


「あれ? 俺に着いている火が消えないな」

「なんで、あんたそんなに冷静なのよ! 燃えてるのよ!」

「あー、うん」

 そんなこと言われても明鏡止水スキルのせいで、焦れないんだよな。

 今更だけど、便利なスキルだ。


「グリフォンが落ちるわ!」

 エミリーが指差す方に、グリフォンがどさっと落ちてきた。

 翼は焼け爛れ、身体がところどころ炭化している。

 瀕死だ。


「ジャン! いけっ!」

「まかせろ! というか、お前は火を消せ!」


 ジャンの持っている剣が輝く


『最大出力・風の刃!』


 ジャンの剣を緑の光がまとい、グリフォンの首を切り落とした。


「や、やったのか」

 ジャンがへなへなと崩れ落ちた。


 隣では、ルーシーがふらふらしている。

 急に魔力を吸い上げすぎたか。


「凄い、凄い! ジャン! グリフォンを倒したわよ! 私達!」

 エミリーは、ジャンに抱きついている。


「はあー、よかった」

 グリフォンを倒した安心感から、スキルが解けた。


 正直、油断してた。

 明鏡止水スキルに頼り過ぎた。

 さきほど、少し熱いなと思っていたのは、致命傷だったらしい。


「あ……ぁぁ」

 全身を激痛が襲う。

 視界が、どんどん狭くなる。


「ま、まこと!」

 ルーシーの声を聞きながら、目の前が暗くなった。

 駄目だ。

 意識が保てない


――ルーシーとの同調魔法。


 ぶっつけ本番ながらも、絶望的に思えたグリフォンを見事討伐できた。

 ブロンズランクの俺達からすると、かなり強力な攻撃手段だ。


 ただし、引き換えに火魔法に適正の無い俺はルーシーの魔力に焼かれてしまうようだ。

 適正が無いとできないっていうのはそういうことか。

 先生にどうなるか、聞いておけばよかった……。


 もうこの方法は駄目かぁ。


 いいと思ったんだけどな。



――俺は意識を失った。

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