13話 VSグリフォン(前編)


――グリフォン。


 ファンタジーの世界では、ドラゴンの次に有名かもしれない。

 鷲の上半身とライオンの下半身をもつ怪物。

 そんなの、誰でも知ってるか。

 

 俺はRPGゲームに出てくるグリフォンが結構好きだ。

 大抵、ゲームの中盤くらいに強敵として出てくる。

 ラスボスがグリフォンのゲームは見たことが無いが、中盤のボスとしてはプレイヤーに難所として立ちはだかることが多い。

 なにより、カッコいい。


 たださぁ。

 こんな序盤に、唐突に出ることないんじゃない?

 心の準備ってものがさ、グリフォンさん?



 ファンタジーきっての有名モンスターは、猛スピードでこっちへ迫っている。

 巨大な翼の風きり音と獣の唸り声が聞こえる。


「でっか……」


 グリフォンの巨体は暴れバイソンより二回りは大きい。

 太い前足から伸びている鎌のような爪が光っている。

 人間など布切れのように切り裂かれそうだ。


「みんな、離れろ! たぶん暴れバイソンの肉が狙いだ」ジャンが叫んだ。

 グリフォンは焼けた肉の匂いで釣られてやってきたのだろう。

 ジャンはエミリーの手を引いて逃げだしている。


「ルーシー逃げよう」

「でもせっかくの獲物が……」

「言ってる場合か! あんな上位クラスの魔物相手にできるか!」

 あいつに比べると先日のオーガーは可愛い位だ。


 バサッ、バサッ、と巨大な鷲の翼で風が巻き起こり、旋風がここまで届く。

 グリフォンは予想通り、暴れバイソンの上で止まった。

 そのまま、その肉を喰らい始める。


「ああ、私たちの獲物が……」

 ルーシーの声が聞こえるが無視だ。

 こんな時に、何の心配してるんだ。


 グリフォンを刺激しないよう、そろそろと距離を取る。


(頼む、獲物はやるからそのままどこかに行ってくれ)


 そう願ったのだが、グリフォンはぎろりとこちらを見る。

 獲物を狙う視線をこちらへ向ける。

 視線の先にいるのは……ルーシーか?


「は?」

 ルーシーが間の抜けた声を上げた。

 おいおい、ついてないな。

 本日2回目か。


「ルーシー、今日はモテるじゃないか」

「ちょっと、うそでしょ!?」

 引きつった顔でルーシーが後ずさる。


 何でだろう。

 強い魔物は魔力の高い獲物を好むという話を聞いたことがあるが、ルーシーの魔力に惹かれたのだろうか。

 そんなことは、あとで考えるか。

 まずは逃げよう。


「ジャン!」

「わかった、俺とまことで時間を稼ごう」

「ちょっと! 無理だよ。死んじゃうよ!」

 エミリーは泣きそうな顔をしている。


 ばさっと、翼を羽ばたかせて、グリフォンが上空へ上がる。


「くるぞ!」

 俺とルーシーに向かって、滑空してきた。


『回避』!


 ルーシーを抱き寄せて、スキルを発動させる。

 間一髪で、グリフォンのかぎ爪から逃れた。


 ばさっ、ばさっ、とグリフォンは再び上空からこちらを見つめている。


「また、きた!」


 しつこいな。『回避』!


「痛っ」

 回避のときに、ルーシーの足が地面と接触したようだ。

 2人同時の『回避』はまだ、熟練度が足りないか。


「ルーシー、回避しながら詠唱できるか?」

「やってみるけど、多分無理……」

 ルーシーが涙目で訴えてくる。


「そうだよな……」

 もともと集中できる状況で、1分は必要だからな

 回避しながらの詠唱は難しいか。

 グリフォンが三度襲ってくる。


 ああ、くそっ! 『回避』!


「いてて」

 なんとか、避けたが、肩を少し掠った。

 だんだん狙いがシャープになっている。

 グリフォンはすぐに空中に戻ってしまう。


 やばいな。

 近接攻撃が、封じられてる。

 ジャンはエミリーを背にして剣を構えている。

 しかし、攻撃に移るタイミングを図りかねているように見える。


 グリフォンが、甲高い声を上げる。

 なんだ?

 グリフォンの周りに魔力が集まってる?


 グリフォンが四度目の攻撃を仕掛けてくる。

 嫌な予感がするが、回避しかできない。


 『回避!』


 衝撃が身体を襲った。

「がはっ!」

「きゃ!」

 攻撃を避けたはずが、吹き飛ばされた。

 ルーシーとも離れてしまう。

 くそ、さっきのは風魔法か?

 グリフォンの周りを風が覆っていた。

 魔物が魔法使うのかよ!


「大丈夫か、まこと! ルーシー!」

「あ、あ。ジャン。ルーシーを頼む」

 クラクラするら頭を我慢して、立ち上がる。

 グリフォンが、ゆっくりをルーシーへ近づく。

 その前にジャンが剣を構えて立ちはだかる。

 ルーシーは気を失ってはいないようだが、立ち上がれていない。


 エミリーは、離れた位置から回復魔法を唱えてくれている。

 あっちも危ないな。

 グリフォンは、魔法を使うくらいの知恵がある。

 回復魔法を使う人間がいるとわかると、狙われそうだ。


「くそっ!」ジャンの焦りを含んだ怒声が聞こえる。

 グリフォンが前足を払うたびに、ジャンの盾が吹き飛ばされそうになっている。


 あれじゃ、やられるのは時間の問題だ。

 俺の魔力は空っぽ。

 俺の短剣を使った攻撃など問題外だ。

 できれば逃げたいが、4人全員を、逃がしてくれそうに無い。


 どうする?

 ルーシーを見捨てて逃げる?

 いや、ないな。


(見捨てれば?)

 ノア様うるさい。

 黙ってください。


『明鏡止水スキル』を発動して、なんとか平静を保ちながら、何か手がないか記憶を探る。


 何か無いか……。

 思い出せ。


 あいつを倒せそうな裏技を。

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