12話 VS暴れバイソン
「あれじゃない?」
ルーシーの指差す方に視線を向ける
「どれ?」とエミリー。
「見えないな」目を凝らしているジャン。
「千里眼スキル使うか」
俺がスキルを使うと確かに、小さく点のように牛っぽい魔物が見える。
感知の範囲外なので、目当ての獲物かどうかはわからない。
「よくあんな遠くが見えるな」
千里眼スキルですらはっきり見えないんですけど。
「エルフは目がいいからね!」
ルーシーが胸を張る。
「で、どうする?」
みんなに聞いてみた。
「私が魔法でぶっとばすわ!」
ルーシーが腕まくりをしている。
「ここから500メートルくらいあるけど、当たるのか?」
ジャンが疑わしそうに言う。
「無理でしょ」
エミリーは、ばっさり断言する。
「何よ! 遠距離攻撃できるの私だけでしょ!」
むきーっと、ルーシーが怒る。
「ルーシーの魔法はノーコンだからなぁ」
散々ルーシーの魔法を見てきたからわかる。
この距離は無理だ。
「俺が囮になるよ」
短剣を鞘から引き抜き、ぶらりと構える。
「俺は今回、攻撃面では役に立たないし」
天気は快晴。
雲ひとつなく、周りは一面草原で水辺は無し。
手に持っている短剣や自前の魔力の魔法で、でかい図体の暴れバイソンに効果的な攻撃は望めない。
「まこと、大丈夫?」
ルーシーは心配そうだ。
「スキルを使って、上手い事やるよ。こっちにおびき寄せたら、ルーシーの魔法で弱らせて、ジャンの魔法剣でとどめだな」
「私は、ルーシーとジャンに魔法と攻撃の効果アップの補助魔法を使うわ」
「作戦は決まったな。ルーシー詠唱しとけよ」
「待って、物理防御の魔法かけるから」
エミリーに補助魔法をかけてもらう。
さて、行きますか。
隠密スキルを使いながら、暴れバイソンにそろりそろりと近づいて行った
距離が狭まるにつれて、徐々に巨体が明らかになってくる。
暴れバイソンの図体は、中型のバスくらいか。
体当たりされると、人間が木の葉みたいに吹っ飛びそうだ。
まだこちらに気づいていないのか、のんびり草をはむはむしている。
ルーシーの詠唱がそろそろ終わるかな。
後ろを振り向く。
ジャンが手を上げた。
準備完了の合図だ。
よし。
隠密スキル・解除
暴れバイソンがちらりとこちらを見た。
気付いたか。
しかし、まだ警戒しているだけだ。
俺は、足元の石を拾い、投擲スキルを発動させた。
旅人のスキルで、投げたものが必ず当たる。
魔力を温存したい時によく使うスキルだ。
「うりゃ!」
手に取った石を、思いっきりぶん投げる。
「ストライク」
全力投球した石は、暴れバイソンの鼻先に命中した。
ぶおぉぉぉぉ、と怒りの雄叫びが響く。
ぎろりと、こちらを睨んできた。
きたきた!
逃走スキル・発動!
仲間のもとへ向かう。
暴れバイソンが追ってくる。
げっ、予想よりはやい!?
オーガーよりスピードがあるな。
この前の森の中と違って、障害物が無い。
これは追いつかれるな
仕方ない。
暴れバイソンに振り返る。
おおー、なかなかの迫力。
巨大な塊が突進してくる。
当たれば全身骨折コース、間違いない。
回避スキル・発動
追いつかれる直前で、スキルを発動する。
ズザー、と目の前を黒い塊が通過した。
闘牛士の気分だ。
もう一度、回避しようと暴れバイソンの方を見る
暴れバイソンがこちらへ「あれ?」
振り返えらない!?
「え? えええっ?」
ルーシーが間の抜けた声をあげた。
暴れバイソンは赤いモノを見ると興奮する。
ルーシーは真っ赤な髪に真っ赤なマントを身につけている。
「あちゃー」
ルーシーさん、気に入られたな。
「来るぞ!」
ジャンが叫ぶ。
「ひっ! ファイアボール!」
ズシンと、巨大な火の玉が暴れバイソンに向かって発射される。
「早いって!」
暴れバイソンは、走りだすと向きが変えられない。
そのため、突進後に魔法を打てば、ほぼ100%命中する。
しかし、走り出す前なら避けられる。
暴れバイソンは、余裕を持ってファイアボールを回避した。
改めて、ルーシーに突進をしようと後ろ足をかき上げる。
「あわあわあわっ」
「ちょっと、ルーシー!早くもう一度詠唱して!」
ルーシーが混乱しているのをエミリーがなだめている。
ただ、これじゃ間に合わないな。
暴れバイソンが頭を低くして、突進の構えを見せる。
「まずい、来るぞ!」
ジャンが盾を構えるが、あれじゃ防げないだろう。
しかたない
魔力を練る。
「水魔法・氷の床!」
暴れバイソンの足元を凍らせた。
ずるっと、暴れバイソンが転ぶ。
ぶもおぉぉぉ、と少し間抜けな泣き声を上げてずっこけた。
「まことか!?」
ジャンがこちらに駆け寄ってくる。
「ああ! でも、2回目は無理だぞ。魔力が無い」
「まじかよ! 魔力少なすぎだろ!」
「うるさいなっ!」
「おーい、ルーシー! もう一回ファイアボールだ」
「わ、わかったわ」
「風の刃!」
ジャンが剣を振り下ろすと、魔法の刃が暴れバイソンの脇腹に命中した。
ざしゅっと音がして、暴れバイソンが出血する。
しかし
「あんまり効いてなさそうだな」
「本来、近距離用の補助魔法なんだ。飛び道具として使うと威力が低い」
ジャンが悔しそうに言う。
暴れバイソンは元気そうだ。
こちらへ鼻息を荒く、突進の構えを見せている。
ルーシーの詠唱はまだ、半分も終わっていない。
「よし、二手に分かれよう。俺が囮になってひたすら避ける。ジャンは、後ろから攻撃な」
「お、おう。でも、どうやって相手を引きつけるんだ?」
「こうやるんだよ!」
ナイフを構え、暴れバイソンに突進した。
「お、おい!」
ジャンが後ろで焦ったように叫んでいる。
暴れバイソンが、こちらへ突進してくる。
回避スキル! さらに!
「水魔法・氷刃!」
最後の魔力を振り絞って発動させた魔法が、暴れバイソンの片目を貫いた。
ぶおぉぉぉお!と、苦しげな叫び声が響く。
「おお! やった!」
ジャンがのん気なことを言う。
「やってないぞ。怒らせただけだ」
暴れバイソンが、怒りのままにこっちへ突進する。
片方の視界を失って少しふらついている。
これで避けるだけなら大丈夫そうだ。
「俺はもう、魔力が空っぽだ! ジャン、任せたぞ!」
「おまえ本当に魔法使いかよ!? よ、よし!任せろ。」
ジャンが、大盾を構えて暴れバイソンの横から、タックルをかました。
どがん、と大きなものが激突する音が響いて魔物がよろける。
あれはシールドスキルかな。
いい技持ってるじゃないか。
「詠唱終わったわ!」
ルーシーが叫ぶ。
ジャンと俺は慌てて、敵から離れた。
「ファイア―ボール!」
暴れバイソンは、ジャンのスキルをくらってふらついている。
回避はできない。
馬鹿げた大きさの火の玉が暴れバイソンの巨体をすっぽり覆い尽くした。
ごおっと、火柱が上がる。
ぶもぉおぉぉおぉ……、暴れバイソンの断末魔が響いた。
「ルーシーの魔法凄いわね……」
エミリーがぽつりと言った。
「俺の出番なかったな……」とジャンが呟く。
いや、いい仕事してたよ。
「ふふん、そーでしょう!」
ルーシーは得意げだ。
「だけど獲物が黒焦げだぞ。これじゃ、売れないんじゃないか?」
小遣い稼ぎのはずが、やり過ぎてないか?
「毛皮はダメだろうな。でも、内臓や骨も素材として価値があるから、買い取ってくれるはずだ。多分」
ジャンは少し不安げだ。
おいおい、大丈夫だろうな。
「お腹空いたわねー。ちょっと、こいつ食べられないかしら」
ルーシーがワイルドな事を言う。
たしかに、肉の焼けた良い匂いがするけど。
「あんたねぇ、お腹壊すわよ」
エミリーが至極まっとうな突っ込みを入れる。
「ギルドに報告するよ。買い取りと魔物運びの依頼をしないと」
大型の魔物を討伐した場合は、ギルドへ報告をすると運搬と査定をしてくれる。
ジャンは、通信機を持っているようでギルドへ連絡を取ってくれるようだ。
俺たちは、それまで他の魔物が来ていないか、見張りだ。
このあたりは、強い魔物はほとんどいないので大丈夫だろう。
◇
異変に気付いたのは、暴れバイソンを倒し、ジャンがギルドに報告をした10分後くらいだった。
――危険感知スキルが、鳴り響いた。
キーン、と甲高い音が頭に響いて顔をしかめそうになる。
この音の高さと大きさ、初めて聞くんだが。
オーガの時と全然違うぞ。
「おい! みんなヤバイ敵がいる」
みんなに注意を促す。
「え? まこと、何言ってるの?」
「まこと! 本当か?」
「周りを警戒しろ! 何かいるはずだ!」
スキルで位置を探る。
「あ! あれ見てっ!」
ルーシーが指差した方向を見る。
もの凄い勢いで何かが突っ込んでくる。
「うそ!? グリフォン!」
エミリーが悲鳴を上げた。
こちらへ迫ってくるのは、危険度:上位の魔物グリフォンだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます