11話 高月まことは臨時パーティーを組む


「なあ、まこと。一緒にクエスト受けないか?」


 ジャンが、そんなことを言ってきた。

 隣には、僧侶のエミリーがいる。


「はあ? 何言ってるの、あんた達寝惚けてるの? あっち行って!」

 お酒の入ったルーシーは強気だ。

 てか、勝手に断るんですか、ルーシーさん。


「なんで、ルーシーが断るのよ!」

 エミリーが反論する。

 君たちケンカはやめてね。


「何で、わざわざ俺たちと?」

 一応、聞いてみよう。


「いや、実はさ。今度『暴れバイソン』の討伐を受けるつもりでさ」

「へえー」

 暴れバイソン。

 簡単に言うと、巨大な牛の魔物である。

 サイズは普通の牛の3倍くらい。

 普段は大人しいが、怒らせると凶暴。

 赤いものを見ると興奮する。

 そんな魔物だ。

 草食なので人を襲ったりはしないが、馬車に突進して旅人を困らせたりする存在らしい。


 ブロンズランクの冒険者パーティであれば、ちょうどいい難易度のクエストだ。

 報酬は普通だが、暴れバイソンの肉は非常に美味で、高額で買い取られる。

 小遣い稼ぎとしてポピュラーなクエストだ。


 とはいえ

「俺はパス」

「え? なんでだ!」

「暴れバイソンは草原を縄張りにする魔物だろ。マッカレン付近の草原は、水辺が少ない。俺は水が無いと何もできない魔法使い見習いだから、役に立たないよ」

 残り半分くらいのカクテルを飲み干す。


「いや、でも探知とか得意だろ?」

「なんで探知が必要なんだよ」

 草原にいる巨大な牛なんて、探知を使うまでも無く遠くから見える。


「お役に立てないみたいだな」

 サンドイッチをもしゃもしゃかじり、話を切り上げようとした。


「待ってくれ! 報酬はそっちの取り分が多くていい! だから、一緒に行かないか?」

「なんでそこまでして一緒に行きたいんだよ」

「この前のお詫びでしょ」

 ルーシーが答える。


 ほう、そーなのか?

 ジャンとエミリーを見ると、気まずそうにしている。


「お詫びって意味もあるけど、お互い新人冒険者だし今後は仲良くしていきたいの」

 エミリーが答えた。

 仲良くか。

 どうしたもんかな。


「はあ? 今更、仲良くなんてできるわけないでしょ」

「なんでそんな喧嘩腰なのよ!」

 きしゃー! と猫の喧嘩ようにルーシーとエミリーが睨みあっている。

 君たちはもう少し仲良くしてください。


「なあ、ジャン。一緒に冒険するならゴブリン退治でもいいじゃないか?」

「ああ、それも考えたんだけどゴブリンなら大森林だろ。大森林でルーシーの火魔法は禁止されてるって聞いたぞ」

「あー、そうだったな」

 魔法のコントロールができるまで、大森林で火魔法の使用を禁止されているルーシー。

 ルーシーが使えるまともな攻撃魔法は火魔法のみ。

 というわけで、最近は修行漬けの日々だ。


「草原だったらルーシーの火魔法を思いっきり使えるだろ」

「まあ、確かにな。どうする? ルーシー」

「ええー、こいつらと一緒に行くの?」


 ルーシーは不満そうだ。

 だけど最近は修行ばっかりで飽きてたし、俺たちはバランスが悪い魔法使い2人組パーティー。

 前衛のジャンと、回復&補助のエミリーが入れば、バランスが良くなる。

 ただ、懸念点が一つ。


「俺はできることないよ?」

 水の無い草原だとほんと、役立たずだ。

 探知スキルや隠密スキルも意味ないし。


「ま、まあ足止めとかしてもらえれば」

 エミリーが言いづらそうに言う。

 囮ってことか。

『逃走スキル』と『回避スキル』でなんとかなるかな。


「いいよ。報酬はこっちが多めに貰えるんだよな?」

「ああ、7:3で分けるよ」

 ジャンの顔が明るくなる。

 最近稼げてなかったし、いいかな。


「ルーシー、折角のお誘いだし、一緒に行こうぜ」

「まことがそう言うなら良いけど」

 しぶしぶルーシーも同意してくれた。



 ◇


 翌日。


 冒険者ギルドの休憩室で目を覚まし、近くの井戸水で顔を洗う。

 そのあと、女神様の短剣を両手に持って祈りを捧げる

 

「今日も頑張りますね、女神様」

(うんうん、安全第一よ、まこと)


 日課の祈りを済ませて、ジャンたちとの待ち合わせ場所に向かった。


 集合場所は、東門前だ。

 そのあと草原へと繰り出した。

 天気は快晴。雲一つない。


 水魔法使いの俺にとっては、悪天候である。

 小雨でも降ってくれればよかったのに。

 道中はジャンと喋りながら目的地を目指した。


「へえ、ジャンとエミリーは幼馴染みなんだな」

「太陽の国の孤児院でずっと一緒でさ。俺は騎士を目指してて、エミリーはハイプリースト志望なんだけど、まずは冒険者として名を売ろうと思ってるんだ」

「まっとうな目標だな」

 冒険者として有名になりその後、転職して安定した職業に就く。

 この世界では、一般的なキャリアプランだ。

 ただし、冒険者稼業は危険が多いので、途中で挫折する者も多いとか。

 

 あと、ジャンとエミリーは別に恋人同士というわけではないらしい。

 この前、ルーシーが色々言ってたのは喧嘩の売り言葉だったようだ。

 しかし、美人の幼馴染。うらやましいね。


「まことは何を目指してるんだ?」

「えーと、とりあえずレベル上げして、難易度の高いダンジョンに行く予定かな」

 最高難易度のダンジョン、『海底神殿』を目指していることは伏せた。

 ルーシーには、呆れられたし。


「へえ、冒険者一筋か」

「それしかできないだけだよ」

 クラスメイト達みたいにどっかの国に雇われて優雅に王宮暮らし。

 俺のステータスとスキルじゃ無理だわ。


「やっぱり目指しているのは、『大迷宮ラビュリントス』か?」

「大陸最大のダンジョンか……。そのうち行ってみたいけど」

 木の国、水の国、火の国の3ヶ国をまたがって地下に広がる広大なダンジョン。

 あまりの広さに、未探索の場所が数多く残っていると言われている。

 そのため挑戦する冒険者は多い。


「そのためにはアイアンランクにならないと」

「そうだな」

 大迷宮の推奨はアイアンランク以上の冒険者だ。

 俺たちには、まだ荷が重い。


 少し離れてルーシーとエミリーが付いてきている。

 仲良くやってるだろうか?

 気になって『聞き耳』スキルを使ってみる。


「ねぇねぇ、あんたらってどこまで進んでるの?」

 ルーシーが、エミリーにからんでいる。

 おいおい、何言ってるんだ?


「何よ急に」

「あんたジャンのこと好きなんでしょ? ちょっとは進展した?」

「あのねえ、私たちただの幼馴染だから」

「何言ってるのよ。 私のこと目の敵にしてたくせに」


「ちがっ! そもそもあんたが、いつも露出の多い服ばっかりだからジャンが困ってたのよ。今日もそんな格好だし」

「暑いんだからしょうがないでしょ。それに、そんなのジャンの修行が足りないんでしょ。まことなんて、全く気にしないわよ?」

「それも凄いわね……。彼、女に興味ないのかしら?」

 失礼なこと言うな。

 興味あるぞ。


「まことが、男が好き……だったらどうしよう」

 ルーシーがいらん心配をしていた。

 あほか。


「あんたこそ、まことくんとはどうなの?」

 エミリーが反撃にでる。

「はあ? 何もあるわけないでしょ。まだ、パーティー組んで数週間よ?」

「その割には、親密じゃない? 毎日夜遅くまで二人で修行してるとか。噂になってるわよ」

「え……そうなの」

 え? そうなの?


「魔女ルーシーの毒牙にかかった、次のターゲットは異世界魔法使いのまことくんか」

「しばくわよ」

「先変なこと言ってきたのあんたでしょ」

 これ以上聞くのは、やめとこう。

 危険だ。

 とりあえず、大丈夫そうだ。


 出発から、しばらくして。


「あれじゃない?」


 ルーシーが、目標を指差した。

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