5話 高月まことは、友人と再会する
ふじやんとの友人歴は約1年。
たまたまクラスで近くの席になり、ゲームの話題で盛り上がって仲良くなった。
俺はRPGゲームが好きで、ふじやんは美少女ゲーム好き。
好みのゲームのジャンルは違ったが、お互いの好きなゲームを貸し借りしたりして友好関係は続いた。
ふじやんと水の神殿で別れてから9か月。
今や自分の店を持っているという。
凄いスピード出世だ。
俺たち高校生だよな……。
クラスメイトの中には、
あいつは別格過ぎる。
いや、もしかしたらクラスメイトのみんなも大成功をしてるのかもしれない。
俺だけが、のんびりして取り残されてるのかも……。
気分が暗くなる。
目的地に到着した。
『フジワラ商店』
大きな看板が出ている。
ここだ。
(ふじやんの性格は、変わってないといいけど)
俺はここ1年、神殿でずっと魔法や冒険者の修行を続けていた。
異世界人として奨学金は免除されているので、行ってしまえば国に保護されたぬるま湯生活。
国家ニートである。
比較すると、ふじやんは、便利なスキルを持っているとはいえ、日本なら未成年。
それが商会ギルドに入り、9か月で店を持つまでになった。
きっと、色々なことがあったのだろう。
1年間、神殿で引きこもっていた俺と果たして話が合うのだろうか。
不安だ。
「おじゃまします」
小声でゆっくりと店内に入る。
「いらっしゃいまセー」
女の店員さんが迎えてれた。
そちらに目を向けると
(ウサギ耳の店員!?)
茶色い癖っ毛で、小柄なうさぎの獣人の店員さんが出迎えてくれた。
ぱっちりした目が可愛らしい。
「お客様は、冒険者ですか?いいアイテムが揃ってますヨ」
にこやかに接客してくれる。
ちょっと、なまりが気になるが。
獣耳の店員さん。
ふじやんの趣味が全開だな。
「えーと、店主の藤原さんは居ますか?」
「む、お客様は商人でしたか。商談は、まず私が伺いまス」
口調が変わった。
「いえ、そうではなく。藤原さんの友人なんですが……」
店員さんが俺を見る目が鋭いものになった。
「ご主人様の友人、でございますか。お名前を伺ってもいいですカ?」
「高月まことです」
「もしや、異世界からいらっしゃった!?」
「え、はい。そうです」
「少々お待ちください!! すぐ戻りまス!」
凄い勢いで店の奥に消えると、小さな道具を持って戻ってきた。
タバコくらいの大きさのそれには、ボタンがいくつかついており、店員さんがそれを押している。
そして、道具を口元にあてた。
「ご主人様! ご主人様! 高月様がいらっしゃいましたヨ!」
「なんですとー! そこにいるのですかな!?」
懐かしい声が、聞こえてきた。
「どうぞ、高月さマ」
店員さんが、通信機らしき道具を渡してくる。
「もしもし、ふじやん?」
「おおおおっ! その呼び方! その声は、まぎれもなくタッキー殿ですな!」
「ひさしぶり。マッカレンの街に来たから、会いにきたよ」
「待ってましたぞ! すぐにでも戻りたいですが、生憎これから商談なので、18時に拙者の店で待ち合わせでもよろしいですかな!?」
「ああ、了解。じゃあ、また後で」
道具を店員さんへ渡して、また後で来ることを伝えた。
(ふじやん、変わってなかったな)
あの感じだと、昔と同じ接し方で大丈夫そうだ。
安心した。
ふじやんとの約束の時間まで、まだ数時間あるため街の外を探索することにした。
店員さんに教えてもらったところ、街の北にある森には、大ねずみなどの弱い魔物が出るらしい。
女神様に貰った短剣を試し切りしたい。
◇
「これは、凄いな」
大ねずみを『水魔法・
ほとんど、手ごたえが無い。
まるで布を切るように、すっと刃が通った。
「いい武器を貰ったな」
女神様に感謝しよう。
「女神様、ありがとうございます」
日本式に手を合わせて、祈った。
(でしょー。感謝してねー)
女神様の声が聞こえた気がした。
胸を張ってドヤ顔の女神様の様子が頭に浮かぶ。
大ネズミの皮を剥いで、道具屋に売りに行った。
冒険者ギルドでも買い取ってくれるらしいが、折角なので色々見回りたかった。
「3000Gだよ」
大ネズミの皮3枚と交換した。
その金で、女神様に貰った短剣の鞘を購入する。
街の中心は賑わっており、食料品店、衣服屋、武器屋、道具屋などが立ち並んでいる。
中には使い魔用のペットショップなんてのもあった。
商店街のようになっている大通りから外れると、食堂や酒場が並んでいる飲食街になる。
そのさらに裏は、宿屋が並んでおり、一番奥に行くといかがわしいお店がならぶ風俗街がある。
俺は金が無いので無縁だけどね。
一番興味があった武器屋をいくつか見回ってみた。
しばらくは、女神様の短剣で大丈夫だと思うが、できれば魔法剣士を目指したい。
俺は『魔法使い』の適正はあるが、剣士になるには筋力が足りない。
だからまともに剣が振れない。
しかし、世の中にはどんな職業の人でも達人のようになる聖剣や魔剣があると聞く。
いずれはそんな魔法の剣を見つけたい。
剣を見るついでに、女神様の短剣を鑑定してもらった。
「お客さん、この短剣をどこで?」
「えーと、知人から譲ってもらいました。価値のある品と聞いてるのですが」
「たしかに魔法効果がいくつか付いている業物ですね。きちんと調べないと細かいことはわかりませんが。ところで、売る予定はありますか?」
それを売るなんてとんでもない!
武器屋の店主が、狙っているようだったので慌てて返してもらった。
店の中を、魔剣が無いか見て回る。
他にも何人か、冒険者っぽい人たちがいた。
「ジャン、そんな高い剣はまだ要らないでしょ」
「そうは言ってもなー。やっぱり強い魔物を倒すには、今の剣だと切れ味がさ」
でそんな会話をしている戦士風の男と僧侶っぽい女の子がいた。
リア充め。
「もー、たまには私の装備も買ってよね」
「じゃあ、今回は武器は諦めてエミリーの服を新調するか」
「やったー、さすがジャン!」
女の子が男の腕に絡みついている。
爆発しろ。
そうやって、ぶらぶらしていると約束の時間になった。
時間ぴったりに、ふじやんの店に行くと、見覚えのある恰幅のいい男がウロウロしていた。
9か月ぶりの顔だ。
「ふじやん」声をかける。
「タッキー殿!」
ドスドスとかけてくる。
「久しぶりですな!」
「元気そうだね」
「さあ、店を予約しておりますぞ!行きましょう!」
場所は、飲食店が立ち並ぶ通りから、一本裏通りにある静かな隠れ家っぽいお店だった。
おしゃれな場所を知ってるなー。
どうやらふじやんの行きつけの店らしく、奥の個室に通される。
「「乾杯」」
コツンと、グラスをぶつける。
ふじやんは、エールを飲んでいる。
俺は、フルーツのカクテルにした。
実は店で酒を飲むのは初めてだ。
この国では、飲酒は13歳からOKなので、違法ではない。
「どうですかな?」
「なんか、ジュースみたいだね」
「エールにしますか?」
「エールはいいや。昔神殿で飲んで、苦くて不味かった」
「そのうち、これが美味く感じますぞ」
「そうかなあ」
そんな会話をしているうちに、次々に料理が運ばれてきた。
分厚いステーキ、エビの唐揚げ、淡水魚の刺身、チーズがたっぷりかかったパスタに、具沢山のスープ。
「
「おお、気に入ってもらえましたかな」
「最高だね。薄味な神殿の料理とは段違いだ」
「あれは、味気なかったですなぁ」
しばらくは、料理に舌鼓を打った。
「しかし、心配しましたぞ。1年たっても音沙汰がなかったですからな」
「異世界人の保護期間のぎりぎりまで残ってたからね。俺が最後の一人だったよ。どこのパーティにも誘われなかったから」
「そうなのですか」
ふじやんが、気の毒そうな顔をする。
そこで、俺がニヤリとする
「でも、昨日はソロで、ゴブリンの集団に襲われてる人を助けたよ」
「なんですと! 普通、ゴブリンの集団を一人で倒すのは、『中級魔法使い』か『中級剣士』が一般的と言われてますぞ。危険だったのでは」
「どうかな。割と余裕だったけど。手持ちのスキルの使い勝手、悪く無かったよ」
昨日、女神様に言われた受け売りを話してみた。
ほうほう、とふじやんは感心したように聞いていた。
「冒険者ギルドで無事、登録も終わったし。ストーンランクからゆっくり頑張るよ」
「冒険者ですか。拙者には無理ですが少々、憧れますな」
「ふじやんは、商人として大成功してるじゃん」
「いやいや、まだまだですよ。店を作ったときに借金もしてますからな」
「店員はウサギ耳だしね。楽しそうだね」
「ぶほっ」
ふじやんが、エールを吹き出した。
「そういえば、うちの店員と会ったんでしたな」
「可愛かったね。店員さん」
「ま、まあ、顔で選んだわけではないですぞ?」
「ふじやんの夢だったね。あんな可愛いウサギ耳の女の子を雇えるとか、勝ち組だわー」
「あの店員は火の国で知り合って用心棒として雇った店員ですぞ。あれでもシルバーランクの冒険者ですからな」
「へえ。そんな強そうに見えなかったけど。可愛いだけじゃなく、冒険者としても一流なのか」
「ふふふ、高かったですからな……あ」
「え?」
高かった?
ふじやん、何を言ってるんだ?
「忘れてくだされ」
「いやいや、無理でしょ。高かったってなに?」
「ど、奴隷だったんですよ。あの店員は」
「う、うわぁ」
ふじやんが性奴隷を買っていた!
「性奴隷ではないですぞ!」
まるで、心を読んだように言い返してくる。
「彼女は、あくまでビジネス上の付き合いですからな。給料も払ってますし」
「そうなんだ。ふじやんが雇ってるってことか」
「そうですな」
凄いな。
やはり、外で社会人として荒波を渡ってきただけある。
色々と経験を積んでいる様子が伺える。
経験といえば、ひとつ気になることを聞いてみる。
酒も回ってきたし、少し下世話な話もいいだろう。
「ふじやんって、まだ童貞だよね?」
ぶほっ
ふじやんが、再び飲んでいたエールを吹き出した。
「な、な、何を急に聞くのですかな?」
30歳まで童貞なら魔法使いになれる。
という都市伝説がある。
クラスでは、俺たちは童貞同盟だ! 魔法使いをめざすから! とよく二人で言っていた。
佐々木さんが「バカじゃないの」と冷たい目を向けてきたのを思い出す。
なつかしいな。
俺たちの約束は守られてるよな?
「ふじやん?」
ふじやんは、きまづそうに目をそらす。
ま、まさか……。
「商人は、色々と付き合いが多くてですな……。そういう店での接待もありまして」
そ、そういう店。
先ほど街を探索したときの、いかがわしい店を思い出す。
「拙者は、魔法使いの資格を失ってしまったのです」
「う、裏切り者!」
俺は店で一番アルコールの高い火酒を頼み、飲み干そうとして、吐き出してしまった。
の、喉が熱い!
なんだ、これ!?
毒じゃないのか。
「お、落ち着いてくだされ。タッキー殿」
「落ち着いてる。俺は『明鏡止水』スキルで常にクールだ」
「全然、そうは見えませんぞ」
「でも、よく考えると、童貞の俺は魔法使いになって、童貞を失ったふじやんは、魔法使いになれなかった。つまり、俺の勝ちってことだ」
「その理屈はおかしいですぞ」
わかっている。
そして、とてつもない敗北感がある。
この話題は、ストップしよう。
しかし、しばらく会わない間に友人が大人の階段を登ってたよ……。
「ところで、ふじやんは神殿を出てから何をしてたの?」
商人をして成功を収めているのは間違いなさそうだが、詳しいことを聞きたかった。
「おお、聞いてくだされ。拙者は最初、フランツ商会という組織に所属しておりましてな」
フランツ商会とは、大陸で一番大きい商会である。
水の神殿時代にそこからのスカウトがあった話を聞いた。
「最初は、『収納魔法・超級』を使ってひたすら荷物を運ばされ続ける毎日でしたなー」
ふじやんが懐かしそうに語るが、それって結構ハードじゃないだろうか?
「あるときは、武器を仕入れては『火の国』に出荷をして。あるときは、鉱石や金属を仕入れて『土の国』へ売りに行き。あるときは、『木の国』で仕入れた大量の衣類を『太陽の国』に届けるという仕事もありましたな。ほとんど休みも無くて、あの時は寝る時間もごく僅かでしたな』
「……大変だったんだね」
そこで、ふじやんはニヤリと笑う。
「しかし、拙者には『鑑定・超級』がありましたからな」
色々な国に行っては、地元のバザーなどで掘り出し物を見つけて、他の国へ売って資金を稼いだという。
「あとは、商会の中でも信頼できる人を見つけて、独立を助けてもらえました。そのかたには、今でも頭が上がりませんな」
凄い。
なんだこの行動力とコミュニケーション力。
俺には、絶対無理だ。
「でも、会って間もないのに信頼できる人とか、よく作れるね」
俺のように弱小スキルしかないやつは、誰も相手にしてくれなかった。
逆にふじやんのように便利なスキルがある人には、利用してやろうという人間が近づいてきそうだ。
「実はですな……」
ふじやんが、声をひそめてくる。
「タッキー殿は、拙者のスキルを覚えていますかな?」
「えーと、『収納魔法』『鑑定スキル』……あとは、『ギャルゲープレイヤー』だっけ?」
「そう、その最後のやつが問題でしてな」
たしか、会話の記録を取れるってスキルだったと記憶している。
「スキルの熟練度が上がったら、相手の心が読めるようになったのですよ……」
「え」
なにそれ。凄い。
「女神様と同じだな」
「え? 今なんと?」
「あとで話すよ。で、今も俺の心も読まれてるってこと?」
「タッキー殿の発言が気になってしかたないのですが……。拙者のスキルを説明しますな」
簡単に言うと、『ギャルゲープレイヤー』のスキルはもともと、会話相手の内容が文字でも読めるという変わったスキルだ。
人と話す時に、自分だけに見えるメッセージウインドウが出てきて、会話がテキストで流れる。
アドベンチャーゲームのよく見るシステムだ。
ギャルゲー好きのふじやんらしいと言える。
ちなみに、文字は日本語。
最初は、そこまで重宝してなかったそうだが、商人として色々な土地や人達と話すときに、いちいちメモを取らなくて済むのが便利だったそうだ。
あと、周りの人から非常に記憶が良い人物として、感心されたとか。
「実際は会話ログを検索しているだけですな」
ふじやんが笑いながら言った。
「違和感に気づいたのは、半年ほど前ですな」
今まで、相手の会話がテキスト化しているだけのスキルだったのが、カッコつきで心の中までテキスト化してくれるようになったそうだ。
「こんにちは、藤原さん。今日も儲かってますね」
(ちっ、この異世界人の成金野郎が)
こんな感じらしい。
「すごいな。それはチートだ」
「ええ、まあ。そうなんですが」
このスキルのおかげで、自分のことを裏で悪く言っていたり、恨みを買っている人を見つけることができたとか。
そして、自分の味方を見つけるにも非常に役に立つ。
そりゃそうだよな。
「ただ、中々気が休まらなくて」
この能力を得たことは、誰にも言ったことがなかったそうだ。
「俺に言ってよかったの?」
「他に言えそうな相手がいませんでしたからな。あと、最初に言わないと後からは言えないでしょう」
苦笑しながら言った。
たしかに、後から実は心の中を読めて、とか言われると気まず過ぎる。
「タッキー殿は、拙者の能力に引きませんか……?」
ふじやんは、おずおずと聞いてくる
「心を読める知り合いは2人目だからね。まあ、いいんじゃない?」
「それですよ、それっ! 女神とは何ですかな!」
ふじやんが、息巻く。
まあ、隠すほどのことではない。
どうせ、心が読まれてるし。
「実は、昨晩ね…」
夢の中で、女神の信者になったことを伝えた。
『
「ふーむ、たしかに『女神の眷属』と出ておりますが、名前が無いのは妙ですな」
「そうなんだよね。これじゃ信者を増やすこともできないし」
「その女神様、大丈夫ですかな?」
ふじやんは、心配そうだ。
久しぶりに会った友人が、怪しい宗教に入ってしまった感じか。
うん、それは心配だな。
「そういえば、信者になった女神さまに短剣を貰ったんだ。ふじやん、鑑定してもらえないかな」
「ほう! 女神様の短剣! 凄そうですな。是非、見せて下され」
(あ、ちょっ、やば)
頭の中で声が聞こえた。
なんだ?
「ふじやん、これなんだけど」
「ふおおお! シンプルながらも美しい装飾。一見ミスリルにも見えますが、見たことのない金属ですな。明らかに魔力を帯びたレアな素材! これはかなりの業物!!」
「どうやら、鑑定阻害魔法がかかってますな。」
「無駄無駄ぁ! 拙者の鑑定スキルは鍛えて研ぎ澄ましてますぞ!」
楽しそうだなー。
ふじやんが興奮気味に、ナイフを眺めている。
しばらく、鼻息荒く眺めていたが、しばらくして、ぴたっと固まった。
急に何も言わなくなり、短剣を凝視している。
いつもニコニコしているふじやんの目が見開いている。
ちょっと怖い。
「ふじやん? どうしたの?」
「う、うむ。タッキー殿。この短剣は女神様にもらったと言ってましたな?」
「うん、そうだけど」
なんだ?
どんな鑑定結果だったんだ?
「ふじやん? 結果を知りたいんだけど」
非常に言いづらそうな顔で、ふじやんが口を開いた。
「タッキー殿の短剣。『邪神:ノアの短剣』と鑑定されましたぞ……」
「……」
どうやら、俺は邪神の信者になってしまったようだ。
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