Champagne Cocktail
目的の物をゲットし、「次はどこに行こうか」と圭と相談しているところに姉が来て、「時間があるなら、守護石のことをもっと詳しく教えて?」と言って来た。見上げてくる圭に「直哉のとこでご飯を食べるつもりだから、それまでならいいよ」と伝えると、一緒に奥へ連れて行かれた。
コーヒーメーカーが壊れ、インスタントでごめんと謝る姉に圭は席を立ち、姉に何かを教えていた。その隙に直哉に圭と二人で行くことと席を予約するとメールをすると、すぐに『了解』という返事が来たのでひとまず安心する。
なんだかんだと姉のところで時間を潰し、直哉の店へ向かうとやはり混んでいた。
「こんばんは。予約した穂積です」
そう伝えると「お待ちしておりました」と席に案内され、すぐに直哉が来た。
「泪……こんな忙しい時に来んな! やあ、いらっしゃい」
俺への態度と圭への態度にカチンと来たので怒鳴る。
「ちょっと……アタシとは全然態度が違くない?!」
「君が来るって聞いたから、今日は
「あ、あの……?」
「ちょっと、直哉! アタシをシカトしないでよ!」
クスクス笑う直哉の顔は、悪戯っ子そのものだ。わかっててやってるのだ、直哉は。
「もう。今日は花梨は?」
花梨とは直哉の奥さんで、二人の間には子供もいる。
「当然手伝ってるよ、今は休憩中。で、今日はどうする?」
「オススメは?」
「もちろん七面鳥。但し、このテーブル限定品」
「そうなの? じゃあ、いただくわ。あとは任せる。それとシャンパンカクテルを二つ」
「はいはい、了解っと」
直哉が出ていったあと、不思議そうな顔をしていた圭に、花梨は直哉の奥さんの名前だと教えた。
ほどなくしてカクテルと前菜が運ばれて来る。
「じゃあ乾杯しましょ」
そう言ってグラスを持たせると
「……君の
なんちゃってと小さく言い、チンとグラスを合わせると、見る間に圭の頬が朱に染まった。
他愛もない話をしながら直哉の料理を堪能し、食後のコーヒーを啜りながら普段はあまり喋らない圭が一生懸命話している顔をじっと見つめ、プロポーズするなら今よねと考える。
「それでね、真琴ったら……泪さん?」
じっと見られていることに気づいた圭が言葉を切る。俺の目をみた圭が、ハッとして口をつぐむ。
名前を呼ぶと一瞬哀しげな顔をし、下を向く圭。勘違いしてるわねと内心苦笑してしまう。
「目を閉じて、左手出して」
そう言うと素直に言われた通りに目を閉じ、左手を出す。ジャケットのポケットから箱を取り出し、音を立てないように蓋を明けて指輪を取り出すと、そっと手を持ち上げて指輪を嵌める。その感触にびっくりしたのか、圭は目を開けてしまった。
「もう……目を開けちゃダメじゃないの」
「え……?」
見る間に目が開かれていく圭の顔。
「る、い……さん……?」
「昨日の今日だし、どうしようかとも思ったんだけどね」
「……」
「それなら別の指に嵌めても大丈夫なデザインだし」
「……っ」
見る間に目に涙が溢れて行く圭の反応が嬉しい。
「圭……結婚しよう」
「る……っ」
「いい加減な気持ちで言ってるわけじゃないよ? 言っただろう? 『離さない』って。だから、俺の奥さんになってくれ」
「……うん」
普段は使わない男らしい言葉でそう言うと、圭はハンカチで涙を拭きながらも小さな声と一緒に首を縦に振る。
見初めて、出会って、三ヶ月。心の何処かで「まだ早い」と断られると思っていたのに、頷いてくれたことがこんなにも嬉しい。
「あー……そんなに泣かないの。いつまでも泣いてると……ここで押し倒すわよ?」
あまりにも泣き止まないので半分本気で冗談めかしてそう言うと、圭は固まり、涙がピタリと止まった。
「ん。じゃあ帰りましょ?」
圭の手を引き、直哉にお礼を言ってレストランをあとにする。途中で商店街に寄ってと言うので寄ると、圭はいろいろと材料を買い込んでいた。
自宅に戻った途端に我慢ができなくなり、貪るようなキスをしながらそのまま抱き上げ、寝室に連れて行った。
ペンダントも服や下着も何もかもを剥ぎ取り、そのままベッドに押し倒し、獣のように圭を求め、抱き、貪る。ベッドでも、お風呂に入っても。
時には優しく、時にはゆっくりと、時には激しく、ただひたすらに圭を求める。
それが落ち着いたと同時に圭が気絶するように眠りについたのは、夜が開けてからだった。圭の寝顔を見て愛しさが込み上げ、唇にキスを落として圭を抱き締め、眠りについた。
「ん……」
圭の掠れた声で目を醒ます。チラリと時計を見ると、十時を少し回ったところだった。もぞもぞと動き始めた圭を逃がさないように腕に力を入れ、唇にキスをする。
「圭、おはよ」
「おはよう、泪さん。……朝からするのはやめてね? 今日はお料理したいから……」
先制するかのように俺の手を押さえてそう言われてしまい、残念だったが「わかったわ」と我慢した直後。
「聞きたいことがあるの」
と言われた。何を聞かれるのかと思えば、女狐のことだと言う。
圭を不快にはさせたくはなかったが、今まであったことを細かく話すと、やはり眉間に皺がよっていた。
「あっちの親に何度も抗議してるんだけど、穂積との繋がりがほしいみたいで、のらりくらりとかわされちゃってたの。アタシにとっては迷惑極まりない存在よ」
「あ、だから来ると不機嫌になるんだ」
「まぁ、それだけじゃないんだけどね……」
心配させたくないから、敢えてあのことは言わないでおく。
「泪さん?」
「だから、圭を泣かせたぶん、きっちり報復してやるわ」
「別に私は……」
「わかってるわ。圭は優しいコだからそんなこと言わないことも知ってる。今までのことも含めて、アタシがしたいだけよ」
フフフと笑う俺を怪訝そうに見る圭は、それでもいつの間にか微笑みを浮かべていた。
しばらくして前嶋から事務所にいると電話が来たので、圭をその場に残して事務所に向かう。
「どうしたの? 鍵?」
「それもあるが…これを見てみろ」
前嶋はパソコンを立ち上げて、セットしたばかりの監視カメラの録画映像を見せる。
そこに映っていたのは――。
「セットした一時間後くらいだ。大胆と言うか、馬鹿と言うか……」
「あらあら……。でもこれで潰せるわ。ありがとう、前嶋さん」
「いや。鍵と、画像のコピーはおまけだ。それじゃ」
前嶋は事務所をあとにし、俺は飯田や他のメンバーにメールをし、いろいろと指示を出すと鍵を閉め、圭の元へ戻る。
(次に女狐が来た時が楽しみね)
俺の大事な、大切な
圭に誰が来たのか聞かれたが内緒よと言ってはぐらかし、そのあとはクリスマス用の料理をしている圭に悪戯しようとして怒られたり、一緒にDVDを見たり二人で楽しんだ、その翌日。
――そのチャンスは、仕事中に訪れた。
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