Roman Holiday
翌朝。
時計を見ると、八時半過ぎだった。圭の寝顔を眺めつつ、昨夜のことを思い出す。
圭を抱き締めて寝ていたのだが、「やっぱり気持ちいい」と呟き、どこもかしこも柔らかい圭の体に手を這わせて胸を愛撫し、抱いた。
そのまま気絶するように眠ってしまった圭に、申し訳ないとは思いつつも完全に俺が落ち着くまでは、今は止められない。
女を抱いたことがないわけではない。だが、ここまであからさまに自分から求めるように、貪るように、飽きることなく獣の如く抱いたのは彼女一人だ。そして避妊しなかったのも。
こっそり唇にキスを落とし、ベッドを抜け出すと前嶋にメールを送る。するとすぐに電話がかかって来た。
『おはようございます。どうした? 何かあったのか?』
「おはようございます。ちょっと相談があるの。セキュリティについて」
『セキュリティ?』
「そう。ここ最近、泥棒猫がいてね。前嶋さんならそういった伝があるかと思って」
そこまで話すと、一旦口を閉じる。
『まあ、ないわけじゃないが……必要なものは?』
「事務所内に付ける監視カメラ一式。できればパソコンに録画できるタイプ」
『わかった。そうだな……十時くらいにはそっちに行くが、いいか?』
「構わないわ」
『それじゃ』
それを最後にお互いに電話を切る。
(絶対に……潰してやるわ)
先ずは証拠固めよねと思いつつ圭を抱き締めながもう一眠りしようと寝室に戻ると、圭が裸身を晒したまま赤くなったり青くなったりしている。
どうやら昨夜のことを思い出したあとで避妊してないことに思い当たったようだった。それを隠し、わざとらしくそう聞くと、「うわっ?!」と驚かれた。
が、圭は未だに裸身を晒していることに気づかない。
全体的に細いのに傷だらけの肌はモチモチとしてして滑らかで、いつまでも触っていたい俺好みの大きな胸は柔らかくて敏感で……。それをじっくりと眺めるが、さすがに俺も寒くなって来たので圭に声をかける。
「……それにしても、良い眺め♪」
「え……?」
俺の言葉に驚いて下を向くと真っ赤になって前を隠そうとするが、「今更でしょ! 寒い、寒い」と圭をを抱き締め、布団に潜り込む。
「冷たい」と言う圭に、「どうせならこのまま一緒に温まりましょ」とコトを始めようとしたが、「朝からはダメ!」と手を叩かれてしまい、仕方ないと言いながらも片手は胸から手を離さずに圭を抱き締める。
「あー、温かい。あ、これから一緒に出かけましょ?」
「出かける?」
「そう。クリスマス・イヴだし、デートしましょ?」
「うん!」
見る間に嬉しそうな顔をした圭の額にキスを落とし、あまりの可愛さにそのままキスをする。
「ん……ふっ、んんっ」
ダメと言われたが、胸をゆっくりと愛撫するとぺしっ、と手を叩かれ、「出かけるんでしょ?」と怒られてしまった。
「……わかったわ。でも、あとで覚悟しといてね」
仕方なしにそう言って唇にキスを落とした。
***
「デートなんだから、ちょっとお洒落して出かけましょ?」
そう言って着替えたのだが、眼鏡のことを聞かれた。
「アレは仕事仕様。伊達眼鏡よ」
そう教えると驚かれ、膨れっ面になった。どんどん崩れて行く圭の無表情を可愛いと思いつつ、そろそろ十時になるので圭に事務所の確認をしてくること、泥棒猫がいること、頼んだ人がもうじき来ることを告げてここで待っているように言うと、おとなしく頷いた。
事務所に行くのと同時に、前嶋が事務所に入って来た。
「朝からごめんなさい」
「構わん。それにしても……なんだ、その格好は」
「これからお圭ちゃんとデートなの」
「はあ……。聞いた俺が馬鹿だった。で、どこに設置する?」
書類が良く無くなる場所をいくつか教えると、その場所と事務所内が映る場所に設置すると言われた。
「わかった。やっとく」
「やっとくって……前嶋さんがやるの?」
「あからさまなのはまずいだろ? 俺以外に誰ができるんだ?」
ニッ、と笑った前嶋に「じゃあお願いします」と告げ、書斎側の予備の鍵を渡す。
「書斎のパソコンに繋いで、終わったら鍵をお願い。仕事で使っているとは言え、一応プライベートな場所だから。書斎の鍵は……」
「俺のパソコンとも繋げたいから、明日返しに行く」
「わかったわ。ありがとう」
あとは任せて部屋へ戻り、圭を促してプライベート用の玄関から外に出た。
コーヒーショップに寄ったり、ウィンドウショッピングをしたり、喫茶店に行ったあとで、二番目の姉が経営している貴金属店に行った。
圭は驚いた顔をしたが、姉と話し始めると小さな声で「あっち見てくるね」と別の場所に見に行った。
「久しぶりだね」
「泪! 久しぶりね! って、その言葉……」
「お客さんも従業員もいるのにまずいだろ?」
姉がチラリと視線を動かし、ああ、と言う顔をした。
「それもそうね。で、今日はどうしたの? しかも女性連れで」
「もちろん、指輪を買いに」
「……どんな指輪?」
「所謂給料三ヶ月分」
「えっ?! あ、相手は!」
「あの子に決まってるだろ?」
圭の方に視線を向けると、姉は目を丸くした。
「いつの間に……」
「詳しくはそのうちに、ってことで」
「泪がねぇ……」
「悪いか」
「いいえ。やっと本気になれる女性を見つけたんだな、って思っただけよ」
そう言う姉ににっこり笑うと、姉もにっこり笑ってくれた。
「そう言えば、彼女はあんたの言葉遣い……」
「知ってるよ」
ふうん、と言った姉――瑠璃は、圭をマジマジと見ていた。
「とうとう、ロリ……」
「ロリコンじゃないから! 身長は小さいけど、彼女はれっきとした大人の女性だから! 売る気がないなら帰る!」
「ちょっ! ごめん! あたしが悪かった! で、どんな指輪が欲しいの?!」
くるりと背を向けた途端、ショーケースに乗せていた腕をガシッと掴まれ焦ったようにそう言われた。
「最初っからそう言えばいいじゃないか……まったく」
「ごめん、てば。で、どんなのがいい?」
「石はダイヤ。結婚後は右に嵌めてほしいから、普段使いができる小さめの石で可愛いデザイン。……あ、こんなやつ」
ショーケースに飾ってあったものを指差す。
石は二つ付いており、上から見ると二連リングに見えるが、途中から一本になっていた。
石の色は、偶然にも、圭の瞳と同じオッドアイだ。
「婚約指輪にするの? これを?」
「……ダメ?」
「ダメじゃないけど……うーん……サイズは?」
「九号」
「あー……。ごめんなさい、今はこれしかないの。サイズ直さないと無理よ」
サイズ直し……それでは間に合わない。どうしようと思い視線を横にずらすと、無色透明の石自体はあまり大きくなく、シンプルなデザインの指輪があった。
「姉さん、これは? これならサイズある?」
ショーケースの上からその指輪を指差す。
「これならあるわ」
「じゃあ、これにする。あ、さっきのは直しに出して。誕生日プレゼントにする」
「ほ、本気?!」
「うん」
「どうして……」
「彼女と同じ目の色だから」
俺の言葉にぽかーんとした顔の姉に、これでプロポーズするんだからこっちは今すぐちょうだいと言い、すぐに用意してもらうと、ジャケットのポケットに忍ばせて圭の側に行く。
「何かほしいのがあった?」
そう話しかけると「泪さん」と言って俺のほうに向く。
「ほしいなら買ってあげるよ?」
そう言うと頬に朱が差す。俺の低い声での男言葉に反応してるんだなと、内心ニヤニヤしてしまう。
「ほしいと言えばほしいんだけど、誕生石と守護石で迷っていて……」
「守護石? そんなものがあるの?」
いつの間に来たのか、横から口を出した姉に戸惑っている圭を見かねて姉を諫めると、「お姉さん?!」と驚かれた。二番目の姉で十歳上と紹介し、何やらビクビクしながらも圭は守護石とは何かを説明していた。
「へぇ……そんなものがあるのね」
「知ってる人はあまりいないと思いますよ」
瑠璃は感心した声を上げていたが、興味津々のようだった。
「じゃあ、僕と圭だと、守護石は違っちゃうね」
「え? 一緒だよ?」
「でも、月は一緒だけど、圭は二十日だろ?」
そう言うとあっ、という顔をし、本当の誕生日となぜ二十日になったのかを話してくれたのだが、あまりにもふざけた決め方に眉を潜め、それでも守護石は俺と一緒だと明るく言う圭に愛しさが込み上げる。チラリと姉を見るとやはり眉を潜めていた。
石はなにかと聞くと、エメラルドとアクアマリンだという。
「ふうん……じゃあ、これはどうかしら?」
姉はショーケースからペンダントを出した。ドルフィンリング形のペンダントで、圭の目を見たのか、かなり小粒だが目にはまっている石は、少し色の濃いアクアマリンで圭の片目と同じブルーだった。
「うん、もらうよ。姉さん、包んで。あ、やっぱり包まなくていい。着けて帰る」
驚く圭に「クリスマス・プレゼント」と言い
「アタシへのプレゼントは、圭自身ね。ちなみに拒否権はないから」
と圭が何か言う前に、耳元でそう囁いた。
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