2001年7月29日(日)
気持ちもずいぶん落ち着いた。
壁を殴ったときの手も、痛くなくなった。
あれはバカなことをした。あんなことをしても意味はない。
これからは冷静にならなければいけない。若菜を殺した犯人に復讐するためにも。
状況を再確認しよう。
2001年7月18日水曜日の午後4時半ごろ、俺、若菜、みなも、キキラ、長谷川、安愚楽の6人は学校東側にある穴の前に集合した。このとき若菜は確かに生きていた。
そして穴の中に入っていく。順番はよく覚えていないが、俺が先頭、若菜が最後だったのは確かだった、と思う(このとき俺が最後にいれば、といまでも思う。悔やんでも悔やみきれないが……)。
さて穴の突き当たりはコンクリートで防がれていた。
その行き止まりに到着するのに、たぶん5分ほどか。
そこで少し立ち話をして、気が付いたら若菜がいなくなっていて――
俺たちは地上に戻り、若菜を探し始めた。ここまで、やっぱり5分。
やがてキキラが、地下階段の入り口が開いていたことを発見したのが――およそ20分くらい後だったか? つまり午後5時くらい。
そして元病院の地下室を10分くらい捜索したあと、午後5時10分くらいに、若菜の遺体を発見した……。
時計を見ながら行動していたわけじゃないから、おおよその推定でしかないが、おおむねこんなところだろう。
こうなると、若菜が行方不明だった時間は25分から30分くらいか? そうなると、若菜を殺して犯人が立ち去る時間的余裕は十二分にあったわけだ。
……分からない。
……犯人の目星もつかない。
落ち着け、冷静になれ、俺。
日記に書きながら、考えを整理しよう。
明確におかしいところを箇条書きにして、そこから推理してみよう。
・明らかにおかしいところ
1 若菜はなぜ、俺たちに断りもなく黙って消えたのか?(穴に入る瞬間、何者かに連れ去られた?)
2 若菜はなぜ、元病院の地下室で殺されたのか?(あるいは他の場所で殺されて、あの地下室に運ばれた? その理由は? 人目につかないようにするため?)
3 ふだん施錠されているはずの地下室のドアが開いていた理由は?
4 指風鈴。あんなことをする意味は?
→推測・穴に入る瞬間、誰かに口を塞がれて連れ去られた若菜は、地下室に運ばれ、そしてそこで殺された?
しかし事件が起きたのは午後5時ごろ。
雑木林の中はともかく、学校内には教師や、部活動をしている生徒がわんさかといる。
そんな中、若菜を地下室に無理やり連れていったり、あるいは死体を地下室に運んだりできるものか?
単に殺すだけが目的なら、人気のない雑木林に遺体を放置したほうがよほどバレにくいだろう……。
それに指風鈴……地下室のドア……。あれは……いったい……。
ドア。
そもそもあの地下室のドアは誰が普段、鍵の管理をしているんだ?
考えるまでもない、学校だ。
学校の関係者だ。誰かだ。校長か誰か知らないが、とにかく教師の誰かだ。
ということはそこから調べてみたら、せめてあの日、地下室への入り口の鍵を誰が開けたのかが分かるんじゃないか?
決まりだ。
まずはそこから調べてみよう。
明日、学校に行ってみることにする。
夏休み中だが、構わない。ちょうど月曜日だし先生はいるだろう。
若菜を殺した犯人を、俺のこの手でブチ殺すためなら、なんでもする。
事件当日から、俺はテレビや新聞を見るのも避けていた。事件について、思い出したくもなかったからだ。
だが、明日からは事件についての報道にすべて目を通そう。事件解決のために。若菜の鎮魂のために。
俺はそう決めた。
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