第3話平等の消毒アルコール(後編)

「そいつ、敵兵じゃないか!」

思わず声を荒がえてしまった。だか言わずに言われなかった。目の前にいるのは自分を負傷させた国の軍人なのだから悪意は沸く、何よりどうして同じ救護所にいるのか理解できない。

「敵兵じゃない!負傷者だよ!」

ミエールはそう言うと治療の準備を初めた。

「アメリア国民だろお前‼️憎くないのかよ!」

「憎いとかそういうのは仕事に持ち込まない主義でね。そんなこと気にしてたら助けられない!」

「そんなことってお前たちの仲間も殺されてるんだろ!」

考えずに思ったまま言ってしまってる自分にミエール黙らすように叫んだ。

「そうだよ!でも、それでも助けたいんだよ!目の前で人が死ぬのはもう嫌なの!敵とか味方とか関係ないよ!あんただって同じ立場だろ!」

ミエールは泣きながら叫んでいた。偽りや虚栄も無く本心で言ってるのだと、そして、

   目の前の敵兵は俺と同じだ。

味方に助けられることもなく本来なら死んでいた命であったから、国は違えど同じであった。

「俺が悪かった。確かにそうだな、でも俺と同じ考えじゃない奴も多い。それでも助けるのか?」

「たとえ、そんなことがあっても助けるのが私たちだから」

迷いの無い彼女の答えたが、不思議だった。

いくらなんでも即答過ぎではないか?

例え、この組織を理解していても心のどこかで敵というのが残ってしまう、仲間を殺されたことに対する憎しみとかは無いのか?

まるで幼いときから人を助けることが当たり前でなければ・・・

「先生!準備出来ました!」

するとターナー先生は白衣姿でやって来た。白衣といっても薄汚れていて衛生的にはいいとは言えなかった。

「わかった!すまない少年!ちょっと騒がしくなるが勘弁してくれ!」

「ここでやるんですか!?」

「おったて小屋で他の部屋がいっぱいでな!お前さんもまだ動かすわけにはいかないからな」

すると手術の手順の確認を初めた。

「弾丸が体内に残っているため摘出後塞ぐ、ミエール、消毒と麻酔を頼む」

「わかりました」

そう言うとミエールは消毒を初めた。俺を救ってくれたように

『痛、痛い!』

カシャメル兵が母国語でなにか叫んでる。残念ながらよくわからなかった。

『我慢して!すぐに楽になりますから』

ミエールはカシャメル語で返事をした。

「あんたカシャメル語わかるのか?」

「少しだけならわかるよ」

彼女は俺の質問に答えると麻酔を投与した。さっきまでの苦しみが嘘のように静かになった。まるで死んでるかのように

「では始める。少年、出来れば見ない方がいい、精神的にきついからな」

オッサンの言葉に対し返す言葉が我ながら酷かった。

「血には慣れましたから大丈夫です」

正直な答えだったと思った。人の血や遺体を見慣れてしまったのかもしれない、ある意味もう普通の人ではなかった。

その言葉を聞いたターナー先生は俺の方に振り返った。

「バカ言うな、この生活になれるな!ここは異常だ。人を人が殺す世界が普通であってたまるか‼️」

マスクで顔は見れなかったがターナー先生はまるで鬼のようで、悲しみが混じった顔をしていた。

「すみません、でも見てみたい、です。俺をどうやって助けてくれたのかを!お願いします」

「・・・、わかった。だがこれ以上は近づくな、傷口は素人が見るもんじゃないし、見世物じゃないからな」

「わかりました」

ターナー先生は戻るとミエールに確認した。

「では、始める。いいか?」

「大丈夫です」

そうして手術が始まった。

4話に続きます。


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救護団体クレム 都築祐太 @1192rai

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