第2話平等の消毒アルコール(前編)

夢の中、子どもの俺は森の中を走っていた。怖いお化けか動物かはわからないが何かに追われていた。本能でそれに捕まったら死ぬと思い、夢の中の俺は裸足で足は血まみれで泣きながら走っていた。時折大人や神様が現れるが無視して立ち去ろうとする。それを追いかけるが決して止まってくれなかった。ついに転んでしまいその野獣に殺されようとしたとき一人の雪だるまが助けてくれた。口からはく冷たい白い煙で野獣を凍らせたのだ。

「ありがとう」

というと雪だるまは少しニヤケと今度は俺の足にその煙を吐き出したのだ。少しずつ足が凍っていく感じがしていき、

「イッてー!」

と叫び俺は目を覚ましたのであった。


「いきなり、叫ばないでください!びっくりするんじゃないですか!」

そこはベットの上であった。急いで作ったバラック作りの家にベットがいくつもあった。俺は軍服ではなく、ややほつれている患者服を着ていた。足を見るとズボンを片方めくり傷口を消毒用してくれてるあの小柄の兵士がいた。

「ゴメン、でもいきなり足に激痛が走ったら叫ぶに決まってるよ」

「うるさい!でも良かった足の神経は死んでないようね。足の神経が大丈夫か確かめるために平均より三倍の濃さの消毒用アルコール使って良かったわ」

「原因それだろ!危うくこっちは足が氷かける夢を見たんだぞ!」

「再度うるさい、何よその夢話は!そこまで喋れるんでしたら他は大丈夫そうね」

そこまで言われてやっと気づいた。ここは野戦病院であり、この人に助けてもらったのだと、さすがにこのまま喋り続けるのは申し訳なくなってきた。

「はい、他は大丈夫そうです。ありがとうございます衛生兵さん」

すると相手は?の表情をして、

「私、衛生兵じゃないよ」

「え?」

確かによく見ると軍の制服とは少し違っていた。

「さっき言ったでしょ?私たちは救助団体クレムだよ」

確かに助けてもらった際そう言ってた記憶がある。

「何ですかクレムって?」

「民間の救助団体です。って言ってもアルメ姫殿下の支援が大きいので半民間って感じですね」

アルメ姫殿下とは俺の国アメリカ国の姫の一人である。じゃじゃ馬姫と新聞に書かれているが少しに良いとこもあるらしい。

「じゃあ、君は民間人ってこと?」

「そうなるね、あと君って私のこと男だと思ってるの?」

「え?」

そう言うとヘルメットを脱ぎ、素顔を見せた彼は短髪だが女の子であった。

「おいおい、マジかよ!」

「マジかよって、真実なんだから考えなさいよ。病院とかいるでしょ、看護士とか」

「ここは戦場だぞ!女の子が来る場所じゃない!」

戦場で人権はほぼ無視される。そもそも人を殺すところで人権も糞もない、敵に侵略された町で虐殺や強姦が発生なんてよく聞く話だ。軍も女性は戦争の足手まといになるため、安全な後方の病院を除き女性は戦場にいないのが普通だ。それなのに彼女はここにいるのが理解できない。

「あんた、人を助けるのに男も女も関係ないでしょ?」

凛としたその言葉に迷いはなかった。この子は人を助けたいからここにいるんだと、そして俺を助けてくれた。たけど気になることがある。

「本気で言ってンのか?敵に捕まったらどうんするんだよ?」

流石に強姦とかいうと相手も気が良くないのであえて言葉を選んだが、つまりはそういうことだ。だか彼女から思いがけない言葉が出た。

「大丈夫、私たち身の安全は保証されているから」

「どういうことだよ?姫殿下の命令とかか?相手に効くのか?」

「違うよ、姫様はあくまでもお金とか薬を支援してくれただげたから」

じゃあ、どうして身の安全が保証されているからと断言できるのかと考えてると彼女はこう言った。

「大陸間人道規約って知ってる?」

「いや、知らないけど何それ?」

「まだ全員は知ってないんだ。それは困ったな~」

「だから何だよ?」

「この規約に加盟している国は、人道活動つまり、私たちのことを攻撃してはならないって書いてあるの、そしてその身の安全を保証しなくてはならないと決められているのだから安全なの」

「そんなので守られるのかよ?俺みたいに規約を知らなかった奴が攻撃するかも知れないんだろ?」

「うん、実際あるよ。この前も別の隊が攻撃されて全員死んじゃったから」

「全然安全じゃないじゃないか!意味あんのかよ」

「一種のお守りかな、自分を安心させるための」

「そんでもここで活動すんのかよ」

俺の心配をよそに彼女は迷いもなく言った。

「困ってる人は見捨てられないよ。君みたいな人がいる限りはね」

何だよ、自分より小柄で女の子なのに、自分の身の安全も危ないのにこんなに立派なんだよ。本当に天使みたいだな

「ちょっと何で泣いてるの?」

どうやら泣いてしまったらしい、

「うるさい、消毒がしみただけだよ」

「そっか、強すぎたからね。」

彼女は気遣ってくれたのかそういってくれた。

「そういえば君の名前は?まだ聞いてないね」

「ハリル・ウォーカーだよ、階級は上等兵。君は?」

「私はミエール、カルワよ、退院まで面倒見るよ」

そう挨拶すると一人の男が入ってきた。口髭を生やした50代近くの痩せたオッサンだった。

「よお、目ぇ覚ましたか、どうだミエール患者の具合は?」

「傷口の感染症等はありません。弾も貫通して体内に残されていません」

「そりゃいい。弾丸が残ってると後遺症やらで苦しむからな、良かったな、あんちゃん」

「あのこのオッサンは?」

「ああ、この人はここの責任者のオサム・ターナーさん、一応医者でもあるのよ」

「ターナーだ、よろしく!だがオッサンは訂正しろ聞いてて気分が悪いからな」

そう言うとオッサンは軽く頭を殴った。

「痛ってぇな!ここの人は出会い頭に患者を痛めるのかよ!」

「はっはっは!そんだけ元気があれば大丈夫だろ!まぁ、三週間は安静だけどな!」

三週間かぁ、長いな中隊の方は大丈夫だろうか?

そんなことを考えてると別の職員が飛び込んできた。

「先生、重傷者です!腹部に銃創を受けてます!」

するとさっきまで笑っていたオッサンの表情が変わった、まるで軍人のような顔であった。んン、この顔どこかで…

「すぐつれてこい!ミエール、すぐオペだ!麻酔、その他もろとも用意!」

ミエールは慌ただく用意を初めた頃患者がやって来た。担架に乗せられた患者は軍人であった。友軍と思ったが軍服を見て、ハッとした。

「そいつは…」

たとえ友軍でなくても戦場で何回も見ていれば覚えてしまうその軍服は

「カシャメル軍じゃないか!」

俺を攻撃した国であった。

三話に続きます。更新します。

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